50 / 117
第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>
5-2:ズヴェーリの村を目指し、夜を駆ける
しおりを挟む
「おい、逃げたぞ!」
後ろから騎士の殺気立った荒々しい声が聞こえ、馬に乗った騎士達が追いかけてくる音が聞こえた。それと同時に、背後からは家が焼け落ちていく音と焦げる臭いがした。
雫は怖くて、後ろを見る事すら出来ず、アレックスの背中にしがみついた。アレックスがどこへ向かっているか分からないが、今はアレックスに頼るしかなかった。
(前の主との思い出の家を本当は守りたかったんだろうな。俺は魔法でなんとかすれば良かったのかもしれないけど……。アレックス、ごめんね)
騎士の声や馬の足音は段々と遠ざかり、以前訪れた小川のせせらぎが聞こえてきて、雫は安心した。アレックスに「もう大丈夫だろうから降ろして」と伝えたが、首を横に振り、頑なに降ろしてくれなかった。
雫は完全に安心しきっていたのか、アレックスから無理矢理降りた。しかし、その時、アレックスが雫に避けるように声を掛けようとした瞬間、背後から矢音が聞こえ、振り返った時には雫の太ももに矢が刺さっていた。
雫は今までに経験した事が無い鋭利なものが筋肉に食い込むような激痛に苦悶した。そして、矢が刺さった太ももを庇いながら、地面に倒れた。
「主、大丈夫か? 歩けるか?」
「んぐぅ……。すっげぇ痛いし、痺れる」
「主、それ毒矢。すぐ抜く」
先程まで遠くの方に聞こえていた馬の足音が近付いてきていた。雫は震える手で矢を持つと、目をギュッと瞑って、矢を引き抜いた。アレックスは雫に傷口を押さえるように伝えると、人の姿になり、雫を横抱きし、自慢の跳躍力で木へと跳び上がり、太い枝から太い枝へ飛び移り、騎士達を攪乱させた。
「主、あと少し。頑張れ」
「ごめんね、……アレックス」
毒矢の効果が徐々に全身に回り、雫は悪寒と吐き気がしてきて、冷や汗が止まらなかった。アレックスは休む事無く、森の奥へと進んだ。アレックスの息遣いと飛び移る時に聞こえる枝が軋む音が徐々に遠くに聞こえるような気がした。雫は薄れる意識の中、このまま死んでしまうのだろうと思った。
◆◇◆◇◆◇
どの位、森の奥へ来たのだろうか。辺りは静寂に包まれており、森を抜けると、そこには外敵からの襲撃を防ぐために作られた高くそびえ立つ木製の柵で囲まれた集落が見えてきた。
アレックスは集落の入り口の門番に声を掛ける事無く、高い柵を軽々と飛び越えた。高見張りにいた監視者も驚き、鐘を鳴らした。
集落の家々からは人狼達が何事かと思い、外を覗いた。番人達が止まるように声を荒げていたが、アレックスは必死に自分の家を目指した。しかし、あと少しのところで、アレックスは番人達に取り押さえられた。
「侵入者観念しろ! 人間まで連れてきて、何をするつもりだ!」
「主、アーデルハイトの奴らにやられた。解毒薬くれ。早くしないと死ぬ!」
アレックスが声を荒げて、もがいていると、家の中からアレックスより体格が数倍良い人狼が現れた。そして、番人達へ拘束を解くように指示した。そして、立ち上がろうとするアレックスに近付くと、容赦なく体に蹴りを一発入れた。アレックスは蹴りの衝撃で吹き飛び、地面を転がった。
「お前は村にどれだけ迷惑をかければ済むんだ。しかも、人間まで連れてきて」
「ゴホッゴホッ……。親父、主に解毒薬を。オメルの生まれ変わりなんだ。お願いだ、頼む」
「オメルの生まれ変わり? と言う事は、コイツも聖女か。……オメルには色々と借りがあるからな」
その厳つい人狼は意識を失った雫を抱き上げると、番人達に配置場所へ戻るように伝え、自分の家へ入った。アレックスも父親の背中を追い、家へ入った。家に入るなり、顔色が悪い雫を横抱きしている父親を見て、母親は驚いた。そして、土埃だらけのアレックスを見て、更に驚いた。
「アーデルハイトの奴らが聖女に毒矢を射ったそうだ。毒がだいぶ回っているようだ。解毒薬を急いで用意してくれ」
「だいぶ顔色が悪いわ。解毒薬を急いで用意します」
「…………」
「アレックス! あんたはそこに突っ立ってないで、手伝っておくれ!」
「……分かった」
アレックスは土埃を払い、母親の手伝いをした。鍋に水を張り、沸騰するまでに、数種類の薬草をすり潰し、布で漉した。漉した緑色の液体をお湯へ入れ、ひと煮立ちさせて、解毒薬の完成だ。
母親はコップに注ぐと、アレックスに渡し、雫の元へ持って行くように伝えた。隣の部屋のベッドの上に寝かされた雫の元へ行ったが、父親は既に自室へ戻ったようで、そこにはいなかった。
「主、解毒薬作った。飲め」
アレックスが雫の上体を起こすと、雫の口元にコップを近付けた。しかし、口角から解毒薬が垂れ、シーツに染みを作る。アレックスは持っていた解毒薬を口に含み、口移しで雫の口の中へ流し込んだ。
雫の喉仏が少し動いたが、あまり飲めていない様子だった。アレックスは解毒薬が無くなるまで、何度も口移しをし、雫に飲ませた。
