召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>

5-6:慣れない峠を歩いて越える

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 神聖セルベン王国までの道のりは峠を一度登り、あとはただひたすら道なりに下っていくだけなのだが、砂利道だったり、小さな滝を横切るのに、不安定な足場に、石に苔が生え、滑りやすかった。


「ア、……アレックス。ちょっと休まないか? 俺、登山とかした事ないし、流石に疲れてきた」
「分かった。少し休憩」
「はぁ、どっこいしょ……」


 雫は腰をかけるに丁度良い大きさの石に座ると、後ろに手をつき、空を見上げた。木が高く生い茂り、木漏れ日が降り注ぎ、心地良い風が癒やしをもたらす。


「主から聞いてない」
「急になんだよ」
「主はアレックスの事、好きなのか?」
「好きなのか聞かれても……」


 アレックスは雫の顔を食い入るように見つめた。笑って誤魔化す事も出来ず、雫は真面目に考える事にした。


(初めは世話が焼ける犬みたいだと思ってたけど、毎日一緒にいて楽しいし、俺が騎士団長に殺されそうになった時は体を張って守ってくれたし、……正直ドキッとしたし。さっきだってキスされて嫌じゃなかったし)


「主、どうなんだ?」
「……俺はアレックスの事好きだよ。これからもずっと一緒にいたいって思ってる。でも、お前は俺の事をオメルさんと重ねてるだけじゃないのか?」
「今はもう違う。オメルはオメル。主は主だ」


 アレックスはそう言うと、雫に覆い被さった。そして、雫の唇を物欲しそうに見てきた。雫は恥じらいながら、アレックスの手に自身の手をそっと置いた。アレックスはその手を握り締め、雫に軽い口づけを何度もした。


「主の唇、美味しい。もっとしたい」
「あー、えっと……も、もっと激しくしても、大丈夫だから」


 アレックスの求める顔が一段とカッコよく見え、雫は少し俯き、アレックスの手を強く握り返して、言った。
 アレックスは耳をピンと立て、雫の顎に手を当て、顔を持ち上げた。そして、唇を重ねると、ゆっくりと舌を雫の口の中へ優しく入れた。
 雫が今まで経験してきたキスとは違い、優しく絡んでくるアレックスの舌に、口の中や舌の味をゆっくりじっくり味わうアレックスの甘いキス。なんだかふわふわする感じがした。雫の口角から二人の唾液が混じり合ったものが垂れていく。
 アレックスは雫から唇を離すと、雫の口角から垂れた唾液を舌で舐め取った。そして、雫から離れ、背中を向けた。


「今はキスだけで我慢する。これ以上はしない。主に無理させたくない」
(てっきり狼の血が流れてるから、このまま襲われるかと思って……変な期待をしたけど、流石に野外はな……)
「主、何考えてる?」
「――いや! 何もやましい事は考えてません!」
「今日は日没前までには麓まで下りたい。そこで野宿する」
「えっ、麓まで行くの? ……体力持つかな」


 雫はため息をついた。アレックスが背中に乗って移動するかと聞かれたが、遠慮した。いつも楽する訳にも行かないし、ズヴェーリの村の一件もあって、気が引けた。雫は重い腰をあげ、アレックスの後ろをついていった。峠を上がりきると、遠くの方に城壁みたいなのが見えた。アレックス曰く、あれが神聖セルベン王国の王都だそうだ。


 目の前に広がる景色は緑豊かで素晴らしいものだったが、それよりも神聖セルベン王国までの距離が意外にもある事の方が印象的で、雫は一人で来なくて良かったと思った。


「主、頑張って」
「うん、ありがとう。これは一人で来てたら、遭難してたと思うし、心が折れてたわ」
「主は山登りしないのか?」
「しないよ! 山登りとかほとんど経験ないし……。俺はインドア派なの」
「インドアってなんだ?」
「家でまったりだらだらすんだよ」
「主は根暗なのか?」
「うっ……、それは間違っていないけど、ストレートに言われると、心が痛い」


(インドアはインドアで誰の目も気にしなくても済むし、ゲーム三昧だったし、快適だった。アウトドアはあの粘着上司と出会って、車で何処かへ行って、あとは意識が飛ぶまで激しい運動をするだけ。……これってアウトドアなのか? 俺はなんか勿体ない人生を過ごしているような……)


 雫は前いた世界での事を思い出して、ゲームとそういう運動位しかしていない自分に幻滅した。今はとりあえず過去の事なんか忘れて、この林道をひたすら進んでいくだけだと気持ちを切り替えて、アレックスとともに、麓を目指した。


◆◇◆◇◆◇


 一日目の目的である麓近くの河原に到着した。なんとか日没前に到着する事が出来、アレックスはすぐに小川に入り、魚を数匹捕まえた。雫は適当に小枝などを拾ったり、アレックスから渡されたサバイバルナイフを使って、魚の下処理をし、組んだ小枝に火を点けた。二人が焼き魚を食べ終わった頃には、すっかり日が沈み、空を見上げると、満天の星空が広がっていた。


「アレックス、狼の姿になっておいで」
「……?」


 雫は手招きして、アレックスを膝の上に呼んだ。アレックスは狼の姿になると、雫の膝の上に寝そべった。雫はバッグからブラシを出し、アレックスをブラッシングし始めた。アレックスは体をビクッとさせたが、その後は気持ち良さそうな顔をしていた。


「主、アレックスが見張ってるから、寝ろ」
「アレックスは寝なくて大丈夫なの?」
「気にしない。主、寝る」
「じゃ、お言葉に甘えて……」


 雫がバッグを枕にし、そのまま横になろうとしたら、アレックスが胴体を枕にしていいと言ってくれて、そのまま横になった。
 日々のブラッシングのお陰なのか、とても触り心地が良く、アレックスの温もりが伝わり、案外気持ちが良かった。雫はアレックスの体を撫でながら、眠りについた。
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