55 / 117
第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>
5-7:神聖セルベン王国への入国と謎の聖杯
しおりを挟む
峠二日目だったが、緩やかな下り坂に平坦な道が続き、一日目に比べて、順調に進む事が出来た。森を抜けると、昨日見えた城壁が目の前に現れた。城壁を横に見ながら、一番近い門に着いた。大きな門の上には『神聖セルベン王国・南門』と書かれていた。
門番にアレックスの父親からの推薦状と首に下げている通行証を見せた。門番は推薦状を手荒に奪うと、面倒臭そうに読み始めた。しかし、徐々に顔が青ざめていき、今まで強い口調だったのが急に態度が変わり、丁寧な対応に変わった。
「せ、聖女様でいらっしゃいましたか。大変申し訳ございません。無礼をお許しください」
「えっと、でも、まだ聖女とは認められていないというか……。それを確かめるために、アラン様にお会いしたいのですが……」
「アラン様はここから見える孤児院で管理者としてお勤めされておりましたが、先日の火事で建物が焼失してしまいまして、今は広場を抜けた先の教会にいらっしゃいます」
「火事があったんですね……」
「あと、アレックス様も我が国へ入る事を許可いたします。我が国では種族関係なく受け入れていますので。あと、条約の件も承知しました」
雫は推薦状を門番から受け取ると、軽く会釈をして、門を潜った。先程の門番達は雫達に敬礼をし、見送ってくれた。二人は広場に通ずる橋を目指して、進む事にした。少し進んだ所に、焼け落ちた孤児院が見えた。
二人はそこを横目に見て通り過ぎようとした時、ゾワッとするような感覚がした。
「主、ここおかしい」
「うん、俺もおかしいと思った。なんか嫌な感じがする」
二人は周囲に誰も居ない事を確認し、焼け落ちた孤児院へ入った。数日前に消火されたのであろう、水を含んだ焼け焦げた臭いがし、柱や瓦礫が散乱していた。
上から瓦礫などが落ちてこないかを確認しながら、嫌な感じがする場所まで進んだ。そこには、ススがついていない真新しそうな聖杯が地面に転がっていた。
「この聖杯、ススがついてない」
「主、触っちゃダメ。それから瘴気を感じる」
「もしかして、火災の原因ってこの聖杯のせいじゃ……。このまま放置しておく訳にはいかないし、浄化しておいた方が良いよね。今から浄化魔法使うから、何かあったら、助けてね」
「主、分かった。気を付けろ」
雫は杖を取り出し、術を唱えた。
「光の束よ。瘴気を祓い、払拭せよ。――ミアズマ・バニッシュ」
聖杯の真下に金色の魔法陣が現れ、光の束が聖杯を包んだ。やはり、予想が的中したのか、聖杯からは濃い紫色の瘴気がじゅわっと漏れ出すように出てきた。光の束に当たると、瘴気は消えていった。雫は浄化魔法を終えると、その聖杯を手に持った。
「瘴気無くなった」
「そうだね、手に持っても、何も感じない普通の聖杯になった。これはアラン様に報告した方が良いけど、聖杯に瘴気を満たすなんて普通の人間は出来ない事だと思うから、慎重に聞き出さないと……」
雫は聖杯をバッグの中に入れると、焼け落ちた孤児院を後にした。橋を渡り、広場に着いた。広場は賑わっており、串焼きを焼く香ばしい香りが漂っていた。明らかに魚ではなく、肉の匂いだ。
二人して、お腹を鳴らし、気付いたら、その美味しそうな香りをさせる串焼き屋の前にいた。アレックスは串焼きに目が釘付けで、口からは涎を垂らしていた。
「へい、いらっしゃい! お兄さん達は旅の人かい? ここの串焼きの味は世界一だぞ!」
「主、食いたい! アレックス、串焼き食いたい!」
「……食べたいのは俺も一緒だけど、お金無いんだから、ダメだよ!」
「なんだ、金が無いのか。それは仕方ないな」
「あ、あの、教会ってどっちですか? アラン様とお会いしたくて。あと、ここに希空っていう背がこの位で、黒髪で可愛らしい男の子っていますか?」
「ああ、教会はそこの角の道を進んでいけば、教会に行けるよ。そこにアラン様がいらっしゃるはずだ。この前、孤児院が突然、火事になっちまって、子供達も教会に一時的に保護してもらってるみたいだ。アンタ、希空様と知り合いなのか? 確かに、黒髪で小柄だったな。それにしても、あんな美人な聖女様と知り合いだなんて羨ましいよ。希空様も教会にいらっしゃると思うぜ」
「ありがとうございます。今度、手持ちがある時に、ここの串焼きを食べに来たいと思います」
雫は深々と頭を下げると、串焼きに釘付けのアレックスを引っ張りながら、教えて貰った道を進んだ。串焼き以外にも野菜や果物を売るお店もあり、職場の近くで開かれていたマルシェを思い出した。あとは、装飾品のお店もあり、キラキラして、高そうなものばかりだった。
雫は緩やかな坂を登り、教会へ通じる門に辿り着いた。門番に通行証と推薦状を見せ、中へ入った。右手には二階建ての建物があり、その奥から威勢のいい男達の声がした。左には薬草園なのか、様々な草花が咲いていた。
薬草園からは子供達の声が聞こえ、その声の中に聞き覚えのある声がした。雫は薬草園へ入り、声がする方へ向かった。
門番にアレックスの父親からの推薦状と首に下げている通行証を見せた。門番は推薦状を手荒に奪うと、面倒臭そうに読み始めた。しかし、徐々に顔が青ざめていき、今まで強い口調だったのが急に態度が変わり、丁寧な対応に変わった。
