31 / 62
第4章:僕はずっと一人だと思っていた
#29:魅力
しおりを挟む
「分かったわ。カット以外にパーマとカラーもやるわよ」
「……そんなにやるんですか?」
「当たり前じゃないの! なんか文句でもあんの?」
「いや、無いです。カット以外は初めてなので……」
「それはこの頭を見りゃ誰でも分かるわよ。あと、これ返すわ」
みなちゃんは冷ややかな態度で優の髪を触りながら、言った。そして、紙を返して貰うと、優は待合室に居る二人に鏡越しに合図し、預かってもらう事にした。
「なんだか緊張しますけど、よろしくお願いします」
「よろしくされるわぁ。あのイケメン二人組が腰抜かす程に可愛くするから、覚悟しなさいよ」
みなちゃんはシャンプー台に優を案内すると、優しい手付きで優の髪を洗った。そして、これまた手入れをしていないであろう優の眉毛に目がいった。
「あんた、眉カットもやった方が良いわ。今回は比奈ちゃんのお友達だし、初回だから、無料にするけど」
「じゃあ、眉カットもお願い出来ますか?」
「分かったわ。だいぶ時間かかるから、お友達にはカフェで待って貰ったら? と言うか、ずっと鏡越しでこっち見られんの気が散るのよね」
「あははぁ。……そうですよね」
シャンプーする手付きは優しいのに、言葉に棘があって、優は苦笑いで返事した。そうすると、みなちゃんは大きな声で春人と楓雅を呼び、店から追い出すような言い方で、終わるまでカフェで待つように言った。
二人は呼ばれた時、体をビクッとさせ、大人しく店の外へ出ていった。
「はぁ、これで女二人同士で話が出来るわ」
「あ、あの、僕……一応、男なんですけど」
「何言ってんの! 私と同じニオイがするじゃない。あと、これは私とは違うけど、アンタはナヨナヨしてて、優柔不断そうだし、一人じゃ何も決められなさそうだし、何も出来ないような顔してるじゃない」
優は的を得た発言をされ、内心傷ついた。シャンプーが終わると、先程の席に座った。俯いて黙り込む優を見て、みなちゃんは深く溜め息をつき、カットを始めた。
「やっぱり、源次さんからもそういう風に見えるんですかね……」
「ちょっと止めてよ! 源次じゃなくて、みなちゃんって言いなさい! ぶっとばすわよ!」
「えっと、みな……ちゃんからも、そういう風に見えますか?」
「目を閉じてても見えるわよ。何があったかは知らないけど、お店に入ってきてからプンプン臭うわ。もうね、負のオーラだだ漏れ」
優はみなちゃんの言う通りだなと思い、目線を下にして、ケープに落ちてきた自分の髪の毛を見ながら、ただ黙った。みなちゃんは多くを語らず、華麗な手捌きで優の髪を切っていく。
「次はパーマね。アンタは髪の毛柔らかいし、少しくせ毛なのね。本当に厄介ね。ま、私に任せておけば、大丈夫よ。そう言えば、劇は明日?」
「え、劇の事知ってるんですか?」
「そりゃ、比奈ちゃんから耳が痛くなる程聞いたから、嫌でも知ってるわよ」
みなちゃんは次にパーマの準備をし、ロッドを優の髪に巻いていった。そして、待ち時間の間、二人分の飲み物を持ってくると、優の隣に椅子を持って来て、座った。
「私が出したお茶も飲めないって言うの? ほら、新しいの淹れたから、飲みなさいよ」
「……は、はい。ありがとうございます」
「はぁ……。本当に困った子ね。別に優柔不断でもナヨナヨしてても、一人で何も出来なくてもいいじゃない」
「えっ?」
「さっきの話。私ダメなんです、悲劇のヒロインなんですみたいな顔。すっごい不細工よ。そんな顔、今すぐ止めちゃいなさい! 過去の自分とはさようならするのよ」
「過去の自分と……さよなら……する……」
みなちゃんは言葉に棘があるも、真剣に自分の事を考えている事に、優はグッとくるものがあった。最初はただの口が悪いオネエだと思っていた事を心の中で反省し、みなちゃんの話を聞いた。そして、みなちゃんは鏡に映る優を指差した。優は鏡に映る自分の姿を見た。
「アンタは今から変わるの。今から可愛くなるの。誰もが羨む人になるの。街行く男どもが腰抜かす程に」
「でも、髪切った位で、そんな風にはなれないですよ……」
「そんなの分かってるわよ! アンタ自身で自分の魅力に気付かないとダメよ。比奈ちゃんもさっきの男どももアンタの魅力を知ってるから、ついて来てくれるんでしょ? 髪切った位で人生変わったら、皆、髪切ってるわよ」
優は言われてみれば、そうだなと思い、頷いた。その後も、みなちゃんの有り難い話はカラーが終わるまで、永遠と続いた。
「はい、ラストは眉カットね。これで少しはマシになるんじゃないの?」
「なんかドキドキします」
優は眉カットをしてもらい、全ての工程が終わった。そして、髪にスタイリング剤を付けて貰い、ケープを外してもらった。ケープが無くなり、完成された自分の姿を鏡で見たが、想像してた以上の仕上がりで言葉を失った。
まるでトイプードルみたいな可愛らしさとやんちゃさがあるようなショートボブパーマスタイルだった。眉も綺麗になり、髪の毛を触ると、フワッと弾むような質感で今までの重々しい感じはしなかった。優は鏡を覗き込むように、何度も前髪を触ったり、首を左右に軽く振り、髪の動きを見たりした。
「これが……自分……」
「やだわ、この子。広告みたいなリアクションするのね。これが本当のアンタ。少しは私に感謝しなさいよね」
「ありがとうございます! 気持ちまで明るくなりました! みなちゃんは本当に凄いんですね!」
「何言ってんのよ、そんなの当たり前よ。あっ、褒めたって安くはしないわよ」
鏡を何度も見て、喜ぶ優の姿を見て、みなちゃんは少し呆れながらも、嬉しい顔をした。その後、優はヘアケアについてアドバイスを貰った。そして、優が店を出ようとしたら、みなちゃんは何かを思い出したかのように、優を引き留めた。
「アンタ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「あと、恋をしなさい。皆から愛されるの。アンタは皆に愛されて、輝くタイプっぽいから。ま、私は筋肉バカみたいな子の方が好みだけど、アンタはどっちがタイプなのよ?」
「……ちょ、ちょっとやめて下さいよ!」
「まぁ、いいわ。また何かあったら、来て頂戴。私は大歓迎よ」
顔を真っ赤にする優を揶揄いながら、みなちゃんは手を振って、優を見送った。優は顔を手で扇ぎながら、待ち合わせのカフェへ足早に向かった。
「……そんなにやるんですか?」
「当たり前じゃないの! なんか文句でもあんの?」
「いや、無いです。カット以外は初めてなので……」
「それはこの頭を見りゃ誰でも分かるわよ。あと、これ返すわ」
みなちゃんは冷ややかな態度で優の髪を触りながら、言った。そして、紙を返して貰うと、優は待合室に居る二人に鏡越しに合図し、預かってもらう事にした。
「なんだか緊張しますけど、よろしくお願いします」
「よろしくされるわぁ。あのイケメン二人組が腰抜かす程に可愛くするから、覚悟しなさいよ」
みなちゃんはシャンプー台に優を案内すると、優しい手付きで優の髪を洗った。そして、これまた手入れをしていないであろう優の眉毛に目がいった。
「あんた、眉カットもやった方が良いわ。今回は比奈ちゃんのお友達だし、初回だから、無料にするけど」
「じゃあ、眉カットもお願い出来ますか?」
「分かったわ。だいぶ時間かかるから、お友達にはカフェで待って貰ったら? と言うか、ずっと鏡越しでこっち見られんの気が散るのよね」
「あははぁ。……そうですよね」
シャンプーする手付きは優しいのに、言葉に棘があって、優は苦笑いで返事した。そうすると、みなちゃんは大きな声で春人と楓雅を呼び、店から追い出すような言い方で、終わるまでカフェで待つように言った。
二人は呼ばれた時、体をビクッとさせ、大人しく店の外へ出ていった。
「はぁ、これで女二人同士で話が出来るわ」
「あ、あの、僕……一応、男なんですけど」
「何言ってんの! 私と同じニオイがするじゃない。あと、これは私とは違うけど、アンタはナヨナヨしてて、優柔不断そうだし、一人じゃ何も決められなさそうだし、何も出来ないような顔してるじゃない」
優は的を得た発言をされ、内心傷ついた。シャンプーが終わると、先程の席に座った。俯いて黙り込む優を見て、みなちゃんは深く溜め息をつき、カットを始めた。
「やっぱり、源次さんからもそういう風に見えるんですかね……」
「ちょっと止めてよ! 源次じゃなくて、みなちゃんって言いなさい! ぶっとばすわよ!」
「えっと、みな……ちゃんからも、そういう風に見えますか?」
「目を閉じてても見えるわよ。何があったかは知らないけど、お店に入ってきてからプンプン臭うわ。もうね、負のオーラだだ漏れ」
優はみなちゃんの言う通りだなと思い、目線を下にして、ケープに落ちてきた自分の髪の毛を見ながら、ただ黙った。みなちゃんは多くを語らず、華麗な手捌きで優の髪を切っていく。
「次はパーマね。アンタは髪の毛柔らかいし、少しくせ毛なのね。本当に厄介ね。ま、私に任せておけば、大丈夫よ。そう言えば、劇は明日?」
「え、劇の事知ってるんですか?」
「そりゃ、比奈ちゃんから耳が痛くなる程聞いたから、嫌でも知ってるわよ」
みなちゃんは次にパーマの準備をし、ロッドを優の髪に巻いていった。そして、待ち時間の間、二人分の飲み物を持ってくると、優の隣に椅子を持って来て、座った。
「私が出したお茶も飲めないって言うの? ほら、新しいの淹れたから、飲みなさいよ」
「……は、はい。ありがとうございます」
「はぁ……。本当に困った子ね。別に優柔不断でもナヨナヨしてても、一人で何も出来なくてもいいじゃない」
「えっ?」
「さっきの話。私ダメなんです、悲劇のヒロインなんですみたいな顔。すっごい不細工よ。そんな顔、今すぐ止めちゃいなさい! 過去の自分とはさようならするのよ」
「過去の自分と……さよなら……する……」
みなちゃんは言葉に棘があるも、真剣に自分の事を考えている事に、優はグッとくるものがあった。最初はただの口が悪いオネエだと思っていた事を心の中で反省し、みなちゃんの話を聞いた。そして、みなちゃんは鏡に映る優を指差した。優は鏡に映る自分の姿を見た。
「アンタは今から変わるの。今から可愛くなるの。誰もが羨む人になるの。街行く男どもが腰抜かす程に」
「でも、髪切った位で、そんな風にはなれないですよ……」
「そんなの分かってるわよ! アンタ自身で自分の魅力に気付かないとダメよ。比奈ちゃんもさっきの男どももアンタの魅力を知ってるから、ついて来てくれるんでしょ? 髪切った位で人生変わったら、皆、髪切ってるわよ」
優は言われてみれば、そうだなと思い、頷いた。その後も、みなちゃんの有り難い話はカラーが終わるまで、永遠と続いた。
「はい、ラストは眉カットね。これで少しはマシになるんじゃないの?」
「なんかドキドキします」
優は眉カットをしてもらい、全ての工程が終わった。そして、髪にスタイリング剤を付けて貰い、ケープを外してもらった。ケープが無くなり、完成された自分の姿を鏡で見たが、想像してた以上の仕上がりで言葉を失った。
まるでトイプードルみたいな可愛らしさとやんちゃさがあるようなショートボブパーマスタイルだった。眉も綺麗になり、髪の毛を触ると、フワッと弾むような質感で今までの重々しい感じはしなかった。優は鏡を覗き込むように、何度も前髪を触ったり、首を左右に軽く振り、髪の動きを見たりした。
「これが……自分……」
「やだわ、この子。広告みたいなリアクションするのね。これが本当のアンタ。少しは私に感謝しなさいよね」
「ありがとうございます! 気持ちまで明るくなりました! みなちゃんは本当に凄いんですね!」
「何言ってんのよ、そんなの当たり前よ。あっ、褒めたって安くはしないわよ」
鏡を何度も見て、喜ぶ優の姿を見て、みなちゃんは少し呆れながらも、嬉しい顔をした。その後、優はヘアケアについてアドバイスを貰った。そして、優が店を出ようとしたら、みなちゃんは何かを思い出したかのように、優を引き留めた。
「アンタ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「あと、恋をしなさい。皆から愛されるの。アンタは皆に愛されて、輝くタイプっぽいから。ま、私は筋肉バカみたいな子の方が好みだけど、アンタはどっちがタイプなのよ?」
「……ちょ、ちょっとやめて下さいよ!」
「まぁ、いいわ。また何かあったら、来て頂戴。私は大歓迎よ」
顔を真っ赤にする優を揶揄いながら、みなちゃんは手を振って、優を見送った。優は顔を手で扇ぎながら、待ち合わせのカフェへ足早に向かった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる