召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
91 / 117
第十章:最果ての地ナクアで待っていたものとは

10-2:瘴気の根源と真実

しおりを挟む
「……やめてよ。……知られたくなかったのに! 酷いよ!」
「酷い? ずっと隠し続けて、相手を騙して生きていく方がよっぽど酷いと思うけどな。穢れた聖女さん?」


 希空は困惑するフィディスを見て、涙が溢れ、頬を伝って流れた。その涙をドレッドは美味しそうに舐め取ると、口の中で味わった。


「さぁ、最終段階に行きましょうか。この老体も不要ですし、取り込んでしまいましょう」
「一体、何をする!」


 ドレッドの背後からシュッと何かが飛んできた音がした。今まで映し出された映像が全て消え、希空が隣を見ると、槍の形になったスライムがドレッドの体を貫いていた。刺された部分からは血が流れ落ち、口から血を吐いていた。


「うがっ! ……ごほっ!」
「――ひぃ! 嫌……、嫌ああぁぁっ!」


 希空はひどく驚き、悲鳴を上げた。ドレッドは刺されたまま、内部から魔力などをスライムに飲み干されていった。ドレッドはゆっくりと希空の顔を見た。ドレッドの表情は希空が転移したての頃のような優しい表情だった。


「希空……さ、ごほっ……。お許しく……だ……」
「ドレッド様!」


 希空は首を横に振りながら、ドレッドの名を泣きながら、呼んだ。ドレッドは最後の力を振り絞り、希空に触れようと手を伸ばしたが、触れる前に息絶え、スライムに捕食され、消えていった。


「希空、今助けるからな!」
「アレックス、俺を乗せて、希空の所まで飛べるか?」
「ギリギリ行ける……かもしれない」
「俺が跳躍力と移動速度を上がる補助魔法を二人にかけるよ」


 雫が二人に補助魔法をかけ終わり、今から助けに行こうとした時、スライムが一気に増殖し、聖樹全体を覆った。そして、ドクンドクンと脈打っていた。二人は飛び上がり、希空の目の前に来た。短い滞空時間でスライムから希空を引き剥がそうとした瞬間、グサッと刺さる音が聞こえた。


「――ぅぐっ、ああぁぁぁーっ!」
「希空!」


 希空の叫び声が大草原に響き渡る。希空をよく見ると、胸元に槍状のスライムが突き刺さっていた。そして、先端が釣り針のトリプルフックのような形状になると、希空の体にめり込んで、外れないようになった。
 フィディス達にも槍状のスライムが複数飛んできて、希空を助ける事が出来ず、元の位置へ戻った。


「んあああーっ! 痛い! 痛いよぉ! 嫌だぁ、やめて。……誰か助けて」
「これで我と繋がった。おおっ、やはり幼子は気持ちが良いものだな」
「希空、大丈夫か!」
「お前達には無理だ」
「なんだと!」
「――っ! 主、大丈夫か!」


 アレックスが雫を見ると、冷や汗をかき、膝をついて、顔色を悪そうにしていた。
 二人が希空を助けている間、雫が立っていた地面の下からスライムの触手が現れ、雫の体力と魔力を奪っていた。アレックスは急いで雫から触手を外した。


「さぁ、我と一つになって、混沌とした世界に天罰を下そうではないか」
「ぐっ……。まだ、はぁはぁ……。せ、選択肢が、……あ、貴方はそれを、うぐっ……。の、望んでないでしょ。――ひぎぃぃぃ! 痛い! やめて!」
「幼子、黙れ!」


