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第七章:ピエトラスの村にいる穢れた少年
7-3:相手を思いやる気持ち
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設営も終わり、雫達も箱馬車から降りてきたので、食事の時間となった。今日は、オートミールのトマトポリッジに、フラットブレッドに塩コショウで味付けしたスモークチキンを持ちやすいようにロールサンドイッチにしたものだ。
「アレックス? ご飯だよ」
希空は箱馬車の御者台で寝そべっていたアレックスを起こすと、食事の場所まで案内して、食事を提供した。
「希空のご飯! いただきます!」
「ゆっくり食べてね」
希空はアレックスの気持ちが良いほどの食べっぷりを見ながら、食事を共にした。食事が終わると、アレックスからブラッシングをせがまれた。ジルベルトは「片付けは俺達でやっておく」と言ってくれたため、希空はアレックスのブラッシングをやった。
「ねぇ、アレックスは雫さんの事好き?」
「うん! アレックスは主の事大好き!」
「そうなんだぁ」
「希空は主の事好きなのか?」
「僕? 好きだけど、友達としてかなぁ」
希空はアレックスのブラッシングが終わると、ブラシを返した。そして、テントに入ろうとした時、ブラッシングをしてもらって、ご満悦なアレックスに声をかけた。
「あ、そうだ。たぶんそんな状況は無いと思うけど、雫さんにもし何かあったら、全力で守ってあげてね」
「任せて! 主を守るの、アレックスの役目」
「そうだよね。……じゃぁ、おやすみ」
希空はテントへ入った。基本的には大きなテントに三人程度で寝るのだが、フィディスは騎士団長という職権を乱用し、希空専用の小さな一人用テントを用意したらしい。テントで寝るなんて初体験で寝付けるか不安になり、希空は目を閉じて、羊を数えた。
◆◇◆◇◆◇
やはり、硬い地面の上は慣れず、すぐ目が覚めてしまった。希空は寝付けず、こっそり野営場の近くにある小さな湖へ行った。夜空は雲も少なく、星々が輝き、月の明かりが湖面に反射し、さざ波でキラキラとしていた。
「綺麗だな。本当にこの先にある村が大変な事になってるとは思えない……」
希空は体育座りをして、どんな星座があるかを探した。そんな事をしていると、後ろの草むらからガサガサと音がして、咄嗟に振り返った。
「なんだ、お前か」
「なんだ、フィディスか。ビックリした」
草むらから現れたのは、見張りの交代を終えたフィディスだった。希空が胸を撫で下ろしていると、フィディスは希空の隣に座った。
「テントを見たら、お前がいなかったから、逃げ出したのかと思った」
「に、逃げ出したりしないよ。ここまで来たんだから」
「ま、そうだろうな。そう言えば、団員達がミサンガとやらを喜んでいたぞ。お前が子供達に教えたんだろ?」
「皆、喜んでくれたんだ。良かった」
「俺は貰ってないが。子供達に聞いても、誰も何も教えてくれなかった」
「じゃ、利き足と反対側の足出して。あ、ブーツ脱いでね」
「ん? なんだ? 蒸れた足でも嗅ぎたいのか?」
「違うよ! いいから、早く脱いで」
フィディスは不思議で納得がいかないような顔で希空を見た。そんな顔をするフィディスを急かし、ブーツを脱がせた。希空はフィディスの足元に座り直すと、ズボンの裾をたくし上げた。そして、ポケットから紐状のものを取り出し、フィディスの左足首に結び始めた。
「どんな事があっても、フィディスをお守りください。……っと、良かったぁ。ギリギリ結べた」
フィディスは自身の左足首を見ると、黒と白の二色で編まれたV字模様のミサンガだった。綺麗に編まれており、フィディスはミサンガの触り心地を確かめるように指でなぞった。希空は少し恥ずかしそうに照れ笑いしていた。
「白は健康、黒は魔除けの意味があって、着ける位置で意味があって、利き足と反対側の足首は金運アップなんだけど、活力向上っていう意味もあるんだ」
「願掛けみたいなものか?」
「うん、そんな感じ。切れたら、願いが叶うんだよ」
「お前が頑張って作ったものだろう? 切れると勿体無いな」
「いやいや、切れないと願いが叶わないから。あと、切れたら、きちんと処分してよね」
「そういうものなのか」
フィディスは残念そうな顔をし、希空が結んでくれたミサンガを指で一周なぞると、ズボンの裾を正し、ブーツを履いた。フィディスが身なりを整え終わるのを確認すると、希空は思い詰めたように、口を開いた。
「あのさ、……僕って本当に役に立ってるのかな?」
「ああ。団員達は希空のお陰で、前より快適に生活出来ているし、士気も上がっている」
「ううん、そうじゃなくて。聖女として……役に立ってるのかなって」
フィディスは悩ましい顔をする希空の横顔を見ると、再び星空を見上げた。
「雫さんの方が圧倒的に魔力量が多いし、僕とは天と地の差。聖女の素質だってある。僕も自分なりに必死に頑張ってるけど、成果が出せなくて、ドレッド様には愛想を尽かされて、他の司祭の人達も僕の事を良いように思ってないみたいだし……」
「そうなのか?」
「ああ、僕ってこの世界にいても、望まれる事が出来なくて、僕の存在意義って一体なんだろうって」
「アレックス? ご飯だよ」
希空は箱馬車の御者台で寝そべっていたアレックスを起こすと、食事の場所まで案内して、食事を提供した。
「希空のご飯! いただきます!」
「ゆっくり食べてね」
希空はアレックスの気持ちが良いほどの食べっぷりを見ながら、食事を共にした。食事が終わると、アレックスからブラッシングをせがまれた。ジルベルトは「片付けは俺達でやっておく」と言ってくれたため、希空はアレックスのブラッシングをやった。
「ねぇ、アレックスは雫さんの事好き?」
「うん! アレックスは主の事大好き!」
「そうなんだぁ」
「希空は主の事好きなのか?」
「僕? 好きだけど、友達としてかなぁ」
希空はアレックスのブラッシングが終わると、ブラシを返した。そして、テントに入ろうとした時、ブラッシングをしてもらって、ご満悦なアレックスに声をかけた。
「あ、そうだ。たぶんそんな状況は無いと思うけど、雫さんにもし何かあったら、全力で守ってあげてね」
「任せて! 主を守るの、アレックスの役目」
「そうだよね。……じゃぁ、おやすみ」
希空はテントへ入った。基本的には大きなテントに三人程度で寝るのだが、フィディスは騎士団長という職権を乱用し、希空専用の小さな一人用テントを用意したらしい。テントで寝るなんて初体験で寝付けるか不安になり、希空は目を閉じて、羊を数えた。
◆◇◆◇◆◇
やはり、硬い地面の上は慣れず、すぐ目が覚めてしまった。希空は寝付けず、こっそり野営場の近くにある小さな湖へ行った。夜空は雲も少なく、星々が輝き、月の明かりが湖面に反射し、さざ波でキラキラとしていた。
「綺麗だな。本当にこの先にある村が大変な事になってるとは思えない……」
希空は体育座りをして、どんな星座があるかを探した。そんな事をしていると、後ろの草むらからガサガサと音がして、咄嗟に振り返った。
「なんだ、お前か」
「なんだ、フィディスか。ビックリした」
草むらから現れたのは、見張りの交代を終えたフィディスだった。希空が胸を撫で下ろしていると、フィディスは希空の隣に座った。
「テントを見たら、お前がいなかったから、逃げ出したのかと思った」
「に、逃げ出したりしないよ。ここまで来たんだから」
「ま、そうだろうな。そう言えば、団員達がミサンガとやらを喜んでいたぞ。お前が子供達に教えたんだろ?」
「皆、喜んでくれたんだ。良かった」
「俺は貰ってないが。子供達に聞いても、誰も何も教えてくれなかった」
「じゃ、利き足と反対側の足出して。あ、ブーツ脱いでね」
「ん? なんだ? 蒸れた足でも嗅ぎたいのか?」
「違うよ! いいから、早く脱いで」
フィディスは不思議で納得がいかないような顔で希空を見た。そんな顔をするフィディスを急かし、ブーツを脱がせた。希空はフィディスの足元に座り直すと、ズボンの裾をたくし上げた。そして、ポケットから紐状のものを取り出し、フィディスの左足首に結び始めた。
「どんな事があっても、フィディスをお守りください。……っと、良かったぁ。ギリギリ結べた」
フィディスは自身の左足首を見ると、黒と白の二色で編まれたV字模様のミサンガだった。綺麗に編まれており、フィディスはミサンガの触り心地を確かめるように指でなぞった。希空は少し恥ずかしそうに照れ笑いしていた。
「白は健康、黒は魔除けの意味があって、着ける位置で意味があって、利き足と反対側の足首は金運アップなんだけど、活力向上っていう意味もあるんだ」
「願掛けみたいなものか?」
「うん、そんな感じ。切れたら、願いが叶うんだよ」
「お前が頑張って作ったものだろう? 切れると勿体無いな」
「いやいや、切れないと願いが叶わないから。あと、切れたら、きちんと処分してよね」
「そういうものなのか」
フィディスは残念そうな顔をし、希空が結んでくれたミサンガを指で一周なぞると、ズボンの裾を正し、ブーツを履いた。フィディスが身なりを整え終わるのを確認すると、希空は思い詰めたように、口を開いた。
「あのさ、……僕って本当に役に立ってるのかな?」
「ああ。団員達は希空のお陰で、前より快適に生活出来ているし、士気も上がっている」
「ううん、そうじゃなくて。聖女として……役に立ってるのかなって」
フィディスは悩ましい顔をする希空の横顔を見ると、再び星空を見上げた。
「雫さんの方が圧倒的に魔力量が多いし、僕とは天と地の差。聖女の素質だってある。僕も自分なりに必死に頑張ってるけど、成果が出せなくて、ドレッド様には愛想を尽かされて、他の司祭の人達も僕の事を良いように思ってないみたいだし……」
「そうなのか?」
「ああ、僕ってこの世界にいても、望まれる事が出来なくて、僕の存在意義って一体なんだろうって」
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