# ふた恋~脱陰キャしたら、クール系優等生とわんこ系幼馴染から更に溺愛されました~

沼田桃弥

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第6章:薔薇は僕のからだを蝕んでいく

#41:洗脳

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 優は二人の追跡を振り切って、学校を後にした。息を切らして、帰って来た我が子に優の母親は驚いた。


「優ちゃん、お帰り。どうしたの? そんなに息切らして」
「ただ……いま……。何でもない。大丈夫。ちょっとお風呂入ってくる」
「ああ、そう。いってらっしゃい」


 優は脱衣所へ直行し、制服を脱ぎ捨て、体も洗わずに湯船へ浸かった。両頬には二人の唇の感触が、耳には二人からの甘い囁きと息遣いが残っている感覚がして、急に恥ずかしくなり、思わず頭まで湯船に浸かった。


「ああ、消えない! 消えない! 思い出すだけでも恥ずかしいのに……。二人して……、あんな事言って」
「良いじゃない。二人と付き合っちゃえば」


 優が悶々としている中、浴槽の縁に座って、爪を研ぎながら、話すシグニスの姿があった。優は驚き、危うく溺れそうになった。浴室から大きな声が聞こえたため、心配になって母親が様子を窺いに来た。


「優ちゃん? 大丈夫? 凄い声が聞こえたけど」
「だ、だ、大丈夫! 平気だから!」
「そう? それならいいけど」


 母親に浴室へ入られるのを阻止出来、優はひとまず安心した。シグニスは優の慌てっぷりにお腹を抱えて、静かに笑った。


「で、なんでシグニスがこんなとこにいんの?」
「なんでって優が悩んでるからに決まってるでしょ。良いじゃない、二人から愛されるなんてロマンチックで」
「ロマンチックかもしれないけど、この世界では二股とかしないんです!」
「じゃぁ、どちらか選べばいいじゃない?」
「どちらかって言われても……。だって、選べないんだもん。……どっちも好きだし」
「じゃぁ、二人――」
「分かったから、あっち行ってよ!」


 優はシグニスにお湯をバシャバシャとかけた。シグニスは呆れた顔で姿を消して、何処かへ行ってしまった。その後も、優は何度も頭まで湯船に浸かり、考えないようにした。お風呂から上がると、スマホに通知が来ている事に気付いた。通知を見ると、春人と楓雅からだった。優は二人ともに『ごめん。急にお腹痛くなって』とバレバレな嘘をメッセージで送った。


「はぁ……、明日どうすればいいんだろ」


 優は早々に自分の部屋へ行き、ベッドへ飛び込むように入った。そして、溜め息をつきながら、天井を見上げた。今日の事を思い出していると、徐々に睡魔に襲われ、優はいつの間にか眠りについた。


 ◆◇◆◇◆◇


 そして、翌日。春人は朝練だったため、一人で登校した。校門に差し掛かると、生徒が数人立っていて、優の姿を見ると、興奮しながら駆け寄って来た。


「あの! 昨日の劇、凄かったです! 朝比奈先輩は彼女とかいるんですか?」
「え……、いや……」
「いや、朝比奈先輩は可愛いから、彼氏かもしれねぇだろ! いつも一緒にいる人とは付き合ってるんすか?」
「えっ……、あの二人はただの友達で……」


 優は数人の生徒に囲まれ、質問攻めに遭い、狼狽えた。優は鞄の持ち手を両手で強く握ると、皆に深々と何度も頭を下げて、下駄箱へ必死に走った。下駄箱を開けると、溢れ出てくるように手紙が出てきた。優は少し立ち竦んで、上履きに履き替えると、しゃがんで、手紙を一枚一枚拾い、鞄の中へ入れた。
 優は鞄の中に入れ、立ち上がろうとした時、両サイドに楓雅とユニフォーム姿の春人がニッコリして立っていた。優は苦笑いして、その場から逃げようとしたが、まんまと二人に捕まり、問答無用で校舎裏へ連れて行かれた。


「お……、おはよう……ございます」
「うん。朝比奈、おはよう」
「優、おはよう」
「えっと……、ここまで来て、何の用でしょうか? ……僕は教室へ行きたいんですけど」


 ジリジリと近付く二人に優は後ずさりした。無言で微笑む二人は優を壁際まで追い込み、逃げられない様にした。そして、楓雅が指を鳴らすと、何処からともなくルイとチェスターが出てきて、春人と楓雅の体に入った。優は困惑し、身に危険を感じて、必死で目を閉じた。


「朝比奈。ほら、僕達の目をみてごらん。朝比奈の怖い事はしないよ」
「そうだぜ。お前が嫌がる事は絶対にしない。だから、俺達の目を見てくれ」


 優が恐る恐る目を開け、二人の顔を見上げると、楓雅は青い瞳を、春人は赤い瞳をしており、驚いた。そして、二人は優の腕を掴み、壁に押し当てると、小さく笑った。


「ちゃんと見てますか?」
「優、見えてるか?」
「う、うん。見え……てるけど、何?」


 二人は顔を見合わせると、無言で頷き、優の顔を再び見つめた。優が二人の瞳を見ていると、突然、体全体がドクッと脈打つような不思議な感覚がした。


「良いと言うまで目を逸らさないで下さいね」
「…………朝比奈優は俺達二人の所有物。二人の命令は絶対」
「ほら、優も言ってごらん」
(え……、どういう事? しょ、所有物?)
「優、ただ言うだけだ。安心しろ」
(安心しろって言われても……。あれ? なんか口が勝手に――)
「僕は……春人と楓雅君の所有物。二人の命令は絶対……」


 優はいつの間にか、口が勝手に動き、春人が言った言葉を復唱した。復唱した途端、二人の瞳に吸い込まれるような感覚がし、若干頭がクラクラした。二人が満足そうな顔をすると、楓雅がもう一度、指を鳴らした。優はその音でハッと我に戻り、二人の瞳もいつも通りの色をしていた。そして、ルイとチェスターの気配もいつの間にか消えていた。


「じゃ、俺は着替えてくるから、また後でな」
「僕も日直なので、職員室へ行ってきます。それでは」
「うん。いっ……いってらっしゃい」


 優はあっさり立ち去った二人にポカンとした。昨日の告白の答えを聞かれるのかと思ったのに、どうして……と、首を傾げながら、教室へ向かった。
 教室へ入ると、皆が優に挨拶をし、優しかった。優が知っている孤独を感じる教室では無かった。クラスメイトが優を囲み、髪型の話や劇をやった動機などを聞いてきた。大勢で囲まれての会話がどうしても苦手だったが、クラスメイトは前々から知っているような素振りで、優のペースに合わせて、話してくれた。優も安心し、クラスメイトと上手に談笑をする事が出来た。


「優、クラスの奴らと上手く話せてるかぁ?」
「朝比奈、なんだか楽しそうですね」
「うん、大勢に囲まれて、ドバーッて話されるんじゃないかって心配してたけど、皆、わざわざ僕に合わせて話してくれて、ホッとした。……でも、そういうの苦手って言った事無いんだけど、どうしてだろう?」


 優は不思議に思いながら、鞄にしまってあった手紙を机に出し、読み始めた。二人は後夜祭での洗脳が成功したと確信し、お互いの拳を当て合い、グータッチをした。
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