召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第七章:ピエトラスの村にいる穢れた少年

7-7:皆を想うそれだけで

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 雫は安心したのか、ため息をつき、二人に抱きついた。フィディスも納刀し、希空の背中を優しく撫でた。


「一時はどうなるかと思ったよ」
「僕も……。オメル様がお力をお貸しくださったんだと思う」
「希空、体内に取り込んだ瘴気は大丈夫なのか?」
「うん、たぶん大丈夫。丸くなって、殻に覆われてる感じ。だから、外には出てこないと思う」
「それより、君の名前を聞いていい?」
「俺はロゥって言います」
「ロゥ君、よろしくね」


 希空はロゥと握手した。そして、一緒に立ち上がった。


「あ、俺は村人を埋葬の儀式をしてから、アレックスに乗せてもらって、野営地に戻るよ」
「そうか。俺は希空を背負って、先に帰る。流石に歩けまい」
「うん、今回はお願いしようかな。ロゥ君、一緒に野営地へ行こう」
「ううん、俺も埋葬の儀式に参加する」
「そっか……。じゃ、手伝って貰おうかな」


 フィディスは希空を背負って、一足先に野営地へ戻った。雫はアレックスとロゥに穴を掘るようにお願いした。そして、並べられた亡骸達に手を合わせ、埋葬の儀式を行なった。亡骸から白い球体が出てきて、空高く飛んでいった。
 二人が掘ってくれた穴に亡骸を入れ、土をかけた。最後に、手を合わせると、アレックスとロゥが真似して、手を合わせていた。
 儀式も終わり、アレックスは狼の姿になった。そして、雫が乗ると、前にロゥを乗せて、野営地へ戻った。


「ただいま。あと、瘴気に当たった団員さん達の治療もするから、一か所のテントに集めて欲しい」
「雫、もう準備出来てる」
「フィディス、ありがとう」


 雫はアレックスにロゥの見守りをお願いし、テントへ入った。普通の人が瘴気に当たると、瘴気症と呼ばれる火傷のような痛みと痣、悪夢に魘される等の症状が出現する。
 雫はエミュから魔力回復ポーションを一箱貰い、重症者から順番に治療に当たり、ポーションを飲み、次の治療へと一人ずつ対応した。


「ふぅ、これで終わりか」


 全員の治療が終わり、雫はその場に座った。希空は団員達の看病にあたり、額に濡れタオルを置いてあげたり、汗ばんだ体を拭いてあげたりした。
 エミュが様子を見に、テントにやってきたため、雫は状況を説明した。そして、エミュに希空の手伝いをして欲しいとお願いした。


「雫様はゆっくりと休まれてください」
「そうだよ。あんだけ魔力使ったんだから、ゆっくり休んでよ! ここは僕達で看てるから、何かあったら、呼ぶよ」
「うん、ありがとう。お言葉に甘えて休もうかな。二人も無理しないでね。念の為、時々様子を見に来るから」


 希空とエミュの看病、そして、雫の定期的な診察は夜通し続いた。


◆◇◆◇◆◇


 翌日は眩しい位に太陽が昇り、雲一つない快晴だった。瘴気に当たった団員達も希空とエミュの看病のお陰で、明け方には症状も落ち着き、すっかり元気になった。ロゥの体の変化も見られず、雫は安心した。


「はぁ……、とりあえず良かった」


 燦々と降り注ぐ陽光は、まるで、自分達を温かく迎えてくれているように思えて、雫は大きく背伸びをした。瘴気に当たった団員達が雫の元へぞろぞろとやってきて、深々と頭を下げた。


「雫様、今回は本当にありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」
「皆が元気になっただけで、十分だよ」
「そんな……」
「俺よりも皆の世話を夜通しした希空とエミュにお礼を言ってあげて」
「希空様とエミュ司祭様が! しかも、夜通し?」


 丁度、一仕事終えた希空とエミュがテントから出てきた。


「うぅ……、徹夜明けの太陽は眩し過ぎる。目が潰れそう」
「そうですね。司祭になりたての頃、難しい仕事を引き受けてしまって、処理し終えたら、朝だったというのを思い出します……」


 二人が楽しそうに話していると、団員達が二人の元へやってきて、深々と頭を下げた。


「希空様、エミュ司祭様! 俺達の世話を夜通ししてくださって、本当に感謝します!」
「聖職者として、当たり前のことをしたまでですよ」
「僕は元々、団員さん達のお世話してたし、どうって事ないよ」


 二人は徹夜明けで疲れているはずなのに、それを感じさせない温かな笑顔で微笑み返した。


「さぁ、朝食を摂りましょう」


 軽い朝食を摂り、フィディスの指示で設営の撤去が始まった。そして、荷馬車にテントなどを入れると、出発の時間となった。
 眠そうにふらふらしている希空がフィディスの元へやってきた。


「いくらフィディスが乗せてくれるからと言っても、こんな腑抜けじゃヘンリーから落ちちゃいそう」
「お前は寝てないんだ。寝心地は悪いかもしれんが、荷馬車で寝ておけ」
「うん、そうしようかな。ありがとう」


 希空は後列の荷馬車へ小走りで向かった。そして、乗り込むと、すでに先客がいた。


「ロゥ君に、アレックスに、雫さんまで! どうしたの?」
「俺は箱馬車内の居心地が悪くてさ。あとはロゥ君を見守る責任もあるしね。ま、本当はめっちゃ眠いんだけどね」


 希空が乗り込むと、出発の号令が聞こえ、荷馬車が動き始めた。雫、ロゥ、希空が川の字で横になり、ロゥの足元にはアレックスが狼の姿で丸まっていた。


「こうやって並んで寝るの、久々だね」
「ああ、そうだね」
「もうちょっとくっつかない? ロゥ君はギューしてあげる」


 希空はロゥを優しく包み込むようにした。そして、子供をあやすようにポンポンとしてあげた。雫も近付き、希空に腕を回した。


「無事に終わって良かったね」
「うん、そうだね」
「またいつもの日常かぁ……」


 希空が明日の事を考えていると、すでに雫もロゥも寝息を立てていた。希空は二人の寝顔を見て、自然と笑みが溢れる。そして、自分も目を閉じて、眠りについた。
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