召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
60 / 117
第六章:二人の再会と希空のプチ追放

6-4:管理人の仕事も大変だ!

しおりを挟む
 宿舎は希空のお陰で、見違える程に綺麗になった。他には、厨房を手伝ったり、子供達のお菓子を作ったりした。これが意外にも大変で休む暇がなかった。


「希空、宿舎の掃除だけでも大変なんだから、私達に甘えなさい」
「カレンさん、ありがとうございます。言った手前で辞めるのは申し訳なくて……」
「良いのよ! また新しいレシピを思いついたら、私達に教えてよ」
「分かりました。じゃぁ、ちょっと洗濯してきます」


 希空はカレン達にお礼を言うと、団員達のシーツを洗濯する事にした。勝手に部屋に入るのは忍びなかったため、朝の時に団員達に出してもらっていた。
 希空は物置場から大きなたらいと洗濯板などを出すと、訓練場の隅で洗い始めた。


「洗濯機が無い時代ってこんなにも大変だったんだ。早く洗わなきゃ」


 希空は汗をかきながら、無心で洗った。時々、ため息をつき、腕の力を抜くため、ブルブルと震わせた。


「希空様! 洗濯大変じゃないか?」
「これくらい平気です」
「俺達も手伝うから、何でも言ってくれよな」
「ありがとうございます」


 先日の件もあり、団員達には聖女として扱わないように説明し、宿舎の管理人として、気軽に話しかけてもらって構わないと伝えた。勿論、敬称も不要だと話したが、これに難色を示しているのが一人いた。


「おい、何サボってる! お前達には特別に素振り百回追加だぞ」
「フィディス、そんな怒らなくてもいいでしょ? 皆、気を遣ってくれてるんだから」
「何がだ。大体、こんな男どもがいる場所で洗濯などするな」
「はぁ? 洗濯物を干す場所はここじゃん! 作業効率考えたら、ここで洗った方が効率良いでしょ。本当に何言ってんだか!」


 二人が言い争ってる間に、声を掛けてきた団員達はいつの間にか逃げるように、訓練に戻っていた。
 フィディスはため息をつき、希空に近付き、耳打ちをした。


「あのな……、お前の素肌が透けてるんだぞ。あと、下着も透けてる。傍から見ると、誘っているようにしか見えないぞ」


 よく見たら、水が服に跳ね、肌や下着の一部が透けていた。希空は顔を真っ赤にし、フィディスの顔に思いっきり平手打ちをした。


「――いって! な、なんで俺が叩かれないといけないんだ! 俺はお前の事を思ってだな」
「フィディスの変態! わざわざ忠告するって事は、そういう風に見てるって事でしょ! 本当にあり得ない」


 希空はそっぽ向くと、頬を膨らましながら、洗濯を再開した。フィディスは何故叩かれたのか分からず、首を傾げながら、訓練に戻った。


(もう少し言い方って言うもんは無いのかな! 本当にエッチ!)
(なんでアイツに叩かれたんだ? 俺はただ事実を言っただけだが。他の奴らに、そういう目で見られたくないって言うのに、理解出来ん)


 今までに華が無かった宿舎に、突如現れた可憐な花のような希空は、団員達の士気向上とともに、そういう気分になってしまう魅惑の存在だった。
 良からぬ事を考えかねない団員達に注意をすると、希空がすぐ怒ってくるので、フィディスは頭を悩ませていた。


(エミュ、俺はどうしたらいいんだ? って、アイツに相談した所で、アイツにも怒られそうだが……)


 訓練でヘトヘトに戻ってきた団員達に労いの言葉をかけ、風呂が沸いている事を伝える。大浴場に洗濯かごを設置してからは、団員達は汚れたシャツをその中に入れてくれるようになった。


 希空は先に食事を済ませ、皆が風呂から上がったのを見計らって、シャツの洗濯と大浴場の掃除、自分の入浴をする事が多かった。今日もいつもの時間帯に一階にある大浴場へ向かった。


「はぁ……、やっとゆっくり出来る」


 希空は洗濯物と洗濯セットを中へ持ち込み、浴室の端で一枚ずつ洗い始めた。砂埃がつき、汗でジットリとしている。そして、実に男臭い。今では慣れたが、最初は悶絶しそうになった。


「よし、これで終わりっと。先に干してこようかな?」


 希空は洗ったシャツを干しに、宿舎の物干し場に出た。外はあっという間に暗くなっており、星空が綺麗だった。
 希空はシャツを慣れた手付きで干していった。そして、洗濯かごを持って、大浴場へ戻った。脱衣所で服と下着を脱ぐと、勢いよく大浴場のドアを開けた。


「お風呂だぁ! ――えっ、なんで」
「すまん、自主訓練をしていたら、入るのが遅くなった」


 希空は固まった。湯船にフィディスがいたからだ。希空は無意識に一度ドアを閉めてしまった。中からはフィディスが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。希空は前を隠して、そっと中へ入った。


「お前はいつもこんな時間に入ってるのか?」
「う、うん。洗濯物を洗ったり、掃除したりしなきゃいけないから」
「そうか……。お前はそんなに雑用ばかりやっていて楽しいのか?」
「皆が喜んでくれるから」


 希空はフィディスと目が合わないように顔を逸して、洗面場で体を洗い始めた。特にこれと言って、喋る事もなく、体を流すお湯の音が響く。希空はフィディスから少し離れた位置から湯船に入った。


(き、今日は温度高めだったかな? いつもより熱い気がする)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...