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第5章:僕らは今、暗闇の中で歌い始める

#34:三幕

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 チェスター王子との縁談は上手くいき、フレデリック王国とアイスバーグ帝国との間で長く続いた敵対関係も解消され、後は結婚式を執り行うのみとなり、双方の国はいつも以上に賑わっていた。
 しかし、その賑わいは一つの災いにより、悲鳴へと変わってしまいました。なぜなら、魔王城から至極色の光が天高く上がり、花火のように弾け、その粒子が流星のように世界中へ落ちていったのです。


「あれは……何? 紫色をした流れ星? 待って……。焦げた臭いがするわ。街が燃えてる? ――きゃっ!」


 至極色の流星は遠く離れたフレデリックにも轟音とともに落下しました。街は燃え、何処からともなく魔物が現れ、逃げ惑う群衆の悲痛な声が聞こえました。シグニスは怯え、布団にくるまり、耳を両手で塞ぎました。騎士団が居ない王都は無力であっという間に、陥落してしまいました。数日前まで賑やかだった王都は見るも無残な光景となり、沈黙が支配する場所となってしまいました。


「どうしよう……。怖い、怖い。私、どうしたらいいの……? もう何も分からない……」


 シグニスは自分の無力さに失望し、静かに泣きました。そんな時、遠くの方で微かにルイの声がするのを感じました。シグニスは少しの希望を持ち、恐る恐る部屋から出て、声がする玉座の間へ向かいました。


「ルイ……? いるの? 何処なの? 見えない……何処なの?」
「――ニス様! シグニス様! おられますか?」
「ルイ! ルイ、私はここよ!」
「シグニス様、ご無事でしたか。それより、急いでここを離れましょう!」
「でも、お父様とお母様が!」


 シグニスが両親を探そうとするが、瓦礫の下敷きになっており、既に息を引き取っていた。そんな事実をシグニスに伝える事に心を痛めたルイは、必死に探そうとするシグニスの手を強く引っ張った。そして、玉座の間から出ようとした時、チェスターがルイに銃口を向け、立っていた。


「おい、貴様。シグニスから手を離せ! 然もなければ、撃つぞ」
「貴方はチェスター王子! 何故、貴方がこんなところに。アイスバーグ帝国とは敵対関係だったはず」
「そんな事はどうでもいい。彼女をこちらに渡せ!」


 チェスターは問答無用で引き金を引いた。ルイは背中に背負っていた大剣をすぐさま抜刀し、銃弾を弾いた。そして、シグニスを柱の陰に連れて行くと、チェスターに大剣を振りかざした。


 二人は優の演奏が始まったのが分かると、二人は堂々とした歌声で歌いながら、会場を縦横無尽に駆け回り、銃声と大剣が風を切る音が鳴り響いた。人間業では無いような二人の動きに優は驚いていたが、観客の反応は上々だった。


「ほう、兵士の分際でよくやるな」
「そりゃ、どうも! アイスバーグが巨大魔銃砲を作ってるってのは本当のようだな」
「ああ、そうだ。彼女の魔力は膨大だ。そんな事も知らないお前達の国王は金を積んだら、すぐ手のひら返しして、彼女を差し出したけどな。笑えるだろう?」
「クソ! この国を侮辱するな! そして、絶対にお前になんかに渡すか!」


 二人の熱い死闘は続いた。しかし、チェスターはルイより俊敏で、ルイは攻撃を避けるので精一杯だった。息を切らすルイにチェスターは不適な笑みを浮かべる。


「貴様に良い事を教えてやろう。僕は別に彼女を殺そうとは思ってない。僕は彼女を心の底から愛している。安易に考えないで欲しいな」
「だが、一気に魔力を抜き取ると、いくらシグニス様でも耐えられない!」
「それぐらい知っている。だから、僕は彼女を死なさずに魔銃砲を完成させる方法を考えているんだよ。ま、国に連れて帰った所で、彼女は父上に殺されるだけだが」
「この野郎っ!」


 ルイはチェスターを睨み付けると、雄叫びを上げて、チェスターに突っ込んだ。しかし、案の定、背後をとられ、こめかみに銃口を向けられた。


 その時だった。二人の頭上にあるボーダーライトの固定が緩み、二人の頭上めがけて、落下しそうになっているのに、優は気付き、慌てて二人に向かって、必死に走り、二人を突き飛ばそうとした。


「――っ! 危ない!」


 優はもうダメかと思った瞬間、身に着けていた水晶のペンデュラムネックレスが突然切れ、弧を描くように飛んでいった。そして、ボーダーライトとぶつかると、三人を守るように強い光を放ち、水晶は弾けるように粉々に砕け散った。
 三人は奇跡的に助かり、優は胸を撫で下ろした。会場は騒然としたが、優は二人に演技を続けるように言った。比奈子にも目配せをし、そのまま舞台を続けた。


「二人とも大丈夫? 怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ」
「シグニス様、助けて頂きありがとうございます」
「お願いだから、もう闘うのはやめて……」
「シグニス様……」
「シグニス様、僕の元へ来る決心がつきましたか?」
「私は…………決めました」


 シグニスは意を決したような面持ちで立ち上がり、ネックレスを拾うと、二人に微笑みかけ、祈りを捧げるポーズをした。
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