召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
94 / 117
第十章:最果ての地ナクアで待っていたものとは

10-5:孤独な『魔王』に優しさを

しおりを挟む
 二人は投げ出されるように、聖樹の根元に放り出された。雫とアレックスはすぐに二人を助けに行き、聖樹から離れた。


「フィディス! 凄い出血してる! 今、治癒魔法かけるから」


 雫はフィディスに治癒魔法をかけた。その間に、希空は聖樹に歩み寄った。


「魔王。皆にあんな怖い事言っちゃって。こうなるように仕向けた割にはちょっと性格悪いんじゃない?」
「あれは魔王としての威厳を保つためだ。ふっ、性格が悪いか。……そうかもしれないな」
「器も一つ破壊しちゃったし、怒るものだと思ったけど?」
「あれは偽器に過ぎん」
「なるほどね、ちゃんと選ばせてくれたって訳か……。どうしたらいい? 約束通り、魔王の魂を受け継げばいい?」
「お前は民から後ろ指を指されても良いのか? この世界が好きなのだろう? 受け継いだところでメリットなんてないぞ」
「いいよ、別に。後ろ指を指されようが、今の自分にはそれから守ってくれる人達がいるし、もう一人ぼっちじゃないから」


 魔王の魂と普通に会話をしている希空の姿を見て、雫もアレックスも困惑していた。二人は中で何があったかを傷が瘉えたフィディスに聞いたが、半分理解して、半分よく分からなかった。


「今の魔王を体内に取り込んだとしても、どうせ瘴気はなくならない。今回は大聖女オメルから出てきた優しい貴方だったから良いけど、貴方とはまた別の魂が生まれ、器を探すために彷徨うだろうね」
「ああ、そうなるな」
「だったら、僕が器としての役目を担います。貴方の全てを……僕が受け入れます」
「あははははっ、かの大聖女オメルと同じ事を言うのだな。オメル亡き今、お前がこの世界に来たのは運命なのだろうな。やっと我も世界観測を終わらせる事が出来る」
「貴方は人間によって勝手に生み出され、人間の身勝手な考えで否定され、魔王という型に嵌められ、世界の脅威となった。この事は誰も信じないかもしれないけど、僕はこの真実を受け入れる。そして、貴方を癒やすのは僕の役目だから」


 三人はただただ見ることしか出来なかった。希空は雫の元へ戻った。そして、希空は目を瞑り、両手を重ねるように胸元に置いた。そうすると、希空の胸元が光り輝き、希空はルーメンの杖を引き抜いた。


「希空、その杖……。魔力あるのか?」
「うん、皆のお陰かな。皆の優しさや温もりを沢山貰ったから、魔力はあるよ。隠しててごめんね。これも魔王と事前に話してたんだ……」
「俺達はまんまと騙されていたって事か」
「どうしても誰にも言えなくて、もう一人の僕が暴走しないためにも必要だったから。ごめんなさい」


 希空は三人に頭を下げた。そして、雫の横に立ち、手を出すように促し、フィディスから貰ったブレスレットをお互いの手首に絡ませ、手を繋いだ。


「これ、思い出しませんか? ゲームで連携攻撃した時を」
「……ああ、そう言えば、似たような事があったな。懐かしい」


 二人は手を強く握り締め、紫色の聖樹に杖を向けた。雫はどんな呪文をするか分からなかったが、自然と希空の温かい手から伝わってきた。



「光は太陽のように」
「闇は夜空のように」
「我らは生誕と終焉を常に見届け」
「森羅万象受け入れ、導く」
「「――ソウル・プリフィケーション!」」


 聖樹の周りを太陽系の惑星が聖樹を軸に公転し、徐々に回転が早くなり、空高く急上昇した。そして、全てが中心に集まり、一瞬強い光を放つと、それは弾け、細かい光の粒子が夜空に降り注ぐ流星のように、ナクア全体に降り注いだ。


「希空、ありがとう。君に出会えて良かったよ」
「……はい、貴方もゆっくり休んでください」


 聖樹は浄化され、纏わりついていた紫色のスライムも消えていった。そして、一つの小さなラベンダーグレーの球体が希空の元へ飛んできた。
 そして、希空はラベンダーグレーの球体を両手で受け取ると、そっと自分の胸元に当て、体内に取り込んだ。


「希空、大丈夫なのか? 瘴気を取り込んで」
「うん、大丈夫。ほぼ無害だし、体の中で浄化するから」
「あっ! ブレスレットが無くなってる! 希空の大事な物だろ、あれ」
「確かに大事な物だったけど、今はもっと大事なものがあるから」


 希空は微笑みながら、後ろで跪いていたフィディスの元へ駆け寄り、抱きついた。フィディスは突然の事で驚いた。そして、希空はフィディスの顔を真っ直ぐな目で見た。


「……ただいま。……って、なんか恥ずかしいね、こういうの。全部終わったよ」


 希空は泣き笑いしながら、フィディスの手を取った。フィディスは涙を堪えながら、希空を強く抱き締め、「おかえり」と震える声で返事をした。


「主、さっきの凄かった!」
「アレックスもここまで一緒に来てくれて、ありがとな。俺はやっぱり、お前がいないとダメだな」
「主、本当か!」


 雫は両手を広げた。アレックスは満面の笑みで雫の胸に思いっきり飛び込んだ。二人は地面に倒れ、雫はアレックスを抱き締めた。アレックスは人の姿だったのを忘れ、雫の顔にキスしたり、舐めたりした。


「これで大聖女オメル様の叶えたかった夢が……少しだけ終わったのかな」


 希空が空を見上げると、空からは光が射し、瘴気も消え、穏やかな領域となった。しかし、聖樹だけは枯れたままだった。


「大聖女オメル様も聖樹を完全に修復させる事は出来なかったんだから、僕達にも無理かな……」
「でも、いつか聖樹を元気にしたいよね。もしくは、新しい苗を植樹するとか」
「植樹はいいかもしれないね。枯れた聖樹は有効活用したいね、例えば、ライアーの素材とか。とりあえず今は早く帰ろう! 皆が心配して待ってると思うから」


 四人はギィの元へ行った。希空は初めて見るギィに感動した。四人はギィの背中に乗ると、ヴァニール海峡を越え、リードルフへ戻った。ギィは神殿へ戻ると言い、別れを告げた。
 雫は希空にローブを着せ、自分の物を希空から返してもらった。アレックスは狼の姿になり、希空とフィディス、雫は馬に乗り、神聖セルベン王国を目指した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】 ────────── 身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。 力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。 ※シリアス 溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。 表紙:七賀

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...