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第九章:エルフの国リードルフと黒龍神様
9-9:面倒くさい黒龍・ギィ
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「はい。私です」
「名は何という?」
「雫と申します」
黒龍は首を伸ばし、雫を至近距離で見てきた。そして、雫が持っていたテネブリスの杖に気付くと、急に笑い出した。三人はよく分からず、顔を見合わせた。
「なんだ、貴様は大聖女オメルの生まれ変わりか」
「いや、生まれ変わりでは……」
「では、何故テネブリスの杖……あの女の杖を持ってる?」
「えー、これは成り行きというか……」
「ふん、まぁいい。そんな事より礼を言おう。感謝する」
「いえ、それはどうも……こちらこそ。それより黒龍神様にお願いがあって、来ました」
「なんだ、言ってみろ。あと、黒龍神様という堅苦しい呼び方はやめろ。我はギィという名だ」
雫は黒龍から滲み出る威圧感に圧倒され、体が強張り、息が詰まり、なかなか言葉が出なかった。見かねた黒龍はため息をつき、気怠そうに体を起こすと、人の姿になった。
黒龍だけあってか、青白い肌に漆黒のような髪色とサファイアのような目、そして頭に二本の角が生えていた。
「ひ、人の姿になった!」
「なんだ? 人の姿になる事位、我の力であれば、容易い事だ」
「龍人族は初めて見たな。龍人族はそもそもこんな場所では無く、人が寄り付かない切り立った山の奥地で群れをなして生活するのが普通なはず……」
「あっ! アレックスと同じだ! 親と喧嘩して家出!」
「流石にそれはないよ。アレックスじゃあるまいし」
雫とフィディスが冗談だろうと思い、笑いながら、ギィを見ると、アレックスに図星を指されて、顔を真っ赤にし、激しく動揺していた。
「どうやら図星みたいだな」
「……そうみたいですね」
「人間風情が我の事を馬鹿にするな! あぁっ! 俺様は黒龍だぞ! これ以上、馬鹿にすると、貴様らの願い聞かんぞ!」
「あぁ、口調変わっちゃったよ……」
ギィは頬を膨らまし、そっぽを向いた。三人は怒らせてしまったとやや反省したが、よく見ると、尻尾をブンブンと振り、三人をチラチラ見ていた。
(お願いされるのを待っているのが……凄い伝わってくる)
「偉大なる黒龍ギィ様、俺達を最果ての地ナクアへ連れて行ってくれないでしょうか?」
「しょ、しょうがないな! 本来なら貴様らみたいな下等生物の願いなんぞ聞かんのだぞ。嬉しく思え!」
「あっ、はい。……ありがとうございます」
雫とフィディスは顔を見合わせ、表情からお互いに同じ感情を抱いているのが分かり、ため息をついた。
ギィは三人を置いて、神殿を出ようとした。三人は後を追った。ギィは神殿の扉を開けるかと思ったら、拳を握り締め、扉を殴って破壊した。
神殿外で待っていたアリーシャが突然の事で驚き、悲鳴を上げていた。ギィは高笑いしながら、アリーシャの横を通り過ぎた。雫はアリーシャを立ち上がらせ、怪我をしていないかあちこち見た。
「な、なんですか! あれは! 私達の神殿がぁ……」
「えっとね、……あれがアリーシャ達が信仰してきた黒龍神様だよ」
「はははっ、俺様こそが史上最強の黒龍だ! 下等生物ども、俺様を崇めよ! 長い間、何も食ってないんだ。食い物を献上しろ!」
「あぁ、なんで私達エルフ族一族は、ずっとこんな黒龍を信仰してたんだろう……」
「……大丈夫、皆そう思ってるから」
アリーシャが愕然とし、体から魂が抜けそうだった。雫はアリーシャの肩に優しく手を置くと、深く頷き、同情した。
「おい、エルフの女! 村まで案内しろ!」
「これは嘘だ、これは嘘だ…………」
アリーシャは頭を抱え、顔を横に振りながら、自分に言い聞かせるように独り言を言っていた。雫達は仕方なくギィをエルフ族の村へ案内する事にした。
雫とフィディスは馬に乗り、アレックスは狼の姿になり、アリーシャを背中に乗せた。皆が出発すると、ギィは漆黒の翼を広げ、空を飛びながら、ついてきた。
「あのさ、凄いぶっ飛んだ話するんだけどさ……」
「なんだ?」
「希空を助けたら、ギィは用済みな訳じゃん?」
「用済……、まぁ、役目は終えるな」
「セルベンまでついてきたり……しないよね?」
「それは流石に無いだろ」
「だってさ、あの性格でしょ? しかも、オメル様の事を知っていたし、ギィが壊せない壁画とあっさりとした仕掛け……。意図的に閉じ込められていたんじゃないのかなって」
「確かに言われてみれば……。まさか本当に俺の母親が?」
自分達の上空で、楽しそうに飛んでいるギィを見て、フィディスはため息をつき、額に手を当てた。そんなこんなで、エルフ族の村に近付いてきた。さっきまで心ここにあらずのアリーシャも全てを諦めたのか、潔い態度をしていた。
「名は何という?」
「雫と申します」
黒龍は首を伸ばし、雫を至近距離で見てきた。そして、雫が持っていたテネブリスの杖に気付くと、急に笑い出した。三人はよく分からず、顔を見合わせた。
「なんだ、貴様は大聖女オメルの生まれ変わりか」
「いや、生まれ変わりでは……」
「では、何故テネブリスの杖……あの女の杖を持ってる?」
「えー、これは成り行きというか……」
「ふん、まぁいい。そんな事より礼を言おう。感謝する」
「いえ、それはどうも……こちらこそ。それより黒龍神様にお願いがあって、来ました」
「なんだ、言ってみろ。あと、黒龍神様という堅苦しい呼び方はやめろ。我はギィという名だ」
雫は黒龍から滲み出る威圧感に圧倒され、体が強張り、息が詰まり、なかなか言葉が出なかった。見かねた黒龍はため息をつき、気怠そうに体を起こすと、人の姿になった。
黒龍だけあってか、青白い肌に漆黒のような髪色とサファイアのような目、そして頭に二本の角が生えていた。
「ひ、人の姿になった!」
「なんだ? 人の姿になる事位、我の力であれば、容易い事だ」
「龍人族は初めて見たな。龍人族はそもそもこんな場所では無く、人が寄り付かない切り立った山の奥地で群れをなして生活するのが普通なはず……」
「あっ! アレックスと同じだ! 親と喧嘩して家出!」
「流石にそれはないよ。アレックスじゃあるまいし」
雫とフィディスが冗談だろうと思い、笑いながら、ギィを見ると、アレックスに図星を指されて、顔を真っ赤にし、激しく動揺していた。
「どうやら図星みたいだな」
「……そうみたいですね」
「人間風情が我の事を馬鹿にするな! あぁっ! 俺様は黒龍だぞ! これ以上、馬鹿にすると、貴様らの願い聞かんぞ!」
「あぁ、口調変わっちゃったよ……」
ギィは頬を膨らまし、そっぽを向いた。三人は怒らせてしまったとやや反省したが、よく見ると、尻尾をブンブンと振り、三人をチラチラ見ていた。
(お願いされるのを待っているのが……凄い伝わってくる)
「偉大なる黒龍ギィ様、俺達を最果ての地ナクアへ連れて行ってくれないでしょうか?」
「しょ、しょうがないな! 本来なら貴様らみたいな下等生物の願いなんぞ聞かんのだぞ。嬉しく思え!」
「あっ、はい。……ありがとうございます」
雫とフィディスは顔を見合わせ、表情からお互いに同じ感情を抱いているのが分かり、ため息をついた。
ギィは三人を置いて、神殿を出ようとした。三人は後を追った。ギィは神殿の扉を開けるかと思ったら、拳を握り締め、扉を殴って破壊した。
神殿外で待っていたアリーシャが突然の事で驚き、悲鳴を上げていた。ギィは高笑いしながら、アリーシャの横を通り過ぎた。雫はアリーシャを立ち上がらせ、怪我をしていないかあちこち見た。
「な、なんですか! あれは! 私達の神殿がぁ……」
「えっとね、……あれがアリーシャ達が信仰してきた黒龍神様だよ」
「はははっ、俺様こそが史上最強の黒龍だ! 下等生物ども、俺様を崇めよ! 長い間、何も食ってないんだ。食い物を献上しろ!」
「あぁ、なんで私達エルフ族一族は、ずっとこんな黒龍を信仰してたんだろう……」
「……大丈夫、皆そう思ってるから」
アリーシャが愕然とし、体から魂が抜けそうだった。雫はアリーシャの肩に優しく手を置くと、深く頷き、同情した。
「おい、エルフの女! 村まで案内しろ!」
「これは嘘だ、これは嘘だ…………」
アリーシャは頭を抱え、顔を横に振りながら、自分に言い聞かせるように独り言を言っていた。雫達は仕方なくギィをエルフ族の村へ案内する事にした。
雫とフィディスは馬に乗り、アレックスは狼の姿になり、アリーシャを背中に乗せた。皆が出発すると、ギィは漆黒の翼を広げ、空を飛びながら、ついてきた。
「あのさ、凄いぶっ飛んだ話するんだけどさ……」
「なんだ?」
「希空を助けたら、ギィは用済みな訳じゃん?」
「用済……、まぁ、役目は終えるな」
「セルベンまでついてきたり……しないよね?」
「それは流石に無いだろ」
「だってさ、あの性格でしょ? しかも、オメル様の事を知っていたし、ギィが壊せない壁画とあっさりとした仕掛け……。意図的に閉じ込められていたんじゃないのかなって」
「確かに言われてみれば……。まさか本当に俺の母親が?」
自分達の上空で、楽しそうに飛んでいるギィを見て、フィディスはため息をつき、額に手を当てた。そんなこんなで、エルフ族の村に近付いてきた。さっきまで心ここにあらずのアリーシャも全てを諦めたのか、潔い態度をしていた。
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