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第十章:最果ての地ナクアで待っていたものとは
10-4:Side Noa <ありがとうの涙>
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「お、お前は誰だ! もしや魔王だな。希空の姿をするとは卑怯だぞ!」
「あははははっ! そうだね、魔王かぁ。確かにここは魔王の魂の中だからね。でも、違うよ。フィディスとは何度も会ってるのにね」
高笑いする希空は、胸元に槍状のスライムに貫かれた傷跡があり、そこを中心に、稲妻が走ったような樹状がいくつもあり、体に広がっていた。
「お前とは会った記憶がない! 俺は騙されないぞ!」
「じゃあ、特別に教えてあげる。ドレッドが禁書で聖女の魔力を増幅させる方法を実践してからだね。あれはね、頭狂ってるなって思ったよ」
希空はドレッドがやった儀式の映像を流した。希空が泣き叫び、物のように扱われるのを見て、フィディスは怒りが込み上げた。そして、見切れるようにエミュが映っていたのにも驚いた。
「あ、エミュからこんな残酷な儀式の話されなかったもんね。エミュがいて、ビックリしたでしょ? エミュはただ見てるだけで、……僕の事なんて助けてくれやしなかった。……それはどうでもいいや。こんな事をやっても、何故僕の魔力が上がらなかったか? 分かる?」
「……申し訳ないが、分からない」
「そっか、分からないか。そうだよね。分かるはず無いもんね、残念」
希空がそう言うと、フィディスの目の前に瞬間移動してきた。フィディスは驚きと同時に、右太ももに鈍い痛みを感じた。よく見ると、サーベルが鎧を貫通し、太ももに突き刺さっていた。希空はサーベルを引き抜くと、フィディスの傷口を思いきり蹴り飛ばした。
「ぐぁぁっ!」
「正解は僕が生まれちゃったから。ね? もう一人の希空」
「うぐっ……、もう一人の希空、だと?」
血のついたサーベルを持った希空の後ろから見た目そっくりな希空が出てきた。しかし、その希空は大人しく控え目な印象だった。
「あ、因みに、皆には否定してたけど、国王陛下……じゃなくて、魔王の魂とは会ってるんだ。そこで、この世界の真理を知り、もう一人の僕が魔王と手を組んだのさ」
「おい、希空! なんか喋ったらどうだ」
フィディスが傷を庇って、奥にいる希空に近付こうとしたら、次は後ろから左太ももを刺され、蹴り飛ばされた。痛みでもがいていると、目の前に希空がただ立っていた。
「皆、全然気付かないんだもん」
「フィディスもやっぱり気付いてなかったよね?」
「俺が確証持てるのは、孤児院の火事で俺を助けてくれた時と瘴気に満ちた少年を助けた時くらいだ。あとは……分からない。……すまん」
「好きになった相手の区別すら出来ないとか、ありえないよね。男として最低」
サーベルを持った希空は、フィディスの背中、腕を次々と刺して、刺した部分を足で踏みつけたり、手でグリグリと捻じるように押した。その都度、フィディスは声を上げ、悶え苦しんだ。物静かな希空は悶えるフィディスに近付き、しゃがんだ。
「痛い? フィディスが一緒に飲み込まれるとは思っていなかった。なんで来ちゃったの? 折角、僕だけで終わらせようと思ったのに」
「もう一人の僕さ、コイツも殺しちゃおうよ。大聖女オメルの息子なんでしょ? 良い餌になるじゃん。はい、サーベル。このサーベルは切れ味抜群だよ」
希空はもう一人の希空に血まみれのサーベルを渡し、握らせた。希空はブレイドをフィディスの首元に近付けた。二人の様子を見ようと、ニタニタ笑う希空が数歩下がって、二人の間に立った。
「最後に聞いていい? 僕はフィディスにとって何だった?」
「希空は……俺にとって太陽であり、死んでも守ると誓った愛する人」
「そっか。……今までありがとう。そして、さようなら」
希空はサーベルを振り上げた。フィディスは愛する人に殺されるのなら、それも本能と思い、目を瞑った。サーベルが振り下ろされる音が聞こえた。しかし、いつまで経っても痛みを感じなかった。
「……ゴホッ。……な、何故だ。何故その男を殺さん!」
顔を上げると、もう一人の希空が体を斬られ、血を吐いていた。
「確かに、僕は身も心も穢れています。この世界も汚れきっています。魔王様が言っていた全てを消し去る意見も賛成でした。でも、……でも、こんな汚れた世界でも皆必死に模索しながら、生きてて、互いを助け合っている」
「孤児や種族差別、国同士の争いはどうするんだ! ……ゴホッゴホッ」
「それは僕がどうにかします。なんだかんだこの世界が好きだから。最後に、……もう一人の自分へ。今まで辛い事や苦しい事を全部背負わせて、ごめんなさい。貴方がいたお陰で、今の自分がいると思っている。本当にごめんなさい。これからは自分を大切にする。……ありがとう、バイバイ」
もう一人の希空は膝から崩れ落ちた。希空はもう一人の希空を抱き締めると、謝罪と感謝の気持ちを述べた。もう一人の希空は泣き笑いしながら、砂のようにサラサラと消えていった。
「ごめんね……。もう一人の自分が厄介で」
「いや、あれも希空だ。気付いてやれなかった俺にも責任がある。とりあえず今はゆっくり休ませてあげよう」
二人が手を取り合っていると、急に揺れを感じ、目の前の空間が歪んだ。希空はフィディスに肩を貸し、二人一緒に歪んだ空間へ飛び込んだ。
「あははははっ! そうだね、魔王かぁ。確かにここは魔王の魂の中だからね。でも、違うよ。フィディスとは何度も会ってるのにね」
高笑いする希空は、胸元に槍状のスライムに貫かれた傷跡があり、そこを中心に、稲妻が走ったような樹状がいくつもあり、体に広がっていた。
「お前とは会った記憶がない! 俺は騙されないぞ!」
「じゃあ、特別に教えてあげる。ドレッドが禁書で聖女の魔力を増幅させる方法を実践してからだね。あれはね、頭狂ってるなって思ったよ」
希空はドレッドがやった儀式の映像を流した。希空が泣き叫び、物のように扱われるのを見て、フィディスは怒りが込み上げた。そして、見切れるようにエミュが映っていたのにも驚いた。
「あ、エミュからこんな残酷な儀式の話されなかったもんね。エミュがいて、ビックリしたでしょ? エミュはただ見てるだけで、……僕の事なんて助けてくれやしなかった。……それはどうでもいいや。こんな事をやっても、何故僕の魔力が上がらなかったか? 分かる?」
「……申し訳ないが、分からない」
「そっか、分からないか。そうだよね。分かるはず無いもんね、残念」
希空がそう言うと、フィディスの目の前に瞬間移動してきた。フィディスは驚きと同時に、右太ももに鈍い痛みを感じた。よく見ると、サーベルが鎧を貫通し、太ももに突き刺さっていた。希空はサーベルを引き抜くと、フィディスの傷口を思いきり蹴り飛ばした。
「ぐぁぁっ!」
「正解は僕が生まれちゃったから。ね? もう一人の希空」
「うぐっ……、もう一人の希空、だと?」
血のついたサーベルを持った希空の後ろから見た目そっくりな希空が出てきた。しかし、その希空は大人しく控え目な印象だった。
「あ、因みに、皆には否定してたけど、国王陛下……じゃなくて、魔王の魂とは会ってるんだ。そこで、この世界の真理を知り、もう一人の僕が魔王と手を組んだのさ」
「おい、希空! なんか喋ったらどうだ」
フィディスが傷を庇って、奥にいる希空に近付こうとしたら、次は後ろから左太ももを刺され、蹴り飛ばされた。痛みでもがいていると、目の前に希空がただ立っていた。
「皆、全然気付かないんだもん」
「フィディスもやっぱり気付いてなかったよね?」
「俺が確証持てるのは、孤児院の火事で俺を助けてくれた時と瘴気に満ちた少年を助けた時くらいだ。あとは……分からない。……すまん」
「好きになった相手の区別すら出来ないとか、ありえないよね。男として最低」
サーベルを持った希空は、フィディスの背中、腕を次々と刺して、刺した部分を足で踏みつけたり、手でグリグリと捻じるように押した。その都度、フィディスは声を上げ、悶え苦しんだ。物静かな希空は悶えるフィディスに近付き、しゃがんだ。
「痛い? フィディスが一緒に飲み込まれるとは思っていなかった。なんで来ちゃったの? 折角、僕だけで終わらせようと思ったのに」
「もう一人の僕さ、コイツも殺しちゃおうよ。大聖女オメルの息子なんでしょ? 良い餌になるじゃん。はい、サーベル。このサーベルは切れ味抜群だよ」
希空はもう一人の希空に血まみれのサーベルを渡し、握らせた。希空はブレイドをフィディスの首元に近付けた。二人の様子を見ようと、ニタニタ笑う希空が数歩下がって、二人の間に立った。
「最後に聞いていい? 僕はフィディスにとって何だった?」
「希空は……俺にとって太陽であり、死んでも守ると誓った愛する人」
「そっか。……今までありがとう。そして、さようなら」
希空はサーベルを振り上げた。フィディスは愛する人に殺されるのなら、それも本能と思い、目を瞑った。サーベルが振り下ろされる音が聞こえた。しかし、いつまで経っても痛みを感じなかった。
「……ゴホッ。……な、何故だ。何故その男を殺さん!」
顔を上げると、もう一人の希空が体を斬られ、血を吐いていた。
「確かに、僕は身も心も穢れています。この世界も汚れきっています。魔王様が言っていた全てを消し去る意見も賛成でした。でも、……でも、こんな汚れた世界でも皆必死に模索しながら、生きてて、互いを助け合っている」
「孤児や種族差別、国同士の争いはどうするんだ! ……ゴホッゴホッ」
「それは僕がどうにかします。なんだかんだこの世界が好きだから。最後に、……もう一人の自分へ。今まで辛い事や苦しい事を全部背負わせて、ごめんなさい。貴方がいたお陰で、今の自分がいると思っている。本当にごめんなさい。これからは自分を大切にする。……ありがとう、バイバイ」
もう一人の希空は膝から崩れ落ちた。希空はもう一人の希空を抱き締めると、謝罪と感謝の気持ちを述べた。もう一人の希空は泣き笑いしながら、砂のようにサラサラと消えていった。
「ごめんね……。もう一人の自分が厄介で」
「いや、あれも希空だ。気付いてやれなかった俺にも責任がある。とりあえず今はゆっくり休ませてあげよう」
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