召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
53 / 117
第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>

5-5:旅立ちと突然の告白

しおりを挟む
 アレックスの父親の話が終わると、村人達が雫に近寄り、涙を流しながら、感謝を述べた。雫は感謝される意味が分からず、自責の念に駆られた。しかし、雫を責める人は誰もいなかった。
 いくつかの家は焼けずに残っていたため、子供達と女性、年寄りを優先に使う事になり、男達は別の集落への移動準備をしたり、交代制で警備に当たっていた。雫はアレックスの父親とともに、家へ入った。


「俺にも出来る事ありますか?」
「雫は何もしなくていい。それより、魔力は大丈夫なのか?」
「はい。村の方達がポーションをくださったので、お陰様で元気になりました」


 アレックスの父親は家の二階のバルコニーで集落全体を見渡していた。雫もついて行き、集落全体を見渡した。


「アイツはオメルを守るように、雫を守ってくれていたか?」
「アイツ……? アレックスの事か。はい、守ってくれました。あと、言い忘れていたんですが、アレックスがオメルさんの子供を神聖セルベン王国へ送り届けたと、手帳にそう書いてありました」
「そうか。あの破天荒なオメルが子供を授かるとはな。旦那はさぞ大変だっただろうに」


 雫はオメルの手帳を見ながら、昔の話をした。アレックスの父親もオメルと初めて会った時の話などをしてくれた。話している最中、周囲を警戒しながらも、尻尾はブンブンと振り、口角を少し上げ、笑っていた。


「雫はこれからどうするんだ?」
「とりあえず、神聖セルベン王国へ行こうと思います」
「それなら、アラン大司教様を訪ねると良い。今は教会から離れたと聞いたが、詳しくは知らん。一応、推薦状を書いてやろう」
「何から何までありがとうございます。アレックスは……置いていこうと思います」
「アイツを置いていくのか? 乗り物くらいにはなるだろう? オメルは息子の事を乗り物とよく言っていた」
「そうかもしれませんけど、この先、どんな事が起きるか分からないし、ここの集落の移動もありますし、アレックスばかりに頼るのも申し訳ないなと……」


 今まで尻尾がフリフリと動いていたのか、しゅんと悲しげに垂れた。人狼族は皆、こんな感じで顔色隠して尻隠さずなのだなと思った。そして、明日の出発の為に、雫はベッドに横になり、眠りについた。


◆◇◆◇◆◇


 雫は太陽が上がり始める頃に、目覚めて、バッグの中の整理をした。ベッドサイドには推薦状と魔力回復ポーションが数本置いてあった。バルコニーで監視を続けるアレックスの父親にお礼を言い、雫は鞄を肩にかけ、まだ薄暗い外に出た。
 見回りをしている男性に頭を下げながら、神聖セルベン王国へ続く峠の入り口を目指し、通行門を通ろうとした。そしたら、急に腕を強く掴まれた。振り返ると、アレックスが泣きそうな顔で立っていた。


「主! なんで一人で行こうとしているんだ!」
「いや、だって、ここはアレックスが生まれ育った村だし、村の移動も人手がいるだろう? 前に、どっかへ行くのを嫌がってたじゃん」
「それは違う。アレックスは主を守れなかった。そして、あそこでずっと引き籠って、過去に甘えていた」
「アレックス……」
「でも、分かった。今の主は雫だって。オメル様も雫を守れってきっと怒ると思う。だから、アレックスは雫について行く。そして、アレックスが雫を一生守る」


 アレックスは雫の前で跪き、雫の手の甲を持ち、軽くキスをした。雫は嬉しくて、涙が溢れそうだった。
 二人のやり取りを見ていたのか、アレックスの父親は必需品が入ったリュックを持って、アレックスの頭上にドンと置いた。


「一生守るなんて当たり前だろ。こんな良い嫁が見つかったんだ。孫の顔を見るまでは私も死ねないな」
「嫁? 孫の顔? ……いやぁ、俺は男だから、子供は産めないですよ」
「親父、うるさい! 主、困っている」
「ははははっ。でも、本当に結婚するなら、式には招待して欲しいもんだね。とりあえず、このリュックには必需品が入ってる。持っていけ。神聖セルベン王国までは約二日かかる。峠は整備されている訳じゃないから、足元には気を付けろ」
「ありがとうございます。自分の役割を果したら、また遊びに来ます」
「待っているぞ」


 アレックスはリュックを背負い、雫も峠への道を目指して歩き始めた。眩しい程の光が射し込み、村人達が手を振って、二人が見えなくなるまで見送ってくれた。


「家族ってどの世界でも変わんねぇな」
「家族がなんだ?」
「なんだかんだ言って、自分の産んだ子供は可愛く見えるもんだし、ちゃんと見守ってるんだなって。俺は親に何も言わずに、こっちへ来ちゃったから、今頃、相当怒っていそうだな」
「アレックスとは家族じゃないのか?」
「えっ? アレックスとは家族……なのか?」
「違うのか? 主、毎日ブラッシングしてくれた。食いもんくれるし、アレックスに楽しい事教えてくれる」
「それはお前が毎日熱い視線で訴えてくるから、仕方なくやってる事であってだな。……アレックスは俺をどんな目で見てるんだ」
「アレックスは主の事が大好きだ。孕ませたい」
「――は、孕ませたい!?」


 アレックスの唐突な発言に、雫は少し身を引いた。アレックスはニコニコしながら、雫を見つめた。
 そして、雫に近付くと、逃げようとする雫の腰に腕を回し、体を密着させた。雫は急に頬が赤くなり、心臓がバクバクと聴こえそうだった。
 アレックスは雫の唇をペロッと舌で舐めると、唇を近付け、軽く口づけをした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

熱しやすく冷めやすく、軽くて重い夫婦です。

七賀ごふん
BL
【何度失っても、日常は彼と創り出せる。】 ────────── 身の回りのものの温度をめちゃくちゃにしてしまう力を持って生まれた白希は、集落の屋敷に閉じ込められて育った。二十歳の誕生日に火事で家を失うが、彼の未来の夫を名乗る美青年、宗一が現れる。 力のコントロールを身につけながら、愛が重い宗一による花嫁修業が始まって……。 ※シリアス 溺愛御曹司×世間知らず。現代ファンタジー。 表紙:七賀

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...