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第十章:最果ての地ナクアで待っていたものとは
10-1:ラベンダーグレーの世界
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荒れ狂うヴァニール海峡の上空を飛び続け、最果ての地ナクアが見えてきた。空気が重く、徐々に不快に感じる。雲が幾重にも重なり、大気中の瘴気と混ざり合って、ラベンダーグレーの色をしていた。
「段々と瘴気が強くなりましたね。二人とも大丈夫?」
「アレックスは大丈夫」
「ああ、問題無い。ギィは大丈夫か?」
「俺様は完全復活したから、この程度の瘴気は問題無い」
「それよりさ、なんで魔物が出てこないの? おかしくない?」
「そうだな。もしかすると、魔王を復活させるのに、膨大な魔力が必要で、魔物を生み出す余裕が無いのかもしれない……。ほら、あれを見ろ」
フィディスが指差した場所を見ると、聖樹であろう場所から紫色の光柱が雲を突き抜けるようにあり、じっくりと観察すると、周囲の瘴気を吸いながら、聖樹へ流れ込んでいるようだった。
「とりあえず低空飛行で近付いて、近場で降りよう」
「聖樹の目の前で降りるのはダメなの?」
「そんな場所に降りたら、ドレッドがいるかもしれないし、危険だろ」
「ギィ、近場の場所に降りてくれ。あと、お前は何処かに隠れていろ」
「俺様は戦わなくても良いのか?」
「龍人族の魔力まで取り込まれたら、大変な事になるだろ」
ギィは海面スレスレの低空飛行で飛び続け、ナクアの浜辺に降り立った。三人はギィと別れ、聖樹がある大草原へ急いだ。
オメルの手帳によると、ナクアは温暖な気候で大陸では見る事が出来ない動植物が存在すると書かれていた。しかし、木々を縫って歩いているが、不気味な程の静寂とじっとりと肌に纏わりつく様な生温い靄に包まれていた。
「もう少しで、外に出るぞ。二人とも気を付けろよ」
「うん。……いよいよだね。希空、今助けるからね」
そして、三人が森を抜けると、聖樹がある大草原に出た。草花は萎れており、目の前に枯れ果てた聖樹がそびえ立っていた。
「主、あそこ!」
「えっ…………、嘘でしょ?」
アレックスが指差す方を見ると、聖樹の枝からは紫色をしたスライムが垂れ落ち、それらが触手のように何本も伸び、希空の手足などに絡み付き、自由を奪っていた。
フィディスは歯を食い縛り、剣を強く握り締めると、雄叫びを上げながら、希空の元へ走った。
「うおぉぉーっ!」
「フィディス! 一人で突っ込んだら、危ないって! フィディス!」
フィディスの声に気付いたのか、希空は目を覚ました。手足にスライムが幾重にも絡まり、動かそうとするが、微動だにしなかった。
ヌチャヌチャと蠢くスライムがフィディスに向かって、一斉攻撃しようと、形状を変えているのに気付き、希空は咄嗟に大声で叫んだ。
「――来ちゃダメ!」
スライムは無数の棘となり、フィディス目掛けて、飛んでいった。フィディスは咄嗟に剣をシールドモードにした。なんとか耐え抜くと、聖樹の陰から手をゆっくり叩き、黒いローブを身に纏い、黒のベネチアンマスクをした男が出てきた。そして、マスクを外し、不適に笑うドレッドの顔が露わになった。
「フィディスはやはり腕が立ちますね。その装備もアラン様から頂いたのでしょう? 聖女に聖杯を持って行かせるのではなく、彼を直接仕留めるべきでしたね」
「おい、ドレッド! なんでこんな事をするんだ」
「何って魔王様を復活させるためですよ。貴方達もご覧になったでしょ? 国王陛下の哀れな姿を」
「国王陛下を依り代にして、許されると思っているのか!」
フィディスが眉間に皺を寄せ、ドレッドを睨み付けると、ドレッドは高笑いした。
「な、何がおかしい」
「それは間違いですよ。国王陛下自ら望まれた事ですから。民のためですよ。誰のお陰で平和に暮らせたと思ってるんですか。近隣諸国に圧倒的力を見せつけてきた国王陛下のお陰なんですよ」
「しかし、魔王の力を借りてまでやるような事では無い!」
「はははっ! 人の上に立たないと、こればかりは分かりませんか。まぁ、国王陛下は依り代……いえ、器としてはとても素晴らしかった。でも、器は徐々に朽ちていくもの、容易に壊れますからね」
ドレッドはそう言うと、飛び上がり、希空の元へ行き、下品な顔をし、希空の頬をねっとりと撫でた。
「や、やめて……」
「それに比べて、希空は若くて、美しく、身も心も穢れ、今まで召喚してきた聖女の比にもならない。長年待ち続けた極上の器なんです」
「希空は身も心も穢れてなどない!」
「くくくっ。……あははははっ! お前はコイツが前の世界でやってきた事を知らないから、そう言えるんだ」
ドレッドが手をかざすと、フィディス達の前に映像が何枚も映し出された。それは、転移前の希空の様子だった。クラスメイトに虐められている姿や教師に言い寄って抱かれる姿、母親の彼氏に犯される姿などだった。
「な、なんだこれは! 雫、お前なら希空の事を知ってるだろ? なぁ、なんか言えよ!」
フィディスは映像を見て、混乱した。そして、雫の肩を揺さぶり、雫に問いただした。雫はフィディスから目を逸らし、黙った。
「段々と瘴気が強くなりましたね。二人とも大丈夫?」
「アレックスは大丈夫」
「ああ、問題無い。ギィは大丈夫か?」
「俺様は完全復活したから、この程度の瘴気は問題無い」
「それよりさ、なんで魔物が出てこないの? おかしくない?」
「そうだな。もしかすると、魔王を復活させるのに、膨大な魔力が必要で、魔物を生み出す余裕が無いのかもしれない……。ほら、あれを見ろ」
フィディスが指差した場所を見ると、聖樹であろう場所から紫色の光柱が雲を突き抜けるようにあり、じっくりと観察すると、周囲の瘴気を吸いながら、聖樹へ流れ込んでいるようだった。
「とりあえず低空飛行で近付いて、近場で降りよう」
「聖樹の目の前で降りるのはダメなの?」
「そんな場所に降りたら、ドレッドがいるかもしれないし、危険だろ」
「ギィ、近場の場所に降りてくれ。あと、お前は何処かに隠れていろ」
「俺様は戦わなくても良いのか?」
「龍人族の魔力まで取り込まれたら、大変な事になるだろ」
ギィは海面スレスレの低空飛行で飛び続け、ナクアの浜辺に降り立った。三人はギィと別れ、聖樹がある大草原へ急いだ。
オメルの手帳によると、ナクアは温暖な気候で大陸では見る事が出来ない動植物が存在すると書かれていた。しかし、木々を縫って歩いているが、不気味な程の静寂とじっとりと肌に纏わりつく様な生温い靄に包まれていた。
「もう少しで、外に出るぞ。二人とも気を付けろよ」
「うん。……いよいよだね。希空、今助けるからね」
そして、三人が森を抜けると、聖樹がある大草原に出た。草花は萎れており、目の前に枯れ果てた聖樹がそびえ立っていた。
「主、あそこ!」
「えっ…………、嘘でしょ?」
アレックスが指差す方を見ると、聖樹の枝からは紫色をしたスライムが垂れ落ち、それらが触手のように何本も伸び、希空の手足などに絡み付き、自由を奪っていた。
フィディスは歯を食い縛り、剣を強く握り締めると、雄叫びを上げながら、希空の元へ走った。
「うおぉぉーっ!」
「フィディス! 一人で突っ込んだら、危ないって! フィディス!」
フィディスの声に気付いたのか、希空は目を覚ました。手足にスライムが幾重にも絡まり、動かそうとするが、微動だにしなかった。
ヌチャヌチャと蠢くスライムがフィディスに向かって、一斉攻撃しようと、形状を変えているのに気付き、希空は咄嗟に大声で叫んだ。
「――来ちゃダメ!」
スライムは無数の棘となり、フィディス目掛けて、飛んでいった。フィディスは咄嗟に剣をシールドモードにした。なんとか耐え抜くと、聖樹の陰から手をゆっくり叩き、黒いローブを身に纏い、黒のベネチアンマスクをした男が出てきた。そして、マスクを外し、不適に笑うドレッドの顔が露わになった。
「フィディスはやはり腕が立ちますね。その装備もアラン様から頂いたのでしょう? 聖女に聖杯を持って行かせるのではなく、彼を直接仕留めるべきでしたね」
「おい、ドレッド! なんでこんな事をするんだ」
「何って魔王様を復活させるためですよ。貴方達もご覧になったでしょ? 国王陛下の哀れな姿を」
「国王陛下を依り代にして、許されると思っているのか!」
フィディスが眉間に皺を寄せ、ドレッドを睨み付けると、ドレッドは高笑いした。
「な、何がおかしい」
「それは間違いですよ。国王陛下自ら望まれた事ですから。民のためですよ。誰のお陰で平和に暮らせたと思ってるんですか。近隣諸国に圧倒的力を見せつけてきた国王陛下のお陰なんですよ」
「しかし、魔王の力を借りてまでやるような事では無い!」
「はははっ! 人の上に立たないと、こればかりは分かりませんか。まぁ、国王陛下は依り代……いえ、器としてはとても素晴らしかった。でも、器は徐々に朽ちていくもの、容易に壊れますからね」
ドレッドはそう言うと、飛び上がり、希空の元へ行き、下品な顔をし、希空の頬をねっとりと撫でた。
「や、やめて……」
「それに比べて、希空は若くて、美しく、身も心も穢れ、今まで召喚してきた聖女の比にもならない。長年待ち続けた極上の器なんです」
「希空は身も心も穢れてなどない!」
「くくくっ。……あははははっ! お前はコイツが前の世界でやってきた事を知らないから、そう言えるんだ」
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「な、なんだこれは! 雫、お前なら希空の事を知ってるだろ? なぁ、なんか言えよ!」
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