召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第九章:エルフの国リードルフと黒龍神様

9-8:瘴魔クリスタル

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「なんで瘴気が! 今まで感じなかったのに。それより、フィディスとアレックスは大丈夫?」
「ああ、装備のお陰で問題無い」
「アレックスも大丈夫。それより黒龍の頭を見て」


 アレックスが指差す黒龍の頭を見た。そこには紫色の結晶が突き刺さっているのが見えた。


「あれ、一番嫌な感じ」
「瘴気の結晶?」
「あれは……瘴魔クリスタルだ。俺も初めて見るが、大型の種族を支配するために、魔族が相手の頭に突き刺して、自我を失わせ、洗脳する道具の一つだ」
「じゃぁ、あれを抜かないとダメって事? 俺の身長よりあるし、抜くにしても、抱きつく感じになっちゃう」
「主、黒龍起きちゃう!」


 黒龍は目をゆっくりと開けると、三人をギロッと見た。そして、顔を上げ、神殿が揺れる程の鳴き声を上げた。雫はひどく驚き、腰を抜かした。


「おい、雫。大丈夫か?」
「だ、だって、マジでヤバいじゃん! ほら、めっちゃこっち見てるよ! 逃げようよ」
「今ここで引き下がったら、希空を助けられんぞ! それでもいいのか?」
「良くないけどさ。じゃぁ、フィディスがそのなんちゃらボルグで頭の石を叩き割ってよ!」
「そんな事したら、黒龍の頭ごとカチ割る事になるし、エルフ族から目の敵にされる」
「主、ブレス来る!」


 二人が言い合っている内に、黒龍は大きく口を開け、火球を生成していた。それは見る見るうちに大きくなった。そして、二人目掛けて飛んできた。腰が抜けたままの雫を見かね、フィディスは舌打ちをして、雫の前に立った。


「対火炎シールド展開!」


 フィディスが叫ぶと、魔剣カラドボルグが巨大な盾に変形した。そして、床に突き立てて、吹き飛ばされないように体を踏ん張った。
 火球は盾にぶつかり、二つに分裂し、二人の両サイドを灼熱の爆風とともに、火が猛烈な勢いで流れていった。


「二人とも大丈夫か? それにしても、魔剣カラドボルグは流石の強度だ。……おい、雫。いつまで腰抜かしてんだ? もしかして、チビッたか?」
「チビッてないよ! か、考え事をしてただけ!」


 雫は頬を膨らましながら、テネブリスの杖に掴まり、足を震わせ、立ち上がった。雫は両手で頬を叩き、気合を入れた。その間、アレックスが黒龍の注意を引き付けていた。


「浄化するにしても、あの巨体は無理だし、打撃じゃ瘴魔クリスタルが脳内に残るか、黒龍を傷つけちゃうし……。あーっ! どうしたらいいの! 分かんないよ!」
「そんな事言うな。諦めるな」


 雫は頭をフル回転させて、考えた。二人が戦っている姿を見て、雫はある事に気付いた。


「もしかして、火球は連発出来ない? 次の火球がチャージされる前に、一瞬、無防備な時間がある? その隙を狙えば……。クリスタルが取り除けないのなら、ピンポイントで浄化魔法をかけるしか……」


 雫はアレックスとアリーシャの連携プレイとアリーシャの射撃技術を思い出し、いい案をひらめいた。そして、二人に聞こえるように案を伝えた。


「フィディス、アレックス! いい案をひらめいた!」
「お、なんだ?」
「フィディスが俺をまたシールドで守って、火球を吐き出した直後に、アレックスが鼻の上めがけて、氷属性の一撃を入れて、身動き出来なくなったとこで、俺が弓を撃って、瘴魔クリスタルを浄化させる! どう?」
「お前が弓を撃つ時は、お前も完全に無防備だぞ」
「でも、それしか方法が無いんだもん。やるしかない! 二人とも協力して!」


 雫が顔の前で手を合わせると、二人は快く受け入れてくれた。そして、タイミングを見計らって、三人は位置についた。


「火球来るぞ! 対火炎シールド展開!」
「汝、杖は弓のようにしなやかになりて、浄化の光は矢の如く――」


 フィディスは詠唱する雫の前で火球を受け止める準備をした。雫はテネブリスの杖を弓のように構え、自分の下に現れた金色の魔法陣からエネルギーを吸い上げ、一本の矢と一本の弦に変換させ、弓を引く体勢になった。
 その間に、フィディスは火球を受け止め、熱風が吹きつける。フィディスは横にズレ、万が一のために待機した。


「凍結強打拳!」


 アレックスはタイミングを見計らって、目にも留まらぬ速さで黒龍に近付くと、飛び上がり、黒龍の鼻の上に強烈な一撃を入れると、殴った部位から凍っていき、動きを封じた。
 アレックスはすかさず下がった。黒龍はモゾモゾと動き、抵抗し、氷がバキバキとひびが入る音が聞こえた。


「穢れし者を清らかにせよ。――破魔の矢!」


 ヒュンという音とともに、金色の矢が黒龍の頭に刺さっている瘴魔クリスタルへ向かって、放たれた。氷が砕け散る直前で、雫が放った矢は瘴魔クリスタルに突き刺さり、金色に光り輝いた。


「やったか?」


 三人は身構えながら、様子を窺った。瘴魔クリスタルはサラサラと砂のように消えていき、黒龍の頭の傷も自然と塞がった。


「もう瘴気を感じなくなったから、成功したのかも」
「主、やっぱり凄い!」
「やったな!」


 三人は肩を抱き合いながら、喜んだ。雫は弓の代わりをしてくれたテネブリスの杖に額を当て、小さい声で感謝を伝えた。


「貴様か? 我を浄化したのは?」


 三人が喜んでいると、鋭い目つきで見てくる黒龍がいた。三人は急に黙り込み、横一列に並んだ。
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