上 下
60 / 62
第9章:君のもの、僕のもの、俺のもの

#57:特訓

しおりを挟む
「ふぅ……。やっと荷解き終わった。お腹空いたぁ」
「お前が本をいっぱい持ってくるからだろ。荷物が一番多いの、お前だぞ」
「だって、なんか無いと落ち着かないというか……」
「まぁ、良いじゃないですか。それより、ここへ来るまでにチェーン店のオムライス屋さんがあったんで、そこで晩御飯にしませんか?」
「賛成! 行きましょ!」
「なんでシグニスが一番盛り上がってんの?」


 三人はシグニス達のオムライスはテイクアウトする事にして、シグニス達には家で留守番してもらう事にした。三人は店へ行くと、仲良くシェアしながら、オムライスを食べた。そして、テイクアウト用の商品を受け取ると、マンションへ帰った。


「これがオムライスって言うものね! 美味しそうだわ!」
「皆様、お気遣いありがとうございます」
「おっ! 俺のは大盛りになってる! やったぜ!」


 シグニス達は美味しそうにオムライスを食べ始めた。優達は呆れながら、自分達のスケジュールを確認するために、リビングのソファに座り、話し合いを始めた。


「二ヶ月ってあっという間だよね。歌を覚えるのは良いとして、振りとか覚えられるか心配」
「そこはここの地下にあるスタジオでお互いに振り確認しましょう」
「まぁ、なんとかなるでしょ!」
「春人は本当に楽観的だよね……。ある意味、尊敬するよ」


 三人は他にも共同生活の決まり事や役割分担を決めた。一通り話し終わり、時計を見ると、既に二十一時を回っていた。


「わぁ……、もうこんな時間! 早くお風呂に入って、寝なきゃ」
「その前に、あと一つ、重要な事を忘れてます」
「重要な事?」
「はい。シグニス達をどうするかって事です」
「えっ? 私達の事?」


 シグニスはポカンとした顔で三人を見つめた。テレビを観るのを止め、シグニス達はソファに座った。


「僕達が呼ばない限り、基本的に出てこない事。三人のお陰でデビュー出来たと言うのもありますが、流石にずっと力を借りる訳にはいきません」
「確かに、それはそうだね」
「そんなの言われなくても分かっているわよ。でも、依り代となるネックレスは必ず身に着けてて欲しいわ。それと、緊急時には話しかけるかもしれないわよ。……それでもいいかしら?」
「そうですね。それだったら、問題無いでしょう」


 ルイとチェスターも頷き、同意した。シグニスは嬉しそうにしていた。そして、シグニス達は十分満喫したのか、それぞれの依り代へ戻っていった。優達は寝る支度をし、それぞれの部屋で眠りについた。


 ◆◇◆◇◆◇


 翌日から宣材写真の撮影、ボイストレーニング、ダンスレッスン、ライブ配信の打ち合わせなどの怒涛の二ヶ月が始まった。三人が思っていた以上に忙しく、朝から晩までレッスンして、ヘトヘトになって帰って、風呂に入って、即寝るという日が続いた。


「あぁ、毎日、レッスンで部活よりキツいわ」
「春人がそんな事言ったら、僕にとっては地獄だよ。……特にダンスレッスン。体力持たない」
「アイドルというのは結構大変なんですね。痛感しました」


 三人がソファに凭れかかり、深いため息をついていた時、優のスマホにマネージャーからメッセージが届いた。優は怠そうにメッセージを読んでいると、目を大きく見開き、テレビを慌ててつけた。テレビをつけると、自分達のデビューイベントのコマーシャルが流れていた。二人も起き上がり、コマーシャルを観た。三十秒と短いコマーシャルだったが、三人は自分達が本当にデビューするんだという実感が湧いた。


「本当にデビューしちゃうんだ……」
「そうですね。こういう風に広告されると、頑張らないといけないなという気持ちになりますね」
「なぁなぁ、さっきの俺、カッコ良くね?」
「――ああっ! 春人のせいで良い感じだったのに、台無しだよ」
「なんだよ。冷てぇな」


 春人は不貞腐れた顔をしながら、優に横から抱きついた。そして、楓雅も反対側から抱きついてきた。優は二人が何やらイケない事を考えているだろうなと思った。


「……何? 絶対に惑わされないからね!」
「何に惑わされるんだよ。俺達、まだ何も言ってねぇぞ」
「……と言う事は、朝比奈は惑わされたいんですか?」
「またそうやって!」


 優は頬を膨らませて、二人に怒った。二人はクスリと笑うと、優にもっと近づき、耳元で囁いた。


「で、さっきのやつ観て、俺とコイツ、どっちがカッコ良かったか?」
「何を言ってるんですか。僕に決まってますよ」
「「……ねぇ? お前はどっちが好き?」」


 二人の吐息と甘い囁きが耳から体内へ入り込み、優の体をゾクッとさせる。こうやって誘ってくる二人に優は怒りが込み上げてきたが、耳からの快感が勝り、体がどんどん火照ってくるのが分かった。


「ど、どっちもカッコいいに……決まってんじゃん。言わせんな、……馬鹿」


 二人は分かったような顔をし、恥ずかしがる優の頬に何度もキスをした。そして、また耳元で甘く囁く。


「じゃ、今日は夜のレッスンでもするか? 俺、我慢出来ないんだよな……」
「はぁ? 今日はレッスンで疲れてるから、もう寝る!」
「僕も朝比奈の可愛い顔、久々に見たいですね。……あと、明日は久々のオフですし」
「えっ、それって……。待って! 待って! お願いだから、寝させて!」
「「ダメです」」


 春人は優をお姫様抱っこすると、楓雅も後ろをついていき、春人の部屋へ入った。そして、三人のナイトレッスンは日付が変わるまで行われた。翌朝、優から酷く怒られた二人は優の機嫌を直してもらうために、食事に誘ったが、優の希望でケーキ屋へ行った。そして、ケーキを沢山奢らされたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
 吸血鬼を倒すハンターである青年は、美しい吸血鬼に魅せられ囚われる。  若きハンターは、己のルーツを求めて『吸血鬼の純血種』を探していた。たどり着いた古城で、美しい黒髪の青年と出会う。彼は自らを純血の吸血鬼王だと名乗るが……。  対峙するはずの吸血鬼に魅せられたハンターは、吸血鬼王に血と愛を捧げた。  ハンター×吸血鬼、R-15表現あり、BL、残酷描写・流血描写・吸血表現あり  ※印は性的表現あり 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 全89話+外伝3話、2019/11/29完

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。 そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。 けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。 始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...