64 / 117
第七章:ピエトラスの村にいる穢れた少年
7-3:相手を思いやる気持ち
しおりを挟む
設営も終わり、雫達も箱馬車から降りてきたので、食事の時間となった。今日は、オートミールのトマトポリッジに、フラットブレッドに塩コショウで味付けしたスモークチキンを持ちやすいようにロールサンドイッチにしたものだ。
「アレックス? ご飯だよ」
希空は箱馬車の御者台で寝そべっていたアレックスを起こすと、食事の場所まで案内して、食事を提供した。
「希空のご飯! いただきます!」
「ゆっくり食べてね」
希空はアレックスの気持ちが良いほどの食べっぷりを見ながら、食事を共にした。食事が終わると、アレックスからブラッシングをせがまれた。ジルベルトは「片付けは俺達でやっておく」と言ってくれたため、希空はアレックスのブラッシングをやった。
「ねぇ、アレックスは雫さんの事好き?」
「うん! アレックスは主の事大好き!」
「そうなんだぁ」
「希空は主の事好きなのか?」
「僕? 好きだけど、友達としてかなぁ」
希空はアレックスのブラッシングが終わると、ブラシを返した。そして、テントに入ろうとした時、ブラッシングをしてもらって、ご満悦なアレックスに声をかけた。
「あ、そうだ。たぶんそんな状況は無いと思うけど、雫さんにもし何かあったら、全力で守ってあげてね」
「任せて! 主を守るの、アレックスの役目」
「そうだよね。……じゃぁ、おやすみ」
希空はテントへ入った。基本的には大きなテントに三人程度で寝るのだが、フィディスは騎士団長という職権を乱用し、希空専用の小さな一人用テントを用意したらしい。テントで寝るなんて初体験で寝付けるか不安になり、希空は目を閉じて、羊を数えた。
◆◇◆◇◆◇
やはり、硬い地面の上は慣れず、すぐ目が覚めてしまった。希空は寝付けず、こっそり野営場の近くにある小さな湖へ行った。夜空は雲も少なく、星々が輝き、月の明かりが湖面に反射し、さざ波でキラキラとしていた。
「綺麗だな。本当にこの先にある村が大変な事になってるとは思えない……」
希空は体育座りをして、どんな星座があるかを探した。そんな事をしていると、後ろの草むらからガサガサと音がして、咄嗟に振り返った。
「なんだ、お前か」
「なんだ、フィディスか。ビックリした」
草むらから現れたのは、見張りの交代を終えたフィディスだった。希空が胸を撫で下ろしていると、フィディスは希空の隣に座った。
「テントを見たら、お前がいなかったから、逃げ出したのかと思った」
「に、逃げ出したりしないよ。ここまで来たんだから」
「ま、そうだろうな。そう言えば、団員達がミサンガとやらを喜んでいたぞ。お前が子供達に教えたんだろ?」
「皆、喜んでくれたんだ。良かった」
「俺は貰ってないが。子供達に聞いても、誰も何も教えてくれなかった」
「じゃ、利き足と反対側の足出して。あ、ブーツ脱いでね」
「ん? なんだ? 蒸れた足でも嗅ぎたいのか?」
「違うよ! いいから、早く脱いで」
フィディスは不思議で納得がいかないような顔で希空を見た。そんな顔をするフィディスを急かし、ブーツを脱がせた。希空はフィディスの足元に座り直すと、ズボンの裾をたくし上げた。そして、ポケットから紐状のものを取り出し、フィディスの左足首に結び始めた。
「どんな事があっても、フィディスをお守りください。……っと、良かったぁ。ギリギリ結べた」
フィディスは自身の左足首を見ると、黒と白の二色で編まれたV字模様のミサンガだった。綺麗に編まれており、フィディスはミサンガの触り心地を確かめるように指でなぞった。希空は少し恥ずかしそうに照れ笑いしていた。
「白は健康、黒は魔除けの意味があって、着ける位置で意味があって、利き足と反対側の足首は金運アップなんだけど、活力向上っていう意味もあるんだ」
「願掛けみたいなものか?」
「うん、そんな感じ。切れたら、願いが叶うんだよ」
「お前が頑張って作ったものだろう? 切れると勿体無いな」
「いやいや、切れないと願いが叶わないから。あと、切れたら、きちんと処分してよね」
「そういうものなのか」
フィディスは残念そうな顔をし、希空が結んでくれたミサンガを指で一周なぞると、ズボンの裾を正し、ブーツを履いた。フィディスが身なりを整え終わるのを確認すると、希空は思い詰めたように、口を開いた。
「あのさ、……僕って本当に役に立ってるのかな?」
「ああ。団員達は希空のお陰で、前より快適に生活出来ているし、士気も上がっている」
「ううん、そうじゃなくて。聖女として……役に立ってるのかなって」
フィディスは悩ましい顔をする希空の横顔を見ると、再び星空を見上げた。
「雫さんの方が圧倒的に魔力量が多いし、僕とは天と地の差。聖女の素質だってある。僕も自分なりに必死に頑張ってるけど、成果が出せなくて、ドレッド様には愛想を尽かされて、他の司祭の人達も僕の事を良いように思ってないみたいだし……」
「そうなのか?」
「ああ、僕ってこの世界にいても、望まれる事が出来なくて、僕の存在意義って一体なんだろうって」
「アレックス? ご飯だよ」
希空は箱馬車の御者台で寝そべっていたアレックスを起こすと、食事の場所まで案内して、食事を提供した。
「希空のご飯! いただきます!」
「ゆっくり食べてね」
希空はアレックスの気持ちが良いほどの食べっぷりを見ながら、食事を共にした。食事が終わると、アレックスからブラッシングをせがまれた。ジルベルトは「片付けは俺達でやっておく」と言ってくれたため、希空はアレックスのブラッシングをやった。
「ねぇ、アレックスは雫さんの事好き?」
「うん! アレックスは主の事大好き!」
「そうなんだぁ」
「希空は主の事好きなのか?」
「僕? 好きだけど、友達としてかなぁ」
希空はアレックスのブラッシングが終わると、ブラシを返した。そして、テントに入ろうとした時、ブラッシングをしてもらって、ご満悦なアレックスに声をかけた。
「あ、そうだ。たぶんそんな状況は無いと思うけど、雫さんにもし何かあったら、全力で守ってあげてね」
「任せて! 主を守るの、アレックスの役目」
「そうだよね。……じゃぁ、おやすみ」
希空はテントへ入った。基本的には大きなテントに三人程度で寝るのだが、フィディスは騎士団長という職権を乱用し、希空専用の小さな一人用テントを用意したらしい。テントで寝るなんて初体験で寝付けるか不安になり、希空は目を閉じて、羊を数えた。
◆◇◆◇◆◇
やはり、硬い地面の上は慣れず、すぐ目が覚めてしまった。希空は寝付けず、こっそり野営場の近くにある小さな湖へ行った。夜空は雲も少なく、星々が輝き、月の明かりが湖面に反射し、さざ波でキラキラとしていた。
「綺麗だな。本当にこの先にある村が大変な事になってるとは思えない……」
希空は体育座りをして、どんな星座があるかを探した。そんな事をしていると、後ろの草むらからガサガサと音がして、咄嗟に振り返った。
「なんだ、お前か」
「なんだ、フィディスか。ビックリした」
草むらから現れたのは、見張りの交代を終えたフィディスだった。希空が胸を撫で下ろしていると、フィディスは希空の隣に座った。
「テントを見たら、お前がいなかったから、逃げ出したのかと思った」
「に、逃げ出したりしないよ。ここまで来たんだから」
「ま、そうだろうな。そう言えば、団員達がミサンガとやらを喜んでいたぞ。お前が子供達に教えたんだろ?」
「皆、喜んでくれたんだ。良かった」
「俺は貰ってないが。子供達に聞いても、誰も何も教えてくれなかった」
「じゃ、利き足と反対側の足出して。あ、ブーツ脱いでね」
「ん? なんだ? 蒸れた足でも嗅ぎたいのか?」
「違うよ! いいから、早く脱いで」
フィディスは不思議で納得がいかないような顔で希空を見た。そんな顔をするフィディスを急かし、ブーツを脱がせた。希空はフィディスの足元に座り直すと、ズボンの裾をたくし上げた。そして、ポケットから紐状のものを取り出し、フィディスの左足首に結び始めた。
「どんな事があっても、フィディスをお守りください。……っと、良かったぁ。ギリギリ結べた」
フィディスは自身の左足首を見ると、黒と白の二色で編まれたV字模様のミサンガだった。綺麗に編まれており、フィディスはミサンガの触り心地を確かめるように指でなぞった。希空は少し恥ずかしそうに照れ笑いしていた。
「白は健康、黒は魔除けの意味があって、着ける位置で意味があって、利き足と反対側の足首は金運アップなんだけど、活力向上っていう意味もあるんだ」
「願掛けみたいなものか?」
「うん、そんな感じ。切れたら、願いが叶うんだよ」
「お前が頑張って作ったものだろう? 切れると勿体無いな」
「いやいや、切れないと願いが叶わないから。あと、切れたら、きちんと処分してよね」
「そういうものなのか」
フィディスは残念そうな顔をし、希空が結んでくれたミサンガを指で一周なぞると、ズボンの裾を正し、ブーツを履いた。フィディスが身なりを整え終わるのを確認すると、希空は思い詰めたように、口を開いた。
「あのさ、……僕って本当に役に立ってるのかな?」
「ああ。団員達は希空のお陰で、前より快適に生活出来ているし、士気も上がっている」
「ううん、そうじゃなくて。聖女として……役に立ってるのかなって」
フィディスは悩ましい顔をする希空の横顔を見ると、再び星空を見上げた。
「雫さんの方が圧倒的に魔力量が多いし、僕とは天と地の差。聖女の素質だってある。僕も自分なりに必死に頑張ってるけど、成果が出せなくて、ドレッド様には愛想を尽かされて、他の司祭の人達も僕の事を良いように思ってないみたいだし……」
「そうなのか?」
「ああ、僕ってこの世界にいても、望まれる事が出来なくて、僕の存在意義って一体なんだろうって」
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる