召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第十一章:僕達は誰かの一番になれればいい

11-9:みんなの想いが詰まった手作りの祝宴

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 フィディスが本を開いて、復唱していると、部屋をノックして、副団長が入ってきた。


「団長、遅くなって申し訳ありま……せん? どうして規則集を読まれてるんですか?」


 副団長は部屋へ入るなり、フィディスが皆の前で規則集を声に出して、読んでいる状況にキョトンとした。フィディスは待ちわびていたかのような顔をし、早々に読むのを止め、本を棚にしまった。


「祝宴の準備が出来たんだな。皆、食堂へ行くぞ」
「ちょっと! まだ半分も読んでないよ!」
「お前、皆を待たせてるんだ。早く行くぞ」
「そうやって、すぐはぐらかす」
「まぁまぁ、希空様、皆さんがお待ちなので、行きましょう」


 フィディスは副団長と肩を組むと、「助かった」と小さい声で耳打ちした。希空は頬を膨らまし、不満げだった。
 四人が食堂へ招かれ、中に入ると、団員達の温かい拍手で迎えられた。入ってすぐの壁には横断幕があり、色とりどりのフラッグガーランドが天井から壁へ向かって、吊るされていた。


「凄い! この飾りとかどうしたの? 皆が作ったの?」
「いいえ、皆さんがいつでも帰ってきてもいいように、子供達が一生懸命作ったそうです」
「そうなんだ。今度ちゃんとお礼しなきゃ」
「さ、皆さんはこちらにお座りください」


 四人は横断幕下にあるテーブルを案内され、着席した。そして、そのテーブルと垂直になるように、団員達が座っていた。真ん中のテーブルにはテーブルクロスが敷かれ、様々な料理やデザート、果物に飲み物がズラッと並んでいた。つい目移りしてしまう。アレックスは目が輝いており、涎を垂らしていた。


「アレックス、まだだよ。あと、涎垂れてる」
「アレックス、待ち切れない!」


 そして、副団長の開会宣言が終わり、フィディスが代表して、乾杯の音頭を取った。食堂には威勢の良い声が響き渡った。皆、腹を空かせていたのか料理を取り合っていた。


「皆、お腹空いてるよね。鍛錬後で疲れてるのに準備したんだから、仕方ないね」
「あんた達! 主役に先を譲るとか、そういう気配りは出来ないのかい! そんなんじゃいつまで経っても結婚出来ないよ!」


 食事に群がる団員達を見かねて、厨房にいたカレンが一喝した。団員達は軽く受け流し、美味しそうに食事をしたり、果実酒を呑んでいた。


「団長、すみません。マナーがなっておらず……」
「いや、今日は無礼講だ。お前も好きなように食事や酒を呑むといい」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 副団長が席を外したタイミングで、厨房からカレンが料理を持ってきてくれた。


「フィディスに希空、無事のご帰還おめでとう。二人はこういう祝い事は嫌いかい? 雫とアレックスは団員達と楽しそうに話してるけど」
「嫌いじゃないですよ。でも、あの中へ飛び込むのは何話せばいいか分からないし、むしろここから眺めてる方が面白いので」
「俺が行くと、あいつら達が自由に食事や酒が飲めんだろ。俺もここから見てる方が好きだ」
「へーっ、私はてっきり希空をあそこへ連れて行きたくなくて、希空にべったり張り付いてるのかと思ったけどねぇ」


 カレンは見透かしたような目でフィディスを見た。フィディスは動揺して、呑んでいた果実酒でむせて、咳き込んだ。


「ゴホゴホッ……! カレン、冗談はよせ」
「あら、私の勘違いなのね。とりあえず二人の分はここに運んでくるから、二人で仲良く食べなさい」
「カレンさん、ありがとうございます」
「いいのよぉ。希空にはまた新しい料理を教えてもらわなきゃね」
「うーん、だいぶ教えた気がするけど、何か新しいレシピ考えておきます」


 カレンは嬉しそうに料理を取り分けたり、料理の説明をしてくれた。希空が料理を教えてから、カレン達も創作料理を作ったり、図書館で伝統料理について調べたりしていたそうだ。


「どれも美味しい。僕が教える事は無い気がするけどなぁ」
「それは違うぞ」
「ん? なんで?」


 フィディスは果実酒を呑み干すと、厨房で次の料理を作ったり、皿に盛り付けたりするカレン達の様子を見ながら、希空に言った。


「教えて貰いたい気持ちもあるかもしれないが、それよりも希空と一緒にまた料理がしたいんじゃないのか?」
「また一緒に料理か……。確かに自分もそうかもしれない。誰かと一緒に笑いながら、楽しい時間を過ごしたい。子供達の面倒も団員さん達の食事もこの宿舎の事も本当は全部やりたいんだけどね。分身が出来る魔法とか研究すればいいのかな? なんちゃって、あははっ」


 希空が面白おかしく言うと、フィディスはその可愛らしさに目を細めた。そして、周りを見て、自分の口の動きを読まれないように手を添えて、希空の耳元の近くで甘く囁いた。


「俺はそんな皆から愛されるお前を独占したいけどな」


 片耳に残るフィディスの存在感。顔が徐々に熱くなっていくのが分かった。フォークとナイフを持っている手に力が入る。赤面している姿を皆に見られたくないのもあり、希空は俯き、体を縮こまらせた。少しだけチラッとフィディスを見ると、何食わぬ顔で食事を摂っていた。


「卑怯だよ、そういう事するの」
「何がだ? 早く食べないと、食事が冷めるぞ」
「そういうとこが…………本当に嫌い」


 希空が頬をプーッと膨らませると、フィディスは両頬を片手で掴むように、親指と人差し指で押して凹ませた。
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