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第9章:君のもの、僕のもの、俺のもの

#54:二色

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 春人がそっと優の顔から手を外した。優はひんやりした部分に手をやると、ピンクゴールドとシルバーのダブルリングがついたネックレスが着けられていた。驚く優を見て、楓雅と春人は嬉しそうな顔をした。


「え? ちょ……、何これ? どうしたの?」
「これは俺達からのプレゼント」
「僕達も似てるのを着けているんですよ」


 楓雅と春人は椅子に座ると、優の方を向き、胸元からネックレスを出した。春人はシルバーを、楓雅はピンクゴールドのリングのネックレスをしていた。優は二人が身に着けてるのはリングが一つなのに、どうして自分だけダブルリングなのか気になった。


「なんで自分だけがダブルリングか? って思っていそうな顔をしていますね」
「うん……。な、なんで?」
「ピンクゴールドは優と楓雅、シルバーは優と俺。それぞれのリングを持っているって事は、優は俺達二人だけのものって事だよ」
「な、なるほど……。ってか! 僕は二人に何もプレゼントとかしてないよ! 僕ばっか貰っていいの?」
「良いんですよ。そもそもこのネックレスをプレゼントしようって考えたのは小向井君ですから」
「ば、馬鹿か、お前! 言ったら、面白くねぇだろ」


 優は改めて、二人のリングネックレスを大切そうに触った。そして、顔を上げれば、両サイドに楓雅と春人が笑っている。学園祭の時だって、告白の時だって、今までも自分は二人に支えられてばかりで、本当に自分が二人の事を恋人同士で言う『好き』と言えるのか不安になった。


(でも、好きで……。いつか僕も恋人っぽい事を二人に出来るのかな……?)


 二人がなんでネックレスをプレゼントしようと思った経緯を話して、笑ったりしていたが、優は少し浮かない顔でリングネックレスを触った。優は二人の事を考えると、段々と涙が目に溜まってきて、いつの間にか涙が頬を伝って流れていた。


「本当に……、ありがとう。うぅっ……、大切にします」
「おい、泣くなよ。喜ぶと思ってたんだけど、ちょっと重かったか?」


 優は首を横に振り、椅子から立ち上がると、海に向かって叫んだ。


「春人も楓雅君も……大好きなんだもん! 二人の愛情はとっても嬉しい。でも、僕は何も出来てない。好きで、好きで、胸が張り裂けそうなのに! 僕も二人にプレゼントしたいし、喜ぶ顔が見たい! だって、大好きだから!」


 優は思いきり叫んだ後、椅子に座り、二人が持って来てくれたジュースをグイッと飲んだ。そうすると、春人が立ち上がり、海に叫んだ。


「俺も優の事が大好きだ! 泣いたり、笑ったり、怒ったり……そんな顔がめちゃくちゃ可愛くて、その一瞬一瞬でお前に惚れ直してます! 優の為に優しいキスが出来る男になります!」


 春人はガッツポーズをしながら、戻って来た。楓雅と優はどこがガッツポーズなのか分からず、大笑いした。そして、楓雅も立ち上がり、海に叫んだ。


「僕も朝比奈の事が大好きだ! 小向井君を叱っている時は素の朝比奈が見れるので、これからも小向井君を叱り続けて下さい! また変な事されたら、撃ち殺すので呼んで下さい!」


 楓雅は満足そうな顔で椅子へ座った。春人と優は楓雅が言った台詞に対して、若干引いて、苦笑いした。そんな大声選手権のような事も終わり、焚き火の火も小さくなったので、三人は片付けた後、コテージへ戻った。楓雅は食材の残りを確認し、問題無い事を確認した。
 明日の午前中にクルーザーが迎えに来るので、帰る準備をある程度行なった。優が荷物を整理していると、出発時にあの本を入れた事を気付き、テーブルの上に置いた。そうすると、本が勝手に本を開け、光り輝きながら、ページを開いていった。そうすると、シグニスとルイ、チェスターが光になって現れた。


「優君! なんで出してくれなかったの!」
「ごめん……。完全に忘れた。明日の帰る時間まで時間があるし、星空とか見てくるといいよ」
「ルイ、チェスター三人で一緒に夜空を見に行きましょう! 向こうの世界とどう違うんだろう……」
「その前に、腹ごしらえしませんか? 昨日のカレーが残っているので、三人方にも食べて貰いましょう」
「それ……、若干、残飯処理って言ってるような……」


 楓雅はカレーを温めると、三人分のカレーをリビングに運んだ。三人は物珍しそうにカレーを見た。しかし、スパイシーな香りが食欲をそそり、三人はカレーライスを一口食べた。三人は目を輝かせ、あっという間にカレーライスを平らげた。そして、三人は外のビーチチェアを目指し、コテージを後にした。


「本から出てきても、もう何とも思わなくなったな。慣れって怖いな」
「本当はここに着いてから、呼び出そうと思ったんだけど……完全に忘れてた」
「ま、食材も残っているし、部屋もまだ空いてますしね」


 無邪気に遊ぶ三人を見て、優達は自室へ戻った。二日間があっと終わってしまうという事で、優は溜め息をつきながら、ベッドへ入った。そして、その両サイドに春人と楓雅が入って来た。優がもぞもぞしていると、春人と楓雅が指を絡ませながら、手を繋いできた。昨日も同じ事をされたのに、優はいまだに緊張し、固まってしまう。


「優、おやすみ」
「朝比奈、おやすみ」
「うん……、おやすみなさい」


 春人と楓雅は優の頬に軽くキスをすると、目を閉じて、寝始めた。優の体を抱き枕代わりにするのは変わらず、優は自由に寝る事が出来なかった。でも、二人の寝顔を見れて、少し嬉しかった。外で遊んでいる三人は放っておいて、優は二人の温かさを感じ、眠りについた。
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