 魔王の魂はそう言うと、ブラックホールのような歪んだ空間を聖樹の幹に展開した。


「何を言ってるんだ、アイツは」
「そうか、そうか。お前達には分からないか。瘴気の根源を」
「しょ……瘴気の根源は、人間の憎しみ、苦しみ、悲しみ……」
「流石に、そっちの聖女は知っていたか。人間は愚かで醜い。瘴気の根源が自分達なのに、あたかも魔族のせいにして、自分達は悪くないと思い込んでいる。聖樹ばかりに頼って、枯れ果てると、聖女に縋りつく。……そうだろう?」
「そうかもしれないが、魔王復活など、誰も望んでいない!」
「ふははははっ!」
「何がおかしい!」
「誰も望んでいないと? それは間違いだ。ただ一人望んでいる者がいる」


 三人は魔王の魂が言っている事が分からなかった。そんな話している間も、希空の体が少しずつ歪んだ空間に近付いていっていた。


「それは……この聖女さ」


 魔王の魂が言った言葉に、三人は衝撃を受けた。


「驚く事は無いだろう。我と一つになったコイツに聞けばよかろう。さて、無駄話はここまでだ」
「――そんな事はさせねぇ! うおぉぉーっ!」


 希空が歪んだ空間に飲み込まれるその時、フィディスは憤激の雄叫びを上げ、攻撃を避けながら、高く飛び上がり、希空とともに歪んだ空間へ飲み込まれていき、歪んだ空間は閉じられた。


「フィディス!」
「あぁ、フィディスと言う者は大聖女オメルの息子か。だから、同じ味がするのか」
「どういう事……」
「主、アレックスは我慢出来ない! アイツをやっていいか?」


 アレックスは牙を剥け、唸り声を出していた。そして、雫の制止を無視し、一人で勝手に魔王の魂へ向かった。


「人狼よ、いくら攻撃をしても無駄だ。そうだな、……一つ良い事を教えてやろう」
「なんだ!」
「大聖女オメルが何故、自らの使命までも捨て、子を授かったかを教えてやろうか?」
「オメル様は最後まで自らの使命を全うした!」
「それは半分正解で半分違う。正しい答えを教えてやろう。オメルは息子に自分の魔力を継承させ、自ら我の器になった」
「えっ……。なんで?」


 アレックスは攻撃をやめ、雫の元へ戻った。
 確かに大聖女オメルは聖樹の調査任務を任された。それは雫も手帳で見た覚えがある。しかし、その調査内容についての記述だけは何故かごっそりと抜け落ちていた。
 雫は顎に手を当て、オメルの手帳や皆から聞いた話を思い出し、考えた。考えている最中、魔王の魂は一切攻撃をしてこなかった。雫は一つの仮説に辿り着き、手に持っていたテネブリスの杖を見て、ハッとした。


「大聖女オメルは初めから瘴気の根源を理解していて、浄化をしても再びこうなる事が分かっていた。だから、子に魔力を継承させ、自分を器にして、お前を体内に取り込んだ。ライアーはお前の力を抑えるための道具。そして、テネブリスの杖……これは闇の杖。自分の中に魔王の魂を取り込んだ事は言えず、静かに暮らすはずだったが、アーデルハイト王国の聖女狩りで命を落とした」
「ほう、お前は頭が良いのだな。さぁ、その後は考えなくても分かるよな?」
「魔王の魂は聖女を転々とし、最終的に、神聖セルベン王国に行き辿り着き、国王の体を乗っ取った」
「素晴らしい。こんなに知能が高い人間に会えるとはな。お前を我が眷属にしたいものだ」
「魔王の眷属なんて嫌だね」
「それは残念だな」


 雫はとある疑問を抱いた。魔王の魂は何故、こちらを一切攻撃せず、むしろ真実を語ってくれているのだろうかと。普通ならさっさと殺して、自分の糧にするはずなのに、何故それをあえてしないのか。


