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第5章:僕らは今、暗闇の中で歌い始める
#32:一幕
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時は翠暦一八三五年。緑豊かな水の王都フレデリックで可愛らしい女の子が産声を上げました。名はシグニスと名付けられました。シグニスは順調に育ち、その可愛さは敵対関係にあるアイスバーグ帝国の国王の耳にも入りました。
しかし、シグニスの目は生まれつき悪く、何もかもがぼやけて見えていました。今まで我が子に愛情を注いでいた国王と王妃はその事が分かると、その瞳を呪われたものだと決めつけ、シグニスを城の一番高い塔に閉じ込めました。
シグニスは今日も窓辺に座り、自分の作った歌を歌いました。シグニスが歌うと、小鳥達が束の間の休息で止まりに来る位、優しく綺麗で透き通った声でした。今日も変わらない日々を過ごすシグニスの元に、一人の兵士が部屋の扉をノックしました。
「シグニス様、失礼します。ほ、本日よりシグニス様の警護を担当しますルイでございます。よろしくお願い致します」
「小鳥さん達、また遊びに来てね。……少しお待ちください。今、目隠しをしますので……」
シグニスは王妃から人と会う時は必ず目隠しをするようにと厳しく言われ、ルイの前でも同様に、レースで作られた目隠しをしました。
今までもう何十人の兵士達がシグニスの警護を任せられましたが、呪われた瞳と言うだけで、数日も経たないうちに辞めていきました。どうせルイもすぐに辞めるのだわと開き直り、緊張して、その場を動かないルイに少し微笑みかけました。
「シグニス様。あの……、前任のドラルが……」
「いいのよ。どうせ私の呪われた瞳が怖かったのでしょう?」
「……大変申し上げにくいのですが、おっしゃる通りです。大変申し訳ございません」
「貴方が謝る事ではないわ。それで、今日はどのような用件かしら? もしかして、挨拶だけ?」
「ご、ご挨拶するようにと王妃様からのご命令でして……。あの、何かございましたら、お申し付けください」
「分かりました。でしたら、今、他に用事がないのよね?」
「は、はい……」
「でしたら、行きたい場所があるの。前に使用人の間で噂になった場所。とても静かで、心地良い風が吹いてて、王都全体が見渡せる場所があると聞いたので、そこに連れて行って欲しいわ」
「しょ、承知いたしました」
シグニスとルイは塔の螺旋階段を下りると、傍にある馬小屋へやってきました。ルイは自分の馬に乗ると、シグニスの隣にやってきました。シグニスは近付いてきた馬の体を触りながら、顔の前にやって来ると、一礼した。
ルイは正直、シグニスの手を取るのが怖かった。もしかしたら、呪われてしまうのではないかとビクビクしましたが、意を決して、シグニスの手を取り、一気に馬の上に乗せた。特に何も起こらなかった事にホッとしたルイは、裏門からシグニスに言われた場所へ馬を走らせた。
そして、ルイは自分の馬に女性を乗せた事が無かったため、終始緊張し、頬を赤く染めていた。シグニスは馬の走る風を感じながら、どんな場所なのかを想像し、期待を膨らませていました。暫くすると、王都の賑やかな音は遠くなり、風で木々が揺れ、心地良い音を奏でていました。ルイは目的地であろう場所につくと、馬を止め、シグニスを馬から降ろしました。
「シグニス様、目的の場所に着きました」
「わぁ! 凄いわ。王都全体が見えるわ。ここなら目隠しを外してもいいわよね」
「しかし! 目隠しを外してしまうと――!」
「何も起こらないわよ。ほら」
シグニスはルイの忠告を無視し、目隠しを外した。ルイは咄嗟に両手で目を隠し、シグニスに背中を向けた。その様子に、シグニスは少し怒った。
「ほら、何も起こらないじゃない。呪われてるとか勝手に決めつけちゃって。ルイ、ちゃんと私を見なさい!」
「はい! この身滅びても悔いはありません! それでは、失礼します!」
ルイは意を決して、シグニスの方を振り向き、目を開けました。ルイが目を開けた先には、青く透き通った瞳をし、とても愛らしい顔をしたシグニスの姿がありました。風で靡く髪がキラキラと輝き、あまりの美しさにルイは心奪われました。見惚れるルイを見て、シグニスは口に手を当て、小さく笑った。ルイは我に戻り、恥ずかしさの余り、顔を真っ赤になりました。
「ね? 何も起こらないでしょ?」
「そ、そうですね。言われてみれば、何も起こらないですね」
「――そんな事よりもここから見る景色は綺麗ね! 形ははっきりと見えないけれど、様々な色があって、香りがあって、風が体に流れてきて……」
「ええ、ここから見る王都は綺麗です」
風を感じながら、王都を眺めるシグニスにルイは釘付けでした。二人は次第に心を許すようになりました。今日もシグニスの提案で誰も居ない巨大庭園でダンスの練習をしに来ました。シグニスは誰かが来たら、教えるようにとルイへ命令しました。シグニスは花に囲まれながら、優雅に踊っていましたが、何か足りないようで不満気な顔をしていました。
「やっぱり、一人じゃ楽しくないわ。ルイもこっちに来て頂戴。私とダンスしなさい」
「え? 俺がですか? ――って、ちょっと、シグニス様!」
「エスコートだけが出来てもダメよ。ちゃんとダンスもスマートに出来なきゃ!」
「いえ、そうですが! 王妃様に見つかったら、また怒られますよ!」
「その時はその時よ」
シグニスの嬉しそうな顔を見て、ルイも自然と笑みが零れました。この時間が永遠に続けばいいのに……とお互いに思いました。
しかし、シグニスの目は生まれつき悪く、何もかもがぼやけて見えていました。今まで我が子に愛情を注いでいた国王と王妃はその事が分かると、その瞳を呪われたものだと決めつけ、シグニスを城の一番高い塔に閉じ込めました。
シグニスは今日も窓辺に座り、自分の作った歌を歌いました。シグニスが歌うと、小鳥達が束の間の休息で止まりに来る位、優しく綺麗で透き通った声でした。今日も変わらない日々を過ごすシグニスの元に、一人の兵士が部屋の扉をノックしました。
「シグニス様、失礼します。ほ、本日よりシグニス様の警護を担当しますルイでございます。よろしくお願い致します」
「小鳥さん達、また遊びに来てね。……少しお待ちください。今、目隠しをしますので……」
シグニスは王妃から人と会う時は必ず目隠しをするようにと厳しく言われ、ルイの前でも同様に、レースで作られた目隠しをしました。
今までもう何十人の兵士達がシグニスの警護を任せられましたが、呪われた瞳と言うだけで、数日も経たないうちに辞めていきました。どうせルイもすぐに辞めるのだわと開き直り、緊張して、その場を動かないルイに少し微笑みかけました。
「シグニス様。あの……、前任のドラルが……」
「いいのよ。どうせ私の呪われた瞳が怖かったのでしょう?」
「……大変申し上げにくいのですが、おっしゃる通りです。大変申し訳ございません」
「貴方が謝る事ではないわ。それで、今日はどのような用件かしら? もしかして、挨拶だけ?」
「ご、ご挨拶するようにと王妃様からのご命令でして……。あの、何かございましたら、お申し付けください」
「分かりました。でしたら、今、他に用事がないのよね?」
「は、はい……」
「でしたら、行きたい場所があるの。前に使用人の間で噂になった場所。とても静かで、心地良い風が吹いてて、王都全体が見渡せる場所があると聞いたので、そこに連れて行って欲しいわ」
「しょ、承知いたしました」
シグニスとルイは塔の螺旋階段を下りると、傍にある馬小屋へやってきました。ルイは自分の馬に乗ると、シグニスの隣にやってきました。シグニスは近付いてきた馬の体を触りながら、顔の前にやって来ると、一礼した。
ルイは正直、シグニスの手を取るのが怖かった。もしかしたら、呪われてしまうのではないかとビクビクしましたが、意を決して、シグニスの手を取り、一気に馬の上に乗せた。特に何も起こらなかった事にホッとしたルイは、裏門からシグニスに言われた場所へ馬を走らせた。
そして、ルイは自分の馬に女性を乗せた事が無かったため、終始緊張し、頬を赤く染めていた。シグニスは馬の走る風を感じながら、どんな場所なのかを想像し、期待を膨らませていました。暫くすると、王都の賑やかな音は遠くなり、風で木々が揺れ、心地良い音を奏でていました。ルイは目的地であろう場所につくと、馬を止め、シグニスを馬から降ろしました。
「シグニス様、目的の場所に着きました」
「わぁ! 凄いわ。王都全体が見えるわ。ここなら目隠しを外してもいいわよね」
「しかし! 目隠しを外してしまうと――!」
「何も起こらないわよ。ほら」
シグニスはルイの忠告を無視し、目隠しを外した。ルイは咄嗟に両手で目を隠し、シグニスに背中を向けた。その様子に、シグニスは少し怒った。
「ほら、何も起こらないじゃない。呪われてるとか勝手に決めつけちゃって。ルイ、ちゃんと私を見なさい!」
「はい! この身滅びても悔いはありません! それでは、失礼します!」
ルイは意を決して、シグニスの方を振り向き、目を開けました。ルイが目を開けた先には、青く透き通った瞳をし、とても愛らしい顔をしたシグニスの姿がありました。風で靡く髪がキラキラと輝き、あまりの美しさにルイは心奪われました。見惚れるルイを見て、シグニスは口に手を当て、小さく笑った。ルイは我に戻り、恥ずかしさの余り、顔を真っ赤になりました。
「ね? 何も起こらないでしょ?」
「そ、そうですね。言われてみれば、何も起こらないですね」
「――そんな事よりもここから見る景色は綺麗ね! 形ははっきりと見えないけれど、様々な色があって、香りがあって、風が体に流れてきて……」
「ええ、ここから見る王都は綺麗です」
風を感じながら、王都を眺めるシグニスにルイは釘付けでした。二人は次第に心を許すようになりました。今日もシグニスの提案で誰も居ない巨大庭園でダンスの練習をしに来ました。シグニスは誰かが来たら、教えるようにとルイへ命令しました。シグニスは花に囲まれながら、優雅に踊っていましたが、何か足りないようで不満気な顔をしていました。
「やっぱり、一人じゃ楽しくないわ。ルイもこっちに来て頂戴。私とダンスしなさい」
「え? 俺がですか? ――って、ちょっと、シグニス様!」
「エスコートだけが出来てもダメよ。ちゃんとダンスもスマートに出来なきゃ!」
「いえ、そうですが! 王妃様に見つかったら、また怒られますよ!」
「その時はその時よ」
シグニスの嬉しそうな顔を見て、ルイも自然と笑みが零れました。この時間が永遠に続けばいいのに……とお互いに思いました。
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