アルディアからの景色

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
6 / 77
第1章:勇者の裏切り(聖女視点)

1-6:新しい世界が生まれる

しおりを挟む
 レフィーナは自分自身の幸福ではなく、皆分け隔てなく幸福が訪れるようにとを心の中で強く思った。
 レフィーナの願いが届いたのか、薄暗い玉座の間の天井から白金に輝く粒子と、それに相反する漆黒に黒光りする粒子がふわふわと泡雪のように降り注いだ。二人を閉じ込める結晶壁にその二つの光が当たると、結晶壁は効力を失い、音もなく消滅した。閉塞感から解放されたレフィーナは天井を見上げ、その不思議な光景に目を奪われた。


「なに、これ? これは……どういった現象なのでしょうか?」
「…………」


 レフィーナは魔王に問いかけたが、先程よりも冷たく、返答が無かった。レフィーナは静かに涙を流し、魔王の冷たい体を抱き締めた。


「……お願いだから、死なないで。貴方は極悪非道で心無き者だと教会で教わりました。――でも! 貴方は私を目の前にしても、私を殺しはしなかった。何故ですか? ねぇ、答えてくださいよ! 何故なんですか!」


 レフィーナは魔王の体を揺さぶり、泣きながら訴えた。静まり返った玉座の間にレフィーナの悲痛な叫びが響き渡る。


「ティルヴィングの伝承も全て嘘よ。だって、こんなに願っても何も変わっていない。破滅だって……訪れていない。ティルヴィングは所詮、ただの古びた剣なのよ! こんなよく分からないものまで降らせて……。私は騙されないわよ!」


 失望したレフィーナは何の変化がない状況に、徐々に苛立ちを感じ、消失したティルヴィングの気配を鋭い目で探した。その時、天井から降り注いでいた二つの光はその場に留まった。レフィーナが辺りを見渡すと、逆再生するように、二つの光は天井へ向かうように戻っていった。
 そして、二つの光は空中でそれぞれ凝集し、白金に輝く丸みを帯びた縦長い逆三角形の盾と漆黒の禍々しい長剣へと形を変えた。


「盾と剣……。一体、これから何が起こるの?」


 白金にひと際輝く盾は、二人の上をぐるりと一周すると、弾けるように、温かい白金の泡雪を降らした。そうすると、魔王から流れ出た血液が魔王の傷口へと吸い込まれ、斜めに大きく切り裂かれた痛々しい傷跡が塞がった。


「…………ゴッホゴホッ。我は死んだはずだが」
「魔王、生き返ったのね!」


 魔王が息を吹き返したことに、レフィーナは安堵の表情を浮かべる。そして、ゆっくりと起き上がる魔王の背中に手を添え、微力ながら起き上がる手伝いをした。


「そ、それより……ここは何処だ? 見渡す限り、草原が広がっているだけだが……」
「えっ、ここは魔王城の、はず。……えっ、どういうこと?」
「待て。今、調べてみる」


 魔王はそう言うと、立ち上がり、特級魔法である『俯瞰』を使い、辺り一帯を調べ始めた。魔王曰く、今いる広大な草原は魔王城の先にある未開拓地のはるか上空にあり、さらに草原は上空を浮遊し続けているという。


「聖女がどんな願いをしたのか分からないが、我の予測だと、新たな都市、文明――いわば、新世界を創造しろと言ったところか?」
「魔王、凄いですよ! ここから下の世界が見下ろせます!」
「はぁ……、我の話を聞いているのか? あまりはしゃぐな。私は病み上がりだぞ」


 レフィーナは魔王の推論を聞きもせず、草原の端へ行き、崖下に見える元いた世界を覗く様に四つん這いになって眺めた。そして、レフィーナは急に立ち上がり、満面の笑みで魔王を見つめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...