(分からない……。なんで何もしてこない? 一体、中で何が起こってるんだろう? それに、希空とフィディスは無事なんだろうか?)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。 (あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?) なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。 甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。 二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。 《人物紹介》 柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。 女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。 ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。 顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。 ※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
 大陸を制覇し、全盛を極めたアティン帝国を一夜にして滅ぼした『大災厄』―――正体のわからぬ大災害の話は、御伽噺として世に広まっていた。  うっかり『大災厄』の正体を知った魔術師――ルリアージェ――は、大陸9つの国のうち、3つの国から追われることになる。逃亡生活の邪魔にしかならない絶世の美形を連れた彼女は、徐々に覇権争いに巻き込まれていく。  まさか『大災厄』を飼うことになるなんて―――。  真面目なようで、不真面目なファンタジーが今始まる! 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2019年春、エブリスタ長編ファンタジー特集に選ばれました(o´-ω-)o)ペコッ

聖獣王~アダムは甘い果実~

南方まいこ
BL
 日々、慎ましく過ごすアダムの元に、神殿から助祭としての資格が送られてきた。神殿で登録を得た後、自分の町へ帰る際、乗り込んだ馬車が大規模の竜巻に巻き込まれ、アダムは越えてはいけない国境を越えてしまう。  アダムが目覚めると、そこはディガ王国と呼ばれる獣人が暮らす国だった。竜巻により上空から落ちて来たアダムは、ディガ王国を脅かす存在だと言われ処刑対象になるが、右手の刻印が聖天を示す文様だと気が付いた兵士が、この方は聖天様だと言い、聖獣王への貢ぎ物として捧げられる事になった。  竜巻に遭遇し偶然ここへ投げ出されたと、何度説明しても取り合ってもらえず。自分の家に帰りたいアダムは逃げ出そうとする。 ※私の小説で「大人向け」のタグが表示されている場合、性描写が所々に散りばめられているということになります。タグのついてない小説は、その後の二人まで性描写はありません

【完結】転生して妖狐の『嫁』になった話

那菜カナナ
BL
【お茶目な挫折過去持ち系妖狐×努力家やり直し系モフリストDK】  トラック事故により、日本の戦国時代のような世界に転生した仲里 優太(なかざと ゆうた)は、特典により『妖力供給』の力を得る。しかしながら、その妖力は胸からしか出ないのだという。 「そう難しく考えることはない。ようは長いものに巻かれれば良いのじゃ。さすれば安泰間違いなしじゃ」 「……それじゃ前世(まえ)と変わらないじゃないですか」   他人の顔色ばかり伺って生きる。そんな自分を変えたいと意気込んでいただけに落胆する優太。  そうこうしている内に異世界へ。早々に侍に遭遇するも妖力持ちであることを理由に命を狙われてしまう。死を覚悟したその時――銀髪の妖狐に救われる。  彼の名は六花(りっか)。事情を把握した彼は奇天烈な優太を肯定するばかりか、里の維持のために協力をしてほしいと願い出てくる。  里に住むのは、人に思い入れがありながらも心に傷を負わされてしまった妖達。六花に協力することで或いは自分も変われるかもしれない。そんな予感に胸を躍らせた優太は妖狐・六花の手を取る。 ★表紙イラストについて★ いちのかわ様に描いていただきました! 恐れ入りますが無断転載はご遠慮くださいm(__)m いちのかわ様へのイラスト発注のご相談は、 下記サイトより行えます(=゚ω゚)ノ https://coconala.com/services/248096

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました

じゅん
BL
 人間領に進撃許可を出そうとしていた美しき魔王は、突如、前世の記憶を思い出す。 「ここ、RPGゲームの世界じゃん! しかもぼく、勇者に倒されて死んじゃうんですけど!」  ぼくは前世では病弱で、18歳で死んでしまった。今度こそ長生きしたい!  勇者に討たれないためには「人と魔族が争わない平和な世の中にすればいい」と、魔王になったぼくは考えて、勇者に協力してもらうことにした。本来は天敵だけど、勇者は魔族だからって差別しない人格者だ。  勇者に誠意を試されるものの、信頼を得ることに成功!   世界平和を進めていくうちに、だんだん勇者との距離が近くなり――。 ※注: R15の回には、小見出しに☆、 R18の回には、小見出しに★をつけています。

処理中です...