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第2章:時に残酷でも、僕は前を見なければならない
#15:願望
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優は部屋に着くなり、ベッドに寝転びながら、春人から渡された本を読み始めた。春人はベッド脇に凭れ掛かり、部屋を見渡した。
「ってか、日本語版が出てたんだね」
「それは親父が優の為に翻訳して、どっかの印刷所に頼んで、製本したやつ」
「春人のお父さんが? あれ? 挿絵もなんか原作とタッチが違うし、増えてる」
「それも向こうのイラストレーターに頼んだらしい。俺はそれ位しか知らない」
「ええ、本当に貰ってもいいのかな?」
「いいんじゃね? 親父の変わった趣味を唯一分かってくれたのは優だけだし」
春人の父親は考古学者で読書好きだった。優は春人の父親の書斎にある沢山の本に魅力を感じ、時々、春人の父親に本の読み聞かせをして貰っていた。
春人の父親はそれが嬉しかったのか、海外で珍しい本を見つけると優にプレゼントしていた。
優は挿絵を見るだけでもワクワク感が止まらなかったが、中学生になる頃には英和辞典で単語を調べて、自分で翻訳をしていた。
「これでちゃんとした訳で読める……。すっごい嬉しい。春人のお父さんにお礼言わなきゃ」
「あぁ、今は拠点変えてるはずだから、新しい住所分からないと無理。電気や電話があるかも怪しいし」
「そっか」
「とりあえず土日で読み切ろう」
「え、その分厚い本を?」
春人は優の読書好きに改めて驚かされた。そして、二人が話していると、優の母親がノックして入ってきて、布団一式をベッド脇に敷いてくれた。春人も布団に寝っ転がり、ダラダラした。
「あ、あのさ……」
「ん? 何?」
「昔みたいに春人の隣で寝ていいかな?」
「なんだよ、いきなり」
「いや、……なんとなく。嫌だったら、やめとく」
「俺は別に良いけど」
「本当に? やったぁ!」
優は喜んだ。読みかけの本を机に置くと、電気を暗くして、嬉しそうに春人の布団へ入った。
「へへっ、あったかいね」
「お、おう……。優が風邪引くと嫌だから、もっと近くに寄れよ」
「……うん」
優は春人に擦り寄るように体を近付けた。春人がすぐ横を向くと、優が嬉しそうにしてる顔があり、急に緊張してきた。春人は緊張しているのがバレないように、優に腕枕をし、更に少し自分の方へ優の体を引き寄せた。
◆◇◆◇◆◇
翌日、春人を見送ると、優は日本語版の小説を読み始めた。やはり、自分で翻訳していたものと比べると、言葉のニュアンスや言い回しが若干異なったりしていて、優は頷きながら、読み進めた。ご飯を食べる以外はずっと自室に引き籠り、集中して読んだ。読み終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
「もうこんな時間か。つい面白くて、一気に読んじゃった。やっぱり、暗黒騎士は春人っぽいし、聖銃士は楓雅君って感じだったなぁ。姫は……流石に僕って感じじゃないしなぁ。でも、やってみないと分からないし、二人とも応援してくれてるし。どうせなら、二人と一緒に舞台に立って、やってみたいなぁ」
優は夢を膨らませながら、本棚から楽譜ファイルを取ると、ピアノの前に座った。優は楽譜ファイルから真っ新な楽譜を探し出し、譜面台に置いた。優はなんとなくイメージしたメロディを口ずさみ、実際に弾いてみて、楽譜に少しずつ書いていった。作業に没頭していると、優の母親が部屋に入ってきた。
「あら、珍しいわね。優ちゃんが楽譜書いてるなんて。なかなか呼んでも下りてこないから、何やってるかと思ったわ」
「あぁ、ごめん。うるさかった?」
「なんだか懐かしいなって。貴方が急にピアノ辞めるって大泣きした時はどうしようかと思ったけど、やっぱり、ピアノが好きなのね」
「……そうなのかもね。きっと春人や楓雅君のお陰なのかな」
「春君以外にも友達が出来て、楽しそうよね。そんな事より、そのボサボサな髪はそろそろどうにかしたら? あと、優等生ぶる為にかけてる伊達眼鏡ももう必要ないでしょ?」
「あははぁ、……そうだよね。どうにかしなきゃってのは分かってるんだけど」
「まぁ、優ちゃんが楽しそうにしてるのなら、なんだって構わないわ。それより、ご飯冷めちゃうから、早く下に下りてきなさい」
優の母親はそう言うと、階段を下りていった。優はキリが良い所までやると、部屋を出ようとした。そして、部屋を出る前に、クローゼットに備え付けられた姿鏡に映る自分の姿をふと見た。
(今更、お洒落なんかして、笑われないかな? 春人と楓雅君はどう思うんだろう?)
「優ちゃん! 早く下りてきなさい!」
「今行くから! 先食べててよ!」
優は母親から急かされ、急いで下へ下りていった。優は春人の父親から貰った小説の話やピアノを再開しようと思う事を家族に話した。両親はとても喜んでおり、優も自然と笑みがこぼれた。今日はいつもよりご飯が美味しいと優は思った。
「ってか、日本語版が出てたんだね」
「それは親父が優の為に翻訳して、どっかの印刷所に頼んで、製本したやつ」
「春人のお父さんが? あれ? 挿絵もなんか原作とタッチが違うし、増えてる」
「それも向こうのイラストレーターに頼んだらしい。俺はそれ位しか知らない」
「ええ、本当に貰ってもいいのかな?」
「いいんじゃね? 親父の変わった趣味を唯一分かってくれたのは優だけだし」
春人の父親は考古学者で読書好きだった。優は春人の父親の書斎にある沢山の本に魅力を感じ、時々、春人の父親に本の読み聞かせをして貰っていた。
春人の父親はそれが嬉しかったのか、海外で珍しい本を見つけると優にプレゼントしていた。
優は挿絵を見るだけでもワクワク感が止まらなかったが、中学生になる頃には英和辞典で単語を調べて、自分で翻訳をしていた。
「これでちゃんとした訳で読める……。すっごい嬉しい。春人のお父さんにお礼言わなきゃ」
「あぁ、今は拠点変えてるはずだから、新しい住所分からないと無理。電気や電話があるかも怪しいし」
「そっか」
「とりあえず土日で読み切ろう」
「え、その分厚い本を?」
春人は優の読書好きに改めて驚かされた。そして、二人が話していると、優の母親がノックして入ってきて、布団一式をベッド脇に敷いてくれた。春人も布団に寝っ転がり、ダラダラした。
「あ、あのさ……」
「ん? 何?」
「昔みたいに春人の隣で寝ていいかな?」
「なんだよ、いきなり」
「いや、……なんとなく。嫌だったら、やめとく」
「俺は別に良いけど」
「本当に? やったぁ!」
優は喜んだ。読みかけの本を机に置くと、電気を暗くして、嬉しそうに春人の布団へ入った。
「へへっ、あったかいね」
「お、おう……。優が風邪引くと嫌だから、もっと近くに寄れよ」
「……うん」
優は春人に擦り寄るように体を近付けた。春人がすぐ横を向くと、優が嬉しそうにしてる顔があり、急に緊張してきた。春人は緊張しているのがバレないように、優に腕枕をし、更に少し自分の方へ優の体を引き寄せた。
◆◇◆◇◆◇
翌日、春人を見送ると、優は日本語版の小説を読み始めた。やはり、自分で翻訳していたものと比べると、言葉のニュアンスや言い回しが若干異なったりしていて、優は頷きながら、読み進めた。ご飯を食べる以外はずっと自室に引き籠り、集中して読んだ。読み終わる頃にはすっかり日が暮れていた。
「もうこんな時間か。つい面白くて、一気に読んじゃった。やっぱり、暗黒騎士は春人っぽいし、聖銃士は楓雅君って感じだったなぁ。姫は……流石に僕って感じじゃないしなぁ。でも、やってみないと分からないし、二人とも応援してくれてるし。どうせなら、二人と一緒に舞台に立って、やってみたいなぁ」
優は夢を膨らませながら、本棚から楽譜ファイルを取ると、ピアノの前に座った。優は楽譜ファイルから真っ新な楽譜を探し出し、譜面台に置いた。優はなんとなくイメージしたメロディを口ずさみ、実際に弾いてみて、楽譜に少しずつ書いていった。作業に没頭していると、優の母親が部屋に入ってきた。
「あら、珍しいわね。優ちゃんが楽譜書いてるなんて。なかなか呼んでも下りてこないから、何やってるかと思ったわ」
「あぁ、ごめん。うるさかった?」
「なんだか懐かしいなって。貴方が急にピアノ辞めるって大泣きした時はどうしようかと思ったけど、やっぱり、ピアノが好きなのね」
「……そうなのかもね。きっと春人や楓雅君のお陰なのかな」
「春君以外にも友達が出来て、楽しそうよね。そんな事より、そのボサボサな髪はそろそろどうにかしたら? あと、優等生ぶる為にかけてる伊達眼鏡ももう必要ないでしょ?」
「あははぁ、……そうだよね。どうにかしなきゃってのは分かってるんだけど」
「まぁ、優ちゃんが楽しそうにしてるのなら、なんだって構わないわ。それより、ご飯冷めちゃうから、早く下に下りてきなさい」
優の母親はそう言うと、階段を下りていった。優はキリが良い所までやると、部屋を出ようとした。そして、部屋を出る前に、クローゼットに備え付けられた姿鏡に映る自分の姿をふと見た。
(今更、お洒落なんかして、笑われないかな? 春人と楓雅君はどう思うんだろう?)
「優ちゃん! 早く下りてきなさい!」
「今行くから! 先食べててよ!」
優は母親から急かされ、急いで下へ下りていった。優は春人の父親から貰った小説の話やピアノを再開しようと思う事を家族に話した。両親はとても喜んでおり、優も自然と笑みがこぼれた。今日はいつもよりご飯が美味しいと優は思った。
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