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第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>
5-3:次から次へと
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「ゴホッ、ゴホッ! うぇ……、なんだこの味」
口の中に広がる強烈な苦みとえぐみを感じ、雫は起き上がった。とりあえず水が飲みたい衝動にかられ、ベッドサイドにあった水瓶を取り、念のため、中身が水かを確認した。特に臭いはしなかったため、雫はコップに水を注ぎ、水を一気に飲み干した。
「と、とりあえずさっきよりマシになった。それにしても、ここは何処だ?」
自分の住んでいたログハウスと似ていた。ふと横を見ると、人の姿をしたアレックスがベッド横の床で丸まって寝ていた。ベッドの頭側にある窓からは日が差し込んでおり、外を見ると、アレックスに似た種族がちらほらいたのが分かった。
雫はベッドから出ようとしたが、太ももの痛みでスムーズに出れなかった。シーツを外し、怪我をした太ももを見ると、包帯がされており、血も綺麗に拭き取られていた。雫は太ももの怪我を庇いながら、ベッドから出ようとした時、ドアが開き、アレックスに似た人狼が入って来た。
「あら、解毒薬が効いたみたいね。こんにちは」
「……こ、こんにちは」
「私はアレックスの母親です。そして、ここはズヴェーリの村で、私達人狼族の集落よ」
「なるほど……」
母親は床で寝るアレックスを叩き起こした。アレックスは起きると、元気になった雫を見て、泣いて喜んだ。雫がアレックスの頭を撫でていると、再び人狼が入って来た。厳つい見た目をした強そうな男だ。
先程まで喚いていたアレックスは急に黙り込み、雫から離れた。雫は太ももの怪我を庇いながら、ベッドから出て、深々と頭を下げた。
「助けて頂き、ありがとうございます。私は雫と申します」
「性別は違うが、確かにオメルの匂いがするな。私はこのズヴェーリの村の長で、アレックスの父親だ」
「長って事は、アレックスは長の息子なの?」
「コイツにその資格があればの話だがな。村を飛び出したかと思ったら、面倒事をまた起こしやがって……」
アレックスは歯を食いしばり、俯いていた。母親が父親を宥めた。そして、父親から昨日の事について話が聞きたいと言われたので、雫はベッドサイドに座り、事の顛末を説明した。
「第三王子以外が厄介なんだよな、あそこの国は。オメルが生きていた時代から聖女狩りはあったが、雫は聖女認定されていないのだろう? それなのに、家に火を放ったり、終いには毒矢まで射ってくるとは……。そもそも神聖セルベン王国の国王と教会の上層部が変わってから、どこもかしこもおかしくなっちまった」
「そうなんですか……。オメルさんが生きていた時代から世界全体がおかしくなったんですね。……もしかしたら、神聖セルベン王国に俺の友達が召喚されたかもしれなくて、大丈夫かな?」
「あそこの国で召喚された者なら、特に問題は無いと思うが……」
雫はだいぶ厄介な異世界へ飛ばされたのだと改めて実感する。希空がこの世界にいたとしても、安全かどうかはこの目で確認しないといけないなと思った。仮にいなかったら、今後の自分の身の振りについてをきちんと考えないといけないなと思った。
◆◇◆◇◆◇
雫は怪我が完治するまで、ズヴェーリの村でお世話になる事にした。オメルの生まれ変わりと噂が一気に広まり、村の人達からは崇められ、雫は誤解である事を伝えるのに苦労した。
怪我も治り、アレックスの肩を借りなくても、雫は一人で歩けるようになった。そろそろ旅の支度をし、神聖セルベン王国へ向かおうと思ったある日の夜、赤い軍服を着たアーデルハイト王国の騎士団がズヴェーリの村へやってきた。
「村の長に話がある! 門を開けろ!」
「それは出来ません。日を改めてお越しください」
「なんだと? ここを保護しているのは、どこの国がやってると思ってるんだ!」
通行門からは番人と騎士団長らしき人が言い合いをしている声が聞こえた。雫はきっと自分の事を探しに来たのだと思い、体を震わせた。
アレックスの父親はため息をつくと、通行門の方へ向かった。雫も同行しようと思ったが、アレックスの父親から止められた。しかし、雫はどうしても気になって、見つからないように後をついていき、物陰から様子を窺った。
「なんだ、こんな夜遅くに。私と話がしたいという割には、お偉いさんは騎士団長しかいないじゃないか」
「国王様からの伝言だ。処罰すべき聖女を助けた罪で、保護条約は今をもって破棄とし、聖女並びに貴様らを連行する。抵抗する場合は武力を行使する。以上だ」
「そもそも聖女がいないと、この世界は成り立たない。お前の国にも公にしていないが、治癒士がいるじゃないか。治癒が出来るのは聖女だけだろう? それを分かって、言ってるのか? 聖女を捕まえて、奴隷のようにこき使って、用済みは殺すつもりか?」
「――貴様! 抵抗するという事だな。皆、剣を抜け!」
騎士団は剣を抜き、騎士団長の突撃の合図とともに、一斉に雄叫びを上げ、木製で出来た通行門を壊し、中へ入って来た。団員達は持っていた松明を家に投げ込んだり、逃げ惑う村の人達に斬りかかった。村は火の海となり、見るも無残な光景だった。
口の中に広がる強烈な苦みとえぐみを感じ、雫は起き上がった。とりあえず水が飲みたい衝動にかられ、ベッドサイドにあった水瓶を取り、念のため、中身が水かを確認した。特に臭いはしなかったため、雫はコップに水を注ぎ、水を一気に飲み干した。
「と、とりあえずさっきよりマシになった。それにしても、ここは何処だ?」
自分の住んでいたログハウスと似ていた。ふと横を見ると、人の姿をしたアレックスがベッド横の床で丸まって寝ていた。ベッドの頭側にある窓からは日が差し込んでおり、外を見ると、アレックスに似た種族がちらほらいたのが分かった。
雫はベッドから出ようとしたが、太ももの痛みでスムーズに出れなかった。シーツを外し、怪我をした太ももを見ると、包帯がされており、血も綺麗に拭き取られていた。雫は太ももの怪我を庇いながら、ベッドから出ようとした時、ドアが開き、アレックスに似た人狼が入って来た。
「あら、解毒薬が効いたみたいね。こんにちは」
「……こ、こんにちは」
「私はアレックスの母親です。そして、ここはズヴェーリの村で、私達人狼族の集落よ」
「なるほど……」
母親は床で寝るアレックスを叩き起こした。アレックスは起きると、元気になった雫を見て、泣いて喜んだ。雫がアレックスの頭を撫でていると、再び人狼が入って来た。厳つい見た目をした強そうな男だ。
先程まで喚いていたアレックスは急に黙り込み、雫から離れた。雫は太ももの怪我を庇いながら、ベッドから出て、深々と頭を下げた。
「助けて頂き、ありがとうございます。私は雫と申します」
「性別は違うが、確かにオメルの匂いがするな。私はこのズヴェーリの村の長で、アレックスの父親だ」
「長って事は、アレックスは長の息子なの?」
「コイツにその資格があればの話だがな。村を飛び出したかと思ったら、面倒事をまた起こしやがって……」
アレックスは歯を食いしばり、俯いていた。母親が父親を宥めた。そして、父親から昨日の事について話が聞きたいと言われたので、雫はベッドサイドに座り、事の顛末を説明した。
「第三王子以外が厄介なんだよな、あそこの国は。オメルが生きていた時代から聖女狩りはあったが、雫は聖女認定されていないのだろう? それなのに、家に火を放ったり、終いには毒矢まで射ってくるとは……。そもそも神聖セルベン王国の国王と教会の上層部が変わってから、どこもかしこもおかしくなっちまった」
「そうなんですか……。オメルさんが生きていた時代から世界全体がおかしくなったんですね。……もしかしたら、神聖セルベン王国に俺の友達が召喚されたかもしれなくて、大丈夫かな?」
「あそこの国で召喚された者なら、特に問題は無いと思うが……」
雫はだいぶ厄介な異世界へ飛ばされたのだと改めて実感する。希空がこの世界にいたとしても、安全かどうかはこの目で確認しないといけないなと思った。仮にいなかったら、今後の自分の身の振りについてをきちんと考えないといけないなと思った。
◆◇◆◇◆◇
雫は怪我が完治するまで、ズヴェーリの村でお世話になる事にした。オメルの生まれ変わりと噂が一気に広まり、村の人達からは崇められ、雫は誤解である事を伝えるのに苦労した。
怪我も治り、アレックスの肩を借りなくても、雫は一人で歩けるようになった。そろそろ旅の支度をし、神聖セルベン王国へ向かおうと思ったある日の夜、赤い軍服を着たアーデルハイト王国の騎士団がズヴェーリの村へやってきた。
「村の長に話がある! 門を開けろ!」
「それは出来ません。日を改めてお越しください」
「なんだと? ここを保護しているのは、どこの国がやってると思ってるんだ!」
通行門からは番人と騎士団長らしき人が言い合いをしている声が聞こえた。雫はきっと自分の事を探しに来たのだと思い、体を震わせた。
アレックスの父親はため息をつくと、通行門の方へ向かった。雫も同行しようと思ったが、アレックスの父親から止められた。しかし、雫はどうしても気になって、見つからないように後をついていき、物陰から様子を窺った。
「なんだ、こんな夜遅くに。私と話がしたいという割には、お偉いさんは騎士団長しかいないじゃないか」
「国王様からの伝言だ。処罰すべき聖女を助けた罪で、保護条約は今をもって破棄とし、聖女並びに貴様らを連行する。抵抗する場合は武力を行使する。以上だ」
「そもそも聖女がいないと、この世界は成り立たない。お前の国にも公にしていないが、治癒士がいるじゃないか。治癒が出来るのは聖女だけだろう? それを分かって、言ってるのか? 聖女を捕まえて、奴隷のようにこき使って、用済みは殺すつもりか?」
「――貴様! 抵抗するという事だな。皆、剣を抜け!」
騎士団は剣を抜き、騎士団長の突撃の合図とともに、一斉に雄叫びを上げ、木製で出来た通行門を壊し、中へ入って来た。団員達は持っていた松明を家に投げ込んだり、逃げ惑う村の人達に斬りかかった。村は火の海となり、見るも無残な光景だった。
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