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第3章:君の綺麗な指は鍵盤の上で踊り始める
#17:風聞
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三人は可能な限り、放課後に集まるようにし、練習を続けた。最初はどうなるかと心配だった優も二人のお陰で、少しずつ自信がついてきた。
気付けば、夏休みが始まっていた。春人は相変わらず部活の助っ人をしており、優は楓雅と相談し、楽曲を録音して、春人に渡すのはどうかと提案した。自分達の練習になるし、良い案だと楓雅は言った。具体的にどうやるかは決まっておらず、今日の練習で相談する予定だ。
「それにしても、暑い。今日も春人は朝から部活の助っ人だし、楓雅君は用事で少し遅れるって言ってたし。この暑さだとサボりたくなるけど、二人に負けてられないし、自分も頑張らないと! よし、二人が来る前に音楽室の準備するぞ!」
優は自分を奮い立たせ、蝉が鳴く坂道を上っていった。いつものように、職員室で第三音楽室の鍵を借りると、誰もいない廊下で鼻歌を歌い、スキップした。
優が第三音楽室に入ると、ムワッとした蒸し暑さと少し埃っぽい空気感に、暗幕のようなカーテンの圧迫感で少し気が滅入りそうだった。優は音楽室へ入ると、カーテンを勢いよく開け、窓を開けて、外を眺めた。真っ青な夏の空にもくもくと大きな雲が風に流され、太陽の光が燦々と降り注いでいた。とても良い天気だ。優はじんわりとかく汗を拭きながら、新しい空気が流れる音楽室を見て、少し嬉しくなった。
「外は暑いけど、暑さに負けず、頑張らなきゃ!」
優は自分に言い聞かせるように、気合いを入れた。そして、グラウンドが見渡せる窓の前に立ち、大きく深呼吸をした。その時、グラウンドから自分を呼ぶ声が聞こえた。声のする方へ目を向けると、春人が大声で自分の名前を叫び、両手で手を振っていた。
「優、優! おーい!」
「部活お疲れ様! 先に練習してるね!」
「お前も無理すんなよ!」
春人は楽しそうに部員とともに、練習へ戻った。優はピアノカバーを勢いよく外した。そして、気合いを入れるために、額がしっかり出る位に前髪を右側へ大きく手で流し、母親が使っていた黒色のカールクリップで留めた。そして、優は楓雅から貰った喉によく効くお茶を一口飲むと、ピアノを弾きながら、発声練習をした。
優は発声練習を終え、台本を確認していたら、廊下から女子生徒の会話が聞こえた。女子生徒の喋り声と足音が徐々に音楽室へ向かってくるのが分かった。
「夏休みに呼び出しとか、マジ勘弁なんだけど」
「マジで補習とかついてないわ」
「あ、噂で聞いたんだけど、一ノ瀬君と小向井君が学祭で劇するらしいよ」
「ヤバッ」
「で、なんか音楽室で練習してるらしいよ。見に行こうよ」
優はなんだか嫌な予感がし、胸がざわついた。優の予感が的中したのか、音楽室のドアが突然開き、そちらに目線を送ると、別クラスの女子二人組が立っていた。
「なんだ、二人共いないじゃん」
「おかしいな。ここにいるって聞いたんだけど。ってか、なんで朝比奈がいんの? ……もしかして、アンタも劇に出るの? 超ウケるんですけど!」
女子は二人がいない事にガッカリした。女子は優の存在に気付くと、優を嘲笑った。
「なに、マジウケる。二人が出るのは分かるんだけど、存在感無いアンタが出るとかヤバいんですけど」
「本当にヤバい。ってか、何これ? ……え、曲とか作ってんの? ヤバくない? マジキモいんですけど」
「――あっ! か、返して下さい!」
「いいじゃん、ちょっと見せてよ」
一人の女子が譜面台にある楽譜を手荒に取り、朝比奈が書いたと分かると、二人は声を出して、笑った。
「か、返して下さい!」
「……は? なんで? 大体さ、なんでアンタみたいな地味な奴が一ノ瀬君と小向井君と仲良くしてんの? マジであり得ないんですけど。良い気になってんじゃねぇよ」
優は取られた楽譜を奪い返そうとするが、女子は笑いながら、優の目の前で楽譜を破り、窓から投げ捨てた。
優が急いで身を乗り出して取ろうとするも、時すでに遅く、散っていく桜のようにひらひらと校庭へ落ちていった。
「なっ! なんて事するんですか!」
「アンタが二人を独占するからだよ。本当にムカつく」
「ぼ、僕は別に独占してるつもりはないです!」
「アンタさ、女子の間でなんて言われてるか知ってる?」
「な、なんですか……?」
「ぶりっ子陰キャ眼鏡だよ。アンタにだけやたら優しい後藤先生とも、どーせヤッたんでしょ? 生徒指導だからって良い顔しちゃってさ」
「ち、違う! 酷いよ……」
「うわぁ、コイツ泣きそうなんですけど。ウケる。言われんのが嫌なら、二人と仲良くするのやめなよ。ってか、逆に、二人が可哀想だから、マジで関わんないで。それか、また虐められたいの?」
その後も優は女子二人組から執拗にある事無い事を言われ、涙が溢れそうだった。優がこの場から逃げ出したいと思ったその時、勢いよくドアが開いた。そこには、ユニフォーム姿の春人と制服姿の楓雅が息を切らして、立っていた。
「優、これお前の大切なもんだろ。校庭に落ちてたぞ」
「朝比奈、何かあったんですか?」
優は二人に事情を話そうとしたが、女子達に睨まれ、黙り込んだ。そして、さっきまで嘲笑っていた女子達は猫を被ったように、春人と楓雅に近付く。
「きゃ、一ノ瀬君と小向井君だ! ここで会えるなんて、うちら超ラッキー」
「お前らだろ、優の楽譜を窓から破り捨てたの」
「誤解だよ、誤解。楽譜見てたら、朝比奈君が急に押してきて、落ちちゃったの。そしたら、急に朝比奈君が怒り出して、うちら超怖かったの」
女子二人組は嘘を装い、上目遣いをしながら、春人や楓雅にすり寄った。
気付けば、夏休みが始まっていた。春人は相変わらず部活の助っ人をしており、優は楓雅と相談し、楽曲を録音して、春人に渡すのはどうかと提案した。自分達の練習になるし、良い案だと楓雅は言った。具体的にどうやるかは決まっておらず、今日の練習で相談する予定だ。
「それにしても、暑い。今日も春人は朝から部活の助っ人だし、楓雅君は用事で少し遅れるって言ってたし。この暑さだとサボりたくなるけど、二人に負けてられないし、自分も頑張らないと! よし、二人が来る前に音楽室の準備するぞ!」
優は自分を奮い立たせ、蝉が鳴く坂道を上っていった。いつものように、職員室で第三音楽室の鍵を借りると、誰もいない廊下で鼻歌を歌い、スキップした。
優が第三音楽室に入ると、ムワッとした蒸し暑さと少し埃っぽい空気感に、暗幕のようなカーテンの圧迫感で少し気が滅入りそうだった。優は音楽室へ入ると、カーテンを勢いよく開け、窓を開けて、外を眺めた。真っ青な夏の空にもくもくと大きな雲が風に流され、太陽の光が燦々と降り注いでいた。とても良い天気だ。優はじんわりとかく汗を拭きながら、新しい空気が流れる音楽室を見て、少し嬉しくなった。
「外は暑いけど、暑さに負けず、頑張らなきゃ!」
優は自分に言い聞かせるように、気合いを入れた。そして、グラウンドが見渡せる窓の前に立ち、大きく深呼吸をした。その時、グラウンドから自分を呼ぶ声が聞こえた。声のする方へ目を向けると、春人が大声で自分の名前を叫び、両手で手を振っていた。
「優、優! おーい!」
「部活お疲れ様! 先に練習してるね!」
「お前も無理すんなよ!」
春人は楽しそうに部員とともに、練習へ戻った。優はピアノカバーを勢いよく外した。そして、気合いを入れるために、額がしっかり出る位に前髪を右側へ大きく手で流し、母親が使っていた黒色のカールクリップで留めた。そして、優は楓雅から貰った喉によく効くお茶を一口飲むと、ピアノを弾きながら、発声練習をした。
優は発声練習を終え、台本を確認していたら、廊下から女子生徒の会話が聞こえた。女子生徒の喋り声と足音が徐々に音楽室へ向かってくるのが分かった。
「夏休みに呼び出しとか、マジ勘弁なんだけど」
「マジで補習とかついてないわ」
「あ、噂で聞いたんだけど、一ノ瀬君と小向井君が学祭で劇するらしいよ」
「ヤバッ」
「で、なんか音楽室で練習してるらしいよ。見に行こうよ」
優はなんだか嫌な予感がし、胸がざわついた。優の予感が的中したのか、音楽室のドアが突然開き、そちらに目線を送ると、別クラスの女子二人組が立っていた。
「なんだ、二人共いないじゃん」
「おかしいな。ここにいるって聞いたんだけど。ってか、なんで朝比奈がいんの? ……もしかして、アンタも劇に出るの? 超ウケるんですけど!」
女子は二人がいない事にガッカリした。女子は優の存在に気付くと、優を嘲笑った。
「なに、マジウケる。二人が出るのは分かるんだけど、存在感無いアンタが出るとかヤバいんですけど」
「本当にヤバい。ってか、何これ? ……え、曲とか作ってんの? ヤバくない? マジキモいんですけど」
「――あっ! か、返して下さい!」
「いいじゃん、ちょっと見せてよ」
一人の女子が譜面台にある楽譜を手荒に取り、朝比奈が書いたと分かると、二人は声を出して、笑った。
「か、返して下さい!」
「……は? なんで? 大体さ、なんでアンタみたいな地味な奴が一ノ瀬君と小向井君と仲良くしてんの? マジであり得ないんですけど。良い気になってんじゃねぇよ」
優は取られた楽譜を奪い返そうとするが、女子は笑いながら、優の目の前で楽譜を破り、窓から投げ捨てた。
優が急いで身を乗り出して取ろうとするも、時すでに遅く、散っていく桜のようにひらひらと校庭へ落ちていった。
「なっ! なんて事するんですか!」
「アンタが二人を独占するからだよ。本当にムカつく」
「ぼ、僕は別に独占してるつもりはないです!」
「アンタさ、女子の間でなんて言われてるか知ってる?」
「な、なんですか……?」
「ぶりっ子陰キャ眼鏡だよ。アンタにだけやたら優しい後藤先生とも、どーせヤッたんでしょ? 生徒指導だからって良い顔しちゃってさ」
「ち、違う! 酷いよ……」
「うわぁ、コイツ泣きそうなんですけど。ウケる。言われんのが嫌なら、二人と仲良くするのやめなよ。ってか、逆に、二人が可哀想だから、マジで関わんないで。それか、また虐められたいの?」
その後も優は女子二人組から執拗にある事無い事を言われ、涙が溢れそうだった。優がこの場から逃げ出したいと思ったその時、勢いよくドアが開いた。そこには、ユニフォーム姿の春人と制服姿の楓雅が息を切らして、立っていた。
「優、これお前の大切なもんだろ。校庭に落ちてたぞ」
「朝比奈、何かあったんですか?」
優は二人に事情を話そうとしたが、女子達に睨まれ、黙り込んだ。そして、さっきまで嘲笑っていた女子達は猫を被ったように、春人と楓雅に近付く。
「きゃ、一ノ瀬君と小向井君だ! ここで会えるなんて、うちら超ラッキー」
「お前らだろ、優の楽譜を窓から破り捨てたの」
「誤解だよ、誤解。楽譜見てたら、朝比奈君が急に押してきて、落ちちゃったの。そしたら、急に朝比奈君が怒り出して、うちら超怖かったの」
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