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第3章:君の綺麗な指は鍵盤の上で踊り始める
#19:旋律
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優は二人の香りに惑わされないように、台本で劇中歌が出てくる前後のシーンと劇中歌のコンセプトについて説明を始めた。
「『noble flower』っていう曲は、姫を奪い合う暗黒騎士と聖銃士が激しく感情をぶつけ合うシーンで、二人にとって、姫は高貴な花であり、なんとしてでも傷付けずに手に入れたい。邪魔する奴は絶対に許さない。死闘を繰り広げる中でお互いの思いをぶつけ合うように歌って欲しいんだ」
「キャラクターに合わせた歌い方もしないといけないですね。僕は常に冷静沈着でブレない心。小向井君は闘争心が強くて、ストレートにぶつけてくる感じ……と言ったらいいでしょうか?」
「へぇ、なんか良いじゃん」
「最初は楓雅君と二人で歌うから、春人は聴いてて貰っても良い? 立ち回りながら歌うって結構難しいし、それを考慮した上で、自分なりの歌い方を考えて貰えると嬉しいかも」
「おう、分かった」
優は一曲目の曲を弾き始めた。二人の感情の高まり、ぶつかり合う二人の戦闘シーン、それであって、姫への思いが伝わるようなメロディーラインだった。楓雅の歌声は聖銃士の役にハマったような凛とした声で、優は今までに聞いた事が無い力強い声だった。春人は曲を聴いて、胸の中で激しく燃える何かを感じた。
「すげぇ良い! 超かっけぇ! 俺も堂々と歌えるように頑張ってみる!」
「春人は力みやすいから、あんまり力まずに、自然に歌えば大丈夫だと思うよ」
「どちらかが目立つと曲全体のバランスが悪くなるので、ただ歌うのではなく、掛け合いをしているというのはお忘れなく」
「分かった。そこらへんも気を付ける」
「次は、『benevolent』っていう曲で、タイトル名は慈悲深いって意味なんだ。ラストシーンで、終焉流星により、世界が終わりに近付いているのを阻止しようとする姫の気持ちを歌った曲で、僕のソロなんだ。ソロは正直めちゃくちゃ緊張するんだけど、どうしてもストーリー上そういう感じになっちゃって……。とりあえず聴いてもらっても良い?」
優は譜面台の楽譜を取り替え、深呼吸をし、弾き始めた。二人は後ろから優を静かに見守った。音楽室に響き渡るピアノの音色と優の透き通った柔らかな歌声。優は歌詞の言葉一つ一つやメロディの強弱を大事にして、想いが伝わる様に歌った。
弾き終わり、後ろを振り向くと、春人の頬に涙が伝っていた。楓雅も甘く切ない顔をし、小さく拍手をしていた。
(……だ、大丈夫だったかな?)
「小向井君。そんなに泣いてたら、本番ではどうなる事やら……」
「いや、これ聴いたら、誰だって泣くだろ。めちゃくちゃ良かった」
「ええ、とても心に響きました」
「えへへっ、ありがとう。そう言って貰えると、作った甲斐があったかな」
優が照れ笑いしていると、春人が突然抱きついてきた。優は驚いたが、宥めるように春人の背中をポンポンと何度も優しく叩いた。
「ちょっとどうしたの、急に? 春人、重いってば」
「優。俺……」
「もう泣かないでよ。春人らしくないよ」
優が春人を宥めていると、楓雅が優の手を持ち、手の甲に軽くキスをした。突然の事で、優はキスされた手をビクつかせた。手の甲から全身に広がる様に熱が帯びていくのが分かった。
「朝比奈は僕達にとって、太陽のような存在。朝比奈が頑張ってる姿を見ていると、僕達も頑張りたいと思うんです」
「太陽のような……存在?」
「もし、また辛い事があったら、僕達を頼って下さい。いつでも助けます」
「そうだぜ。どんな事があっても、俺達はお前を守ってやる」
「あ、ありがとう。楓雅君までどうしちゃったの? 二人ともなんかおかしいよ。はぁ、なんか変な汗が出てきちゃった」
二人からの熱い思いを聞いて、顔がますます熱くなった優はむくっと立ち上がり、手で火照った顔を押さえたり、制服の襟をパタパタと仰いだりして、夏の暑さとはまた違う暑さをどうにかしようと必死だった。
(──私達も応援していますよ)
「え? 誰?」
突然聞こえた女性の声に優は驚き、辺りを見渡す。しかし、音楽室には三人以外誰も居なかった。優の様子がおかしいと思った二人は優に声をかけた。
「おい、優。どうしたんだよ」
「何かありましたか?」
「……いや、誰かに呼ばれた気がして」
「俺らは何も言ってねぇよ」
「いや、女の人の声だったような……」
「朝比奈は連日、頑張り過ぎているんですよ。少しは休んだ方が良いですよ」
「頑張りすぎてるのかな? 自分ではよく分からないけど……」
「とりあえず自販機行って、飲み物買って来ようぜ」
春人の提案で三人は仲良く一階の自動販売機まで行き、飲み物を買うと、練習を再開した。
「『noble flower』っていう曲は、姫を奪い合う暗黒騎士と聖銃士が激しく感情をぶつけ合うシーンで、二人にとって、姫は高貴な花であり、なんとしてでも傷付けずに手に入れたい。邪魔する奴は絶対に許さない。死闘を繰り広げる中でお互いの思いをぶつけ合うように歌って欲しいんだ」
「キャラクターに合わせた歌い方もしないといけないですね。僕は常に冷静沈着でブレない心。小向井君は闘争心が強くて、ストレートにぶつけてくる感じ……と言ったらいいでしょうか?」
「へぇ、なんか良いじゃん」
「最初は楓雅君と二人で歌うから、春人は聴いてて貰っても良い? 立ち回りながら歌うって結構難しいし、それを考慮した上で、自分なりの歌い方を考えて貰えると嬉しいかも」
「おう、分かった」
優は一曲目の曲を弾き始めた。二人の感情の高まり、ぶつかり合う二人の戦闘シーン、それであって、姫への思いが伝わるようなメロディーラインだった。楓雅の歌声は聖銃士の役にハマったような凛とした声で、優は今までに聞いた事が無い力強い声だった。春人は曲を聴いて、胸の中で激しく燃える何かを感じた。
「すげぇ良い! 超かっけぇ! 俺も堂々と歌えるように頑張ってみる!」
「春人は力みやすいから、あんまり力まずに、自然に歌えば大丈夫だと思うよ」
「どちらかが目立つと曲全体のバランスが悪くなるので、ただ歌うのではなく、掛け合いをしているというのはお忘れなく」
「分かった。そこらへんも気を付ける」
「次は、『benevolent』っていう曲で、タイトル名は慈悲深いって意味なんだ。ラストシーンで、終焉流星により、世界が終わりに近付いているのを阻止しようとする姫の気持ちを歌った曲で、僕のソロなんだ。ソロは正直めちゃくちゃ緊張するんだけど、どうしてもストーリー上そういう感じになっちゃって……。とりあえず聴いてもらっても良い?」
優は譜面台の楽譜を取り替え、深呼吸をし、弾き始めた。二人は後ろから優を静かに見守った。音楽室に響き渡るピアノの音色と優の透き通った柔らかな歌声。優は歌詞の言葉一つ一つやメロディの強弱を大事にして、想いが伝わる様に歌った。
弾き終わり、後ろを振り向くと、春人の頬に涙が伝っていた。楓雅も甘く切ない顔をし、小さく拍手をしていた。
(……だ、大丈夫だったかな?)
「小向井君。そんなに泣いてたら、本番ではどうなる事やら……」
「いや、これ聴いたら、誰だって泣くだろ。めちゃくちゃ良かった」
「ええ、とても心に響きました」
「えへへっ、ありがとう。そう言って貰えると、作った甲斐があったかな」
優が照れ笑いしていると、春人が突然抱きついてきた。優は驚いたが、宥めるように春人の背中をポンポンと何度も優しく叩いた。
「ちょっとどうしたの、急に? 春人、重いってば」
「優。俺……」
「もう泣かないでよ。春人らしくないよ」
優が春人を宥めていると、楓雅が優の手を持ち、手の甲に軽くキスをした。突然の事で、優はキスされた手をビクつかせた。手の甲から全身に広がる様に熱が帯びていくのが分かった。
「朝比奈は僕達にとって、太陽のような存在。朝比奈が頑張ってる姿を見ていると、僕達も頑張りたいと思うんです」
「太陽のような……存在?」
「もし、また辛い事があったら、僕達を頼って下さい。いつでも助けます」
「そうだぜ。どんな事があっても、俺達はお前を守ってやる」
「あ、ありがとう。楓雅君までどうしちゃったの? 二人ともなんかおかしいよ。はぁ、なんか変な汗が出てきちゃった」
二人からの熱い思いを聞いて、顔がますます熱くなった優はむくっと立ち上がり、手で火照った顔を押さえたり、制服の襟をパタパタと仰いだりして、夏の暑さとはまた違う暑さをどうにかしようと必死だった。
(──私達も応援していますよ)
「え? 誰?」
突然聞こえた女性の声に優は驚き、辺りを見渡す。しかし、音楽室には三人以外誰も居なかった。優の様子がおかしいと思った二人は優に声をかけた。
「おい、優。どうしたんだよ」
「何かありましたか?」
「……いや、誰かに呼ばれた気がして」
「俺らは何も言ってねぇよ」
「いや、女の人の声だったような……」
「朝比奈は連日、頑張り過ぎているんですよ。少しは休んだ方が良いですよ」
「頑張りすぎてるのかな? 自分ではよく分からないけど……」
「とりあえず自販機行って、飲み物買って来ようぜ」
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