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第八章:立ちはだかる脅威
8-3:適材適所なのは分かるけど
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「雫さんやエミュに相談しても、『心配する必要無い』って言われそうだしなぁ。ここは嫌だけど、意見をちゃんと言ってくれるフィディスに相談するか……」
希空は玄関から訓練場で鍛錬に勤しむフィディスに声をかけた。
「フィディス、フィディス! ダメだ、気付いてもらえない。……せーの、デカブツフィディス!」
希空の振り絞った声に気付いたのか、フィディスは睨みつけるような目でギロリと見て、納刀した。周りにいた団員達も動きを止め、驚き慌ててた。
「ちょっとあの馬鹿と話してくるから、お前達は鍛錬を続けていろ」
「は、はい!」
団員達はこの後の展開に冷や冷やしながら、自己鍛錬を再開した。フィディスは希空の元へやってきた。フィディスは怒り笑いしながら、希空に要件を聞いた。
「お前は人を名前で呼ぶ事さえも出来ないのか?」
「だって、なかなか気付いてくれないんだもん」
「それで、わざわざこんな時に何の用だ?」
「ナクアへ行く件」
「またその話かよ。お前も好きだな。俺じゃなくてもいいだろ?」
「フィディスじゃないとダメだから、こうやって呼んだんじゃん。ゆっくりと話すタイミングがお風呂ぐらいしか無いからさ、今夜、一緒にお風呂入ろう? お願いっ!」
希空は顔の前で手を合わせて、お願いした。フィディスはそういう問題じゃないと呆れ、頭を掻きながら、ため息をついた。
「分かったよ。俺は今日も自己鍛錬するし、お前は洗濯があるだろ? 時間を見計らって、大浴場へ行く。それで良いだろ?」
「本当に! やったぁ!」
希空はパァッと顔を明るくさせ、フィディスに抱きついた。
「おい、こら! 皆が見てるから、抱きつくな。変な誤解をされる」
「あ、ごめん。つい嬉しくて。じゃぁ、また夜に」
希空は満面の笑みでフィディスに手を振り、日常業務に戻った。
フィディスはやれやれといった感じで、後ろを振り向くと、団員達が察したかのような表情でこちらを見ていた。フィディスは拳をギリギリと握り締め、怒りのオーラを放ち、ゆっくりと近付き、団員達の前に立った。
「お前達、何も見てないよな? 鍛錬をしていたから、見る余裕なんて無かったよな?」
「は、はひっ!」
「嘘つくな! 俺が横目で時々見てたが、お前ら見てたよな、ずっと? 良いだろう、今日は特別に俺と組み手をやろうか。なに、俺は別に怒っては無いぞ? お前らの事を思って、言っているだけだからな?」
「ひぃっ!」
悪意に満ちたフィディスを見て、団員達は顔を青ざめ、震え上がっていた。
希空が二階の廊下を掃除していると、団員達の雄叫びと木刀同士が当たる音がいつにも増して、聞こえた。
「団員さん達も毎日大変だな……。だからこそ、皆が過ごしやすいように環境づくりしなきゃ。僕も頑張ろう」
希空は念入りに掃除をしたり、久々に厨房に立って、ローズマリー入りのハニーレモネードを多めに作った。ついでにレモンの蜂蜜漬けも一緒に作り、冷蔵庫に入れた。カレンにレシピと使い方を教え、レモネードは今日の夕食時に出すように伝えた。
◆◇◆◇◆◇
夜になり、希空は団員達が風呂を済ませたのを確認すると、いつものように、団員達の洗濯物を行なった。そのタイミングでフィディスが入ってきて、汚れたシャツを希空に渡した。希空は全て洗い終わると、外へ干しに行った。
なるべく手早く干していき、急いで大浴場へ戻り、体を洗い、湯船に浸かった。
「隣、行ってもいい?」
「ああ、……構わん」
「じゃ、お隣失礼します」
希空は奥にいるフィディスの隣まで移動した。湯気が立ち込める中、鍛え上げられた上半身につい目がいってしまう。
いつもは何とも思わないが、やはり裸で二人きりという状況だからか、胸がドキドキするし、緊張する。
「で、なんだ?」
「午前中に話した事。雫さんもアレックスもエミュもフィディスも強いって話。僕だけ何も強みが無くて、すごい他力本願になっちゃうし、僕がいる事で足手まといになるだけだし、必要なくない? って思ってさ」
フィディスは希空を横目でチラッと見て、ため息をついた。
「だから、自分を卑下し過ぎだ。お前は野営で美味しくて温かい食事を出してくれた。負傷者の手当てもしてくれた。皆、違う役割があるんだ。戦う事が全てではない。戦う者を支える事は長旅では必須だし、一番重宝される。それがお前だ」
「そうなのかなぁ? 適材適所かもしれないけどさぁ」
希空は釈然とせず、口元まで湯船に浸かり、ブクブクとさせた。
希空は玄関から訓練場で鍛錬に勤しむフィディスに声をかけた。
「フィディス、フィディス! ダメだ、気付いてもらえない。……せーの、デカブツフィディス!」
希空の振り絞った声に気付いたのか、フィディスは睨みつけるような目でギロリと見て、納刀した。周りにいた団員達も動きを止め、驚き慌ててた。
「ちょっとあの馬鹿と話してくるから、お前達は鍛錬を続けていろ」
「は、はい!」
団員達はこの後の展開に冷や冷やしながら、自己鍛錬を再開した。フィディスは希空の元へやってきた。フィディスは怒り笑いしながら、希空に要件を聞いた。
「お前は人を名前で呼ぶ事さえも出来ないのか?」
「だって、なかなか気付いてくれないんだもん」
「それで、わざわざこんな時に何の用だ?」
「ナクアへ行く件」
「またその話かよ。お前も好きだな。俺じゃなくてもいいだろ?」
「フィディスじゃないとダメだから、こうやって呼んだんじゃん。ゆっくりと話すタイミングがお風呂ぐらいしか無いからさ、今夜、一緒にお風呂入ろう? お願いっ!」
希空は顔の前で手を合わせて、お願いした。フィディスはそういう問題じゃないと呆れ、頭を掻きながら、ため息をついた。
「分かったよ。俺は今日も自己鍛錬するし、お前は洗濯があるだろ? 時間を見計らって、大浴場へ行く。それで良いだろ?」
「本当に! やったぁ!」
希空はパァッと顔を明るくさせ、フィディスに抱きついた。
「おい、こら! 皆が見てるから、抱きつくな。変な誤解をされる」
「あ、ごめん。つい嬉しくて。じゃぁ、また夜に」
希空は満面の笑みでフィディスに手を振り、日常業務に戻った。
フィディスはやれやれといった感じで、後ろを振り向くと、団員達が察したかのような表情でこちらを見ていた。フィディスは拳をギリギリと握り締め、怒りのオーラを放ち、ゆっくりと近付き、団員達の前に立った。
「お前達、何も見てないよな? 鍛錬をしていたから、見る余裕なんて無かったよな?」
「は、はひっ!」
「嘘つくな! 俺が横目で時々見てたが、お前ら見てたよな、ずっと? 良いだろう、今日は特別に俺と組み手をやろうか。なに、俺は別に怒っては無いぞ? お前らの事を思って、言っているだけだからな?」
「ひぃっ!」
悪意に満ちたフィディスを見て、団員達は顔を青ざめ、震え上がっていた。
希空が二階の廊下を掃除していると、団員達の雄叫びと木刀同士が当たる音がいつにも増して、聞こえた。
「団員さん達も毎日大変だな……。だからこそ、皆が過ごしやすいように環境づくりしなきゃ。僕も頑張ろう」
希空は念入りに掃除をしたり、久々に厨房に立って、ローズマリー入りのハニーレモネードを多めに作った。ついでにレモンの蜂蜜漬けも一緒に作り、冷蔵庫に入れた。カレンにレシピと使い方を教え、レモネードは今日の夕食時に出すように伝えた。
◆◇◆◇◆◇
夜になり、希空は団員達が風呂を済ませたのを確認すると、いつものように、団員達の洗濯物を行なった。そのタイミングでフィディスが入ってきて、汚れたシャツを希空に渡した。希空は全て洗い終わると、外へ干しに行った。
なるべく手早く干していき、急いで大浴場へ戻り、体を洗い、湯船に浸かった。
「隣、行ってもいい?」
「ああ、……構わん」
「じゃ、お隣失礼します」
希空は奥にいるフィディスの隣まで移動した。湯気が立ち込める中、鍛え上げられた上半身につい目がいってしまう。
いつもは何とも思わないが、やはり裸で二人きりという状況だからか、胸がドキドキするし、緊張する。
「で、なんだ?」
「午前中に話した事。雫さんもアレックスもエミュもフィディスも強いって話。僕だけ何も強みが無くて、すごい他力本願になっちゃうし、僕がいる事で足手まといになるだけだし、必要なくない? って思ってさ」
フィディスは希空を横目でチラッと見て、ため息をついた。
「だから、自分を卑下し過ぎだ。お前は野営で美味しくて温かい食事を出してくれた。負傷者の手当てもしてくれた。皆、違う役割があるんだ。戦う事が全てではない。戦う者を支える事は長旅では必須だし、一番重宝される。それがお前だ」
「そうなのかなぁ? 適材適所かもしれないけどさぁ」
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