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第4章:僕はずっと一人だと思っていた

#25:変化

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 学園祭まで一週間に迫ったある日、比奈子から衣装が出来たと連絡が来た。三人は一緒に家庭科室へ向かった。家庭科室に入ると、後ろのロッカー近くに大きな赤い布で覆われた三体のマネキンが立っていた。比奈子は三人をそれぞれの衣装の前に立たせた。


「早速、被服部全員で作った渾身の衣装をご覧あれ!」


 掛け声とともに、マネキンに掛かっていた布が一斉に取られた。布が取られた瞬間、優と春人は絶句し、開いた口が塞がらなかった。比奈子は二人のリアクションを見て、ニコニコしていた。比奈子は三人に一つずつ紹介していった。
 春人の衣装は漆黒の軍服でマントの裏地が返り血を連想させるかのようなワインレッド色で、背中に背負うタイプの大剣があり、腰には鞭が装着されていた。左胸の所にはブラックとレッドをベースとした薔薇のコサージュが飾られていた。


「おぉ、超かっけぇ! やべぇな」
「春人、語彙力無くなってるから。それにしても、暗黒騎士のイメージ通りだ……。何も伝えてないのに、凄い」
「でしょ? 次は楓雅さんの衣装ね」


 楓雅の衣装は純白の軍服で腰ベルトの両サイドに銀色の銃と銃弾のレプリカが装着され、左胸の所にはホワイトと薄ピンクをベースとした薔薇のコサージュが飾られていた。先程の春人の衣装とは真逆でとても聖なるものを感じた。


「隣国の王子で聖銃士っていう設定だから、クールにスタイリッシュにってのをテーマに作ってみました!」
「流石の仕上がりですね」
「楓雅君が着たら、どんな感じなのかな? 楽しみだなぁ」


 そして、最後に優の衣装の前に立った。優の衣装は白と淡い水色を基調とし、ふんわりと優しい仕上がりのロングテールワンピースだった。優の衣装は勿忘草の可愛らしい淡い青色とカスミソウの白色をベースとした花冠だった。


「これを優が着るのか、楽しみだなぁ」
「そうですね、これは着たら、絶対に目が離せなくなりますよ」
「そんな事言ったら、余計に緊張しちゃうじゃん」


 春人と楓雅は優の衣装と優の体を交互に何度もまじまじと見るため、優はなんだか恥ずかしくなり、顔が赤くなった。困り果てている優を見て、比奈子は手を叩き、春人と楓雅を衣装の前に誘導する。


「ほら、優君が困ってるし、それよりも早く衣装に着替えてよね。優君のは編み上げ式になってるし、一人で着るの大変だから、私の部員が手伝うわ。試着し終わるまで背中向けてるから、二人はとっとと着替えてよね」
「朝比奈さん、よろしくお願いします」
「あっ……、よろしくお願いします」


 比奈子達が後ろを向いている間に、三人は舞台衣装に着替えた。優は本当に手を出していいのだろうかと戸惑ったが、着付けしてくれる部員の優しい気遣いで少し安心した。そして、ボサボサな髪も簡単にピンで留められ、簡単なメイクも施してもらい、それらしい姿となった。早々に着替え終わった二人は綺麗になっていく優の姿に釘付けだった。


「朝比奈、綺麗ですよ」
「優、マジでお姫様みたいだぞ」
「やめてよ。なんか照れる。自分がこんな素敵な衣装を着て、大丈夫なのかな……?」


 優の着付けをした部員が比奈子に声を掛けると、比奈子と部員達が振り返った。皆、目を輝かせ、三人の立ち姿に魅了されていた。優は恥ずかしくて、顔を赤くしながら、俯いた。その時、股下数センチ程度しかない異常な程の丈の短さと何とも言えない解放感に優は目が点になった。


「あの……、このスカートの前のとこ、なんでこんなに丈が短いんですか。これじゃ、パンツ見えちゃいますよ……」
「衣装は私達にお任せっていう条件でしょ?」
「うぅっ……、何も言えない……」 
「お、本当だ。マジで短いな」

 優はパンツが見えないように、手で押さえながら、股を少しモジモジさせ、見えないようにした。そんな優にお構いなしに、春人は優の前に来ると、しゃがんで、優の絶対領域を覗いて、短さを確認した。優は春人のデリカシーの無さに怒りを覚え、今すぐにでも殴りたい気持ちを抑え、見下すように春人を睨んだ。


「……春人、マジで殴るよ」
「そんな怒んなよ。俺はただどんな短さかを確認しただけであって――」
「本当は?」
「えーっと、今日は可愛いキャンディー柄のパンツ穿いてるなぁって」
「キャンディー柄……。朝比奈、それはどこで買ったんですか?」
「ああ! 楓雅君まで調子に乗らないでよ! 今は試着の感想言う時間!」


 比奈子は三人のやり取りにやれやれな感じだったが、順番に衣装の感想を聞いていった。三人の衣装はとても体に馴染んでおり、屈伸したり、色々な動作をしてみたが、問題は無かった。比奈子は細かい部分までチェックし、問題無い事を確認すると、教室の隅に置かれていた白色のバックスクリーンなどの撮影一式を準備した。準備が整うと、三人に立ち位置やポーズを指示し始めた。


「よし、完成。優君を挟む感じで二人にはこの位置に立ってもらって――」
「なぁ、優。なんか嫌な予感がするんだけど」
「そうだよね……。だって、めっちゃ高そうなカメラ持ってる子がいるもんね」
「まぁ、厳しい条件をのんでもらったんで、これ位は我慢しましょう」


 ポージングが終わると、カメラを構えた部員にレフ板を持つ部員、照明の角度を調整する部員に囲まれ、三人の予想通り、撮影会が開かれた。他の部員達は三人を見るなり、黄色い声を上げて、見惚れていた。
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