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第1章:第三音楽室のピアノは君に会いたがっている

#5:道徳

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「うーん、届かない。なんでこんな本見たいと思ったの……。そんな事より手が届かない」
「……ん? ほら、貸せよ。よいしょ……。これで入ったぞ」
「ありがとうござい……あっ!」


 後藤先生は優の背後から手を伸ばし、本を戻した。そして、優が後藤先生の方を向いてお礼を言おうとした瞬間、踏み台から足を外してしまう。後藤先生は優を庇い、一緒に絨毯へ倒れ込んだ。


「いててて……。あっ! 先生、大丈夫ですか!」
「あぁ、大丈夫だ」
「いや、あの……すみません。今、退きますんで」


 優が後藤先生の体の上から退こうとした時、後藤先生は優の体を自分の体に引き寄せた。優の顔が後藤先生の肉付きの良い胸に埋もれ、優の体は後藤先生の懐にすっぽり収まった。優は何が何だかよく分からなくなり、動揺した。


「本当に、お前は可愛いな」
「え、ちょ、ちょっと! 離してください!」
「良いじゃないか、少し位」
「んっ! 嫌だぁ……離して……」


 優がもがけばもがく程、後藤先生は優の体を自らの両足で挟みんで、離さなかった。後藤先生は息が荒く、大きな膨らみが当たっているのが分かった。そして、優の体を片手でホールドし、制服を慣れた手つきでたくし上げ、胸をまさぐってきた。


「お前はやっぱり、細いんだな。やっぱり、先生が思ってた通り、良い体してんな」
「んっ! 嫌ぁ……。お願い……。誰かぁ……」
「こんな場所なんかに誰も来ねぇよ。先生が慰めてやるよ。本当は寂しいんだろ? 虐められてたもんな? 先生が色んな事をいっぱい教えてやるよ」
「嫌ぁ……。や、やめないと、大きな声、出しますよ!」
「出してみろよ。出せねぇ癖に。体も震わせて……。本当に可愛いなぁ、朝比奈は」


 後藤先生はそう言うと、優のシャツを無理矢理引っ張り、肌蹴させた。後藤先生は体勢を変え、優を仰向けにさせると、四つん這いになり、優の頬を厭らしく撫でた。


「泣く顔も可愛いなぁ。俺の好みだ」
「やぁ、やめて……」
「朝比奈はこういう事初めてだろうから、先生がじっくりやってやるからな」
「先生、お願いだから、やめて……」


 後藤先生は怯える優を尻目に、目を輝かせながら、優の穢れの無い体をじっくりと見た。後藤先生の息がかかり、優は思わず体を大きくビクつかせた。自分でもよく分からない声が出そうになり、咄嗟に両手で口を塞いだ。その時、図書室のドアが勢いよく開いた。


「日直の仕事で遅くなりましたが……って、朝比奈君、いないんですか?」
(……一ノ瀬君!)


 後藤先生もドアが開く音に気付いたのか、優の体を味わおうとするのをやめ、不機嫌そうな顔をして、軽く舌打ちをした。優は声を出したら駄目だと思い、震える手で必死に口を塞いだ。後藤先生は身だしなみを整えると、何かを言いたそうな眼差しで優を見下ろした。そして、書架からひょっこりと顔を出すと、カウンター近くにいた一ノ瀬に笑顔で声を掛けた。


「おつかれさーん」
「後藤先生、お疲れ様です。こんな所に何の用事ですか?」
「んー、いやぁ、図書室の利用状況を確認しに……」
「はぁ……、そうですか」
「じゃ、俺は用事があるから。じゃあな」


 後藤先生は手を振りながら、図書室を出ていった。そして、優は後藤先生の声がしなくなったのが分かると、何とも言えない感情に襲われ、声を押し殺して、涙を流した。


(一ノ瀬君、お願い! こっちに来ないで……)


 優はそう願っていたが、願いは叶わず、気付いたら、唖然とする一ノ瀬が立っており、目が合ってしまった。優は涙を拭きながら、自分の身なりを整えた。どの位か分からないが、二人の間に沈黙が続いた。


「……あ、ごめんね。今、図書室を閉める準備するね。……あぁ、シャツのボタンが無いや、どうしよ」
「え、いや……。な、何があったんですか?」
「あははぁ、えっと……なんだろ」


 優はどこに感情をぶつけていいのか分からず、苦笑いしか出来なかった。しかし、一ノ瀬の心配する顔を見ていると、次第に涙がこみ上げてきた。優が涙を拭いていると、一ノ瀬が上着をかけてくれて、優しく抱き締めてくれていた。


「だ、大丈夫ですか?」
「…………うぅ、い、一ノ瀬君、怖かったよぉ」
「あの男、絶対に許しません」


 一ノ瀬は殺気立った顔をして、後藤先生の後を追いかけようとしたが、優が腕を掴み、行かせてくれなかった。


「一ノ瀬君、大丈夫だから!」
「で、でも! あの男は君を襲ったんですよ!」
「いいの! だから、お願い。また変な噂されるから……、お願い」


 一ノ瀬は舌打ちをすると、優を優しく抱き締めた。優は一ノ瀬の肩に顔を埋め、シクシク泣いた。一ノ瀬は何も言わず、泣いている優の頭を何度も優しく撫でた。
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