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第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>
5-4:こんな世界を望んだ訳じゃない
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雫は恐怖で体が震えた。しかし、こんなにも簡単に罪のない命を奪っていく騎士団を見て、放っておく訳にはいかなかった。気付いたら、体が動き、騎士団の前に姿を現した。
「雫、出てくるなと言ったはずなのに――」
「あ、貴方達が探している聖女はここです! だから、これ以上、罪のない人達に剣を向けるのは止めてください!」
騎士団長は団員達に一度止めるように言い、雫の元へやってきた。そして、馬を降りて、近寄って来たかと思うと、鼻で笑うと、雫の頬を平手打ちした。あまりの強さに、雫はその場に倒れた。
「――いってぇ! 何すんだよ!」
「散々、迷惑かけてくれたな。まぁ、貴様をここで殺しても別に構わないんだけどな」
「えっ!」
騎士団長は剣を振り上げると、雫に向かって、剣を振り下ろした。雫は目を瞑って、これでおしまいだと思ったが、剣が何かとぶつかる金属音が聞こえ、人影が見えた。
雫は恐る恐る目を開けると、前腕全体を覆う程の銀色のフィンガーレスガントレットと下腿全体を覆う銀色のグリーヴを装着したアレックスが騎士団長の攻撃を弾いていた。
「主、大丈夫か? 主に手を出す奴は俺が許さねぇ!」
「アレックス!」
「貴様! 歯向かうとは良い度胸だな。今ここで殺してやる!」
騎士団長の怒声が響き渡り、アレックスは剣を避けながら、騎士団長に殴りかかった。他の団員達も再び剣を抜き、村人達を襲い始めた。
「もう嫌だ……。こんな世界望んでない。俺はただのんびりと暮らしたかったのに……。俺のせいで、無関係な人まで巻き込んで……、こんな世界は間違ってる! おかしい、おかしい!」
雫はゆっくりと立ち上がり、背中に背負っていたテネブリスの杖を手にして、天に向かって、突き上げ、術を唱えた。
「雷獣シオンよ、我の願いを聞きたまえ。黒き染まりし雷光を纏い、今、この地に轟け!」
空は瞬く間にくもに暗雲が立ち込め、一陣の冷風とともに雷鳴が聞こえ、次の瞬間、雫の隣に稲妻が落ち、そこに体長三メートル程の白虎が現れた。白虎は紫苑色の雷を身に纏い、静電気のようにバチバチと音をさせていた。
「シオン、お願い。村の人達を助けて」
「ガオーッ!」
白虎は耳を塞ぎたくなるような大きさの雄叫びを上げると、騎士団達に突っ込んでいき、稲妻を落としていった。白虎の威力は非常に強く、団員達は怯えて、逃げ出した。アレックスと戦っていた騎士団長も白虎の強さに脅威を感じ、団員達を追うように逃げていった。白虎は暫く騎士団達を追いかけ、完全に追い払うと、再び雄叫びを上げ、空へ飛んでいき、暗雲の中へ消えていった。
雫は力が抜けたように、膝から崩れ落ち、肩で息をした。アレックスは雫の元へ飛んでいき、優しく肩を抱いた。よく見ると、アレックスは所々に切られた傷があり、血が出ていた。
「主、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。魔法ってこんなに疲れるんだね……。あと、怪我した人達を治療しなきゃ。その前に、魔力を回復させるポーションとか無い?」
「……親父に聞いてみる。主待ってて。怪我した人達も集めてくる」
アレックスは父親の元へ行き、魔力回復ポーションが無いかを聞いた。そして、村の人達に声を掛け、怪我人を一か所に集めた。雫は呼吸を整えると、テネブリスの杖を杖代わりにして、怪我人達が集まる場所へ行った。皆、酷い傷を負い、出血が止まらない人も居た。
アレックスの父親からポーションを貰い、一気に飲み干した。そして、雫は立ち上がると、オメルの手帳を見て、上級回復魔法の魔法陣と呪文を頭に叩き込んだ。そして、地面に魔法陣を描くと、魔法陣の中央に立ち、杖に額を当て、術を唱えた。
「今集え、優しき癒しの光よ。聖者の歌声が貴方へ届きますように」
描かれた魔法陣は金色に光り輝いた。金色の粒子がふわふわと浮遊し、怪我人の傷に吸着するように落ちていった。傷は段々と治っていき、出血している人も傷口が塞がり、痛み苦しんでいた顔も和らいでいった。
雫は全員が治るまで祈り続けたが、自分の体から何かがどんどん抜けていく感じがし、冷や汗が出てきた。これが体内にある魔力が抜けていく感覚なのだと雫は認識した。皆の治療が終わると、雫はそのまま後ろに倒れそうになった。倒れる前に、アレックスが雫の体を受け止め、大事には至らなかった。
「はぁはぁ……、アレックスか。頭ぶつけるとこだった、ありがとう」
「主も休む。顔色悪い」
「雫、村の長として感謝する」
「いえ、俺のせいで迷惑かけちゃったし、村の人達まで巻き込んでしまって、ごめんなさい」
「雫が謝る事ない。どうせいずれはこういう事になるというのは村の皆も知っていた事だ。元々、あいつらは私達を良く思っていなかったし、条約を破棄したがってたからな」
「でも、皆さんが住んでいた家も燃えちゃって、……どうしよう」
「それなら大丈夫だ。ここは集落の一つに過ぎない。山奥の洞窟に別の集落があるから、そこに行けばいいだけだ。心配するな」
アレックスの父親はそう告げると、番人達に通行門の応急処置をするように命令し、村人達に今後についての話をしに行った。心配するなと言われたが、単なる仕事のミスとは比べ物にならないし、あの惨劇を目の当たりにして、雫は胸が締め付けられるような感覚がした。
「雫、出てくるなと言ったはずなのに――」
「あ、貴方達が探している聖女はここです! だから、これ以上、罪のない人達に剣を向けるのは止めてください!」
騎士団長は団員達に一度止めるように言い、雫の元へやってきた。そして、馬を降りて、近寄って来たかと思うと、鼻で笑うと、雫の頬を平手打ちした。あまりの強さに、雫はその場に倒れた。
「――いってぇ! 何すんだよ!」
「散々、迷惑かけてくれたな。まぁ、貴様をここで殺しても別に構わないんだけどな」
「えっ!」
騎士団長は剣を振り上げると、雫に向かって、剣を振り下ろした。雫は目を瞑って、これでおしまいだと思ったが、剣が何かとぶつかる金属音が聞こえ、人影が見えた。
雫は恐る恐る目を開けると、前腕全体を覆う程の銀色のフィンガーレスガントレットと下腿全体を覆う銀色のグリーヴを装着したアレックスが騎士団長の攻撃を弾いていた。
「主、大丈夫か? 主に手を出す奴は俺が許さねぇ!」
「アレックス!」
「貴様! 歯向かうとは良い度胸だな。今ここで殺してやる!」
騎士団長の怒声が響き渡り、アレックスは剣を避けながら、騎士団長に殴りかかった。他の団員達も再び剣を抜き、村人達を襲い始めた。
「もう嫌だ……。こんな世界望んでない。俺はただのんびりと暮らしたかったのに……。俺のせいで、無関係な人まで巻き込んで……、こんな世界は間違ってる! おかしい、おかしい!」
雫はゆっくりと立ち上がり、背中に背負っていたテネブリスの杖を手にして、天に向かって、突き上げ、術を唱えた。
「雷獣シオンよ、我の願いを聞きたまえ。黒き染まりし雷光を纏い、今、この地に轟け!」
空は瞬く間にくもに暗雲が立ち込め、一陣の冷風とともに雷鳴が聞こえ、次の瞬間、雫の隣に稲妻が落ち、そこに体長三メートル程の白虎が現れた。白虎は紫苑色の雷を身に纏い、静電気のようにバチバチと音をさせていた。
「シオン、お願い。村の人達を助けて」
「ガオーッ!」
白虎は耳を塞ぎたくなるような大きさの雄叫びを上げると、騎士団達に突っ込んでいき、稲妻を落としていった。白虎の威力は非常に強く、団員達は怯えて、逃げ出した。アレックスと戦っていた騎士団長も白虎の強さに脅威を感じ、団員達を追うように逃げていった。白虎は暫く騎士団達を追いかけ、完全に追い払うと、再び雄叫びを上げ、空へ飛んでいき、暗雲の中へ消えていった。
雫は力が抜けたように、膝から崩れ落ち、肩で息をした。アレックスは雫の元へ飛んでいき、優しく肩を抱いた。よく見ると、アレックスは所々に切られた傷があり、血が出ていた。
「主、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。魔法ってこんなに疲れるんだね……。あと、怪我した人達を治療しなきゃ。その前に、魔力を回復させるポーションとか無い?」
「……親父に聞いてみる。主待ってて。怪我した人達も集めてくる」
アレックスは父親の元へ行き、魔力回復ポーションが無いかを聞いた。そして、村の人達に声を掛け、怪我人を一か所に集めた。雫は呼吸を整えると、テネブリスの杖を杖代わりにして、怪我人達が集まる場所へ行った。皆、酷い傷を負い、出血が止まらない人も居た。
アレックスの父親からポーションを貰い、一気に飲み干した。そして、雫は立ち上がると、オメルの手帳を見て、上級回復魔法の魔法陣と呪文を頭に叩き込んだ。そして、地面に魔法陣を描くと、魔法陣の中央に立ち、杖に額を当て、術を唱えた。
「今集え、優しき癒しの光よ。聖者の歌声が貴方へ届きますように」
描かれた魔法陣は金色に光り輝いた。金色の粒子がふわふわと浮遊し、怪我人の傷に吸着するように落ちていった。傷は段々と治っていき、出血している人も傷口が塞がり、痛み苦しんでいた顔も和らいでいった。
雫は全員が治るまで祈り続けたが、自分の体から何かがどんどん抜けていく感じがし、冷や汗が出てきた。これが体内にある魔力が抜けていく感覚なのだと雫は認識した。皆の治療が終わると、雫はそのまま後ろに倒れそうになった。倒れる前に、アレックスが雫の体を受け止め、大事には至らなかった。
「はぁはぁ……、アレックスか。頭ぶつけるとこだった、ありがとう」
「主も休む。顔色悪い」
「雫、村の長として感謝する」
「いえ、俺のせいで迷惑かけちゃったし、村の人達まで巻き込んでしまって、ごめんなさい」
「雫が謝る事ない。どうせいずれはこういう事になるというのは村の皆も知っていた事だ。元々、あいつらは私達を良く思っていなかったし、条約を破棄したがってたからな」
「でも、皆さんが住んでいた家も燃えちゃって、……どうしよう」
「それなら大丈夫だ。ここは集落の一つに過ぎない。山奥の洞窟に別の集落があるから、そこに行けばいいだけだ。心配するな」
アレックスの父親はそう告げると、番人達に通行門の応急処置をするように命令し、村人達に今後についての話をしに行った。心配するなと言われたが、単なる仕事のミスとは比べ物にならないし、あの惨劇を目の当たりにして、雫は胸が締め付けられるような感覚がした。
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