11 / 62
第2章:時に残酷でも、僕は前を見なければならない
#9:古傷
しおりを挟む
優はお弁当を食べ終わった頃には気分的に少し楽になり、胸を撫で下ろした。午後はドキドキせずに過ごせるだろうかと不安に襲われたが、大丈夫と自分に言い聞かせた。
優が教室へ戻った時には、春人とクラスメイト達も帰ってきており、教室の後ろで楽しそうに談笑していた。春人は優が席に戻ったのを見て、嬉しそうに駆け寄った。
「なぁなぁ、ここの学食は旨いんだな! 今度、一緒に食べようぜ! 皆で食べれば、絶対に旨いぜ」
「あ、うん。……そうだね、今度行こうかな」
「ん? 優、なんか体調悪いのか?」
「いや、大丈夫。ちょっと眠いだけだから、気にしないで」
「そっか。それでな、さっきあいつらと話してたらさ――」
春人はクラスメイトから聞いた話を嬉しそうに喋った。優は相槌をしたりしたが、話の内容は全くもって興味が無かった。午後の授業も午前中と同じように春人は優に絡んだが、優の元気の無さに悪戯するのを徐々にやめた。
授業が終わり、一段落したところで先生に言われた通り、春人に校内を案内して回った。春人は優の後ろをついていき、先生に渡されたパンフレットを見ながら、優の説明を真剣に聞いていた。しかし、時折冷めた表情をする優の姿がどうしても気になった。
「あのさ、元気ないんなら、適当に見て回るから、無理すんなよ」
「――え? そんな事ないよ。 ごめん」
「すぐ謝んなよ。なんか急に元気無くなっちゃってさ。俺がふざけ過ぎたせいか?」
「違うよ。気を悪くしたなら、謝るよ」
「なんだよ、そうやってすぐ謝って……。やっぱり、俺、帰ってくるんじゃなかったかなぁ」
「っ! 違う! そういうのじゃなくて! ――えっ」
優が否定しようと振り返ると、春人が思いのほか至近距離にいて、思わず驚き後ずさった。優は足がもつれ、壁に体をぶつけた。そして、優に覆い被さる様に春人が壁に手をついて、優を逃がさないようにした。春人がじろじろと自分の顔を見てくるのが分かり、恥ずかしくて、咄嗟に両腕で顔を隠した。
「なんで顔を隠すんだよ」
「なんでって……。春人がじろじろ見てくるからだろ!」
「そりゃ、好きな奴の顔くらい、一秒でも長く見ていたいよ」
「――な、な、何言って! ばっかじゃないの!」
優が両腕で春人を払いのけようとするが、春人の方が力が強く、片手で両腕を掴まれ、壁に押し当てられる。春人は優の眼鏡を外し、そのまま前髪を手ですくい上げた。優は春人の香りが少しずつ近くなってくるのが分かった。優は耳まで熱くなり、あまりにも恥ずかしくて、力いっぱいに春人を突き放した。そして、優は春人から眼鏡を奪い返し、前髪を手で何度も直した。
「なんだよ、急に……。本当に馬鹿なんじゃないの?」
「悪かったって。そんな怒るなよ。あ、そう言えば、昼にお前の話をクラスの奴らとしたんだけどさ、皆、急に黙り込んでさ、めちゃくちゃ気まずい空気になった。昔はそうでも無かったろ? それなりに友達いたと思うけど」
「昔は昔、今は今。友達なんて別にいなくても……いいじゃん」
優は不貞腐れたようにそっぽを向き、廊下を進んだ。春人は聞く耳を持たずに歩いていく優を追いかけ、腕を掴んだ。優は振り解こうとしたが、先程よりも強い力で春人が掴んできて、少し痛みを感じた。
「なぁ、お前。一ノ瀬って奴と仲良いの? クラスの女子が言ってた」
「え、なんで? ってか、痛いから、離してよ」
「いや、クラスの子から一ノ瀬と優がいつも一緒にいて、なんだか怪しいよねって言ってたからさ」
「……は? 何それ」
「怒らなくてもいいだろ。ただ気になっただけだよ」
「なんでわざわざ春人に僕の交友関係を言わなきゃいけないの? ……そういうの、正直ウザい」
「そんな言い方しなくてもいいだろ!」
「もう離してよ! 僕の事を知って、何になるって言うの!」
二人の怒声が誰もいない廊下に響き渡る。優は足を止め、俯いたまま黙っていた。春人は掴んでいた優の手を離した。少しの沈黙の後、春人が声を掛けようと優の肩に手をかけた。自分の方へ振り返ったと思ったら、優が涙を流していたのに、春人はハッとした。
「ごめん、言い過ぎた」
「…………大体さ、サプライズとか意味分かんないし、こっちはどれほど心配してたか……春人には分かる? それで、帰って来たかと思ったら、僕の交友関係聞いてきて、しょうもない噂を本人に直接聞いてきてさ。デリカシー無さ過ぎだよ! 春人のそういうとこ、本当に変わらないよね! 昔もそういう噂をすぐ鵜呑みにして、僕の友達を傷付けたよね? もう放っておいてよ! 僕の心をぐちゃぐちゃにしないでよ!」
「あの時は申し訳ないと思ってる。でも、なんでそんな酷い言い方すんだよ」
「あとさ、こっちは大人しく地味に高校生活を過ごしたいのにさ、急に帰って来たと思ったら、僕がいないとこで僕の話をクラスの子と話すしさ……。何がしたい訳?」
「それはお前が少しでもクラスの奴らと仲良く――」
「そういうのをお節介って言うんだよ。もうさ、やめてよ。どーせまたぐちゃぐちゃにして、どっか行くんでしょ! もう耐えられない!」
「違う、俺はもう――」
「好きになるんじゃなかった! 春人なんか大っ嫌い!」
「って、おい! 優、話聞けって!」
優は制服の袖で涙を拭きながら、走り去っていた。優がそんな思いをしていただなんて信じられなかった。春人は追いかけたい気持ちがあったが、何故か足が前に出なかった。
優が教室へ戻った時には、春人とクラスメイト達も帰ってきており、教室の後ろで楽しそうに談笑していた。春人は優が席に戻ったのを見て、嬉しそうに駆け寄った。
「なぁなぁ、ここの学食は旨いんだな! 今度、一緒に食べようぜ! 皆で食べれば、絶対に旨いぜ」
「あ、うん。……そうだね、今度行こうかな」
「ん? 優、なんか体調悪いのか?」
「いや、大丈夫。ちょっと眠いだけだから、気にしないで」
「そっか。それでな、さっきあいつらと話してたらさ――」
春人はクラスメイトから聞いた話を嬉しそうに喋った。優は相槌をしたりしたが、話の内容は全くもって興味が無かった。午後の授業も午前中と同じように春人は優に絡んだが、優の元気の無さに悪戯するのを徐々にやめた。
授業が終わり、一段落したところで先生に言われた通り、春人に校内を案内して回った。春人は優の後ろをついていき、先生に渡されたパンフレットを見ながら、優の説明を真剣に聞いていた。しかし、時折冷めた表情をする優の姿がどうしても気になった。
「あのさ、元気ないんなら、適当に見て回るから、無理すんなよ」
「――え? そんな事ないよ。 ごめん」
「すぐ謝んなよ。なんか急に元気無くなっちゃってさ。俺がふざけ過ぎたせいか?」
「違うよ。気を悪くしたなら、謝るよ」
「なんだよ、そうやってすぐ謝って……。やっぱり、俺、帰ってくるんじゃなかったかなぁ」
「っ! 違う! そういうのじゃなくて! ――えっ」
優が否定しようと振り返ると、春人が思いのほか至近距離にいて、思わず驚き後ずさった。優は足がもつれ、壁に体をぶつけた。そして、優に覆い被さる様に春人が壁に手をついて、優を逃がさないようにした。春人がじろじろと自分の顔を見てくるのが分かり、恥ずかしくて、咄嗟に両腕で顔を隠した。
「なんで顔を隠すんだよ」
「なんでって……。春人がじろじろ見てくるからだろ!」
「そりゃ、好きな奴の顔くらい、一秒でも長く見ていたいよ」
「――な、な、何言って! ばっかじゃないの!」
優が両腕で春人を払いのけようとするが、春人の方が力が強く、片手で両腕を掴まれ、壁に押し当てられる。春人は優の眼鏡を外し、そのまま前髪を手ですくい上げた。優は春人の香りが少しずつ近くなってくるのが分かった。優は耳まで熱くなり、あまりにも恥ずかしくて、力いっぱいに春人を突き放した。そして、優は春人から眼鏡を奪い返し、前髪を手で何度も直した。
「なんだよ、急に……。本当に馬鹿なんじゃないの?」
「悪かったって。そんな怒るなよ。あ、そう言えば、昼にお前の話をクラスの奴らとしたんだけどさ、皆、急に黙り込んでさ、めちゃくちゃ気まずい空気になった。昔はそうでも無かったろ? それなりに友達いたと思うけど」
「昔は昔、今は今。友達なんて別にいなくても……いいじゃん」
優は不貞腐れたようにそっぽを向き、廊下を進んだ。春人は聞く耳を持たずに歩いていく優を追いかけ、腕を掴んだ。優は振り解こうとしたが、先程よりも強い力で春人が掴んできて、少し痛みを感じた。
「なぁ、お前。一ノ瀬って奴と仲良いの? クラスの女子が言ってた」
「え、なんで? ってか、痛いから、離してよ」
「いや、クラスの子から一ノ瀬と優がいつも一緒にいて、なんだか怪しいよねって言ってたからさ」
「……は? 何それ」
「怒らなくてもいいだろ。ただ気になっただけだよ」
「なんでわざわざ春人に僕の交友関係を言わなきゃいけないの? ……そういうの、正直ウザい」
「そんな言い方しなくてもいいだろ!」
「もう離してよ! 僕の事を知って、何になるって言うの!」
二人の怒声が誰もいない廊下に響き渡る。優は足を止め、俯いたまま黙っていた。春人は掴んでいた優の手を離した。少しの沈黙の後、春人が声を掛けようと優の肩に手をかけた。自分の方へ振り返ったと思ったら、優が涙を流していたのに、春人はハッとした。
「ごめん、言い過ぎた」
「…………大体さ、サプライズとか意味分かんないし、こっちはどれほど心配してたか……春人には分かる? それで、帰って来たかと思ったら、僕の交友関係聞いてきて、しょうもない噂を本人に直接聞いてきてさ。デリカシー無さ過ぎだよ! 春人のそういうとこ、本当に変わらないよね! 昔もそういう噂をすぐ鵜呑みにして、僕の友達を傷付けたよね? もう放っておいてよ! 僕の心をぐちゃぐちゃにしないでよ!」
「あの時は申し訳ないと思ってる。でも、なんでそんな酷い言い方すんだよ」
「あとさ、こっちは大人しく地味に高校生活を過ごしたいのにさ、急に帰って来たと思ったら、僕がいないとこで僕の話をクラスの子と話すしさ……。何がしたい訳?」
「それはお前が少しでもクラスの奴らと仲良く――」
「そういうのをお節介って言うんだよ。もうさ、やめてよ。どーせまたぐちゃぐちゃにして、どっか行くんでしょ! もう耐えられない!」
「違う、俺はもう――」
「好きになるんじゃなかった! 春人なんか大っ嫌い!」
「って、おい! 優、話聞けって!」
優は制服の袖で涙を拭きながら、走り去っていた。優がそんな思いをしていただなんて信じられなかった。春人は追いかけたい気持ちがあったが、何故か足が前に出なかった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】かなしい蝶と煌炎の獅子 〜不幸体質少年が史上最高の王に守られる話〜
倉橋 玲
BL
**完結!**
スパダリ国王陛下×訳あり不幸体質少年。剣と魔法の世界で繰り広げられる、一風変わった厨二全開王道ファンタジーBL。
金の国の若き刺青師、天ヶ谷鏡哉は、ある事件をきっかけに、グランデル王国の国王陛下に見初められてしまう。愛情に臆病な少年が国王陛下に溺愛される様子と、様々な国家を巻き込んだ世界の存亡に関わる陰謀とをミックスした、本格ファンタジー×BL。
従来のBL小説の枠を越え、ストーリーに重きを置いた新しいBLです。がっつりとしたBLが読みたい方には不向きですが、緻密に練られた(※当社比)ストーリーの中に垣間見えるBL要素がお好きな方には、自信を持ってオススメできます。
宣伝動画を制作いたしました。なかなかの出来ですので、よろしければご覧ください!
https://www.youtube.com/watch?v=IYNZQmQJ0bE&feature=youtu.be
※この作品は他サイトでも公開されています。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる