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第9章:君のもの、僕のもの、俺のもの

#55:地元

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 三人は早く起きると、限られた食材で朝食を作った。別の部屋を見ると、シーツがとても乱れており、洋服も脱ぎ散らかってた。優は何となく察したが、問答無用でシグニスとルイ、チェスターを起こした。
 楓雅と春人、優が三人仲良くテーブルで朝食を食べていると、三人が気怠そうに部屋から出てきた。楓雅は三人にシャワールームを案内し、使い方などを教えた。シャワールームから色んな反応の声が聞こえて、三人は腹を抱えて、笑った。皆が出た後、ルイとチェスターには春人と楓雅の服を渡し、シグニスには優の服を渡した。そして、シグニスの髪を優が乾かし、ドライヤーをかけ、ブラッシングし、綺麗にまとめた。


「こっちの世界は凄いですね! 魔法が無いのに……」
「そうですね。そもそも異世界だし、文明の発達も違うでしょう。それより、お腹空いてませんか? 残りものになりますが、良かったら、食べて下さい」
「わぉ! 見た事もないものばかり! 頂きますわ!」


 テーブルに並べられた食事を見て、三人は目を輝かせた。そして、お祈りを済ませると、美味しそうに食べた。三人は満足そうにしており、次は三人で海へ向かって、海の綺麗さや見た事が無い草花に驚きながら、散策して、戻って来た。
 楓雅と春人、優がコテージに忘れ物が無いかチェックしていると、船着き場にクルーザーが来たのが分かった。


「もう帰る時間だから、三人とも本の中に入って」
「えぇ! もう帰っちゃうの? まだ遊び足りないわ」
「それは申し訳ないって思ってる。今度、何処かに行く時はすぐ呼ぶから」


 優はテーブルに本を置くと、三人に本の中に入る様に説得した。シグニスがふと優の胸元に光るネックレスを指差した。


「それ、新しいネックレス? 素敵ね」
「ああ、これ? 昨日、春人と楓雅にプレゼントしてもらったんだ。二人も同じタイプのネックレスしてて――」
「それよ、それ! 三人が同じのしてるって事は、そこに私達が入ればいいのよ。チェスター、そういうの出来るわよね?」
「はい、三人が問題なければ、出来ますが……」


 シグニスはクルーザーとコテージを行き来し、荷物を運んでいる二人を呼び止めて、チェスターの元へ連れてきた。そして、三人で胸元のネックレスを確認した。チェスターは三人のネックレスを触ると、顎に手を当て、考えた。


「成分とかも同じなような気がしますので、大丈夫でしょう」
「……と言う訳で、今から私達はそのネックレスを依り代するから! と言う訳で、まったねぇ」
「あっ! ちょっと! 二人にはまだ何も!」


 三人はそれぞれの色の小さい球体になると、優のにはシグニスが、春人のにはルイが、楓雅のにはチェスターが依り代として入っていった。


「えっと…………、二人に聞く前に、こんな事になっちゃって、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ、この三人のお陰で僕達は付き合えた事ですし」
「ま、そうだな。守護者って言ってたんだから、それ位の事はしてもらわねぇと」
「そうだと……良いんだけどなぁ」


 優は本を鞄にしまうと、荷物をクルーザーに乗せた。最後に、三人で忘れ物が無いかと戸締りが出来ているかをして、コテージを後にし、クルーザーと運転手付きの車で空港まで行った。
 空港に着くと、三人は仲良く家族のお土産を買った。もっと見ていたかったが、あっという間に搭乗時間になり、三人は走って、飛行機に乗った。そして、電車に揺られ、地元の駅に着いた。殺風景なロータリーだが、謎の安心感があった。三人は一ノ瀬家の車に乗り、それぞれの家の前まで送ってもらった。
 優は帰宅すると、お土産を親に渡し、ソファに寝転んで、背伸びをした。色んな事があった二泊三日だったが、自分の『好き』に素直になれて良かったと思った。


「優ちゃん、楽しかった?」
「楽しかったよ。海も綺麗だったし、星空も綺麗だった!」
「……あら? 優ちゃん、そこ、虫に刺されたの?」
「……ひぃ! 違う! いや、違くない! そそ、虫に刺されたの! うん、虫に」


 母親は優の首元についたキスマークを指差した。優は顔を赤くし、咄嗟にキスマークを手で隠した。優はしどろもどろに言い訳をし、スーツケースから洗濯物などを出すと、一目散に部屋へ行った。優は部屋に入ると、姿見の前で服を脱いだ。自分の白い肌に二人が残したキスマークに優はドキッとした。


(親にバレないように気をつけないと……。二人とも容赦なくつけやがって! これ、本当に消えるん……だよね?)


 優は当分の間、キスマークが消えるまで肌を極力出さない服を着て、過ごした。二人の愛の証が完全に消えるまで一週間以上かかったのは言うまでもない。
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