召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第八章:立ちはだかる脅威

8-2:物思いにふける

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 アレックス以外の皆は席に座ると、ドレッドから招集があった事などを話し、資金の有効活用について相談した。


「そうだな。武器や防具、道具を取り扱っている王宮御用達の店に行っていいかもしれんが、ナクアまで行くなら、それなりに上質なものが良いかもしれん。ドワーフ族に頼みたいがなぁ……」
「確か、ドワーフ族は隣国のスタグレン連合国ですよね?」
「うむ。あそこへは雪山を超えなければならない。ここ最近は積雪も多く、坑道も閉鎖されているらしく、最低でも一週間はかかる。そこから武器や防具を作ってもらうとなると、六週間以上はかかる」
「えぇ! そんなにかかるんだ。僕はテネブリスの杖があるので大丈夫ですけど、アレックスの装備を一新してあげたいんですよね」
「僕はそもそも杖がいつ出てくるか分からないので、何とも言えないです」


 皆、頭をフル回転させ、より強い装備にするために、どうしたら良いか考えたが、良い案が出なかった。
 気付いたら、いつの間にか子供達の午睡の時間になっており、話し合いはお開きとなり、各自で何か良い案が無いかを考える事になった。


「俺は武器があるから、防具かぁ。そもそも聖女は防具着けんのか? アレックスはそろそろ武器更新したいだろ?」
「使い慣れたやつが一番良い。でも、耐久性もう無い」
「フィディスはどうするの? 第二騎士団の団長なんだから、第一から拝借するとか?」
「第一が落ちこぼれの第二の話を聞くと思うか? そりゃ拝借出来れば、今よりかは良いものにはなるが……。それより、お前はどうすんだよ?」
「ぼ、僕はルーメンの杖が胸元から出せるかどうかだし……。そもそも条件が分からないし、魔力が少ないっていう根本的問題。エミュはどうするの?」
「私は法具が無くても問題無いですけど、あった方が恩恵ありますからね……。意外と前途多難ですね」


 アランの部屋を出てから、外廊下をトボトボと歩き、無意識に中庭のベンチに座り、再び同じような話し合いをしていた。皆、ため息をついたり、頭を掻いたり、悩みに悩んだが、埒が明かなかったため、大人しく解散した。


◆◇◆◇◆◇


 希空が自室へ戻ると、机の上に年季の入ったアンティークレッドの色をした木箱が置かれていた。中を開けると、十センチ位の丸底フラスコ型のコルク付き小瓶ひとつとメッセージカードが入っていた。


『寝る前にどうぞ』


 希空はカードの裏面を見たが、特に名前は書かれていなかった。


「誰だろう? フィディス? いや、フィディスはこういうサプライズはやらなさそうだし……。団員の誰かかな?」


 希空はカードを中に戻すと、日常業務に戻った。日常業務も慣れてしまえば、完全に流れ作業だ。希空は手を動かしながらも、頭の片隅では装備の事を考えていた。


「魔力が無いから、魔力が予め充填されている法具を使えばいいのかな? いや、使い切りになるし、一回の魔力消費量が分からないから、多めに持っていっても荷物になるし……」
「おい、廊下の真ん中で立ち止まるな。通るのに邪魔だろ」


 フィディスはほうきを持ったまま、廊下のド真ん中で立ち止まっている希空に注意した。希空は空返事をし、手だけ動かしていた。フィディスはため息をつき、希空の尻を叩いた。フィディスはほんの軽く叩いたつもりだったが、希空は軽く飛び上がり、声を出して、驚いた。


「ひぁ!」
「おい、聞いてるのか? 廊下の真ん中で――」
「お尻叩くとか痛いじゃん! フィディスは軽く叩いたつもりかもしれないけど、馬鹿力なんだから、やめてよね!」
「少しは手加減したぞ?」
「だから! ……あぁ、もういいよ。それより、フィディスは何か良い案思いついた?」
「全然何も。まぁ、どうにかなるんじゃないか? 雫達もいるし、エミュもいるし」
「めっちゃ他力本願じゃん。ま、フィディスも強いのは聞かなくても分かるけど。はい、掃除の邪魔だから、早くあっちへ行ってください」
「なんだよ、つれねぇな」


 フィディスは少し拗ねて、午後の訓練に向けて、訓練場へ行った。希空も掃除が一段落したので、お昼を食べるために、食堂へ行った。
 昼食を食べながら、先程の事を思い出す。フィディスが言った通り、皆がいるし、強いのは知っている。


(これじゃ、僕が皆に他力本願じゃん……)


 ふかし芋をフォークで突きながら、考え事をしたり、深いため息をついていると、食堂にいた団員達が心配そうな顔で希空を何度もチラ見してきた。そして、その中の一人が希空に声を掛けた。


「希空様、先程から思い詰めた様子ですが、大丈夫ですか?」
「――ん? あぁ、そんな風に見えてた? ごめんね、大丈夫だよ。ありがとう」
「なら良いんですが。……もし、俺達で良ければ、いつでもお手伝いしますので!」
「気を遣ってくれて、ありがとう。声掛けてもらっただけでも嬉しいよ」


 希空は声をかけてきた団員に微笑み返した。団員は顔を赤くし、元の席へ戻った。希空は食事をパパッと済ませると、日常業務に戻った。
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