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第5章:僕らは今、暗闇の中で歌い始める
#38:詠唱
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三人は第三音楽室に着くと、ドアの鍵を閉め、机を一つ引っ張り出すと、魔法陣が上になるように本をそこに置いた。三人は深呼吸し、お互いの顔を見合った。
「二人とも本当に良い? 後悔しない?」
「大丈夫ですよ」
「俺も平気だぜ。こういうのワクワクするな」
「春人って本当に緊張感無いよね。……じゃ、いくよ」
三人は魔法陣に手をかざし、目を瞑った。そして、優の掛け声で先程の呪文を唱えた。
「我ら、シグニス様の為に。幾歳の時を超えようとも、我々の愛は永遠なり」
三人が呪文を唱え終わると、恐る恐る目を開けた。特に何も無く、教室は静まり返り、外から後夜祭を楽しんでいる生徒の声が聞こえるだけだった。春人がため息をつき、優がガッカリして、手を離すと、突然、床に魔法陣が描かれ、本が光り輝いた。三人は驚き、尻もちをついて、その場に座り込んだ。そして、あまりの眩しさに思わず腕で目を覆った。
「優! またお目に掛かれましたね! 嬉しいです!」
「――シグニス!?」
優が目を開けると同時に、誰かが抱きついてくるのが分かった。よく見ると、夢に出てきたシグニス本人だった。そして、二人の方を見ると、ルイとチェスターも立っており、ひどく驚いた。
「マジかよ……」
「本でよく見るファンタジーな感じですが、どうやら……本当のようですね、これは」
「なんて言えばいいのか……。それより、シグニス苦しいから、離れてよ」
信じがたいが、自分達が演じた登場人物が目の前に立っている事に、状況を飲み込むのに時間がかかった。三人が呆然としていると、廊下を走る音が聞こえ、誰かが音楽室のドアをガチャガチャと開けようとする音がした。優は慌てて、三人をカーテンで隠した。
「優君? さっきの光は何? ってか、ここ開けて! 大丈夫なの?」
「ああ、宇佐美さん。今開けるんで、待ってて下さい! ……今の事言っちゃダメだよ」
優は春人と楓雅に言わないように釘を刺した。そして、ドアを開けた。ドアを開けると、息を切らした比奈子が飛び込むように入って来た。比奈子が教室を見渡すも、特に異常はなく、胸を撫で下ろした。
「はぁ、何か爆発したのかと思ったわ」
「あははぁ……。電気を一気につけたから、そのせいかもねぇ……」
「いや、あれは電気とかじゃないよ! 凄かったもん! 皆、驚いてたよ」
「えっと……、その……」
「比奈子さん、電灯がショートしたみたいです。ほら、見て下さい」
優が上手く誤魔化そうとするが、比奈子は信じてくれなかった。目が泳ぐ優を見て、楓雅は機転を利かせ、天井の電灯を指差した。よく見ると、さっきまで電球切れしていなかったのに、何故か楓雅が指差す電灯だけ点灯していなかった。
「なんだぁ、それなら良いわ。じゃ、私は皆に大丈夫って言ってくるわ」
「ああっ! ちょっと待って!」
比奈子は楓雅の嘘を信じた。優が安心したのも束の間、比奈子の後ろにいつの間にか三人が立っており、不思議そうに比奈子を見ていた。比奈子がそちら側に振り向こうとしたため、優は思わず大きな声を出して、比奈子を止めた。
「ビックリした。どうしたの?」
「えっと……、なんだっけ?」
「優君、疲れてるよ。早く帰って、今日はゆっくり休んだ方が良いわよ。それじゃ、私は行くね」
比奈子は呆れた顔をして、優を労った。そして、比奈子は三人の存在に全く気付く様子もなく、三人の体をすり抜けるように教室を出ていった。優はそれを見て、力が抜けたように、その場に座り込んだ。
「心臓止まるかと思った」
「俺も……」
「三人とも朝比奈で遊ぶのはやめて下さい。成仏させますよ」
「成仏はやめて。相変わらずこの子はチェスターに似て、恐ろしい事言うのね」
「私とルイ、そして、シグニス様は三人にしか見えません。……シグニス様、こういう事は先に説明すべきですよ」
「そそ、俺らは三人にしか見えないぜ。俺達の世界で言うと、守護者みたいなもんだぞ」
「――いや、完全に幽霊じゃん」
春人は三人に鋭いツッコミを入れる。優と楓雅はそう言われてみればと思い、納得してしまった。春人と楓雅は状況を都合の良いように解釈し、大きく頷いた。
「ま、見えないのなら良いんじゃね? それより、俺は腹減った! 模擬店の余りもん食ってくる」
「そうですね、幽霊だと思えばいいんですよ。僕もお腹が空いたので、小向井君と皆の所へ行ってきますね」
「え! ちょっと待ってよ! 三人はどうするの!」
「「後はよろしく」」
「嘘でしょ! 僕もお腹空いてるのに!」
春人と楓雅は三人と優を残して、足早に皆がいる校庭へ向かった。置いてけぼりの優は子供が泣くように喚いた。三人は喚く優を宥めた。
「とりあえず本の中に戻りましょう。このままついて行っても、優が困るだけですし……」
「……なんか本当に疲れてるのかな? 夢なのかな……。夢であって欲しい」
「悪かったよ。俺達は本の中に戻るから、優も祭りを楽しんでこいよ」
そう言うと、シグニスは白い球体に、ルイは赤い球体に、チェスターは青い球体となって、本の中に飛び込むように入っていき、消えた。優は本を手に取ると、深いため息をつき、教室へ戻り、鞄の中にしまった。そして、皆が待つ後夜祭会場へ向かった。
「二人とも本当に良い? 後悔しない?」
「大丈夫ですよ」
「俺も平気だぜ。こういうのワクワクするな」
「春人って本当に緊張感無いよね。……じゃ、いくよ」
三人は魔法陣に手をかざし、目を瞑った。そして、優の掛け声で先程の呪文を唱えた。
「我ら、シグニス様の為に。幾歳の時を超えようとも、我々の愛は永遠なり」
三人が呪文を唱え終わると、恐る恐る目を開けた。特に何も無く、教室は静まり返り、外から後夜祭を楽しんでいる生徒の声が聞こえるだけだった。春人がため息をつき、優がガッカリして、手を離すと、突然、床に魔法陣が描かれ、本が光り輝いた。三人は驚き、尻もちをついて、その場に座り込んだ。そして、あまりの眩しさに思わず腕で目を覆った。
「優! またお目に掛かれましたね! 嬉しいです!」
「――シグニス!?」
優が目を開けると同時に、誰かが抱きついてくるのが分かった。よく見ると、夢に出てきたシグニス本人だった。そして、二人の方を見ると、ルイとチェスターも立っており、ひどく驚いた。
「マジかよ……」
「本でよく見るファンタジーな感じですが、どうやら……本当のようですね、これは」
「なんて言えばいいのか……。それより、シグニス苦しいから、離れてよ」
信じがたいが、自分達が演じた登場人物が目の前に立っている事に、状況を飲み込むのに時間がかかった。三人が呆然としていると、廊下を走る音が聞こえ、誰かが音楽室のドアをガチャガチャと開けようとする音がした。優は慌てて、三人をカーテンで隠した。
「優君? さっきの光は何? ってか、ここ開けて! 大丈夫なの?」
「ああ、宇佐美さん。今開けるんで、待ってて下さい! ……今の事言っちゃダメだよ」
優は春人と楓雅に言わないように釘を刺した。そして、ドアを開けた。ドアを開けると、息を切らした比奈子が飛び込むように入って来た。比奈子が教室を見渡すも、特に異常はなく、胸を撫で下ろした。
「はぁ、何か爆発したのかと思ったわ」
「あははぁ……。電気を一気につけたから、そのせいかもねぇ……」
「いや、あれは電気とかじゃないよ! 凄かったもん! 皆、驚いてたよ」
「えっと……、その……」
「比奈子さん、電灯がショートしたみたいです。ほら、見て下さい」
優が上手く誤魔化そうとするが、比奈子は信じてくれなかった。目が泳ぐ優を見て、楓雅は機転を利かせ、天井の電灯を指差した。よく見ると、さっきまで電球切れしていなかったのに、何故か楓雅が指差す電灯だけ点灯していなかった。
「なんだぁ、それなら良いわ。じゃ、私は皆に大丈夫って言ってくるわ」
「ああっ! ちょっと待って!」
比奈子は楓雅の嘘を信じた。優が安心したのも束の間、比奈子の後ろにいつの間にか三人が立っており、不思議そうに比奈子を見ていた。比奈子がそちら側に振り向こうとしたため、優は思わず大きな声を出して、比奈子を止めた。
「ビックリした。どうしたの?」
「えっと……、なんだっけ?」
「優君、疲れてるよ。早く帰って、今日はゆっくり休んだ方が良いわよ。それじゃ、私は行くね」
比奈子は呆れた顔をして、優を労った。そして、比奈子は三人の存在に全く気付く様子もなく、三人の体をすり抜けるように教室を出ていった。優はそれを見て、力が抜けたように、その場に座り込んだ。
「心臓止まるかと思った」
「俺も……」
「三人とも朝比奈で遊ぶのはやめて下さい。成仏させますよ」
「成仏はやめて。相変わらずこの子はチェスターに似て、恐ろしい事言うのね」
「私とルイ、そして、シグニス様は三人にしか見えません。……シグニス様、こういう事は先に説明すべきですよ」
「そそ、俺らは三人にしか見えないぜ。俺達の世界で言うと、守護者みたいなもんだぞ」
「――いや、完全に幽霊じゃん」
春人は三人に鋭いツッコミを入れる。優と楓雅はそう言われてみればと思い、納得してしまった。春人と楓雅は状況を都合の良いように解釈し、大きく頷いた。
「ま、見えないのなら良いんじゃね? それより、俺は腹減った! 模擬店の余りもん食ってくる」
「そうですね、幽霊だと思えばいいんですよ。僕もお腹が空いたので、小向井君と皆の所へ行ってきますね」
「え! ちょっと待ってよ! 三人はどうするの!」
「「後はよろしく」」
「嘘でしょ! 僕もお腹空いてるのに!」
春人と楓雅は三人と優を残して、足早に皆がいる校庭へ向かった。置いてけぼりの優は子供が泣くように喚いた。三人は喚く優を宥めた。
「とりあえず本の中に戻りましょう。このままついて行っても、優が困るだけですし……」
「……なんか本当に疲れてるのかな? 夢なのかな……。夢であって欲しい」
「悪かったよ。俺達は本の中に戻るから、優も祭りを楽しんでこいよ」
そう言うと、シグニスは白い球体に、ルイは赤い球体に、チェスターは青い球体となって、本の中に飛び込むように入っていき、消えた。優は本を手に取ると、深いため息をつき、教室へ戻り、鞄の中にしまった。そして、皆が待つ後夜祭会場へ向かった。
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