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第2章:時に残酷でも、僕は前を見なければならない
#10:後悔
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優は必死に走った。制服の袖で涙を何度も拭いても溢れ出てくるのに、イラつきを感じた。優は何かに惹かれるように図書室の前まで来てしまった。優は疲れて膝に手をつき、少し呼吸を整えた。そして、隠れるように図書室の中へ入っていった。幸いにも図書室には誰もおらず、優は胸を撫で下ろした。優は図書室の奥ばった場所まで歩き、壁にもたれ掛かりながら、床に座った。
(どうしよう……。別にあんな事を言いたかった訳じゃないのに)
優はスマホを取り出すと、画面に楓雅の連絡先を表示させた。スワイプすれば、すぐ電話出来るのに、そのスワイプにさえも躊躇してしまった。優は胸の中のモヤモヤがどんどん強くなるのを感じ、意を決して、楓雅に電話をした。
「もしもし? 朝比奈、どうかし――」
「うぐっ……ぐすっ……。ふう、が君、僕……酷い事言っちゃった。心にも無い事を言っちゃったよぉ……」
「今、どこにいるんですか?」
「図書室……。でも、ここ嫌」
「第三音楽室に来れますか? 無理なら迎えに行きますが……」
「……ううん。そっち行く」
優は電話を切ると、スマホをポケットに入れた。図書室のドアを開け、顔を半分出して、廊下に誰もいない事を確認すると、芸術棟にある第三音楽室へ足早に向かった。
第三音楽室からは音色が聞こえてきた。優は恐る恐るドアを開けると、楓雅がピアノを弾いていた。優が来たのが分かると、楓雅は弾くのを止め、教室はシーンと静まり返った。優は居ても立っても居られず、再び大粒の涙を零しながら、楓雅に抱きついた。
「どうしたんですか? そんなに目を真っ赤にして……」
「…………」
「まさか! またあの男に酷い事されたんですか?」
「……違う」
優は楓雅の胸に顔を埋めて、首を横に振り、否定した。少しホッとした楓雅は優の頭を優しく撫でた。
「は、春人と喧嘩しちゃった。……そんなはずじゃ無かったのに」
「小向井君と喧嘩して、泣いているんですか?」
「…………うん」
優はしばらく楓雅の胸に顔を埋めた。そして、優は泣き止むと、壁にもたれ掛かり、床に座った。楓雅は優の隣に座り、優が喋り出すまで黙っていた。
「別にさ、友達を選ぶ位、自分の自由にさせて欲しい。帰って来たと思えば、僕の交友関係をクラスの子に根掘り葉掘り聞いたり、僕の話をペラペラ喋っちゃうし、楓雅君と僕の関係が怪しいっていう噂を聞いたらしくて、それを僕に聞いてくるしさ。……本当に信じられない」
「そうなんですか……」
「うん。春人は昔から少し束縛するというか、僕の事を全部把握していないと気が済まないらしくって……。でもさ、急に帰って来て、そんな事言われたら、誰だって傷付くし、怒るじゃん?」
優は制服の袖で涙を拭きながら、楓雅に愚痴をこぼした。楓雅は相槌を打ち、優の事を優しい目でずっと見続けた。優は安心したのか、楓雅の肩に凭れかかり、小さい声で感謝を伝えた。
「ごめんね、愚痴っちゃって。あーっ、なんで好きになっちゃったんだろう。馬鹿だよね、本当に。楓雅君、話聞いてくれて、ありがとう」
「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
楓雅は小さく微笑み、優の頭をポンポンと撫でた。そして、優はむくっと立ち上がると、両頬を二回叩き、気合いを入れて、音楽室の窓を開けて、校庭に向かって、叫んだ。
「何でもかんでも自分の思い通りに行くと思うなよぉ!」
「突然、何かと思いました。でも、叫んで、少しはスッキリしましたか?」
「ごめん、急に叫びたくなっちゃった。この勢いでピアノなんか弾いちゃおっかな!」
優は窓を閉めると、ピアノ椅子に座り、テンポの速い曲を弾き始めた。弾いてる最中は真剣な表情で、弾き終った時には泣き笑いしながら、楓雅の方を見た。様々な表情を見せてくれる優に楓雅は愛おしいと心の中で思った。
「次は校歌でも弾こうかな! 楓雅君も良かったら、一緒に歌おう」
「僕は男声パートでいいですか?」
「じゃ、僕は女性パート。喉イケるかな?」
優は軽く発声練習を手短にやると、楓雅と一緒に歌い始めた。優はのびのびとした優美な歌声だった。楓雅もなめらかに歌い、良いハモリが聞けた。曲で優の声に混ざれる事が出来て、楓雅は一番嬉しかった。
「なんだろね。ピアノを弾いていると、心が開放されて、弾いてる曲で洗ってもらっている感じがして、スッキリするんだよね」
「独特な表現をしますね。でも、私もそのような気持ちになります。ピアノは良いですよね」
「図書室当番以外の日はここでピアノを弾きたいな」
「ここは部活で使われる事はほとんどないみたいで、使い放題ですよ。僕も付き合いますよ」
「本当に? 弾きに来る! ありがとう! 楓雅君は本当に良い友達だね!」
「そうですね。友達……ですね」
楓雅は優のセリフに軽くショックだったが、笑顔で誤魔化した。そして、二人は交互に演奏し、優が満足するまで歌った。そして、片付けをして、教室へ向かった。
教室へ戻ると、机に突っ伏して、背中が寂しそうな春人の姿があった。優は入るのを躊躇したが、楓雅が背中を押してくれた。そして、優が春人の肩を叩くと、春人はどんよりした顔をしており、気怠そうに起きた。
「…………春人」
「……優、さっきはごめんな。デリカシー無かったわ」
「ううん、大丈夫。僕こそ酷い事言ってごめん」
優と春人はお互いに顔を見て、照れ笑いした。楓雅は二人の姿を見て、安心したのか、鞄を持って、一人で帰ろうとしていた。
「あ、楓雅君。一緒に帰らないの?」
「今日はこの後、用事があるので、一人で帰ります」
「あれ? さっき用事があるって――」
「では、帰ります。また明日」
楓雅はそう言うと、優しい眼差しで優を見つめると、軽く手を振って帰っていった。優はなんとなく寂しい気持ちになり、胸の辺りがズキズキした。
(どうしよう……。別にあんな事を言いたかった訳じゃないのに)
優はスマホを取り出すと、画面に楓雅の連絡先を表示させた。スワイプすれば、すぐ電話出来るのに、そのスワイプにさえも躊躇してしまった。優は胸の中のモヤモヤがどんどん強くなるのを感じ、意を決して、楓雅に電話をした。
「もしもし? 朝比奈、どうかし――」
「うぐっ……ぐすっ……。ふう、が君、僕……酷い事言っちゃった。心にも無い事を言っちゃったよぉ……」
「今、どこにいるんですか?」
「図書室……。でも、ここ嫌」
「第三音楽室に来れますか? 無理なら迎えに行きますが……」
「……ううん。そっち行く」
優は電話を切ると、スマホをポケットに入れた。図書室のドアを開け、顔を半分出して、廊下に誰もいない事を確認すると、芸術棟にある第三音楽室へ足早に向かった。
第三音楽室からは音色が聞こえてきた。優は恐る恐るドアを開けると、楓雅がピアノを弾いていた。優が来たのが分かると、楓雅は弾くのを止め、教室はシーンと静まり返った。優は居ても立っても居られず、再び大粒の涙を零しながら、楓雅に抱きついた。
「どうしたんですか? そんなに目を真っ赤にして……」
「…………」
「まさか! またあの男に酷い事されたんですか?」
「……違う」
優は楓雅の胸に顔を埋めて、首を横に振り、否定した。少しホッとした楓雅は優の頭を優しく撫でた。
「は、春人と喧嘩しちゃった。……そんなはずじゃ無かったのに」
「小向井君と喧嘩して、泣いているんですか?」
「…………うん」
優はしばらく楓雅の胸に顔を埋めた。そして、優は泣き止むと、壁にもたれ掛かり、床に座った。楓雅は優の隣に座り、優が喋り出すまで黙っていた。
「別にさ、友達を選ぶ位、自分の自由にさせて欲しい。帰って来たと思えば、僕の交友関係をクラスの子に根掘り葉掘り聞いたり、僕の話をペラペラ喋っちゃうし、楓雅君と僕の関係が怪しいっていう噂を聞いたらしくて、それを僕に聞いてくるしさ。……本当に信じられない」
「そうなんですか……」
「うん。春人は昔から少し束縛するというか、僕の事を全部把握していないと気が済まないらしくって……。でもさ、急に帰って来て、そんな事言われたら、誰だって傷付くし、怒るじゃん?」
優は制服の袖で涙を拭きながら、楓雅に愚痴をこぼした。楓雅は相槌を打ち、優の事を優しい目でずっと見続けた。優は安心したのか、楓雅の肩に凭れかかり、小さい声で感謝を伝えた。
「ごめんね、愚痴っちゃって。あーっ、なんで好きになっちゃったんだろう。馬鹿だよね、本当に。楓雅君、話聞いてくれて、ありがとう」
「大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
楓雅は小さく微笑み、優の頭をポンポンと撫でた。そして、優はむくっと立ち上がると、両頬を二回叩き、気合いを入れて、音楽室の窓を開けて、校庭に向かって、叫んだ。
「何でもかんでも自分の思い通りに行くと思うなよぉ!」
「突然、何かと思いました。でも、叫んで、少しはスッキリしましたか?」
「ごめん、急に叫びたくなっちゃった。この勢いでピアノなんか弾いちゃおっかな!」
優は窓を閉めると、ピアノ椅子に座り、テンポの速い曲を弾き始めた。弾いてる最中は真剣な表情で、弾き終った時には泣き笑いしながら、楓雅の方を見た。様々な表情を見せてくれる優に楓雅は愛おしいと心の中で思った。
「次は校歌でも弾こうかな! 楓雅君も良かったら、一緒に歌おう」
「僕は男声パートでいいですか?」
「じゃ、僕は女性パート。喉イケるかな?」
優は軽く発声練習を手短にやると、楓雅と一緒に歌い始めた。優はのびのびとした優美な歌声だった。楓雅もなめらかに歌い、良いハモリが聞けた。曲で優の声に混ざれる事が出来て、楓雅は一番嬉しかった。
「なんだろね。ピアノを弾いていると、心が開放されて、弾いてる曲で洗ってもらっている感じがして、スッキリするんだよね」
「独特な表現をしますね。でも、私もそのような気持ちになります。ピアノは良いですよね」
「図書室当番以外の日はここでピアノを弾きたいな」
「ここは部活で使われる事はほとんどないみたいで、使い放題ですよ。僕も付き合いますよ」
「本当に? 弾きに来る! ありがとう! 楓雅君は本当に良い友達だね!」
「そうですね。友達……ですね」
楓雅は優のセリフに軽くショックだったが、笑顔で誤魔化した。そして、二人は交互に演奏し、優が満足するまで歌った。そして、片付けをして、教室へ向かった。
教室へ戻ると、机に突っ伏して、背中が寂しそうな春人の姿があった。優は入るのを躊躇したが、楓雅が背中を押してくれた。そして、優が春人の肩を叩くと、春人はどんよりした顔をしており、気怠そうに起きた。
「…………春人」
「……優、さっきはごめんな。デリカシー無かったわ」
「ううん、大丈夫。僕こそ酷い事言ってごめん」
優と春人はお互いに顔を見て、照れ笑いした。楓雅は二人の姿を見て、安心したのか、鞄を持って、一人で帰ろうとしていた。
「あ、楓雅君。一緒に帰らないの?」
「今日はこの後、用事があるので、一人で帰ります」
「あれ? さっき用事があるって――」
「では、帰ります。また明日」
楓雅はそう言うと、優しい眼差しで優を見つめると、軽く手を振って帰っていった。優はなんとなく寂しい気持ちになり、胸の辺りがズキズキした。
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