後ろから騎士の殺気立った荒々しい声が聞こえ、馬に乗った騎士達が追いかけてくる音が聞こえた。それと同時に、背後からは家が焼け落ちていく音と焦げる臭いがした。
雫は怖くて、後ろを見る事すら出来ず、アレックスの背中にしがみついた。アレックスがどこへ向かっているか分からないが、今はアレックスに頼るしかなかった。
(前の主との思い出の家を本当は守りたかったんだろうな。俺は魔法でなんとかすれば良かったのかもしれないけど……。アレックス、ごめんね)
騎士の声や馬の足音は段々と遠ざかり、以前訪れた小川のせせらぎが聞こえてきて、雫は安心した。アレックスに「もう大丈夫だろうから降ろして」と伝えたが、首を横に振り、頑なに降ろしてくれなかった。
雫は完全に安心しきっていたのか、アレックスから無理矢理降りた。しかし、その時、アレックスが雫に避けるように声を掛けようとした瞬間、背後から矢音が聞こえ、振り返った時には雫の太ももに矢が刺さっていた。
雫は今までに経験した事が無い鋭利なものが筋肉に食い込むような激痛に苦悶した。そして、矢が刺さった太ももを庇いながら、地面に倒れた。
「主、大丈夫か? 歩けるか?」
「んぐぅ……。すっげぇ痛いし、痺れる」
「主、それ毒矢。すぐ抜く」
先程まで遠くの方に聞こえていた馬の足音が近付いてきていた。雫は震える手で矢を持つと、目をギュッと瞑って、矢を引き抜いた。アレックスは雫に傷口を押さえるように伝えると、人の姿になり、雫を横抱きし、自慢の跳躍力で木へと跳び上がり、太い枝から太い枝へ飛び移り、騎士達を攪乱させた。
「主、あと少し。頑張れ」
「ごめんね、……アレックス」
毒矢の効果が徐々に全身に回り、雫は悪寒と吐き気がしてきて、冷や汗が止まらなかった。アレックスは休む事無く、森の奥へと進んだ。アレックスの息遣いと飛び移る時に聞こえる枝が軋む音が徐々に遠くに聞こえるような気がした。雫は薄れる意識の中、このまま死んでしまうのだろうと思った。
◆◇◆◇◆◇
どの位、森の奥へ来たのだろうか。辺りは静寂に包まれており、森を抜けると、そこには外敵からの襲撃を防ぐために作られた高くそびえ立つ木製の柵で囲まれた集落が見えてきた。
アレックスは集落の入り口の門番に声を掛ける事無く、高い柵を軽々と飛び越えた。高見張りにいた監視者も驚き、鐘を鳴らした。
集落の家々からは人狼達が何事かと思い、外を覗いた。番人達が止まるように声を荒げていたが、アレックスは必死に自分の家を目指した。しかし、あと少しのところで、アレックスは番人達に取り押さえられた。
「侵入者観念しろ! 人間まで連れてきて、何をするつもりだ!」
「主、アーデルハイトの奴らにやられた。解毒薬くれ。早くしないと死ぬ!」
アレックスが声を荒げて、もがいていると、家の中からアレックスより体格が数倍良い人狼が現れた。そして、番人達へ拘束を解くように指示した。そして、立ち上がろうとするアレックスに近付くと、容赦なく体に蹴りを一発入れた。アレックスは蹴りの衝撃で吹き飛び、地面を転がった。
「お前は村にどれだけ迷惑をかければ済むんだ。しかも、人間まで連れてきて」
「ゴホッゴホッ……。親父、主に解毒薬を。オメルの生まれ変わりなんだ。お願いだ、頼む」
「オメルの生まれ変わり? と言う事は、コイツも聖女か。……オメルには色々と借りがあるからな」
その厳つい人狼は意識を失った雫を抱き上げると、番人達に配置場所へ戻るように伝え、自分の家へ入った。アレックスも父親の背中を追い、家へ入った。家に入るなり、顔色が悪い雫を横抱きしている父親を見て、母親は驚いた。そして、土埃だらけのアレックスを見て、更に驚いた。
「アーデルハイトの奴らが聖女に毒矢を射ったそうだ。毒がだいぶ回っているようだ。解毒薬を急いで用意してくれ」
「だいぶ顔色が悪いわ。解毒薬を急いで用意します」
「…………」
「アレックス! あんたはそこに突っ立ってないで、手伝っておくれ!」
「……分かった」
アレックスは土埃を払い、母親の手伝いをした。鍋に水を張り、沸騰するまでに、数種類の薬草をすり潰し、布で漉した。漉した緑色の液体をお湯へ入れ、ひと煮立ちさせて、解毒薬の完成だ。
母親はコップに注ぐと、アレックスに渡し、雫の元へ持って行くように伝えた。隣の部屋のベッドの上に寝かされた雫の元へ行ったが、父親は既に自室へ戻ったようで、そこにはいなかった。
「主、解毒薬作った。飲め」
アレックスが雫の上体を起こすと、雫の口元にコップを近付けた。しかし、口角から解毒薬が垂れ、シーツに染みを作る。アレックスは持っていた解毒薬を口に含み、口移しで雫の口の中へ流し込んだ。
雫の喉仏が少し動いたが、あまり飲めていない様子だった。アレックスは解毒薬が無くなるまで、何度も口移しをし、雫に飲ませた。
0
お気に入りに追加
125
あなたにおすすめの小説
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる