召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第十一章:僕達は誰かの一番になれればいい

11-3:Side Shizuku <役目を果たして①>

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 雫とアレックスは自室へ戻った。久々に見る部屋は掃除が行き届いており、ふかふかのベッドを見ると、このまま飛び込みたい気持ちでいっぱいだった。雫は我慢して、テネブリスの杖や旅道具をテーブルに置いた。


「ふう……。久々に帰ってきた。それにしても、いつ見てもホテルにしか思えないんだよな。ぶっちゃけ、最初の家の方が帰って来た感あったんだよなぁ」
「主、アレックスもそう思う。だけど、もう無いから仕方ない」
「そりゃ、分かってるよ。それより、まずは風呂の準備をしなきゃ。アレックスも装備外すんだぞ。あと、人の姿でも狼の姿でも体を洗うんだぞ」
「嫌だ!」
「あっそう。汚いままだと子供達と遊ばせないぞ」
「嫌だ!」


 アレックスは狼の姿で駄々をこねた。雫は呆れて物も言えなかった。前の家に居た時も、風呂へ誘導したり、体を洗うのも大変だったことを思い出す。


(こっちも疲れてんのに、少しは考えてくれよ……)


 雫はため息をつき、風呂場の浴槽にお湯を出した。そして、服を脱ぐと、アレックスを呼んだ。


「アレックス! お風呂入るよ!」
「嫌だ!」
「入らないと、今日の晩御飯抜きだよ! 今日は俺達が帰ってきたから、ご馳走がいっぱい出るのになぁ。あぁ、アレックスは食べたくないのかぁ。それは残念だなぁ」


 アレックスは駄々をこねるのをやめ、耳をピンと立たせ、尻尾をブンブンと振りながら、猛スピードで風呂場にやってきた。


「ご馳走! アレックス、お風呂入る!」
「……装備とか全部外したか?」
「外した! 主、早く洗って!」
「ちょ! 分かったから、大人しくしろ」


 アレックスは目を輝かせながら、雫に衝突する勢いで近付き、体を洗うのをせがんだ。雫はアレックスの体を洗った。予想通り、砂埃や雑草が付着しており、泡が土色になっていく。何度も湯を変え、綺麗になるまで丁寧に洗った。


「今までで一番洗い甲斐があったな……。よし、ブラッシングは最後にしてやるから、次は人の姿になって」
「分かった」


 アレックスは人の姿になった。長い銀色の髪が濡れ、いつもより艶感があり、髪から垂れた水滴が筋肉の上を滑り、ポタポタと洗い場のタイルに落ちていく。出会った頃より筋肉の質が良くなっており、髪の毛をかき上げる仕草も前よりも色気が増している気がした。


(人の姿の時は大体、上半身裸だったりするけど、……こんなに色気あったっけ? なんか急にドキドキしてきた。……ん? 待てよ。そう言えば、人の姿になったアレックスを洗った事無いじゃん!)


 いつも狼の姿で風呂へ入れていたが、雫はアレックスの裸を見ながら、人の姿で風呂へ入れた事が無かった事にふと気付く。そして、雫は何も考えず、その場の流れで言ってしまった事に後悔した。


「主、どうした? 顔赤いぞ」
「そんなジロジロ見んな!」
「ジロジロ見てるのは主だろ? それより、早く洗って!」
「洗えって言われても……」


 アレックスは白い歯を見せながら、満面の笑みで両手を広げて、洗ってウェルカムな体勢でいた。アレックスにしゃがんでもらい、雫は頭から洗い始めた。


(一見馬鹿そうに見えるんだけど、スラッとしてるのに、筋肉はしっかりあって、水も滴るいい男なんだよな。……それより、なんで俺が体を洗ってんだよ!)


 洗ってもらうスタイルを貫くアレックスに少し苛立ったが、自分が言い出した事だし、仕方無いと雫は思った。雫はアレックスの全身を洗い終わると、お湯で泡を洗い流した。


「耳と尻尾がくすぐったかった!」
「はいはい、終わり。じゃあ、俺が洗ってる間、湯船に浸かってて」
「嫌だ!」
「次は何の嫌だよ?」
「アレックス、主の体洗う!」
「はぁあ? 俺は誰かさんと違って、自分で洗えるんで結構です。お構いなく」
「嫌だ!」


 アレックスは子供のように駄々をこねた。雫は頭を掻きながら、困り果てた。晩御飯まで時間も無いし、ここでアレックスを怒鳴りつけても面倒臭いだけなのが分かっていたため、仕方なく任せる事にした。


「……分かったよ。洗わせてあげるから。でも、俺がやってるように優しく洗えよ。お前の馬鹿力で洗われたら、傷だらけになりそうだからな」
「主のように優しく洗う! アレックス、頑張る!」


 頭を洗われるのは適度な力加減で気持ち良かった。次に、雫は泡立てたスポンジをアレックスに渡した。背中をゴシゴシ磨かれると不安になったが、それとは違う不安が生じた。


「お、おい! アレックス、何してんだよ! スポンジ使えよ!」
「なんで? 主、いつもこうやって洗ってくれてる」
「それはお前が洗ってる途中に逃げようとするからで!」


 アレックスはスポンジの泡を手に取り、雫の背中に体を密着させ、後ろから両手を伸ばし、雫の胸腹部を優しい手つきで洗い始めたのだ。


(待て待て待て! なんかそういうお店みたいになってるぞ! しかも、手つきがっ! か、感じるって! ってか、背中に何か当たってるし、息が耳にかかって……。マジでヤバいって!)


「主、綺麗な肌してる。アレックスの体とは違う」
「そんな事良いから。アレックス、そういう洗い方は……んっ! ダメだってば」
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