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第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>
5-2:ズヴェーリの村を目指し、夜を駆ける
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「おい、逃げたぞ!」
後ろから騎士の殺気立った荒々しい声が聞こえ、馬に乗った騎士達が追いかけてくる音が聞こえた。それと同時に、背後からは家が焼け落ちていく音と焦げる臭いがした。
雫は怖くて、後ろを見る事すら出来ず、アレックスの背中にしがみついた。アレックスがどこへ向かっているか分からないが、今はアレックスに頼るしかなかった。
(前の主との思い出の家を本当は守りたかったんだろうな。俺は魔法でなんとかすれば良かったのかもしれないけど……。アレックス、ごめんね)
騎士の声や馬の足音は段々と遠ざかり、以前訪れた小川のせせらぎが聞こえてきて、雫は安心した。アレックスに「もう大丈夫だろうから降ろして」と伝えたが、首を横に振り、頑なに降ろしてくれなかった。
雫は完全に安心しきっていたのか、アレックスから無理矢理降りた。しかし、その時、アレックスが雫に避けるように声を掛けようとした瞬間、背後から矢音が聞こえ、振り返った時には雫の太ももに矢が刺さっていた。
雫は今までに経験した事が無い鋭利なものが筋肉に食い込むような激痛に苦悶した。そして、矢が刺さった太ももを庇いながら、地面に倒れた。
「主、大丈夫か? 歩けるか?」
「んぐぅ……。すっげぇ痛いし、痺れる」
「主、それ毒矢。すぐ抜く」
先程まで遠くの方に聞こえていた馬の足音が近付いてきていた。雫は震える手で矢を持つと、目をギュッと瞑って、矢を引き抜いた。アレックスは雫に傷口を押さえるように伝えると、人の姿になり、雫を横抱きし、自慢の跳躍力で木へと跳び上がり、太い枝から太い枝へ飛び移り、騎士達を攪乱させた。
「主、あと少し。頑張れ」
「ごめんね、……アレックス」
毒矢の効果が徐々に全身に回り、雫は悪寒と吐き気がしてきて、冷や汗が止まらなかった。アレックスは休む事無く、森の奥へと進んだ。アレックスの息遣いと飛び移る時に聞こえる枝が軋む音が徐々に遠くに聞こえるような気がした。雫は薄れる意識の中、このまま死んでしまうのだろうと思った。
◆◇◆◇◆◇
どの位、森の奥へ来たのだろうか。辺りは静寂に包まれており、森を抜けると、そこには外敵からの襲撃を防ぐために作られた高くそびえ立つ木製の柵で囲まれた集落が見えてきた。
アレックスは集落の入り口の門番に声を掛ける事無く、高い柵を軽々と飛び越えた。高見張りにいた監視者も驚き、鐘を鳴らした。
集落の家々からは人狼達が何事かと思い、外を覗いた。番人達が止まるように声を荒げていたが、アレックスは必死に自分の家を目指した。しかし、あと少しのところで、アレックスは番人達に取り押さえられた。
「侵入者観念しろ! 人間まで連れてきて、何をするつもりだ!」
「主、アーデルハイトの奴らにやられた。解毒薬くれ。早くしないと死ぬ!」
アレックスが声を荒げて、もがいていると、家の中からアレックスより体格が数倍良い人狼が現れた。そして、番人達へ拘束を解くように指示した。そして、立ち上がろうとするアレックスに近付くと、容赦なく体に蹴りを一発入れた。アレックスは蹴りの衝撃で吹き飛び、地面を転がった。
「お前は村にどれだけ迷惑をかければ済むんだ。しかも、人間まで連れてきて」
「ゴホッゴホッ……。親父、主に解毒薬を。オメルの生まれ変わりなんだ。お願いだ、頼む」
「オメルの生まれ変わり? と言う事は、コイツも聖女か。……オメルには色々と借りがあるからな」
その厳つい人狼は意識を失った雫を抱き上げると、番人達に配置場所へ戻るように伝え、自分の家へ入った。アレックスも父親の背中を追い、家へ入った。家に入るなり、顔色が悪い雫を横抱きしている父親を見て、母親は驚いた。そして、土埃だらけのアレックスを見て、更に驚いた。
「アーデルハイトの奴らが聖女に毒矢を射ったそうだ。毒がだいぶ回っているようだ。解毒薬を急いで用意してくれ」
「だいぶ顔色が悪いわ。解毒薬を急いで用意します」
「…………」
「アレックス! あんたはそこに突っ立ってないで、手伝っておくれ!」
「……分かった」
アレックスは土埃を払い、母親の手伝いをした。鍋に水を張り、沸騰するまでに、数種類の薬草をすり潰し、布で漉した。漉した緑色の液体をお湯へ入れ、ひと煮立ちさせて、解毒薬の完成だ。
母親はコップに注ぐと、アレックスに渡し、雫の元へ持って行くように伝えた。隣の部屋のベッドの上に寝かされた雫の元へ行ったが、父親は既に自室へ戻ったようで、そこにはいなかった。
「主、解毒薬作った。飲め」
アレックスが雫の上体を起こすと、雫の口元にコップを近付けた。しかし、口角から解毒薬が垂れ、シーツに染みを作る。アレックスは持っていた解毒薬を口に含み、口移しで雫の口の中へ流し込んだ。
