召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

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第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>

5-5:旅立ちと突然の告白

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 アレックスの父親の話が終わると、村人達が雫に近寄り、涙を流しながら、感謝を述べた。雫は感謝される意味が分からず、自責の念に駆られた。しかし、雫を責める人は誰もいなかった。
 いくつかの家は焼けずに残っていたため、子供達と女性、年寄りを優先に使う事になり、男達は別の集落への移動準備をしたり、交代制で警備に当たっていた。雫はアレックスの父親とともに、家へ入った。


「俺にも出来る事ありますか?」
「雫は何もしなくていい。それより、魔力は大丈夫なのか?」
「はい。村の方達がポーションをくださったので、お陰様で元気になりました」


 アレックスの父親は家の二階のバルコニーで集落全体を見渡していた。雫もついて行き、集落全体を見渡した。


「アイツはオメルを守るように、雫を守ってくれていたか?」
「アイツ……? アレックスの事か。はい、守ってくれました。あと、言い忘れていたんですが、アレックスがオメルさんの子供を神聖セルベン王国へ送り届けたと、手帳にそう書いてありました」
「そうか。あの破天荒なオメルが子供を授かるとはな。旦那はさぞ大変だっただろうに」


 雫はオメルの手帳を見ながら、昔の話をした。アレックスの父親もオメルと初めて会った時の話などをしてくれた。話している最中、周囲を警戒しながらも、尻尾はブンブンと振り、口角を少し上げ、笑っていた。


「雫はこれからどうするんだ?」
「とりあえず、神聖セルベン王国へ行こうと思います」
「それなら、アラン大司教様を訪ねると良い。今は教会から離れたと聞いたが、詳しくは知らん。一応、推薦状を書いてやろう」
「何から何までありがとうございます。アレックスは……置いていこうと思います」
「アイツを置いていくのか? 乗り物くらいにはなるだろう? オメルは息子の事を乗り物とよく言っていた」
「そうかもしれませんけど、この先、どんな事が起きるか分からないし、ここの集落の移動もありますし、アレックスばかりに頼るのも申し訳ないなと……」


 今まで尻尾がフリフリと動いていたのか、しゅんと悲しげに垂れた。人狼族は皆、こんな感じで顔色隠して尻隠さずなのだなと思った。そして、明日の出発の為に、雫はベッドに横になり、眠りについた。


◆◇◆◇◆◇


 雫は太陽が上がり始める頃に、目覚めて、バッグの中の整理をした。ベッドサイドには推薦状と魔力回復ポーションが数本置いてあった。バルコニーで監視を続けるアレックスの父親にお礼を言い、雫は鞄を肩にかけ、まだ薄暗い外に出た。
 見回りをしている男性に頭を下げながら、神聖セルベン王国へ続く峠の入り口を目指し、通行門を通ろうとした。そしたら、急に腕を強く掴まれた。振り返ると、アレックスが泣きそうな顔で立っていた。


「主! なんで一人で行こうとしているんだ!」
「いや、だって、ここはアレックスが生まれ育った村だし、村の移動も人手がいるだろう? 前に、どっかへ行くのを嫌がってたじゃん」
「それは違う。アレックスは主を守れなかった。そして、あそこでずっと引き籠って、過去に甘えていた」
「アレックス……」
「でも、分かった。今の主は雫だって。オメル様も雫を守れってきっと怒ると思う。だから、アレックスは雫について行く。そして、アレックスが雫を一生守る」


 アレックスは雫の前で跪き、雫の手の甲を持ち、軽くキスをした。雫は嬉しくて、涙が溢れそうだった。
 二人のやり取りを見ていたのか、アレックスの父親は必需品が入ったリュックを持って、アレックスの頭上にドンと置いた。


「一生守るなんて当たり前だろ。こんな良い嫁が見つかったんだ。孫の顔を見るまでは私も死ねないな」
「嫁? 孫の顔? ……いやぁ、俺は男だから、子供は産めないですよ」
「親父、うるさい! 主、困っている」
「ははははっ。でも、本当に結婚するなら、式には招待して欲しいもんだね。とりあえず、このリュックには必需品が入ってる。持っていけ。神聖セルベン王国までは約二日かかる。峠は整備されている訳じゃないから、足元には気を付けろ」
「ありがとうございます。自分の役割を果したら、また遊びに来ます」
「待っているぞ」


 アレックスはリュックを背負い、雫も峠への道を目指して歩き始めた。眩しい程の光が射し込み、村人達が手を振って、二人が見えなくなるまで見送ってくれた。


「家族ってどの世界でも変わんねぇな」
「家族がなんだ?」
「なんだかんだ言って、自分の産んだ子供は可愛く見えるもんだし、ちゃんと見守ってるんだなって。俺は親に何も言わずに、こっちへ来ちゃったから、今頃、相当怒っていそうだな」
「アレックスとは家族じゃないのか?」
「えっ? アレックスとは家族……なのか?」
「違うのか? 主、毎日ブラッシングしてくれた。食いもんくれるし、アレックスに楽しい事教えてくれる」
「それはお前が毎日熱い視線で訴えてくるから、仕方なくやってる事であってだな。……アレックスは俺をどんな目で見てるんだ」
「アレックスは主の事が大好きだ。孕ませたい」
「――は、孕ませたい!?」


 アレックスの唐突な発言に、雫は少し身を引いた。アレックスはニコニコしながら、雫を見つめた。
 そして、雫に近付くと、逃げようとする雫の腰に腕を回し、体を密着させた。雫は急に頬が赤くなり、心臓がバクバクと聴こえそうだった。
 アレックスは雫の唇をペロッと舌で舐めると、唇を近付け、軽く口づけをした。
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