35 / 77
第5章:乗り気ではないが(ストラス視点)
5-9:精魂尽きたメフィストの姿
しおりを挟む
「苺、私はメフィスト様にのど飴をご用意してきますので、お二方を玄関までお連れして、冷たい飲み物でも出して差し上げなさい」
「は、はい。畏まりました」
月下は二人に頭を下げると、玄関口手前の階段を上がっていった。ストラスはメフィストを連れて、玄関先にある待合場の椅子に腰掛けた。苺は急いで飲み物の準備をしに奥の部屋に消えていった。
女将はメフィストの疲れ果てた顔を見て、口に手を当て、含み笑いをした。
「あらあら、メフィスト様は月下のおもてなしに耐えられたのですね」
「女将、それはどういう事なんだ?」
ストラスが女将に問うと、急に咳払いをし、愛想笑いをした。ストラスは理解出来ず、メフィストに何があったかを聞いた。
「おい、月下と何があったんだ?」
「……い、いや、とにかく――」
メフィストが気怠そうに話そうとした瞬間、女将が話を遮るように、慌てて割り込んできた。
「あぁっ、ストラス様。他の方がどんなおもてなしを受けたかは口外禁止なのはこの界隈では常識ですよ。――ささっ、苺。お二方に飲み物を出して差し上げなさい」
女将が話していると、タイミングよく、奥の部屋から苺が飲み物を運んできた。ストラスは煮えきらないまま、苺から差し出された陶器の湯飲みを受け取った。
「この緑色の液体はなんだ? 毒か?」
「毒なんかお出ししませんよ。これは緑茶と言う飲み物です。少し甘みと渋みがありますが、とても飲みやすいものです」
「ほう、緑茶と言う飲み物か。ほら、メフィストも飲め。喉が枯れているのも、喉が乾燥しているからだろう」
メフィストは湯飲みを受け取ると、一気に飲み、深いため息をついた。ストラスも飲んだが、思ったよりも苦味が強く、眉間に皺を寄せた。それを見て、苺は小さく笑った。
「ぐっ……。苦味というか、渋味というか。しかし、解毒剤よりかははるかにマシだ」
「ふふっ。初めて飲む方は皆様、そのような顔をされます。でも、皆様、お帰りになる際はこれを飲まないと駄目だっておっしゃいます」
「時期に慣れるものなのだろう……」
「皆様、お待たせいたしました。メフィスト様、これが先程お伝えしたのど飴でございます」
階段から降りてきた月下が微笑みながら、のど飴の入った巾着袋をメフィストに手渡した。そして、メフィストの耳元でコソコソと耳打ちをしていた。
ストラスは苺と談笑していたため、会話内容は分からなかったが、メフィストをふと見ると、耳まで真っ赤にし、首を縦に振っていた。
「お二方は次の予約はされますか?」
メフィストとの会話が終わると、月下がニッコリとした表情でストラス達に尋ねた。
ストラスは少し考えたが、メフィストは照れた顔を腕で隠し、即答した。
「――また、ら、来週の同じ時間で」
「おい、お前。来週もここへ来るつもりか? 金は大丈夫なのか?」
「金なら沢山ある。どうせ貯め込んでも仕方ない。お前は俺以上に貯め込んでるだろ?」
「まぁ、たしかにそうだが……。しかし、私は書物を購入する資金だったりと――」
「という訳で、来週の同じ時間で俺とコイツの予約をお願いしまーす!」
「はぁ? 待て!」
メフィストは女将に二人分の予約を依頼した。ストラスは慌てて取り消すように頼もうとしたが、メフィストにまんまと丸め込まれた。
「では、お二人様のご予約を承りました。今後とも当店をご贔屓に」
女将は嬉しそうに帳簿へ二人の予約を書き記した。ストラスはやや納得いかない様子だったが、メフィストに「お前のためだ」と何度も言い聞かされた。
そして、メフィストが席を立った際に、よろけていたため、ストラスはメフィストに手を貸そうとしたが、「大丈夫だ」と断られた。ストラスはメフィストのおぼつかない足取りを心配したが、本人がそういうのだから、問題ないだろうと判断し、共に店を出た。苺と月下は玄関先まで丁寧に見送りをしてくれた。
二人はゆっくりとした足取りで天空都市の門まで向かった。その間、メフィストは何度もため息をつき、夕日を見ながら、満たされたような顔をしていた。
「メフィスト。悪いが、その緩みきった顔とため息はどうにかならないのか? 連れ添っている私の身にもなってくれ。……それにしても、お前は一体、月下に何をされたんだ?」
「――あ? あーっ、それは女将が言ってたように、いくらお前でも言えねぇよ。ただのおもてなしだよ。おもてなし」
「そうか。興味本位で聞いてしまった。すまない」
「お前だって、苺ちゃんにどんなおもてなしをされて、最終的に勃ったかどうかを聞かれたら嫌だろ?」
「確かにそれは一理ある。だが、お前に相談したい事がある。実はそれに関してだな――」
「待て、待て! ここでじゃなく、お前の城で聞いてやるよ。お前の場合、人目を気にせず、突拍子もない発言をしそうだからな」
