召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第九章:エルフの国リードルフと黒龍神様

9-7:カッコいい姿を見せたかったわんこ

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「何、ドヤってんだよ! アレックスもだけど、アリーシャちゃんもだよ! 何かあったら、長老に顔向け出来ないよ!」
「本当だ。どうしてこうなったのか聞きたい位だ。俺は全然怒ってないから、説明してもらおうか?」


 フィディスは顔を引き攣らせながら、笑っていたが、目が全く笑っていなかった。アレックスとアリーシャは二人に頭を下げ、謝った。そして、事の経緯を話し始めた。


「神殿は特殊な鍵が無いと入れないの。昨日、お祖父ちゃん……じゃなくて、長老様が言い忘れるし、渡しそびれちゃうし。それで、朝、宿屋に行ったら、もふもふちゃんが外にいたから、説明したら、雫さん達は先に行ったって――」
「わぁ! アリーシャ。それは言っちゃダメ! アレックス怒られちゃう」


 アレックスは慌てて、話に割って入ってきた。流石の雫も表情が強張り、握った拳を反対の手で包み込んでポキポキと音を鳴らし、静かに怒っていた。アレックスは耳を垂らし、咄嗟にアリーシャの後ろに隠れた。


「今度また勝手な事やったら、バリカンで体毛を全部刈るからね! 頭も坊主にするからね! 分かった?」
「それはかなりの屈辱だな。アレックス、ちゃんと謝った方がいいぞ」
「主、ごめんなさい。主にカッコいいとこを見せたくて……」
「命大事! アレックスが怪我したら、皆悲しむでしょ?」
「……うん」
「だったら、無茶な事をしない。分かった?」


 アレックスは泣きながら、雫に抱きついた。雫は呆れながら、アレックスの頭を優しく撫でた。


「雫、まるで母親みたいだな」
「母親みたいって言われるのはちょっと嫌だな……。そんな年とってないんだけどな」
「それより、アリーシャ。神殿の扉を開けて貰ってもいいか?」
「はい、今開けますね。私は中へは入らないので」
「中は他に仕掛けはないのか?」
「特に仕掛けはないです。私が個人的に入りたくないだけです」
「ああ……、そうか」


 アリーシャは龍の彫刻がされた指輪を取り出し、神殿の扉に嵌めた。そうすると、扉がゆっくりと奥に向かって、両開きで開いた。


「では、ご健闘を!」
「アリーシャちゃん、ありがとう。黒龍神様を浄化してくるね」


 雫達はアリーシャに手を振り、神殿の中へ入っていった。中は薄暗く、視界も悪かったため、雫は電球サイズの光の球体を術で出現させた。


「魔法が使えるって本当に便利」
「確かにそうだな。普通なら松明だからな。しかし、雫みたいに物体を常に浮遊させるのはごく一部の者にしか出来ない。下手すると、魔力切れを起こすぞ」
「あっ、そうなんだ。何気なく使ってるけど、あんまり使い過ぎないように気を付けよう」


 神殿の突き当たりに来たが、干からびた果物が供えられた祭壇しか無かった。


「奥まで来ちゃいましたね。……あっ、なんか壁に何か掘られてますね」


 雫は壁全体に明かりを当てた。そこには、大樹の前に太陽と月の神が立っており、それを人々が崇める彫刻等が彫られていた。


「凄いですね。あの大樹は聖樹ですかね? 一応、龍が飛んでいる絵もありますけど、どんな意味があるんでしょう?」
「なんだろうな? 仕掛けがあるんじゃないか?」
「でも、アリーシャちゃんが仕掛けは無いってさっき言ってたけど……」


 三人は手分けして、仕掛けが無いかを探した。壁を触っても、特に反応は無かった。フィディスが力任せで祭壇をずらそうとしたが、びくともしなかった。フィディスが他の場所を探そうとした時、祭壇にかけられた白布が装備に引っかかり、テーブルクロス引きに失敗したみたいに、祭壇の上にあった物が音を立てながら、床に散乱した。


「す、すまん。布が引っかかってしまった。……おい、雫。この祭壇を見ろ」


 雫はフィディスの元へ行き、白布が外された祭壇を見た。そこには手を当てる事が出来るような手形があった。


「この手形に手を当てればいいんですかね?」
「それ位しか考えられないだろ」
「……危なくないよね? 槍が突然飛んでくるとか、無いよね?」
「やるしかないだろ。何か出てきたら、俺達がなんとかする。おい、アレックスもこっちに来て、主を守れ」


 二人は雫を守るように、身を構え、周囲を注意深く観察した。雫も緊張した面持ちで片手を手形に近付けた。


「いくよ」
「ああ、構わん」


 雫は目を瞑り、手形に手を合わせた。恐る恐る目を開けると、手形が青白く光り出し、幾つもの細い溝に青白い光が毛細管現象のように祭壇から床へ流れ、最終的には壁画全体の溝まで行き渡った。そして、壁画が地響きを立てて、下がっていた。


「なるほど、こういう仕掛けか。きっと選ばれた者しか開けられないのだろう」
「……槍が飛んでこなくて良かった」
「主! 嫌な感じがする!」


 アレックスは耳をピンと立て、後ろに下がった。二人も念の為、後ろに下がった。壁画が下がりきると、更に奥行きがあり、そこには黒龍が大きな体を丸めて、居座っていた。それと同時に、紫色の靄となった瘴気がドライアイスのように流れ出てきた。
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