「せ、聖女様でいらっしゃいましたか。大変申し訳ございません。無礼をお許しください」
「えっと、でも、まだ聖女とは認められていないというか……。それを確かめるために、アラン様にお会いしたいのですが……」
「アラン様はここから見える孤児院で管理者としてお勤めされておりましたが、先日の火事で建物が焼失してしまいまして、今は広場を抜けた先の教会にいらっしゃいます」
「火事があったんですね……」
「あと、アレックス様も我が国へ入る事を許可いたします。我が国では種族関係なく受け入れていますので。あと、条約の件も承知しました」
雫は推薦状を門番から受け取ると、軽く会釈をして、門を潜った。先程の門番達は雫達に敬礼をし、見送ってくれた。二人は広場に通ずる橋を目指して、進む事にした。少し進んだ所に、焼け落ちた孤児院が見えた。
二人はそこを横目に見て通り過ぎようとした時、ゾワッとするような感覚がした。
「主、ここおかしい」
「うん、俺もおかしいと思った。なんか嫌な感じがする」
二人は周囲に誰も居ない事を確認し、焼け落ちた孤児院へ入った。数日前に消火されたのであろう、水を含んだ焼け焦げた臭いがし、柱や瓦礫が散乱していた。
上から瓦礫などが落ちてこないかを確認しながら、嫌な感じがする場所まで進んだ。そこには、ススがついていない真新しそうな聖杯が地面に転がっていた。
「この聖杯、ススがついてない」
「主、触っちゃダメ。それから瘴気を感じる」
「もしかして、火災の原因ってこの聖杯のせいじゃ……。このまま放置しておく訳にはいかないし、浄化しておいた方が良いよね。今から浄化魔法使うから、何かあったら、助けてね」
「主、分かった。気を付けろ」
雫は杖を取り出し、術を唱えた。
「光の束よ。瘴気を祓い、払拭せよ。――ミアズマ・バニッシュ」
聖杯の真下に金色の魔法陣が現れ、光の束が聖杯を包んだ。やはり、予想が的中したのか、聖杯からは濃い紫色の瘴気がじゅわっと漏れ出すように出てきた。光の束に当たると、瘴気は消えていった。雫は浄化魔法を終えると、その聖杯を手に持った。
「瘴気無くなった」
「そうだね、手に持っても、何も感じない普通の聖杯になった。これはアラン様に報告した方が良いけど、聖杯に瘴気を満たすなんて普通の人間は出来ない事だと思うから、慎重に聞き出さないと……」
雫は聖杯をバッグの中に入れると、焼け落ちた孤児院を後にした。橋を渡り、広場に着いた。広場は賑わっており、串焼きを焼く香ばしい香りが漂っていた。明らかに魚ではなく、肉の匂いだ。
二人して、お腹を鳴らし、気付いたら、その美味しそうな香りをさせる串焼き屋の前にいた。アレックスは串焼きに目が釘付けで、口からは涎を垂らしていた。
「へい、いらっしゃい! お兄さん達は旅の人かい? ここの串焼きの味は世界一だぞ!」
「主、食いたい! アレックス、串焼き食いたい!」
「……食べたいのは俺も一緒だけど、お金無いんだから、ダメだよ!」
「なんだ、金が無いのか。それは仕方ないな」
「あ、あの、教会ってどっちですか? アラン様とお会いしたくて。あと、ここに希空っていう背がこの位で、黒髪で可愛らしい男の子っていますか?」
「ああ、教会はそこの角の道を進んでいけば、教会に行けるよ。そこにアラン様がいらっしゃるはずだ。この前、孤児院が突然、火事になっちまって、子供達も教会に一時的に保護してもらってるみたいだ。アンタ、希空様と知り合いなのか? 確かに、黒髪で小柄だったな。それにしても、あんな美人な聖女様と知り合いだなんて羨ましいよ。希空様も教会にいらっしゃると思うぜ」
「ありがとうございます。今度、手持ちがある時に、ここの串焼きを食べに来たいと思います」
雫は深々と頭を下げると、串焼きに釘付けのアレックスを引っ張りながら、教えて貰った道を進んだ。串焼き以外にも野菜や果物を売るお店もあり、職場の近くで開かれていたマルシェを思い出した。あとは、装飾品のお店もあり、キラキラして、高そうなものばかりだった。
雫は緩やかな坂を登り、教会へ通じる門に辿り着いた。門番に通行証と推薦状を見せ、中へ入った。右手には二階建ての建物があり、その奥から威勢のいい男達の声がした。左には薬草園なのか、様々な草花が咲いていた。
薬草園からは子供達の声が聞こえ、その声の中に聞き覚えのある声がした。雫は薬草園へ入り、声がする方へ向かった。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。
次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。
時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く――
――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。
※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。
※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる