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第十三章:Side Noa <クーデレ護衛騎士の手懐け方>
13-1:Side Noa <クーデレ護衛騎士の手懐け方①>
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「よし、雫達も帰った事だし……」
「うん……」
フィディスは軍服の上を脱ぐと、希空にゆっくりと近付いた。希空は固唾を呑み、近付いてくるフィディスを見つめた。
(も、もしかして……。キス、されるのかな?)
希空はそんな淡い期待を持った。フィディスは希空の両肩に手を置いた。そして、フィディスの顔が近付いてきて、希空は胸が高鳴り、思わず目を瞑った。
「お前も顔に疲れが出てるぞ。今日は自室でゆっくり寝ろ」
「……えっ?」
希空はキスされるとばかり思っていた。希空がポカンとしていると、フィディスは頭を優しく撫でた。
「お前はああいう宴は苦手だっただろう? ましてや瘴気にも浴びて、魔力も膨大に使ったんだ。俺達より体力も消耗してる。ゆっくり休め」
「あっ、そう……。そ、そうだよね。気を遣ってくれて、ありがとう……」
希空は苦笑いしながらも、心の中では複雜な気持ちでいっぱいだった。自分から誘うのは軽い人だと思われるし、フィディスはあくびをしながら、背伸びしており、本当に疲れている様子だった。希空はモヤモヤしながら、今日は大人しくしておこうと決めた。
「フィ、フィディスも疲れてるだろうし、部屋に帰ろうかな。明日からまた忙しくなるんだろうな」
「分かった。俺も休むとする。お前もしっかりと休むんだぞ」
「うん、おやすみなさい」
希空はフィディスに別れを告げると、自室へ戻った。自室は拐われた時にグチャグチャになっていたが、誰かが修繕してくれたのか、今は綺麗になっており、窓も直されていた。
希空は深いため息をつき、そのままベッドへ倒れ込み、横になった。
「フィディス……、僕とやりたくないのかな? 祝宴の前はあんなに……お尻触ってきたのに。今日の服だって、いつもと全然違うのに褒めてくれないし。本当に僕の事好きなのかな?」
希空はため息をついた。体を動かすと、胸ポケットから香水がコロンと出てきた。その香水を手に持ち、ぼんやりと見つめた。
「正直、エミュに二人きりの時に使えって言われたけど、フィディスと二人きりになる時間ってほとんど無いんだよね……。でも、この香水を使ったとこで、フィディスに揶揄われるだけだろうし。使わないな、これは」
希空はため息ばかりつき、香水をサイドテーブルに置いた。体はフィディスの言った通り、疲れてるのは確かだ。しかし、胸がずっとモヤモヤして、寝付けなかった。頭の中で別の事を考えても、いつの間にかフィディスが出てきてしまう。
「もう! これじゃ欲求不満なだけじゃん! 前は誰かが抱いてくれてたから、分からなかったけど、……フィディスをもっと知りたい、もっと触れていたい、もっと傍にいたい、笑った顔も怒った顔も悲しい顔も、色んなフィディスが見たい。あと、温もりを感じたい、あの腕で抱き締められたい、あの体をもっと触りたい、匂いを感じたい。……フィディスと一つになりたい。……これが『人を好きになる』って事なのかな? こんなに辛いんだ」
希空は自然と涙が溢れた。胸が凄く締め付けられ、自分の腕で自分を抱き締め、縮こまった。
「フィディスはナクアでの事をどう思ってるんだろう? あんな誰とでもやる僕を見て、汚いとか穢らわしいとかって……思うよね、普通は。やっぱ、ダメなのかな……」
希空は考えるのを止め、窓から見える月を眺めた。視線を少し下にずらすと、机の横に立て掛けられたルーメンの杖が目に入った。杖の先にある魔石の中が月明かりにより、天の川みたいに幻想的な輝きを見せた。
希空はベッドから起き上がり、ルーメンの杖を手に持ち、魔石の中を覗くように見た。
