召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
78 / 117
第八章:立ちはだかる脅威

8-7:謎多き聖職者アラン

しおりを挟む
 オロバスはぎりぎりと歯を噛み締め、アランを睨みつけた。しかし、血の滝への恐怖が勝り、アランに命乞いした。


「分かった! 俺様を貴様の眷属にしろ!」
「口が悪いですね」
「ぐっ……。わ、私を貴方様の眷属にしてください。――こ、これでいいだろ!」
「お利口ですね。では、地獄の門番さん、鎖を外してあげてください」


 アランがそういうと、オロバスに絡みついていた鎖は外された。アランは地獄の門に近付くと、門番らしき魔物と楽しそうに話していた。そして、深々と頭を下げると、地獄の門は閉まり、その場から消え去っていった。


「我は汝、オロバスと契りを交わし、我の眷属とする。世のため人のため、善を尽くし、悪しき心を改めよ。契約の円環!」


 アランが詠唱すると、オロバスは完全に獣人の姿となり、馬耳に、紅蓮のような赤髪と赤色の尻尾を靡かせ、肌は栗毛色で胸板が厚く、腹筋が割れており、スラッとした体型だった。


「げっ! なんで円環が首にあるんだよ!」
「それは私の趣味です。いかにも眷属っぽいじゃないですか」


 アランは雫に近付いた。雫は先程の事を思い出し、体をビクッと震わせ、後退りした。


「雫様、大丈夫ですよ。怖がらないでください。私はいつも通りの孤児院の管理者ですよ」
「あは……あははっ、そうですよね。ちょっと腰抜けちゃいました」
「皆さん、ご無事ですか? 立てる者は負傷者を助けなさい。さ、雫様は治癒魔法を」


 雫はアランに言われた通り、酷い怪我をしているエミュとフィディスを最優先とし、他の負傷者に治癒魔法をかけていった。


「アラン様、感謝いたします。その悪魔はどうされるおつもりですか?」
「アラン様、そこを退いてくれ! 俺はそいつを倒す!」
「まぁまぁ、皆さん落ち着いてください。このオロバスはとても利口な悪魔……いえ、私の眷属なので、下手な事は出来ません。皆さん、気軽にオロちゃんって呼んであげてください」
「はぁ? オロちゃんはねぇだろ!」
「因みに、逆らうと、こうなります」


 アランがオロバスの首に着いている円環を指差すと、少しずつ首が締まっていくのが分かった。オロバスは苦しみながら、膝から崩れ落ちた。オロバスが円環に手をかけて、外そうとしていたが、外れる気配は無かった。


「……といった感じですので、怖がらず」
「ゲホゲホッ! だから、首につけたんだな。それでも聖職者かよ!」
「まぁ、アラン様がそう仰るなら、お任せしましょう」
「納得はいかんが、仕方ない。……それよりも希空を追わなければ!」
「落ち着いてください。何者かが悪魔を召喚したとなると、少し厄介ですね。あと、色々と情報を整理しないといけません」
「希空を早く助けないと!」
「フィディスが一番動揺して、どうするんですか。この状況で希空様を助けに行っても、相手の思う壺ですよ」
「…………申し訳ありません」


 フィディスは地団駄を踏んで悔しがっていた。それは雫達も同じ気持ちだった。アランは事の発端を尋ねた。


「希空の部屋から物音がして、様子を見に行くと、希空が物凄い量の瘴気を体内から放出していて、雫が浄化しようとしたら、黒いローブを着たマスクの男が窓から侵入してきて、希空を連れ去りました。そして、マスクの男が紫色の瓶を地面に落としたら、魔物達がうじゃうじゃ出てきました」
「なるほど。そして、王宮には悪魔を放ち、教会側へ援護に行かせないようにしたと……」


 フィディスはアランに説明を済ませると、団員達に被害状況の確認と片付けをするように命令した。
 アランは髭を何度も触りながら、状況把握に努めた。


「では、希空様の部屋を見に行きましょう。何か手掛かりがあるかもしれません」


 アランはオロバスを連れて、皆で希空の部屋へ向かった。床には窓ガラスの破片が飛び散り、椅子が倒れていた。また一部が割れた小瓶が転がっていた。その状況を見たオロバスは失笑した。


「ここにいた奴は本当に人間か? 自分の器に瘴気を貯め込んでたとかじゃないよな?」
「何故、それが分かるんだ!」
「当たりか。この瓶、一見そこら辺にありそうなポーションに見えるが、違うね。これは、『瘴気活性薬』だ。こんな錬金、普通はしねぇな。俺だったら、瘴気を直接浴びさせるけどな」


 皆はオロバスの話を聞きながら、室内を隈なく捜索した。そして、雫は机に置いてあった木箱を開けた。その中には、カードが入っており、見た事があるような筆跡だと思い、エミュを呼んだ。


「エミュ、この筆跡って……」
「どれですか? えっ! こ、これはドレッド大司教様の筆跡……」


 エミュは血の気が引いた表情をし、開いた口を手で覆った。そして、雫は何か分かったのか、皆を集めた。


「あの村の遠征は不審な点があった。瘴気の流れも変だったし、希空が瘴気を吸収したのにも関わらず、ドレッド様は少年を『殺せ』と執拗に指示した。あと、実は瘴気を取り込んだ希空を浄化しようと、何度も試したんだけど、何故か出来なかったんだよね。それで、今回の件……。希空に瘴気があると知っていて、瘴気活性薬を錬金出来る人物じゃないと出来ない」
「ドレッド大司教様は錬金に精通してらっしゃいましたし、禁書にのめり込んでいました。孤児院の火災の件も希空様の聖女になる条件を模索していたかもしれませんね……」


 エミュは怒りが込み上げたのか、カードを握り潰し、拳を震わせていた。希空の部屋の捜索は終わったため、フィディスは団員に片付けを依頼した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...