召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第九章:エルフの国リードルフと黒龍神様

9-3:いよいよ旅の始まり

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 翌日、フィディスと雫は馬に荷物を括り、出発の準備をした。アレックスは狼の姿で移動するらしいが、雫が馬に乗る事に対して、不満を漏らしていた。


「主はアレックスの背中に乗ればいいのに、なんで馬に乗る?」
「流石に長旅だし、アレックスの背中に乗り続けたら、アレックスが背中を痛めるだろうし、荷物だってこんなにあるんだぞ」
「アレックス、不満なのは分かるが、俺達の馬に八つ当たりするなよ。俺の愛馬は気性が荒いんだから」
「ヘンリー、フィディスより希空を乗せたいって言ってる。気性が荒いのはお前だと言ってる」
「アレックスは馬とも喋れるのか……。って、そういう事は伝えなくて良いから」


 アレックスの言葉に対して、フィディスは拳を握り締めながら、静かに怒っていた。雫は苦笑いしながら、フィディスに謝った。アレックスは何故、雫が謝ったのか分からず、首を傾げていた。


「雫様、アレックス殿、フィディス! おはようございます。出発の支度は順調ですか?」


 声がする方を向くと、アランを筆頭に、教会関係者や団員達、そして、子供達など皆が集まっていた。


「準備は出来ました。俺達がいない間、よろしくお願いします」
「皆さん、出迎えありがとうございます。なるべく早く帰ってきます」


 アランとエミュは深く頷き、団員達は右手を左胸の上に当て、敬礼した。子供達はやはり寂しいのか、何人かぐずっていた。そんな中、セトがライアーを抱え、フィディスの元へ駆け寄った。そして、ライアーをフィディスに差し出した。


「フィディスお兄ちゃん、このライアー持っていって」
「ライアーは流石に使う場面が無いな」
「いいから! 持っていって!」


 セトは口を尖らせ、フィディスにライアーを押し付けた。フィディスはやや困惑し、エミュの顔を見た。エミュは表情とアイコンタクトで持っていくように伝えた。フィディスは仕方なくライアーを鞄の中へしまった。


「雫、忘れ物はないか?」
「はい、大丈夫です。……では、皆さん、行ってきます」


 二人は深々と頭を下げた後、馬に乗り、まずはエルフの国リードルフへ向け、出発した。


「それにしても、フィディスの甲冑姿を初めて見た気がする」
「ああ、いつもは軽装備か軍服だからな。これはアラン様の宝物庫にあった鎧だ。確か……暗黒騎士のなんとかとアラン様が言っていた」


 暗黒騎士らしい漆黒の色をしており、重厚感がある。体格が良いフィディスだからこそ着こなせる装備だ。背中には、これまた禍々しい大剣を背負っていた。


「あと、その剣は? フィディスって両手剣使いだったよね? ブレイドの長さが短くない?」
「これは魔剣カラドボルグというものらしく、所有者の魔力でブレイドの形や長さが変わるそうだ。俺は母である大聖女オメルの魔力を継承しているし、持ち運びに便利だから、アラン様が持っていけと渡してきた」
「なるほど……。なんでもありだな」
「雫はそのローブで大丈夫なのか?」
「うん。テネブリスの杖もあるし、魔女ケルナーのホワイトローブは丈夫で着やすいよ。……ただ魅了が高くなるのと、気に入った人を豚に変える固有魔法があるらしいです」
「豚にするのか……。雫自身が選んだのか?」
「いえ、アラン様が宝物庫奥のクローゼットから出してきて、いつの間にか着させられてました。一応、希空の分も持っていくようにって」
「アラン様は……本当に何を考えているのか」


 歩き始めて数時間が経った。前に遠征へ行った村が見えた。雫が懐かしさを感じていると、アレックスが両耳をピンと立て、村の方を見た。


「主、盗賊の音とニオイがあそこからする」
「え、あそこから? アレックスは聴覚と嗅覚がひときわ敏感だからな。俺は全然分からん」
「あそこはピエトラスの村か。侵入禁止の立て看板を立てたはずだが……」


 アレックスとフィディスはピエトラスの村へ進路を変え、走り出した。雫も慌てて、二人の後を追った。
 村へ到着すると、盗賊団が家から金目の物を物色していた。広場で待機していた盗賊団二人が馬の足音に気付いたのか、抜刀して待ち構えていた。


「止まれ! お前ら何者だ?」
「それはこっちの台詞だ。ここは立ち入り禁止区域だぞ。ここで何をしている」
「お頭、どうやら騎士団の連中みたいでっせ」


 盗賊団の頭は前に出てきた。そして、騒ぎを聞きつけ、他の盗賊団メンバーもゾロゾロと集まってきた。


「セルベンの騎士団か。……なんだ狼と弱そうな術士の三人だけか」
「お前が盗賊団の頭か。もう一度、忠告する。ここは国が指定した立ち入り禁止区域だ。直ちに立ち去れ」
「ふん、金目の物を盗ったら、帰るさ。野郎共、やっちまえ!」


 盗賊団はフィディスの忠告を無視して、武器を持ち、雫達に襲いかかってきた。


「フィディス、主。アレックスがやる。新しい武器の性能を確かめる」
「ああ、分かった」
「えっ! 任せちゃっていいの? あっちは十人位いるよ!」


 アレックスは話しながら、人の姿になると、軽く背伸びをすると、盗賊団に突っ込んでいった。雫は加勢した方が良いのではないかと、フィディスに提案しようと思ったが、抜刀せずに様子を見ていた。
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