# ふた恋~脱陰キャしたら、クール系優等生とわんこ系幼馴染から更に溺愛されました~

沼田桃弥

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第3章:君の綺麗な指は鍵盤の上で踊り始める

#20:豪邸

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 優は練習の合間に曲の音源を録音し、データを二人に渡した。春人は部活の合間や早朝ランニングの時に聴いて、メロディーを頭に叩き込んだ。日に日に、上達していく二人を見て、優は嬉しかった。通しも可能な限り、三人で集まってやるようにした。最初はぎこちなかった三人の動きだったが、以前よりかはスムーズに動けるようになった。
 あっという間に、夏模様もすっかり色褪せ、風は涼しく心地よくなってきた。今日も三人は音楽室に集まり、劇の通し練習をした。そんな中、優はなんだか浮かない表情だった。


「最近、元気がないみたいですけど、大丈夫ですか?」
「そうだよ。今朝だって深刻そうな顔してたしさ……、なんかあったのか?」
「……なんて言えばいいのか分からないんだけど。最近、ドレスを着た女の人が夢に出てくるんだ。あと、朝起きると枕元に絶対に本があるんだよ」
「だいぶ疲れてんじゃねぇのか? 本が独りでに歩く訳でもねぇし」
「そうだと思いたいんだけど……」


 優は台本の下に置いていた本をおもむろに手に取った。特に変わった所はなく、表紙に擦れや傷はあるものの、いつも通りの古書だ。そんな中、楓雅が神妙な面持ちで近付いてきて、古書を覗き込んだ。


「それってオリジナルの本ですよね? 随分古そうですけど……」
「うん、春人のお父さんが海外の古美術店で見つけた物なんだ。作者は不明で、作られたのはだいぶ昔って位しか分からないんだよね」
「そうなんですか……。そういう古書って曰く付きだったり、呪いがあったりするってよく聞きますけど」
「えっ! やめてよ。余計に怖くなっちゃうから」


 優はブルッと体を震わせると、本を台本の下に隠すように置いた。楓雅はその本を優から拝借すると、ページをめくってみた。縁は朽ちており、黄ばみがあったり、破れかかって、テープで補強されたページもあった。しかし、呪いのような怪しい文字や魔法陣は見当たらなかった。


「とりあえず、僕が見た感じではおかしい所はないですけどね……」
「毎日、劇の事を考えてるから、それが夢に出てきただけかな?」
「そうだぜ。優は一度のめり込むと、どっぷりだからな。少しは他の事を――」
「調べてみたいですか?」
「楓雅君、調べるって? どうやって?」
「叔父様ならこういうのが好きだから、何か分かるかもしれません。今、日本に帰って来てるんです」
「こういうのが好きって……。なんか気が引けるけど、これ以上支障が出てもアレだから、調べて貰おうかな」


 優は恐る恐る頼む事にした。そうすると、楓雅はスマホを取り出すと、電話をかけ始めた。電話が繋がると、楓雅は流暢にフランス語を話し出した。楓雅は電話を切ると、不思議そうに見つめてくる二人に首を傾げた。


「どうしましたか?」
「いや、今のってフランス語か?」
「はい、そうですよ」
「楓雅君の叔父さんってフランス人なの?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 僕は父方がフランス人なんです。それより、叔父様が調べてくれるみたいなので、今週の日曜日はどうですか?」


 今更の新事実に二人は唖然とし、頭が少し混乱した。楓雅が二人に声を掛けると、二人は我に戻り、楓雅の約束を承諾した。二人は優にゆっくり休むようにと優を早めに帰らせた。


 ◆◇◆◇◆◇


 そして、約束の日曜日になった。優は古書を鞄に入れると、春人と一緒に待ち合わせた場所まで自転車を走らせた。


「なぁ、優はあいつの家に行った事あんの?」
「ううん、行った事無いよ。帰る方向も逆だし、そもそも楓雅君は自分語りしないから、よく分からないんだよね」
「よくそんな奴と友達になれたな」
「自分でもそう思う。なんで友達になったんだろう? って。まぁ、今になっては友達になって良かったなって思ってるけど」


 二人が話していると、待ち合わせ場所に楓雅が立っていた。優が手を振ると、ニコッと笑い返してくれた。


「楓雅君、早いね。待たせちゃったかな?」
「いや、僕も今来たところです。叔父様が朝からテンション高くて……。早く本を調べたくて、うずうずしてるみたいです」
「なんて言ったらいいのか分からないけど……。何か分かれば良いんだけど」


 不安そうにする優に春人は優の背中を叩き、励ましてくれた。そして、三人は楓雅の家へ向かった。歩く事数十分、二人の前に現れたのは本でよく目にする異人館のようなヴィクトリア様式の大きな建物だった。楓雅がインターホンを押すと、エントランスの大きな鉄門が重々しく開いた。想像とかけ離れた楓雅の家に、二人は口をあんぐり開ける事しか出来なかった。


「おぉ、すげぇ家だな」
「楓雅君、僕みたいなのがこんなお屋敷へ入っても……大丈夫なのかな?」
「問題ないですよ。さぁ、叔父様が待っているので、早く行きましょう」


 二人は玄関前に自転車を停め、楓雅の後ろをついていった。そして、玄関が開くと、メイド服を着た使用人らしき人が立っており、楓雅の叔父が待っている部屋まで案内してくれた。煌びやかな内装や絵画が飾ってある廊下を進むと、目的の部屋に着いた。部屋をノックし、楓雅の後に続くように入ると、髭をたくわえたダンディな男性が紅茶を飲んでいた。楓雅の叔父はにこやかに出迎えてくれ、テーブルを挟んで、三人は座った。


「ボンジュール!」
「どうしよう。ボンジュールしか分かんない」
「俺も。めっちゃ嬉しそうに喋ってるけど、全然分かんねぇ」
「大丈夫ですよ。僕が通訳しますから。聞きたい事があったら、僕に言って下さい」


 二人でこそこそと話していると、楓雅が察して、スマートに対応してくれた。二人は安心して、叔父の話を聞いた。楓雅の叔父は古物商を営んでいる傍ら、スピリチュアルカウンセラーもやっているそうだ。楓雅は叔父に二人の紹介をすると、優に今起きている事を説明し、テーブルの上に古書を出した。
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