27 / 62
第4章:僕はずっと一人だと思っていた
#25:変化
しおりを挟む 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。
「リフォームに必要な工具が欲しい」
「工具?」
「それはなんですの?」
ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。
「人族が使う道具や」
ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。
「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」
「旦那様は人族のようなことを言うんやね」
確かに、今の発言は迂闊すぎたかもしれない。
「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠もゴミです」
気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属。
「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」
「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」
「ギンコは?」
「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」
「尻尾割れてるくせに偉そうに」
「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」
「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」
今日もバチバチにやり合っている二人。
ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。
「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」
「ウル~ッ」
圧倒的癒やし!
急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。
「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」
「仕方ありませんね」
いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
よっぽど太陽が嫌いらしい。
そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。
背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。
さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。
「どう見ても人間には見えへんよな」
自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。
別段、変化はない。
ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。
ホンマかよ――
と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。
おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。
「これ何の魔法?」
ギンコが無言で首を振る。
喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。
「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」
息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。
俺、そんな魔法使えないんやけど……。
「あと、もう一つ」
またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。
「うおぉ!」
「これも子供騙しです」
これなら誰が見ても人族だ。
大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。
近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。
到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかを担いでいる。
大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。
「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」
人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。
こういう時は――
「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」
「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」
「そんな感じです」
「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」
「ありがとうございます」
普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。
早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。
「初めてなんですけど」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」
「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」
「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」
リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠をカウンターに取り出す。
「……………………」
さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。
すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。
「待ってろ」
続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。
「デスクックだ」
やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。
「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」
ツレが倒した、と言いそうになる口を噤んで頷く。
疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
ごめん、クスィーちゃん。
「金貨千枚を出す。構わないか?」
ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。
この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。
「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」
「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」
「ドワーフ! ありがとうございます」
あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。
「デスクックってレアモンスターなんか?」
「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」
相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。
見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。
俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
「リフォームに必要な工具が欲しい」
「工具?」
「それはなんですの?」
ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。
「人族が使う道具や」
ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。
「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」
「旦那様は人族のようなことを言うんやね」
確かに、今の発言は迂闊すぎたかもしれない。
「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠もゴミです」
気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属。
「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」
「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」
「ギンコは?」
「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」
「尻尾割れてるくせに偉そうに」
「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」
「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」
今日もバチバチにやり合っている二人。
ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。
「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」
「ウル~ッ」
圧倒的癒やし!
急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。
「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」
「仕方ありませんね」
いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
よっぽど太陽が嫌いらしい。
そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。
背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。
さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。
「どう見ても人間には見えへんよな」
自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。
別段、変化はない。
ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。
ホンマかよ――
と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。
おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。
「これ何の魔法?」
ギンコが無言で首を振る。
喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。
「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」
息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。
俺、そんな魔法使えないんやけど……。
「あと、もう一つ」
またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。
「うおぉ!」
「これも子供騙しです」
これなら誰が見ても人族だ。
大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。
近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。
到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかを担いでいる。
大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。
「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」
人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。
こういう時は――
「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」
「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」
「そんな感じです」
「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」
「ありがとうございます」
普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。
早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。
「初めてなんですけど」
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」
「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」
「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」
リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠をカウンターに取り出す。
「……………………」
さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。
すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。
「待ってろ」
続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。
「デスクックだ」
やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。
「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」
ツレが倒した、と言いそうになる口を噤んで頷く。
疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
ごめん、クスィーちゃん。
「金貨千枚を出す。構わないか?」
ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。
この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。
「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」
「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」
「ドワーフ! ありがとうございます」
あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。
「デスクックってレアモンスターなんか?」
「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」
相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。
見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。
俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました
葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー
最悪な展開からの運命的な出会い
年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。
そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。
人生最悪の展開、と思ったけれど。
思いがけずに運命的な出会いをしました。

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる