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第4章:僕はずっと一人だと思っていた
#24:衣装
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比奈子は姿鏡の前に椅子を置くと、優を手招いた。優は言われるがままに、鏡の前に座った。比奈子が色々と取り出している間、優は何をされるのだろうかと不安になり、変に緊張した。
「そんな緊張しなくても大丈夫。髪を整えるのと肌のコンディションを見るだけだから。舞台に立つのなら、顔もバッチリにしないと」
「そうですよね……。でも、顔には自信が無くて……」
「大丈夫。楓雅さんがこんなにも惚れ込んでるんだもの。きっと素敵な輝きを見せてくれるんじゃないのかしら?」
「はぁ、輝き……ですか……」
比奈子は手際よくピンで優の髪を留めていった。自分の頭の上で比奈子が独り言を言いながら、試行錯誤している姿を鏡越しに見て、自分も頑張らないとダメだなと優は思った。
「うーん、こんな感じかな? とりあえず髪が伸びっぱなしだから、切った方がいい。ショートボブで少しパーマかければ、可愛くなるはず。どの髪型も似合うと思うけど、ちゃんと定期的に美容室へ行かないとダメよ。あと、肌の手入れが全然出来てない! 肌が乾燥しているから、余計な皮脂が出ちゃって最悪。あと、眉の手入れもしないとダメ。身だしなみ整えないと!」
「……すみません」
優は自分の為に言ってくれているのだろうと思っていたが、比奈子のストレート過ぎる発言が胸に深く突き刺さって、大きなダメージを受けた。お構いなしにズバズバと言っていた比奈子であったが、優が予想以上に落ち込んでいるのに気付き、慌てて謝った。
「別に傷付けるために言ってる訳じゃないからね。本当にごめんなさい」
「比奈子さんは相手の事考えなしに喋るから、友達出来ないんですよ」
「楓雅さん! 余計な事言わないで下さい!」
「あははぁ……。宇佐美さん、大丈夫ですよ。事実だし、自分もどうにかしないとダメだろうなぁとは思ってたので、とても参考になりました。ありがとうございます」
優は比奈子にもう一度アドバイスを聞き、紙にメモをしながら、頭に叩き込んだ。そして、比奈子に改めてお礼を伝えた。
「いいのよ。私達がやりたくて、やっているだけだから。衣装は早くても学園祭のギリギリになっちゃうけど、仕上がったら連絡するわ。そこで試着と細かい修正をしましょう。衣装で動くのはいつもと違うから、一度慣れておくと良いかもしれないわ」
「分かりました。皆さんもありがとうございます」
「あっ、僕はちょっと比奈子さんと話があるので、先に音楽室へ戻ってて下さい」
三人は比奈子とその部員達に深々と頭を下げた。楓雅は比奈子と話があるため、優と春人は先に家庭科室を後にした。
「優。それにしても、すげぇな、被服部。偶然というか、必然というか。本当にラッキーだったな」
「そうだね。ちょっと緊張したけど、衣装楽しみだね」
優と春人は微笑み合いながら、ハイタッチした。楓雅は二人が行ったのを確認すると、比奈子を呼び、家庭科準備室へ入った。そして、楓雅はドアを閉めるなり、比奈子を睨み付けた。
「……お前、何か企んでるだろ?」
「え……、別に何も」
「はぐらかしても分かんだよ。お前はいつも僕の物に手を出すよな」
「あら? 何の事かしら?」
とぼける比奈子に楓雅は怒りの余り、歯を食いしばった。場所が場所なだけあって、手を出す事が出来ず、苛立つ楓雅を見て、比奈子は不適な笑みを浮かべて、耳打ちをする。
「貴方の条件をのんであげたんだから、逆らえないでしょ? それにしても、あの子はとても可愛くて素直で素敵じゃない。貴方が気に入るだけあるわ」
「うるさいっ! 余計な事したら、ただじゃ済ませないぞ!」
楓雅は比奈子に舌打ちをすると、教室を後にした。比奈子は細く笑いながら、怪しい目で楓雅の背中を見つめた。
「あの様子じゃ、味見もしてないみたいね。どんどん興味が湧いてくるわ。ふふっ、あの子はどんな風に羽根を広げて、飛び出すんでしょう」
◆◇◆◇◆◇
「楓雅君、なかなか帰って来ないね」
「宇佐美さんと劇の事でも話してんじゃねぇの?」
二人が音楽室で待っていると、突然ドアが開き、不機嫌そうな楓雅が中へ入って来た。優と春人は何事かと思い、顔を見合わせ、楓雅の様子を窺った。楓雅は二人に見られているのに気付き、いつものような落ち着いた表情に戻った。
「……楓雅君?」
「あぁ、すみません。劇の件で話をしていました」
「台本を人数分印刷しなきゃいけないね。でも、被服部も学園祭で大変なのに、大丈夫なのかな?」
「まぁ、衣装にナレーションに照明に……頼み過ぎだったか?」
「いえ、比奈子さんは絶対にやると決めたら、必ずやる人なので、安心して下さい」
「なぁなぁ、とりあえず台本を印刷しに行こうぜ」
三人は音楽室を後にし、印刷室で台本を人数分印刷し、製本をした。製本が終わると、被服室へ戻り、比奈子とその協力部員に手渡した。嬉しそうに台本を持つ比奈子に優は少し安心した。その後、比奈子と三人は照明や演出について話し合った。比奈子の的確なアドバイスで優が想像していた以上のものが出来る、そんな予感がした。
「そんな緊張しなくても大丈夫。髪を整えるのと肌のコンディションを見るだけだから。舞台に立つのなら、顔もバッチリにしないと」
「そうですよね……。でも、顔には自信が無くて……」
「大丈夫。楓雅さんがこんなにも惚れ込んでるんだもの。きっと素敵な輝きを見せてくれるんじゃないのかしら?」
「はぁ、輝き……ですか……」
比奈子は手際よくピンで優の髪を留めていった。自分の頭の上で比奈子が独り言を言いながら、試行錯誤している姿を鏡越しに見て、自分も頑張らないとダメだなと優は思った。
「うーん、こんな感じかな? とりあえず髪が伸びっぱなしだから、切った方がいい。ショートボブで少しパーマかければ、可愛くなるはず。どの髪型も似合うと思うけど、ちゃんと定期的に美容室へ行かないとダメよ。あと、肌の手入れが全然出来てない! 肌が乾燥しているから、余計な皮脂が出ちゃって最悪。あと、眉の手入れもしないとダメ。身だしなみ整えないと!」
「……すみません」
優は自分の為に言ってくれているのだろうと思っていたが、比奈子のストレート過ぎる発言が胸に深く突き刺さって、大きなダメージを受けた。お構いなしにズバズバと言っていた比奈子であったが、優が予想以上に落ち込んでいるのに気付き、慌てて謝った。
「別に傷付けるために言ってる訳じゃないからね。本当にごめんなさい」
「比奈子さんは相手の事考えなしに喋るから、友達出来ないんですよ」
「楓雅さん! 余計な事言わないで下さい!」
「あははぁ……。宇佐美さん、大丈夫ですよ。事実だし、自分もどうにかしないとダメだろうなぁとは思ってたので、とても参考になりました。ありがとうございます」
優は比奈子にもう一度アドバイスを聞き、紙にメモをしながら、頭に叩き込んだ。そして、比奈子に改めてお礼を伝えた。
「いいのよ。私達がやりたくて、やっているだけだから。衣装は早くても学園祭のギリギリになっちゃうけど、仕上がったら連絡するわ。そこで試着と細かい修正をしましょう。衣装で動くのはいつもと違うから、一度慣れておくと良いかもしれないわ」
「分かりました。皆さんもありがとうございます」
「あっ、僕はちょっと比奈子さんと話があるので、先に音楽室へ戻ってて下さい」
三人は比奈子とその部員達に深々と頭を下げた。楓雅は比奈子と話があるため、優と春人は先に家庭科室を後にした。
「優。それにしても、すげぇな、被服部。偶然というか、必然というか。本当にラッキーだったな」
「そうだね。ちょっと緊張したけど、衣装楽しみだね」
優と春人は微笑み合いながら、ハイタッチした。楓雅は二人が行ったのを確認すると、比奈子を呼び、家庭科準備室へ入った。そして、楓雅はドアを閉めるなり、比奈子を睨み付けた。
「……お前、何か企んでるだろ?」
「え……、別に何も」
「はぐらかしても分かんだよ。お前はいつも僕の物に手を出すよな」
「あら? 何の事かしら?」
とぼける比奈子に楓雅は怒りの余り、歯を食いしばった。場所が場所なだけあって、手を出す事が出来ず、苛立つ楓雅を見て、比奈子は不適な笑みを浮かべて、耳打ちをする。
「貴方の条件をのんであげたんだから、逆らえないでしょ? それにしても、あの子はとても可愛くて素直で素敵じゃない。貴方が気に入るだけあるわ」
「うるさいっ! 余計な事したら、ただじゃ済ませないぞ!」
楓雅は比奈子に舌打ちをすると、教室を後にした。比奈子は細く笑いながら、怪しい目で楓雅の背中を見つめた。
「あの様子じゃ、味見もしてないみたいね。どんどん興味が湧いてくるわ。ふふっ、あの子はどんな風に羽根を広げて、飛び出すんでしょう」
◆◇◆◇◆◇
「楓雅君、なかなか帰って来ないね」
「宇佐美さんと劇の事でも話してんじゃねぇの?」
二人が音楽室で待っていると、突然ドアが開き、不機嫌そうな楓雅が中へ入って来た。優と春人は何事かと思い、顔を見合わせ、楓雅の様子を窺った。楓雅は二人に見られているのに気付き、いつものような落ち着いた表情に戻った。
「……楓雅君?」
「あぁ、すみません。劇の件で話をしていました」
「台本を人数分印刷しなきゃいけないね。でも、被服部も学園祭で大変なのに、大丈夫なのかな?」
「まぁ、衣装にナレーションに照明に……頼み過ぎだったか?」
「いえ、比奈子さんは絶対にやると決めたら、必ずやる人なので、安心して下さい」
「なぁなぁ、とりあえず台本を印刷しに行こうぜ」
三人は音楽室を後にし、印刷室で台本を人数分印刷し、製本をした。製本が終わると、被服室へ戻り、比奈子とその協力部員に手渡した。嬉しそうに台本を持つ比奈子に優は少し安心した。その後、比奈子と三人は照明や演出について話し合った。比奈子の的確なアドバイスで優が想像していた以上のものが出来る、そんな予感がした。
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