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第五章:Side Shizuku <希望の空を見るために>
5-1:火の雨
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雫はすっかり自給自足の生活にも慣れ、アレックスの扱いも慣れてきた。魔法の訓練もなるべく人気のない場所で地道に精度を磨いていった。
今日も天気が良い。畑を耕し、次に育てる野菜の種を適当に選んで、植える。疲れたら、アレックスと初めて出会った場所へ行き、草原で大の字になり、肌で風を感じ、頭の中を空っぽにする。前いた世界では考えられない事だ。
清々しい気分になった雫はアレックスとともに、家へ戻った。その際に、玄関に矢文が刺さっているのに気付いた。周囲を見渡したが、人気は無い。アレックスも警戒している様子がないため、時間はそれなりに経っている様子だ。雫は矢文を抜くと、家の中に入り、矢柄に結びつけられた手紙を開いた。
『早くそこから逃げろ L』
筆記体がぐしゃぐしゃと書かれたような汚い文字だった。読めなくはない字であるが、とにかく早く伝えたかったのが窺える。最後にLと書かれており、雫は少し考えた。
「Lって誰だろう? 別にアレックス以外と関わる事無いし、街には行くなって怒るし。……あっ! 第三王子のルイスの頭文字! でも、なんで?」
「主、お腹空いた! ご飯! ……主、何読んでる?」
「ううん、何でもない。ただの悪戯みたい。じゃ、ご飯作ろっかな」
雫は手のひらに小さな火を出すと、手紙を燃やした。アレックスがお腹を空かせて、うるさいので、雫は料理を始めた。
(きっとここから逃げようってアレックスに言っても、前の主人との思い出の家だから、嫌って言うんだろうな……。でも、一応、逃げれるように荷物だけは準備しておこう)
雫はアレックスとご飯を食べながら、家の中を見渡し、何を持っていくべきかを考えた。アレックスが何か楽しそうに話しているが、全く内容が入ってこなかったし、何よりも今日は食事が美味しいとは思わなかった。
食事を終え、皿洗いはアレックスに任せ、雫は本棚から一冊一冊手に取り、ペラペラとめくった。どれも参考書程度で雫も読み終えているものばかりだった。
とりあえずいつも持ち歩いている手帳は持って行くとして、次はクローゼットの中を覗いた。そこには、丁度良いサイズのキャンバス地の鞄があった。
「これなら、薄い生地の服が二着分と小物が入りそうだ。手帳も入るし……。杖は折り畳みでも伸縮するものでもないし、困ったな。ゲームみたいに背中に背負うというか、貼り付くような感じにならないかな?」
雫は背中に杖を背負ってみた。半ば諦めていたが、予想を裏切り、背中にぴったりくっ付くのではなく、少し浮いて背負っている感じだった。雫は思わず「おぉーっ」とその凄さに驚きの声を出した。
雫は必要なものを鞄に詰め込み、テネブリスの杖と一緒にベッドサイドの床に置いた。アレックスは雫が何を準備しているのかが気になり、聞いてきた。
雫は話をはぐらかし、ベッドに入ると、自分の隣を開け、アレックスへ入るように言った。アレックスは嬉しそうに狼の姿になり、雫の隣に潜り込んだ。雫は心を落ち着かせるために、アレックスの頭を撫でながら、眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
月が高く昇り、窓から月の明かりが射し込む。今まで隣で寝ていたアレックスが急に唸り声を上げていたため、雫は眠たい目を擦りながら、起きた。
「アレックス、唸り声なんて上げて。何かあった?」
「主、囲まれてる」
「ん? 何に?」
雫はベッドから出て、窓から外を見た。馬に乗った騎士達が少し離れた場所で横一列で並んでいた。逆光に照らされ、少し不気味だ。雫は恐る恐る玄関を少し開け、顔を出した。
「そこの家に住む者に告ぐ。今すぐここから立ち去れ。さもなくば、命はないものと思え」
指揮官と思われる騎士が野太い声で、雫達に警告した。雫は驚き、咄嗟に玄関のドアを閉めた。ルイス王子が伝えたかった事はこの事だと今更ながら理解した。心臓の鼓動が早くなり、変な汗が出てくる。逃げないといけないと分かっていても、手足が震え、思うように体が動いてくれない。
雫が固まっていると、外から掛け声が聞こえ、矢が風を切って飛んでくる音が聞こえた。
「主、離れて!」
アレックスは人の姿になると、玄関ドアの前で固まっている雫を抱き寄せ、床に伏せた。家の外壁に弓が当たる音がし、窓ガラスが割れ、焦げた臭いがした。
雫は一瞬の事でよく分からなかった。焦げた臭いの先を見ると、ただの矢ではなく、火矢だった。火矢は何度も射れ込まれ、段々と家の外からも同じような臭いがしてきた。
「アレックス、ヤバいよ! どうしよう!」
「主、落ち着いて。アレックス、戦ってくる!」
アレックスは目を光らせ、唸り声を上げて、闘志を露わにしていた。玄関の隙間から見た限り、劣勢なのはすぐ分かった。外に出ていこうとするアレックスを必死で止め、落ち着かせた。
「あの人数は無理だよ! アレックスがいるのに、矢を射ってくるって事は、あっちは本気だよ。だから、早く逃げようよ!」
「…………分かった。主に従う」
雫は四つん這いで這って歩き、準備していた鞄を肩にかけ、テネブリスの杖を背中に背負った。
二人は裏の勝手口をそっと開け、誰も居ない事を確認すると、雫は狼の姿のアレックスの背中に乗り、奥の森を目指して、走り始めた。
今日も天気が良い。畑を耕し、次に育てる野菜の種を適当に選んで、植える。疲れたら、アレックスと初めて出会った場所へ行き、草原で大の字になり、肌で風を感じ、頭の中を空っぽにする。前いた世界では考えられない事だ。
清々しい気分になった雫はアレックスとともに、家へ戻った。その際に、玄関に矢文が刺さっているのに気付いた。周囲を見渡したが、人気は無い。アレックスも警戒している様子がないため、時間はそれなりに経っている様子だ。雫は矢文を抜くと、家の中に入り、矢柄に結びつけられた手紙を開いた。
『早くそこから逃げろ L』
筆記体がぐしゃぐしゃと書かれたような汚い文字だった。読めなくはない字であるが、とにかく早く伝えたかったのが窺える。最後にLと書かれており、雫は少し考えた。
「Lって誰だろう? 別にアレックス以外と関わる事無いし、街には行くなって怒るし。……あっ! 第三王子のルイスの頭文字! でも、なんで?」
「主、お腹空いた! ご飯! ……主、何読んでる?」
「ううん、何でもない。ただの悪戯みたい。じゃ、ご飯作ろっかな」
雫は手のひらに小さな火を出すと、手紙を燃やした。アレックスがお腹を空かせて、うるさいので、雫は料理を始めた。
(きっとここから逃げようってアレックスに言っても、前の主人との思い出の家だから、嫌って言うんだろうな……。でも、一応、逃げれるように荷物だけは準備しておこう)
雫はアレックスとご飯を食べながら、家の中を見渡し、何を持っていくべきかを考えた。アレックスが何か楽しそうに話しているが、全く内容が入ってこなかったし、何よりも今日は食事が美味しいとは思わなかった。
食事を終え、皿洗いはアレックスに任せ、雫は本棚から一冊一冊手に取り、ペラペラとめくった。どれも参考書程度で雫も読み終えているものばかりだった。
とりあえずいつも持ち歩いている手帳は持って行くとして、次はクローゼットの中を覗いた。そこには、丁度良いサイズのキャンバス地の鞄があった。
「これなら、薄い生地の服が二着分と小物が入りそうだ。手帳も入るし……。杖は折り畳みでも伸縮するものでもないし、困ったな。ゲームみたいに背中に背負うというか、貼り付くような感じにならないかな?」
雫は背中に杖を背負ってみた。半ば諦めていたが、予想を裏切り、背中にぴったりくっ付くのではなく、少し浮いて背負っている感じだった。雫は思わず「おぉーっ」とその凄さに驚きの声を出した。
雫は必要なものを鞄に詰め込み、テネブリスの杖と一緒にベッドサイドの床に置いた。アレックスは雫が何を準備しているのかが気になり、聞いてきた。
雫は話をはぐらかし、ベッドに入ると、自分の隣を開け、アレックスへ入るように言った。アレックスは嬉しそうに狼の姿になり、雫の隣に潜り込んだ。雫は心を落ち着かせるために、アレックスの頭を撫でながら、眠りについた。
◆◇◆◇◆◇
月が高く昇り、窓から月の明かりが射し込む。今まで隣で寝ていたアレックスが急に唸り声を上げていたため、雫は眠たい目を擦りながら、起きた。
「アレックス、唸り声なんて上げて。何かあった?」
「主、囲まれてる」
「ん? 何に?」
雫はベッドから出て、窓から外を見た。馬に乗った騎士達が少し離れた場所で横一列で並んでいた。逆光に照らされ、少し不気味だ。雫は恐る恐る玄関を少し開け、顔を出した。
「そこの家に住む者に告ぐ。今すぐここから立ち去れ。さもなくば、命はないものと思え」
指揮官と思われる騎士が野太い声で、雫達に警告した。雫は驚き、咄嗟に玄関のドアを閉めた。ルイス王子が伝えたかった事はこの事だと今更ながら理解した。心臓の鼓動が早くなり、変な汗が出てくる。逃げないといけないと分かっていても、手足が震え、思うように体が動いてくれない。
雫が固まっていると、外から掛け声が聞こえ、矢が風を切って飛んでくる音が聞こえた。
「主、離れて!」
アレックスは人の姿になると、玄関ドアの前で固まっている雫を抱き寄せ、床に伏せた。家の外壁に弓が当たる音がし、窓ガラスが割れ、焦げた臭いがした。
雫は一瞬の事でよく分からなかった。焦げた臭いの先を見ると、ただの矢ではなく、火矢だった。火矢は何度も射れ込まれ、段々と家の外からも同じような臭いがしてきた。
「アレックス、ヤバいよ! どうしよう!」
「主、落ち着いて。アレックス、戦ってくる!」
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「あの人数は無理だよ! アレックスがいるのに、矢を射ってくるって事は、あっちは本気だよ。だから、早く逃げようよ!」
「…………分かった。主に従う」
雫は四つん這いで這って歩き、準備していた鞄を肩にかけ、テネブリスの杖を背中に背負った。
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