召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
86 / 117
第九章:エルフの国リードルフと黒龍神様

9-7:カッコいい姿を見せたかったわんこ

しおりを挟む
「何、ドヤってんだよ! アレックスもだけど、アリーシャちゃんもだよ! 何かあったら、長老に顔向け出来ないよ!」
「本当だ。どうしてこうなったのか聞きたい位だ。俺は全然怒ってないから、説明してもらおうか?」


 フィディスは顔を引き攣らせながら、笑っていたが、目が全く笑っていなかった。アレックスとアリーシャは二人に頭を下げ、謝った。そして、事の経緯を話し始めた。


「神殿は特殊な鍵が無いと入れないの。昨日、お祖父ちゃん……じゃなくて、長老様が言い忘れるし、渡しそびれちゃうし。それで、朝、宿屋に行ったら、もふもふちゃんが外にいたから、説明したら、雫さん達は先に行ったって――」
「わぁ! アリーシャ。それは言っちゃダメ! アレックス怒られちゃう」


 アレックスは慌てて、話に割って入ってきた。流石の雫も表情が強張り、握った拳を反対の手で包み込んでポキポキと音を鳴らし、静かに怒っていた。アレックスは耳を垂らし、咄嗟にアリーシャの後ろに隠れた。


「今度また勝手な事やったら、バリカンで体毛を全部刈るからね! 頭も坊主にするからね! 分かった?」
「それはかなりの屈辱だな。アレックス、ちゃんと謝った方がいいぞ」
「主、ごめんなさい。主にカッコいいとこを見せたくて……」
「命大事! アレックスが怪我したら、皆悲しむでしょ?」
「……うん」
「だったら、無茶な事をしない。分かった?」


 アレックスは泣きながら、雫に抱きついた。雫は呆れながら、アレックスの頭を優しく撫でた。


「雫、まるで母親みたいだな」
「母親みたいって言われるのはちょっと嫌だな……。そんな年とってないんだけどな」
「それより、アリーシャ。神殿の扉を開けて貰ってもいいか?」
「はい、今開けますね。私は中へは入らないので」
「中は他に仕掛けはないのか?」
「特に仕掛けはないです。私が個人的に入りたくないだけです」
「ああ……、そうか」


 アリーシャは龍の彫刻がされた指輪を取り出し、神殿の扉に嵌めた。そうすると、扉がゆっくりと奥に向かって、両開きで開いた。


「では、ご健闘を!」
「アリーシャちゃん、ありがとう。黒龍神様を浄化してくるね」


 雫達はアリーシャに手を振り、神殿の中へ入っていった。中は薄暗く、視界も悪かったため、雫は電球サイズの光の球体を術で出現させた。


「魔法が使えるって本当に便利」
「確かにそうだな。普通なら松明だからな。しかし、雫みたいに物体を常に浮遊させるのはごく一部の者にしか出来ない。下手すると、魔力切れを起こすぞ」
「あっ、そうなんだ。何気なく使ってるけど、あんまり使い過ぎないように気を付けよう」


 神殿の突き当たりに来たが、干からびた果物が供えられた祭壇しか無かった。


「奥まで来ちゃいましたね。……あっ、なんか壁に何か掘られてますね」


 雫は壁全体に明かりを当てた。そこには、大樹の前に太陽と月の神が立っており、それを人々が崇める彫刻等が彫られていた。


「凄いですね。あの大樹は聖樹ですかね? 一応、龍が飛んでいる絵もありますけど、どんな意味があるんでしょう?」
「なんだろうな? 仕掛けがあるんじゃないか?」
「でも、アリーシャちゃんが仕掛けは無いってさっき言ってたけど……」


 三人は手分けして、仕掛けが無いかを探した。壁を触っても、特に反応は無かった。フィディスが力任せで祭壇をずらそうとしたが、びくともしなかった。フィディスが他の場所を探そうとした時、祭壇にかけられた白布が装備に引っかかり、テーブルクロス引きに失敗したみたいに、祭壇の上にあった物が音を立てながら、床に散乱した。


「す、すまん。布が引っかかってしまった。……おい、雫。この祭壇を見ろ」


 雫はフィディスの元へ行き、白布が外された祭壇を見た。そこには手を当てる事が出来るような手形があった。


「この手形に手を当てればいいんですかね?」
「それ位しか考えられないだろ」
「……危なくないよね? 槍が突然飛んでくるとか、無いよね?」
「やるしかないだろ。何か出てきたら、俺達がなんとかする。おい、アレックスもこっちに来て、主を守れ」


 二人は雫を守るように、身を構え、周囲を注意深く観察した。雫も緊張した面持ちで片手を手形に近付けた。


「いくよ」
「ああ、構わん」


 雫は目を瞑り、手形に手を合わせた。恐る恐る目を開けると、手形が青白く光り出し、幾つもの細い溝に青白い光が毛細管現象のように祭壇から床へ流れ、最終的には壁画全体の溝まで行き渡った。そして、壁画が地響きを立てて、下がっていた。


「なるほど、こういう仕掛けか。きっと選ばれた者しか開けられないのだろう」
「……槍が飛んでこなくて良かった」
「主! 嫌な感じがする!」


 アレックスは耳をピンと立て、後ろに下がった。二人も念の為、後ろに下がった。壁画が下がりきると、更に奥行きがあり、そこには黒龍が大きな体を丸めて、居座っていた。それと同時に、紫色の靄となった瘴気がドライアイスのように流れ出てきた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...