「帰還してから、何処にやったかと思ったら、ここにあったんだ。でも、置いた記憶も無いし……。それにしても、綺麗だな。夜空に満天の星があるような、そんな感じ。……お前も寂しいのか? なんちゃって」
希空は魔石を指で突くと、中に流れ星みたいなのが見えた気がした。ただの杖だが、見ていて飽きなかった。そして、希空はある事を思いつく。
「どうせ寝れないし、外に出て、直接、月明かりに当ててみよう。あと、バトントワリングの練習。投げ上げた時とか綺麗なんだろうなぁ。って、杖壊さないようにしなきゃ」
希空は鼻歌を歌いながら、誰もいない訓練場へ出た。風が少しあるが、心地がいい。希空は訓練場の真ん中に行くと、杖を構えた。
「いつも洗濯干し場からしか見てなかったけど、案外広いんだ。ここなら大丈夫か。間違っても魔法陣出したり、何かを出しちゃったりしないようにしなきゃ」
希空は目を瞑り、何度か深呼吸すると、目を見開き、杖でバトントワリングの練習を始めた。久々にやるのはやはり楽しく、笑みが溢れた。適当な曲を口ずさんでいたが、祝宴の時の曲を不意に思い出す。
「あの曲、頭から離れないんだよね。あれは誰が作詞作曲してるんだろう? ま、まさかフィディスじゃないよね? なんか想像出来ない」
フィディスが作詞作曲している姿を想像して、希空は口に手を当て、笑った。そして、気を取り直して、あの曲を口ずさみながら、トスなどをしたりした。バトンとは色々と違うが、何故か自分の体に馴染んでいるような気がした。
「バトンとかあればなぁ……。ゴムの部分を何で代用するかだなぁ。……今になって、嫌々やらされてた習い事をやりたくなるって言うのもなんだか複雜だけど、体が勝手に動きたくて仕方ないんだよね」
希空はハイトスをし、月明かりで光り輝く魔石を見た。戻ってきた杖を掴み、杖の先端を月明かりに照らした。何度見ても美しい。
「よし、動いたし、寝ようかな……」
希空はじんわりと汗をかき、手で拭いながら、宿舎に入った。すると、出会い頭で何かとぶつかり、希空は尻餅をついた。
「うん……」
フィディスは軍服の上を脱ぐと、希空にゆっくりと近付いた。希空は固唾を呑み、近付いてくるフィディスを見つめた。
(も、もしかして……。キス、されるのかな?)
希空はそんな淡い期待を持った。フィディスは希空の両肩に手を置いた。そして、フィディスの顔が近付いてきて、希空は胸が高鳴り、思わず目を瞑った。
「お前も顔に疲れが出てるぞ。今日は自室でゆっくり寝ろ」
「……えっ?」
希空はキスされるとばかり思っていた。希空がポカンとしていると、フィディスは頭を優しく撫でた。
「お前はああいう宴は苦手だっただろう? ましてや瘴気にも浴びて、魔力も膨大に使ったんだ。俺達より体力も消耗してる。ゆっくり休め」
「あっ、そう……。そ、そうだよね。気を遣ってくれて、ありがとう……」
希空は苦笑いしながらも、心の中では複雜な気持ちでいっぱいだった。自分から誘うのは軽い人だと思われるし、フィディスはあくびをしながら、背伸びしており、本当に疲れている様子だった。希空はモヤモヤしながら、今日は大人しくしておこうと決めた。
「フィ、フィディスも疲れてるだろうし、部屋に帰ろうかな。明日からまた忙しくなるんだろうな」
「分かった。俺も休むとする。お前もしっかりと休むんだぞ」
「うん、おやすみなさい」
希空はフィディスに別れを告げると、自室へ戻った。自室は拐われた時にグチャグチャになっていたが、誰かが修繕してくれたのか、今は綺麗になっており、窓も直されていた。
希空は深いため息をつき、そのままベッドへ倒れ込み、横になった。
「フィディス……、僕とやりたくないのかな? 祝宴の前はあんなに……お尻触ってきたのに。今日の服だって、いつもと全然違うのに褒めてくれないし。本当に僕の事好きなのかな?」
希空はため息をついた。体を動かすと、胸ポケットから香水がコロンと出てきた。その香水を手に持ち、ぼんやりと見つめた。
「正直、エミュに二人きりの時に使えって言われたけど、フィディスと二人きりになる時間ってほとんど無いんだよね……。でも、この香水を使ったとこで、フィディスに揶揄われるだけだろうし。使わないな、これは」
希空はため息ばかりつき、香水をサイドテーブルに置いた。体はフィディスの言った通り、疲れてるのは確かだ。しかし、胸がずっとモヤモヤして、寝付けなかった。頭の中で別の事を考えても、いつの間にかフィディスが出てきてしまう。
「もう! これじゃ欲求不満なだけじゃん! 前は誰かが抱いてくれてたから、分からなかったけど、……フィディスをもっと知りたい、もっと触れていたい、もっと傍にいたい、笑った顔も怒った顔も悲しい顔も、色んなフィディスが見たい。あと、温もりを感じたい、あの腕で抱き締められたい、あの体をもっと触りたい、匂いを感じたい。……フィディスと一つになりたい。……これが『人を好きになる』って事なのかな? こんなに辛いんだ」
希空は自然と涙が溢れた。胸が凄く締め付けられ、自分の腕で自分を抱き締め、縮こまった。
「フィディスはナクアでの事をどう思ってるんだろう? あんな誰とでもやる僕を見て、汚いとか穢らわしいとかって……思うよね、普通は。やっぱ、ダメなのかな……」
希空は考えるのを止め、窓から見える月を眺めた。視線を少し下にずらすと、机の横に立て掛けられたルーメンの杖が目に入った。杖の先にある魔石の中が月明かりにより、天の川みたいに幻想的な輝きを見せた。
希空はベッドから起き上がり、ルーメンの杖を手に持ち、魔石の中を覗くように見た。
「帰還してから、何処にやったかと思ったら、ここにあったんだ。でも、置いた記憶も無いし……。それにしても、綺麗だな。夜空に満天の星があるような、そんな感じ。……お前も寂しいのか? なんちゃって」
希空は魔石を指で突くと、中に流れ星みたいなのが見えた気がした。ただの杖だが、見ていて飽きなかった。そして、希空はある事を思いつく。
「どうせ寝れないし、外に出て、直接、月明かりに当ててみよう。あと、バトントワリングの練習。投げ上げた時とか綺麗なんだろうなぁ。って、杖壊さないようにしなきゃ」
希空は鼻歌を歌いながら、誰もいない訓練場へ出た。風が少しあるが、心地がいい。希空は訓練場の真ん中に行くと、杖を構えた。
「いつも洗濯干し場からしか見てなかったけど、案外広いんだ。ここなら大丈夫か。間違っても魔法陣出したり、何かを出しちゃったりしないようにしなきゃ」
希空は目を瞑り、何度か深呼吸すると、目を見開き、杖でバトントワリングの練習を始めた。久々にやるのはやはり楽しく、笑みが溢れた。適当な曲を口ずさんでいたが、祝宴の時の曲を不意に思い出す。
「あの曲、頭から離れないんだよね。あれは誰が作詞作曲してるんだろう? ま、まさかフィディスじゃないよね? なんか想像出来ない」
フィディスが作詞作曲している姿を想像して、希空は口に手を当て、笑った。そして、気を取り直して、あの曲を口ずさみながら、トスなどをしたりした。バトンとは色々と違うが、何故か自分の体に馴染んでいるような気がした。
「バトンとかあればなぁ……。ゴムの部分を何で代用するかだなぁ。……今になって、嫌々やらされてた習い事をやりたくなるって言うのもなんだか複雜だけど、体が勝手に動きたくて仕方ないんだよね」
希空はハイトスをし、月明かりで光り輝く魔石を見た。戻ってきた杖を掴み、杖の先端を月明かりに照らした。何度見ても美しい。
「よし、動いたし、寝ようかな……」
希空はじんわりと汗をかき、手で拭いながら、宿舎に入った。すると、出会い頭で何かとぶつかり、希空は尻餅をついた。
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