25 / 62
第3章:君の綺麗な指は鍵盤の上で踊り始める
#23:剥取
しおりを挟む
そして、比奈子はウキウキ気分で三人を引き連れて、隣にある家庭科室へ案内した。
「あ、因みに、歌詞も色々な事も全てこの学園の壁が薄いせいで聞こえちゃっているので、ある程度は把握済――。ゴホン、それはいいとして、交渉成立という事で、どうぞお入りください」
「……失礼します」
「皆さん、この僻地にあの三人が来てくださったわよ!」
家庭科室に入った瞬間、十数人はいるだろう部員達は比奈子のよく分からない台詞を聞き、今までしていた作業の手をピタリと止めた。そして、三人の方を向き、沈黙が流れた。優と春人はお互いに顔を見合わせ、楓雅は深く溜め息をついた。沈黙を破るように、黄色い歓声がドッと沸き起こり、優と春人は驚いた。
「部長、遂にやったんですね! ついに三人がこんな僻地に! なんて尊いんでしょう。……言葉が出ないわ」
「なんかすげぇ盛り上がってるけど……。大丈夫なのか?」
「ここはそんじょそこらの被服部じゃないですよ。コスプレに命を掛けている人達の集団ですから」
「噂は聞いてたけど、……なんか凄そう」
部員達は黄色い歓声を上げ、三人を祝福した。比奈子が三人に対して、深々と礼をすると、他の部員達もスッと立ち上がり、深々と礼をした。
「え……、いやぁ、あの……。えっと、とりあえず頭を上げてくれませんか? そんな頭を下げていただけるような身分じゃないですから」
「朝比奈、雰囲気に流されそうになってますよ」
優は申し訳なさそうな顔で部員達に言った。部員達が落ち着いた頃合いを見計らって、優は本題へ入った。
「先程、宇佐美さんからお話をお伺いしたんですけど、本当に衣装の制作をお願いできるんですか?」
「はい、勿論。むしろ皆さんの衣装が作れるなんて考えただけで血が騒ぎます!」
「あははぁ、それは嬉しいなぁ……」
「? って、おい! 俺を見るんじゃねぇ! 俺もこういうの苦手なんだよ」
優は部員達のやる気に満ちた表情と熱意に対して、どう返せばいいか分からず、目が泳いだ。そして、たまたま目が合った春人に目配せした。春人は無言で訴えてくる優の目を見て、自分に指差し、驚いた表情をしていた。何とも言えない空気の中、楓雅が咳払いをし、ある提案をした。
「比奈子さんがナレーションとか、照明とかも諸々やってくれるのなら、衣装に袖を通してもいいでしょう」
「うわ、エグい注文すんな、コイツ」
「楓雅君、それは余りにも失礼だよ……」
「でも、ナレーションも照明も何もかも準備出来てないですよね? 二人にそんな人脈あるんですか?」
「うっ……、すごい心をえぐる様な言い方。何も言い返せない自分が悔しい」
楓雅の言葉で比奈子の闘志に火が付けたのか、比奈子は不適な笑みを浮かべると、目をギラギラさせながら、本気モードになった。
「仕方ありません。楓雅さんの条件をのみましょう。でも、衣装は完全にこちらにお任せと言う形で。それでいいかしら?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「良かったですね、朝比奈」
優はこんな酷い条件を押し通す楓雅に圧倒された。そして、同時に脅威だなと感じ、逆らわないようにしようと心に決めた。
「さ、ボーっとしてる場合じゃないわ。私達の戦は始まったわ。……という訳で、三人とも脱いで、そこに立ってください」
「はい……?」
比奈子の掛け声とともに、部員達は拳を上げ、おおっと喊声をあげた。そして、比奈子は満面の笑みでとんでもない注文をしてきた。優と春人は迫りくる部員達のギラギラとした目と不適な笑みを見て、恐怖のあまり、じりじりと後ずさりしようとするが、部員達に腕を掴まれて、逃げられない状況だった。優と春人は血の気が引いており、まるで戦意喪失した兵士のようだった。
「春人君はあっちの先鋭部隊の方へ、優君は向こうの後方部隊へ、楓雅さんはあちらのレンジャー部隊へ。宇佐美は各部隊のチェックに入ります!」
あっという間に、優と春人は部員達に脱がされ、パンツ一枚の状態になった。何故か尊いと拝まれながら、全身の採寸をされる異様な光景が広がる。楓雅はいつも通り落ち着いており、そつなくこなしていた。
優と春人は声も発する事が出来ず、部員達のなされるがままだった。優と春人は何もやっていないのに、なぜか息が切れていた。
「隊長、採寸終わりました!」
「よし! デザイン画も頑張りなさい! 今こそ三人に全身全霊を捧げるのです!」
「はい!」
息が揃った被服部に圧倒されつつも、優と春人は採寸が終わった事に胸を撫で下ろした。周りを見渡すと、さっきまで剥ぎ取られて乱雑になっていた制服は綺麗に畳まれ、ロッカーの上に置いてあった。デッサンのモデルなんてやった事もない二人は被服部の部員に指示されながら、色々とポージングを取った。そして、比奈子がデザイン画を回収すると、三人に服を着るように指示が出る。優と春人は少しふらふらしながら、制服を着た。
「やっと解放された……」
「僕はこんなに人に見られる事無いから、緊張し過ぎて、吐くかと思った……」
「……あとは、優君の髪型と顔ね。アドバイスするから、こっちの鏡の前に来て頂戴」
「あ、因みに、歌詞も色々な事も全てこの学園の壁が薄いせいで聞こえちゃっているので、ある程度は把握済――。ゴホン、それはいいとして、交渉成立という事で、どうぞお入りください」
「……失礼します」
「皆さん、この僻地にあの三人が来てくださったわよ!」
家庭科室に入った瞬間、十数人はいるだろう部員達は比奈子のよく分からない台詞を聞き、今までしていた作業の手をピタリと止めた。そして、三人の方を向き、沈黙が流れた。優と春人はお互いに顔を見合わせ、楓雅は深く溜め息をついた。沈黙を破るように、黄色い歓声がドッと沸き起こり、優と春人は驚いた。
「部長、遂にやったんですね! ついに三人がこんな僻地に! なんて尊いんでしょう。……言葉が出ないわ」
「なんかすげぇ盛り上がってるけど……。大丈夫なのか?」
「ここはそんじょそこらの被服部じゃないですよ。コスプレに命を掛けている人達の集団ですから」
「噂は聞いてたけど、……なんか凄そう」
部員達は黄色い歓声を上げ、三人を祝福した。比奈子が三人に対して、深々と礼をすると、他の部員達もスッと立ち上がり、深々と礼をした。
「え……、いやぁ、あの……。えっと、とりあえず頭を上げてくれませんか? そんな頭を下げていただけるような身分じゃないですから」
「朝比奈、雰囲気に流されそうになってますよ」
優は申し訳なさそうな顔で部員達に言った。部員達が落ち着いた頃合いを見計らって、優は本題へ入った。
「先程、宇佐美さんからお話をお伺いしたんですけど、本当に衣装の制作をお願いできるんですか?」
「はい、勿論。むしろ皆さんの衣装が作れるなんて考えただけで血が騒ぎます!」
「あははぁ、それは嬉しいなぁ……」
「? って、おい! 俺を見るんじゃねぇ! 俺もこういうの苦手なんだよ」
優は部員達のやる気に満ちた表情と熱意に対して、どう返せばいいか分からず、目が泳いだ。そして、たまたま目が合った春人に目配せした。春人は無言で訴えてくる優の目を見て、自分に指差し、驚いた表情をしていた。何とも言えない空気の中、楓雅が咳払いをし、ある提案をした。
「比奈子さんがナレーションとか、照明とかも諸々やってくれるのなら、衣装に袖を通してもいいでしょう」
「うわ、エグい注文すんな、コイツ」
「楓雅君、それは余りにも失礼だよ……」
「でも、ナレーションも照明も何もかも準備出来てないですよね? 二人にそんな人脈あるんですか?」
「うっ……、すごい心をえぐる様な言い方。何も言い返せない自分が悔しい」
楓雅の言葉で比奈子の闘志に火が付けたのか、比奈子は不適な笑みを浮かべると、目をギラギラさせながら、本気モードになった。
「仕方ありません。楓雅さんの条件をのみましょう。でも、衣装は完全にこちらにお任せと言う形で。それでいいかしら?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「良かったですね、朝比奈」
優はこんな酷い条件を押し通す楓雅に圧倒された。そして、同時に脅威だなと感じ、逆らわないようにしようと心に決めた。
「さ、ボーっとしてる場合じゃないわ。私達の戦は始まったわ。……という訳で、三人とも脱いで、そこに立ってください」
「はい……?」
比奈子の掛け声とともに、部員達は拳を上げ、おおっと喊声をあげた。そして、比奈子は満面の笑みでとんでもない注文をしてきた。優と春人は迫りくる部員達のギラギラとした目と不適な笑みを見て、恐怖のあまり、じりじりと後ずさりしようとするが、部員達に腕を掴まれて、逃げられない状況だった。優と春人は血の気が引いており、まるで戦意喪失した兵士のようだった。
「春人君はあっちの先鋭部隊の方へ、優君は向こうの後方部隊へ、楓雅さんはあちらのレンジャー部隊へ。宇佐美は各部隊のチェックに入ります!」
あっという間に、優と春人は部員達に脱がされ、パンツ一枚の状態になった。何故か尊いと拝まれながら、全身の採寸をされる異様な光景が広がる。楓雅はいつも通り落ち着いており、そつなくこなしていた。
優と春人は声も発する事が出来ず、部員達のなされるがままだった。優と春人は何もやっていないのに、なぜか息が切れていた。
「隊長、採寸終わりました!」
「よし! デザイン画も頑張りなさい! 今こそ三人に全身全霊を捧げるのです!」
「はい!」
息が揃った被服部に圧倒されつつも、優と春人は採寸が終わった事に胸を撫で下ろした。周りを見渡すと、さっきまで剥ぎ取られて乱雑になっていた制服は綺麗に畳まれ、ロッカーの上に置いてあった。デッサンのモデルなんてやった事もない二人は被服部の部員に指示されながら、色々とポージングを取った。そして、比奈子がデザイン画を回収すると、三人に服を着るように指示が出る。優と春人は少しふらふらしながら、制服を着た。
「やっと解放された……」
「僕はこんなに人に見られる事無いから、緊張し過ぎて、吐くかと思った……」
「……あとは、優君の髪型と顔ね。アドバイスするから、こっちの鏡の前に来て頂戴」
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!
松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。
15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。
その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。
そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。
だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。
そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。
「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。
前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。
だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!?
「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」
初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!?
銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】悪役に転生した俺、推しに愛を伝えたら(体を)溺愛されるようになりました。
桜野夢花
BL
主人公の青山朶(あおやまえだ)は就活に失敗しニート生活を送っていた。そんな中唯一の娯楽は3ヵ月前に購入したBL異世界ゲームをすること。何回プレイしても物語序盤に推しキャラ・レイが敵の悪役キャラソウルに殺される。なので、レイが生きている場面を何度も何度も腐るようにプレイしていた。突然の事故で死に至った俺は大好きなレイがいる異世界にソウルとして転生してしまう。ソウルになり決意したことは、レイが幸せになってほしいということだったが、物語が進むにつれ、優しい、天使みたいなレイが人の性器を足で弄ぶ高慢無垢な国王だということを知る。次第に、ソウルがレイを殺すように何者かに仕向けられていたことを知り、許せない朶はとある行動を起こしていく。
※表紙絵はミカスケ様よりお借りしました。
双子攻略が難解すぎてもうやりたくない
はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。
22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。
脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!!
ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話
⭐︎登場人物⭐︎
元ストーカーくん(転生者)佐藤翔
主人公 一宮桜
攻略対象1 東雲春馬
攻略対象2 早乙女夏樹
攻略対象3 如月雪成(双子兄)
攻略対象4 如月雪 (双子弟)
元ストーカーくんの兄 佐藤明
[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる
山葉らわん
BL
【縦読み推奨】
■ 第一章(第1話〜第9話)
アラディーム国の第七王子であるノモクは、騎士団長ローエの招きを受けて保養地オシヤクを訪れた。ノモクは滞在先であるローエの館で、男奴隷エシフと出会う。
滞在初日の夜、エシフが「夜のデザート」と称し、女奴隷とともにノモクの部屋を訪れる。しかし純潔を重んじるノモクは、「初体験の手ほどき」を断り、エシフたちを部屋から追い返してしまう。
■ 第二章(第1話〜第10話)
ノモクが「夜のデザート」を断ったことで、エシフは司祭ゼーゲンの立合いのもと、ローエから拷問を受けることになってしまう。
拷問のあと、ノモクは司祭ゼーゲンにエシフを自分の部屋に運ぶように依頼した。それは、持参した薬草でエシフを治療してあげるためだった。しかしノモクは、その意図を悟られないように、エシフの前で「拷問の仕方を覚えたい」と嘘をついてしまう。
■ 第三章(第1話〜第11話)
ノモクは乳母の教えに従い、薬草をエシフの傷口に塗り、口吻をしていたが、途中でエシフが目を覚ましてしまう。奴隷ごっこがしたいのなら、とエシフはノモクに口交を強要する。
■ 第四章(第1話〜第9話)
ノモクは、修道僧エークから地下の拷問部屋へと誘われる。そこではギーフとナコシュのふたりが、女奴隷たちを相手に淫らな戯れに興じていた。エークは、驚くノモクに拷問の手引き書を渡し、エシフをうまく拷問に掛ければ勇敢な騎士として認めてもらえるだろうと助言する。
◾️第五章(第1話〜第10話)
「わたしは奴隷です。あなたを悦ばせるためなら……」
こう云ってエシフは、ノモクと交わる。
◾️第六章(第1話〜第10話)
ノモクはエシフから新しい名「イェロード」を与えられ、またエシフの本当の名が「シュード」であることを知らされる。
さらにイェロード(=ノモク)は、滞在先であるローエの館の秘密を目の当たりにすることになる。
◾️第七章(第1話〜第12話)
現在、まとめ中。
◾️第八章(第1話〜第10話)
現在、まとめ中。
◾️第九章(第一話〜)
現在、執筆中。
【地雷について】
「第一章第4話」と「第四章第3話」に男女の絡みシーンが出てきます(後者には「小スカ」もあり)。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。
「第二章第10話」に拷問シーンが出てきます。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。
だって、牛乳配達のお兄さんが美味しそう。
モト
BL
人間と淫魔が共存する世界。牛乳配達のお兄さんがインキュバスに狙われる話。ゆっくり甘々トロトロに進みます。
インキュバス×牛乳配達のお兄さん
エッチばかりです(笑)
独自設定あり。大変緩い甘口な話です。R18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる