召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第七章:ピエトラスの村にいる穢れた少年

7-5:迫られる選択と生贄の薬

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 ドレッドが指示すると、団員達は家の中を捜索し始めた。雫は希空に近くへ来るように手招いた。


「奥の家から出てる瘴気が一番強いから、あそこを一緒に調べよう」
「僕なんかが行って、大丈夫かな」
「大丈夫だよ。防御魔法もかけてあるし」


 希空は怖くて、思わず雫の服を掴んだ。雫はゆっくりと瘴気が漂う家へと進んだ。家の玄関を開け、中へ入ろうとした瞬間、禍々しい紫色の瘴気が突風のように吹き付けてきて、二人は風圧で外へ投げ飛ばされた。音を聞きつけ、ドレッドが遠くから声を掛ける。


「雫様、大丈夫ですか?」
「いてて……。だ、大丈夫です。希空は大丈夫か?」
「うん、大丈夫だけど……、それより、あれ見て」


 希空が何かを見つけたのか、家の中を指差した。瘴気の合間から何かが見えた。雫は目を凝らすと、十代位の少年が不適な笑みを浮かべ、立っていた。少年の体からは瘴気が立ちのぼり、血色に光る瞳をしていた。少年はゆっくりと二人に近付いてきた。


「これヤバいよ。瘴気が尋常じゃない! 皆に逃げるように言わなきゃ」
「雫さん、僕達も逃げなきゃ!」


 二人は立ち上がり、手を繋ぎ、皆が待機してる門の前へ急いだ。


「皆さん、逃げてください! 危ないです!」
「お前達、退避だ!」


 フィディスの指示で、団員達は退避の準備をして、逃げようとした時、少年が猛獣のような雄叫びを上げ、突風を引き起こした。
 団員達は突風で後ろへ吹き飛ばされた。団員達に施した防御魔法のシールドもガラスのように砕け散り、瘴気が団員達の体を蝕んだ。


「ドレッド大司教様、早く退避しましょう! 雫様が仰る通り、今まで以上に危険です」
「いや、瘴気の元凶を見つけたんだ。帰る訳にはいかん」


 エミュがドレッドに退避の提案をしたが、ドレッドは聞く耳を持たなかった。後ろでは瘴気で苦しむ団員達がいた。


「雫さん、どうしよう……」
「仕方ない。浄化魔法をするしかないよ。ここならある程度広いし、なんとかなるでしょ」


 雫は立ち上がり、テネブリスの杖を持ち、術を唱えようとした。しかし、その時、後ろからドレッドが大声で指示をしてきた。


「雫様、浄化ではなく、聖属性の魔法で敵を殺しましょう!」
「ドレッド大司教様! まだ幼い子供ですよ!」
「いいから、やれ。そいつを殺せ!」


 雫は一瞬、手を止めた。確かに、浄化魔法は浄化完了までその場から動く事が出来ず、ダイレクトに攻撃を受けてしまう。この瘴気の強さだと少年の心臓を狙って、聖属性魔法を当てた方が被害を最小限に出来る。
 でも、この少年は瘴気に蝕まれているが、まだ生きている気がした。


「どうしたらいいんだ。……俺は殺せない」
「雫さん……」


 次の瞬間、少年が瞬間移動し、雫の首を片手で締め、軽々と持ち上げ、空中に浮いた。


「お前も俺を必要無いと思ってるんだ。皆と一緒だ。要らない子はいなくなれと思っている大人と一緒だ」
「うぐっ……く、ぐるじい……」
「主! 今、助けに行く!」
「ぐ、来るな。危……ないから……」


 雫は目の前がぼやけ、力が入らなくなり、持っていた杖を落とした。そして、少年は雫を横に投げ飛ばした。雫は横にあった家の壁を突き破り、木々がへし折れる音や食器棚から食器が落ち、何枚も割れる音が中から聞こえてきた。


「雫さん!」
「主!」


 アレックスが血相を変えて、雫の元へ走った。希空が雫の事を心配していると、少年が近付いてきた。希空は腰が抜け、必死に後退りした。


「お前、俺と同じニオイする。お前も要らない子か?」
「えっ……。僕は……」
「まぁ、いい。お前も今から楽にしてやる。皆みたいに」


 希空はもうダメかと思ったが、ここで引き下がったら、雫も団員達も皆、死んでしまうと思い、思った事を咄嗟に口にした。


「――っ! ちょっと待って! だったら、死ぬ前に君と話がしたい」
「ふん、いいだろう。少し時間をやる」


 少年は足を地に着けると、希空の前に立った。希空は改めて感じる少年から発される瘴気の凄さに息を呑んだ。


「直球で聞くけど、なんでこんな事をしたの?」
「それはさっき言った通り、親も村の連中も俺を要らない子と言ったからだ。俺は何もしていないし、普通に暮らしていただけなのに、急に言い出した」
「えっ……、急に言い出したの? 普通に暮らしてたのに?」
「ああ、天からのお告げだそうだ。そしたら、村長が浄化の薬を僕に無理矢理飲ませた。浄化の薬なんて嘘だった。俺は体の中が燃える様な熱さに、のたうち回る程の苦しみを味わいながら、いつの間にかこうなっていた」
「ちょ、ちょっと待って。――その薬、本で読んだ事ある! その薬は生贄の薬だよ。でも、生贄の薬は禁書レベルだし、普通の人が持っているとは到底思えない」
「生贄の薬か……。笑えるな。じゃ、俺はいつか誰かの血肉になるのか」


 少年は高笑いしながらも、目からは血色の涙を流していた。希空は胸が締め付けられるような気持ちになり、少年を優しく抱き締めた。
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