雫の喉仏が少し動いたが、あまり飲めていない様子だった。アレックスは解毒薬が無くなるまで、何度も口移しをし、雫に飲ませた。
後ろから騎士の殺気立った荒々しい声が聞こえ、馬に乗った騎士達が追いかけてくる音が聞こえた。それと同時に、背後からは家が焼け落ちていく音と焦げる臭いがした。
雫は怖くて、後ろを見る事すら出来ず、アレックスの背中にしがみついた。アレックスがどこへ向かっているか分からないが、今はアレックスに頼るしかなかった。
(前の主との思い出の家を本当は守りたかったんだろうな。俺は魔法でなんとかすれば良かったのかもしれないけど……。アレックス、ごめんね)
騎士の声や馬の足音は段々と遠ざかり、以前訪れた小川のせせらぎが聞こえてきて、雫は安心した。アレックスに「もう大丈夫だろうから降ろして」と伝えたが、首を横に振り、頑なに降ろしてくれなかった。
雫は完全に安心しきっていたのか、アレックスから無理矢理降りた。しかし、その時、アレックスが雫に避けるように声を掛けようとした瞬間、背後から矢音が聞こえ、振り返った時には雫の太ももに矢が刺さっていた。
雫は今までに経験した事が無い鋭利なものが筋肉に食い込むような激痛に苦悶した。そして、矢が刺さった太ももを庇いながら、地面に倒れた。
「主、大丈夫か? 歩けるか?」
「んぐぅ……。すっげぇ痛いし、痺れる」
「主、それ毒矢。すぐ抜く」
先程まで遠くの方に聞こえていた馬の足音が近付いてきていた。雫は震える手で矢を持つと、目をギュッと瞑って、矢を引き抜いた。アレックスは雫に傷口を押さえるように伝えると、人の姿になり、雫を横抱きし、自慢の跳躍力で木へと跳び上がり、太い枝から太い枝へ飛び移り、騎士達を攪乱させた。
「主、あと少し。頑張れ」
「ごめんね、……アレックス」
毒矢の効果が徐々に全身に回り、雫は悪寒と吐き気がしてきて、冷や汗が止まらなかった。アレックスは休む事無く、森の奥へと進んだ。アレックスの息遣いと飛び移る時に聞こえる枝が軋む音が徐々に遠くに聞こえるような気がした。雫は薄れる意識の中、このまま死んでしまうのだろうと思った。
◆◇◆◇◆◇
どの位、森の奥へ来たのだろうか。辺りは静寂に包まれており、森を抜けると、そこには外敵からの襲撃を防ぐために作られた高くそびえ立つ木製の柵で囲まれた集落が見えてきた。
アレックスは集落の入り口の門番に声を掛ける事無く、高い柵を軽々と飛び越えた。高見張りにいた監視者も驚き、鐘を鳴らした。
集落の家々からは人狼達が何事かと思い、外を覗いた。番人達が止まるように声を荒げていたが、アレックスは必死に自分の家を目指した。しかし、あと少しのところで、アレックスは番人達に取り押さえられた。
「侵入者観念しろ! 人間まで連れてきて、何をするつもりだ!」
「主、アーデルハイトの奴らにやられた。解毒薬くれ。早くしないと死ぬ!」
アレックスが声を荒げて、もがいていると、家の中からアレックスより体格が数倍良い人狼が現れた。そして、番人達へ拘束を解くように指示した。そして、立ち上がろうとするアレックスに近付くと、容赦なく体に蹴りを一発入れた。アレックスは蹴りの衝撃で吹き飛び、地面を転がった。
「お前は村にどれだけ迷惑をかければ済むんだ。しかも、人間まで連れてきて」
「ゴホッゴホッ……。親父、主に解毒薬を。オメルの生まれ変わりなんだ。お願いだ、頼む」
「オメルの生まれ変わり? と言う事は、コイツも聖女か。……オメルには色々と借りがあるからな」
その厳つい人狼は意識を失った雫を抱き上げると、番人達に配置場所へ戻るように伝え、自分の家へ入った。アレックスも父親の背中を追い、家へ入った。家に入るなり、顔色が悪い雫を横抱きしている父親を見て、母親は驚いた。そして、土埃だらけのアレックスを見て、更に驚いた。
「アーデルハイトの奴らが聖女に毒矢を射ったそうだ。毒がだいぶ回っているようだ。解毒薬を急いで用意してくれ」
「だいぶ顔色が悪いわ。解毒薬を急いで用意します」
「…………」
「アレックス! あんたはそこに突っ立ってないで、手伝っておくれ!」
「……分かった」
アレックスは土埃を払い、母親の手伝いをした。鍋に水を張り、沸騰するまでに、数種類の薬草をすり潰し、布で漉した。漉した緑色の液体をお湯へ入れ、ひと煮立ちさせて、解毒薬の完成だ。
母親はコップに注ぐと、アレックスに渡し、雫の元へ持って行くように伝えた。隣の部屋のベッドの上に寝かされた雫の元へ行ったが、父親は既に自室へ戻ったようで、そこにはいなかった。
「主、解毒薬作った。飲め」
アレックスが雫の上体を起こすと、雫の口元にコップを近付けた。しかし、口角から解毒薬が垂れ、シーツに染みを作る。アレックスは持っていた解毒薬を口に含み、口移しで雫の口の中へ流し込んだ。
雫の喉仏が少し動いたが、あまり飲めていない様子だった。アレックスは解毒薬が無くなるまで、何度も口移しをし、雫に飲ませた。
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