二人は天空都市を後にし、ストラスの城へ向かった。いつもの書庫へ向かい、二人は向かい合って座った。
「は、はい。畏まりました」
月下は二人に頭を下げると、玄関口手前の階段を上がっていった。ストラスはメフィストを連れて、玄関先にある待合場の椅子に腰掛けた。苺は急いで飲み物の準備をしに奥の部屋に消えていった。
女将はメフィストの疲れ果てた顔を見て、口に手を当て、含み笑いをした。
「あらあら、メフィスト様は月下のおもてなしに耐えられたのですね」
「女将、それはどういう事なんだ?」
ストラスが女将に問うと、急に咳払いをし、愛想笑いをした。ストラスは理解出来ず、メフィストに何があったかを聞いた。
「おい、月下と何があったんだ?」
「……い、いや、とにかく――」
メフィストが気怠そうに話そうとした瞬間、女将が話を遮るように、慌てて割り込んできた。
「あぁっ、ストラス様。他の方がどんなおもてなしを受けたかは口外禁止なのはこの界隈では常識ですよ。――ささっ、苺。お二方に飲み物を出して差し上げなさい」
女将が話していると、タイミングよく、奥の部屋から苺が飲み物を運んできた。ストラスは煮えきらないまま、苺から差し出された陶器の湯飲みを受け取った。
「この緑色の液体はなんだ? 毒か?」
「毒なんかお出ししませんよ。これは緑茶と言う飲み物です。少し甘みと渋みがありますが、とても飲みやすいものです」
「ほう、緑茶と言う飲み物か。ほら、メフィストも飲め。喉が枯れているのも、喉が乾燥しているからだろう」
メフィストは湯飲みを受け取ると、一気に飲み、深いため息をついた。ストラスも飲んだが、思ったよりも苦味が強く、眉間に皺を寄せた。それを見て、苺は小さく笑った。
「ぐっ……。苦味というか、渋味というか。しかし、解毒剤よりかははるかにマシだ」
「ふふっ。初めて飲む方は皆様、そのような顔をされます。でも、皆様、お帰りになる際はこれを飲まないと駄目だっておっしゃいます」
「時期に慣れるものなのだろう……」
「皆様、お待たせいたしました。メフィスト様、これが先程お伝えしたのど飴でございます」
階段から降りてきた月下が微笑みながら、のど飴の入った巾着袋をメフィストに手渡した。そして、メフィストの耳元でコソコソと耳打ちをしていた。
ストラスは苺と談笑していたため、会話内容は分からなかったが、メフィストをふと見ると、耳まで真っ赤にし、首を縦に振っていた。
「お二方は次の予約はされますか?」
メフィストとの会話が終わると、月下がニッコリとした表情でストラス達に尋ねた。
ストラスは少し考えたが、メフィストは照れた顔を腕で隠し、即答した。
「――また、ら、来週の同じ時間で」
「おい、お前。来週もここへ来るつもりか? 金は大丈夫なのか?」
「金なら沢山ある。どうせ貯め込んでも仕方ない。お前は俺以上に貯め込んでるだろ?」
「まぁ、たしかにそうだが……。しかし、私は書物を購入する資金だったりと――」
「という訳で、来週の同じ時間で俺とコイツの予約をお願いしまーす!」
「はぁ? 待て!」
メフィストは女将に二人分の予約を依頼した。ストラスは慌てて取り消すように頼もうとしたが、メフィストにまんまと丸め込まれた。
「では、お二人様のご予約を承りました。今後とも当店をご贔屓に」
女将は嬉しそうに帳簿へ二人の予約を書き記した。ストラスはやや納得いかない様子だったが、メフィストに「お前のためだ」と何度も言い聞かされた。
そして、メフィストが席を立った際に、よろけていたため、ストラスはメフィストに手を貸そうとしたが、「大丈夫だ」と断られた。ストラスはメフィストのおぼつかない足取りを心配したが、本人がそういうのだから、問題ないだろうと判断し、共に店を出た。苺と月下は玄関先まで丁寧に見送りをしてくれた。
二人はゆっくりとした足取りで天空都市の門まで向かった。その間、メフィストは何度もため息をつき、夕日を見ながら、満たされたような顔をしていた。
「メフィスト。悪いが、その緩みきった顔とため息はどうにかならないのか? 連れ添っている私の身にもなってくれ。……それにしても、お前は一体、月下に何をされたんだ?」
「――あ? あーっ、それは女将が言ってたように、いくらお前でも言えねぇよ。ただのおもてなしだよ。おもてなし」
「そうか。興味本位で聞いてしまった。すまない」
「お前だって、苺ちゃんにどんなおもてなしをされて、最終的に勃ったかどうかを聞かれたら嫌だろ?」
「確かにそれは一理ある。だが、お前に相談したい事がある。実はそれに関してだな――」
「待て、待て! ここでじゃなく、お前の城で聞いてやるよ。お前の場合、人目を気にせず、突拍子もない発言をしそうだからな」
二人は天空都市を後にし、ストラスの城へ向かった。いつもの書庫へ向かい、二人は向かい合って座った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる