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第4章:僕はずっと一人だと思っていた
#29:魅力
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「分かったわ。カット以外にパーマとカラーもやるわよ」
「……そんなにやるんですか?」
「当たり前じゃないの! なんか文句でもあんの?」
「いや、無いです。カット以外は初めてなので……」
「それはこの頭を見りゃ誰でも分かるわよ。あと、これ返すわ」
みなちゃんは冷ややかな態度で優の髪を触りながら、言った。そして、紙を返して貰うと、優は待合室に居る二人に鏡越しに合図し、預かってもらう事にした。
「なんだか緊張しますけど、よろしくお願いします」
「よろしくされるわぁ。あのイケメン二人組が腰抜かす程に可愛くするから、覚悟しなさいよ」
みなちゃんはシャンプー台に優を案内すると、優しい手付きで優の髪を洗った。そして、これまた手入れをしていないであろう優の眉毛に目がいった。
「あんた、眉カットもやった方が良いわ。今回は比奈ちゃんのお友達だし、初回だから、無料にするけど」
「じゃあ、眉カットもお願い出来ますか?」
「分かったわ。だいぶ時間かかるから、お友達にはカフェで待って貰ったら? と言うか、ずっと鏡越しでこっち見られんの気が散るのよね」
「あははぁ。……そうですよね」
シャンプーする手付きは優しいのに、言葉に棘があって、優は苦笑いで返事した。そうすると、みなちゃんは大きな声で春人と楓雅を呼び、店から追い出すような言い方で、終わるまでカフェで待つように言った。
二人は呼ばれた時、体をビクッとさせ、大人しく店の外へ出ていった。
「はぁ、これで女二人同士で話が出来るわ」
「あ、あの、僕……一応、男なんですけど」
「何言ってんの! 私と同じニオイがするじゃない。あと、これは私とは違うけど、アンタはナヨナヨしてて、優柔不断そうだし、一人じゃ何も決められなさそうだし、何も出来ないような顔してるじゃない」
優は的を得た発言をされ、内心傷ついた。シャンプーが終わると、先程の席に座った。俯いて黙り込む優を見て、みなちゃんは深く溜め息をつき、カットを始めた。
「やっぱり、源次さんからもそういう風に見えるんですかね……」
「ちょっと止めてよ! 源次じゃなくて、みなちゃんって言いなさい! ぶっとばすわよ!」
「えっと、みな……ちゃんからも、そういう風に見えますか?」
「目を閉じてても見えるわよ。何があったかは知らないけど、お店に入ってきてからプンプン臭うわ。もうね、負のオーラだだ漏れ」
優はみなちゃんの言う通りだなと思い、目線を下にして、ケープに落ちてきた自分の髪の毛を見ながら、ただ黙った。みなちゃんは多くを語らず、華麗な手捌きで優の髪を切っていく。
「次はパーマね。アンタは髪の毛柔らかいし、少しくせ毛なのね。本当に厄介ね。ま、私に任せておけば、大丈夫よ。そう言えば、劇は明日?」
「え、劇の事知ってるんですか?」
「そりゃ、比奈ちゃんから耳が痛くなる程聞いたから、嫌でも知ってるわよ」
みなちゃんは次にパーマの準備をし、ロッドを優の髪に巻いていった。そして、待ち時間の間、二人分の飲み物を持ってくると、優の隣に椅子を持って来て、座った。
「私が出したお茶も飲めないって言うの? ほら、新しいの淹れたから、飲みなさいよ」
「……は、はい。ありがとうございます」
「はぁ……。本当に困った子ね。別に優柔不断でもナヨナヨしてても、一人で何も出来なくてもいいじゃない」
「えっ?」
「さっきの話。私ダメなんです、悲劇のヒロインなんですみたいな顔。すっごい不細工よ。そんな顔、今すぐ止めちゃいなさい! 過去の自分とはさようならするのよ」
「過去の自分と……さよなら……する……」
みなちゃんは言葉に棘があるも、真剣に自分の事を考えている事に、優はグッとくるものがあった。最初はただの口が悪いオネエだと思っていた事を心の中で反省し、みなちゃんの話を聞いた。そして、みなちゃんは鏡に映る優を指差した。優は鏡に映る自分の姿を見た。
「アンタは今から変わるの。今から可愛くなるの。誰もが羨む人になるの。街行く男どもが腰抜かす程に」
「でも、髪切った位で、そんな風にはなれないですよ……」
「そんなの分かってるわよ! アンタ自身で自分の魅力に気付かないとダメよ。比奈ちゃんもさっきの男どももアンタの魅力を知ってるから、ついて来てくれるんでしょ? 髪切った位で人生変わったら、皆、髪切ってるわよ」
優は言われてみれば、そうだなと思い、頷いた。その後も、みなちゃんの有り難い話はカラーが終わるまで、永遠と続いた。
「はい、ラストは眉カットね。これで少しはマシになるんじゃないの?」
「なんかドキドキします」
優は眉カットをしてもらい、全ての工程が終わった。そして、髪にスタイリング剤を付けて貰い、ケープを外してもらった。ケープが無くなり、完成された自分の姿を鏡で見たが、想像してた以上の仕上がりで言葉を失った。
まるでトイプードルみたいな可愛らしさとやんちゃさがあるようなショートボブパーマスタイルだった。眉も綺麗になり、髪の毛を触ると、フワッと弾むような質感で今までの重々しい感じはしなかった。優は鏡を覗き込むように、何度も前髪を触ったり、首を左右に軽く振り、髪の動きを見たりした。
「これが……自分……」
「やだわ、この子。広告みたいなリアクションするのね。これが本当のアンタ。少しは私に感謝しなさいよね」
「ありがとうございます! 気持ちまで明るくなりました! みなちゃんは本当に凄いんですね!」
「何言ってんのよ、そんなの当たり前よ。あっ、褒めたって安くはしないわよ」
鏡を何度も見て、喜ぶ優の姿を見て、みなちゃんは少し呆れながらも、嬉しい顔をした。その後、優はヘアケアについてアドバイスを貰った。そして、優が店を出ようとしたら、みなちゃんは何かを思い出したかのように、優を引き留めた。
「アンタ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「あと、恋をしなさい。皆から愛されるの。アンタは皆に愛されて、輝くタイプっぽいから。ま、私は筋肉バカみたいな子の方が好みだけど、アンタはどっちがタイプなのよ?」
「……ちょ、ちょっとやめて下さいよ!」
「まぁ、いいわ。また何かあったら、来て頂戴。私は大歓迎よ」
顔を真っ赤にする優を揶揄いながら、みなちゃんは手を振って、優を見送った。優は顔を手で扇ぎながら、待ち合わせのカフェへ足早に向かった。
「……そんなにやるんですか?」
「当たり前じゃないの! なんか文句でもあんの?」
「いや、無いです。カット以外は初めてなので……」
「それはこの頭を見りゃ誰でも分かるわよ。あと、これ返すわ」
みなちゃんは冷ややかな態度で優の髪を触りながら、言った。そして、紙を返して貰うと、優は待合室に居る二人に鏡越しに合図し、預かってもらう事にした。
「なんだか緊張しますけど、よろしくお願いします」
「よろしくされるわぁ。あのイケメン二人組が腰抜かす程に可愛くするから、覚悟しなさいよ」
みなちゃんはシャンプー台に優を案内すると、優しい手付きで優の髪を洗った。そして、これまた手入れをしていないであろう優の眉毛に目がいった。
「あんた、眉カットもやった方が良いわ。今回は比奈ちゃんのお友達だし、初回だから、無料にするけど」
「じゃあ、眉カットもお願い出来ますか?」
「分かったわ。だいぶ時間かかるから、お友達にはカフェで待って貰ったら? と言うか、ずっと鏡越しでこっち見られんの気が散るのよね」
「あははぁ。……そうですよね」
シャンプーする手付きは優しいのに、言葉に棘があって、優は苦笑いで返事した。そうすると、みなちゃんは大きな声で春人と楓雅を呼び、店から追い出すような言い方で、終わるまでカフェで待つように言った。
二人は呼ばれた時、体をビクッとさせ、大人しく店の外へ出ていった。
「はぁ、これで女二人同士で話が出来るわ」
「あ、あの、僕……一応、男なんですけど」
「何言ってんの! 私と同じニオイがするじゃない。あと、これは私とは違うけど、アンタはナヨナヨしてて、優柔不断そうだし、一人じゃ何も決められなさそうだし、何も出来ないような顔してるじゃない」
優は的を得た発言をされ、内心傷ついた。シャンプーが終わると、先程の席に座った。俯いて黙り込む優を見て、みなちゃんは深く溜め息をつき、カットを始めた。
「やっぱり、源次さんからもそういう風に見えるんですかね……」
「ちょっと止めてよ! 源次じゃなくて、みなちゃんって言いなさい! ぶっとばすわよ!」
「えっと、みな……ちゃんからも、そういう風に見えますか?」
「目を閉じてても見えるわよ。何があったかは知らないけど、お店に入ってきてからプンプン臭うわ。もうね、負のオーラだだ漏れ」
優はみなちゃんの言う通りだなと思い、目線を下にして、ケープに落ちてきた自分の髪の毛を見ながら、ただ黙った。みなちゃんは多くを語らず、華麗な手捌きで優の髪を切っていく。
「次はパーマね。アンタは髪の毛柔らかいし、少しくせ毛なのね。本当に厄介ね。ま、私に任せておけば、大丈夫よ。そう言えば、劇は明日?」
「え、劇の事知ってるんですか?」
「そりゃ、比奈ちゃんから耳が痛くなる程聞いたから、嫌でも知ってるわよ」
みなちゃんは次にパーマの準備をし、ロッドを優の髪に巻いていった。そして、待ち時間の間、二人分の飲み物を持ってくると、優の隣に椅子を持って来て、座った。
「私が出したお茶も飲めないって言うの? ほら、新しいの淹れたから、飲みなさいよ」
「……は、はい。ありがとうございます」
「はぁ……。本当に困った子ね。別に優柔不断でもナヨナヨしてても、一人で何も出来なくてもいいじゃない」
「えっ?」
「さっきの話。私ダメなんです、悲劇のヒロインなんですみたいな顔。すっごい不細工よ。そんな顔、今すぐ止めちゃいなさい! 過去の自分とはさようならするのよ」
「過去の自分と……さよなら……する……」
みなちゃんは言葉に棘があるも、真剣に自分の事を考えている事に、優はグッとくるものがあった。最初はただの口が悪いオネエだと思っていた事を心の中で反省し、みなちゃんの話を聞いた。そして、みなちゃんは鏡に映る優を指差した。優は鏡に映る自分の姿を見た。
「アンタは今から変わるの。今から可愛くなるの。誰もが羨む人になるの。街行く男どもが腰抜かす程に」
「でも、髪切った位で、そんな風にはなれないですよ……」
「そんなの分かってるわよ! アンタ自身で自分の魅力に気付かないとダメよ。比奈ちゃんもさっきの男どももアンタの魅力を知ってるから、ついて来てくれるんでしょ? 髪切った位で人生変わったら、皆、髪切ってるわよ」
優は言われてみれば、そうだなと思い、頷いた。その後も、みなちゃんの有り難い話はカラーが終わるまで、永遠と続いた。
「はい、ラストは眉カットね。これで少しはマシになるんじゃないの?」
「なんかドキドキします」
優は眉カットをしてもらい、全ての工程が終わった。そして、髪にスタイリング剤を付けて貰い、ケープを外してもらった。ケープが無くなり、完成された自分の姿を鏡で見たが、想像してた以上の仕上がりで言葉を失った。
まるでトイプードルみたいな可愛らしさとやんちゃさがあるようなショートボブパーマスタイルだった。眉も綺麗になり、髪の毛を触ると、フワッと弾むような質感で今までの重々しい感じはしなかった。優は鏡を覗き込むように、何度も前髪を触ったり、首を左右に軽く振り、髪の動きを見たりした。
「これが……自分……」
「やだわ、この子。広告みたいなリアクションするのね。これが本当のアンタ。少しは私に感謝しなさいよね」
「ありがとうございます! 気持ちまで明るくなりました! みなちゃんは本当に凄いんですね!」
「何言ってんのよ、そんなの当たり前よ。あっ、褒めたって安くはしないわよ」
鏡を何度も見て、喜ぶ優の姿を見て、みなちゃんは少し呆れながらも、嬉しい顔をした。その後、優はヘアケアについてアドバイスを貰った。そして、優が店を出ようとしたら、みなちゃんは何かを思い出したかのように、優を引き留めた。
「アンタ、ちょっと待って」
「なんですか?」
「あと、恋をしなさい。皆から愛されるの。アンタは皆に愛されて、輝くタイプっぽいから。ま、私は筋肉バカみたいな子の方が好みだけど、アンタはどっちがタイプなのよ?」
「……ちょ、ちょっとやめて下さいよ!」
「まぁ、いいわ。また何かあったら、来て頂戴。私は大歓迎よ」
顔を真っ赤にする優を揶揄いながら、みなちゃんは手を振って、優を見送った。優は顔を手で扇ぎながら、待ち合わせのカフェへ足早に向かった。
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