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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>
4-16:聖女の舞とルーメンの杖
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「諦めたような言い方しないでください! 自分が彼と同じ立場だったら、嫌な気持ちになりませんか?」
「そ、それは……。だ、だったら、聖女様が治せばいいだろ!」
「そうだ、そうだ! 治せないはずないよな? だって聖女様なんだから」
希空は心無い言葉を聞き、正直呆れた。この世界にもこういう考えの人がいるんだなと悲しい気持ちになった。そして、希空はセトからライアーを借りると、フィディスの前に立った。
「ライアー、お願い。僕が歌う歌に合わせて、音を奏でて」
希空がライアーに息を吹き込むと、ライアーはぼんやりと光り出し、宙に浮いた。そして、希空は深呼吸をすると、祈りの歌を歌いながら、『聖女の舞』を踊った。希空が杖を動かすたびに、蒼白に輝く魔石から白い粒子が舞い落ちる。優しく柔らかな希空の歌声がライアーの音色と相まって、周りに癒しを与える。
「今集え、優しき癒しの光よ。聖者の歌声が貴方へ届きますように」
『聖女の舞』によって描かれた魔法陣は金色に光り輝いた。そして、希空はフィディスの肩口に跪くと、ススで汚れた頬を優しく撫で、フィディスの乾いた唇に自分の唇を重ねた。
金色に輝く粒子がフィディスを包み、火傷や頭部の傷を癒していき、傷を治していった。フィディスの呼吸も穏やかになり、落ち着いた。
宙に浮いたライアーは希空の手元に戻り、金色に輝く粒子なども消えた。希空がエミュを呼ぶために立ち上がると、思うように力が入らず、膝から崩れ落ちた。持っていた杖が地面にカランカランと転がった。希空は地面を這いずり、手を伸ばすが、杖は白く弾け、粒子となって消えていった。
「あれ? 杖が消えた……?」
「希空様、大丈夫ですか? 希空様もお怪我をされているではないですか!」
「僕の事は良いから、フィディスを優先して。とりあえず、アラン様も子供達も無事で……よかっ……た……」
希空は安堵の表情をし、力を使い果たしたのか、その場で気を失った。他の騎士団員達や聖職者の協力で怪我人の搬送や手当てが行われた。
◆◇◆◇◆◇
希空とフィディスは数日の安静が必要と言われた。また、孤児院の子供達は教会の空き部屋で一時的に預かる事になった。子供達の面倒は勿論、アランが引き続き見る事になった。希空の看病はエミュがしていたが、火災時の聖女の状況を事細かくまとめるようにドレッドから指示されており、疲弊していた。
「エミュ、あなたはドレッド大司教様に報告があるのでしょう? 希空様は私が看ますよ」
「アラン様、しかし!」
「良いのですよ。子供達も希空様の事が心配で、そわそわしていますし」
「わ、分かりました。では、希空様の看病をよろしくお願いします」
アランは疲れているエミュの負担を減らすために、希空の看病も引き受けた。エミュは自室へ戻り、当時の状況を時系列で書き出した。そして、どういう事が起こったかを事細かく書いた。報告書が出来上がると、ドレッドの部屋へ持参した。
「聖女の様子はどうだ?」
「はい、まだ眠っております。かなり魔力を消費したようで……。希空様の看病はアラン様が看て下さっています」
「そうか。それで、報告書は出来上がったのか?」
「はい、こちらになります」
エミュはドレッドに報告書を手渡した。ドレッドは黙って、報告書を確認した。ドレッドは頷きながら、少し鼻で笑ったような気がして、エミュは少しばかし不快に感じた。
「……なるほど。誰かの身に危険が差し迫ったら、魔力が増幅されて、ルーメンの杖を生み出すという訳か……」
「ルーメンの杖……ですか?」
「召喚された聖女はルーメンの杖を持っていると言い伝えられている。しかし、希空は杖すら持っていなかった。……なるほど、体内に存在するのか。実に興味深い」
「あと、ライアーを使って、『聖女の舞』をなされました」
「ほう、それも興味深い。ライアーの素材はなんだ?」
「どうやら聖樹の木材を用いているそうです」
「聖樹……。聖樹か……、なるほど」
ドレッドは含み笑いをし、エミュの報告書にサインをした。エミュは前に片付けの際に見つけた紙切れに書いてあった『悠久なる聖樹』の事を思い出した。
「聖女とフィディスの回復を待って、今度は東の村で魔物討伐だ。年々、瘴気が強くなっているそうだ。私も同行する」
「畏まりました」
◆◇◆◇◆◇
数日後、希空は目を覚まし、子供達とベッドサイドで遊んでいた。エミュは希空の笑顔が再び見れた事に一安心した。希空は手持ち無沙汰だったため、エミュに声を掛けた。
「折角、子供達もいるし、本の読み聞かせをしたとしても、ここの本じゃ難し過ぎるし……。それで、ここってヘンプ糸ってある?」
「ヘンプ糸なら街に行けば、ありますけど、……何をなされるんですか?」
「子供達と一緒にミサンガ作り」
「ミサンガ……とは?」
「お守りみたいなものかな。他にはビーズブレスレット作ってもいいけど、ミサンガの方が安上がりかなって。あ、でも、色んな色があると嬉しいな」
「分かりました。すぐに手配いたします」
「ありがとう! これで楽しい事が増えたね! いっぱい作って、騎士さん達にプレゼントしよっか?」
希空は子供達に伝えると、子供達は飛び跳ねながら、声を出し、喜んだ。希空はエミュを見て、「ありがとう」と伝え、微笑んだ。
「そ、それは……。だ、だったら、聖女様が治せばいいだろ!」
「そうだ、そうだ! 治せないはずないよな? だって聖女様なんだから」
希空は心無い言葉を聞き、正直呆れた。この世界にもこういう考えの人がいるんだなと悲しい気持ちになった。そして、希空はセトからライアーを借りると、フィディスの前に立った。
「ライアー、お願い。僕が歌う歌に合わせて、音を奏でて」
希空がライアーに息を吹き込むと、ライアーはぼんやりと光り出し、宙に浮いた。そして、希空は深呼吸をすると、祈りの歌を歌いながら、『聖女の舞』を踊った。希空が杖を動かすたびに、蒼白に輝く魔石から白い粒子が舞い落ちる。優しく柔らかな希空の歌声がライアーの音色と相まって、周りに癒しを与える。
「今集え、優しき癒しの光よ。聖者の歌声が貴方へ届きますように」
『聖女の舞』によって描かれた魔法陣は金色に光り輝いた。そして、希空はフィディスの肩口に跪くと、ススで汚れた頬を優しく撫で、フィディスの乾いた唇に自分の唇を重ねた。
金色に輝く粒子がフィディスを包み、火傷や頭部の傷を癒していき、傷を治していった。フィディスの呼吸も穏やかになり、落ち着いた。
宙に浮いたライアーは希空の手元に戻り、金色に輝く粒子なども消えた。希空がエミュを呼ぶために立ち上がると、思うように力が入らず、膝から崩れ落ちた。持っていた杖が地面にカランカランと転がった。希空は地面を這いずり、手を伸ばすが、杖は白く弾け、粒子となって消えていった。
「あれ? 杖が消えた……?」
「希空様、大丈夫ですか? 希空様もお怪我をされているではないですか!」
「僕の事は良いから、フィディスを優先して。とりあえず、アラン様も子供達も無事で……よかっ……た……」
希空は安堵の表情をし、力を使い果たしたのか、その場で気を失った。他の騎士団員達や聖職者の協力で怪我人の搬送や手当てが行われた。
◆◇◆◇◆◇
希空とフィディスは数日の安静が必要と言われた。また、孤児院の子供達は教会の空き部屋で一時的に預かる事になった。子供達の面倒は勿論、アランが引き続き見る事になった。希空の看病はエミュがしていたが、火災時の聖女の状況を事細かくまとめるようにドレッドから指示されており、疲弊していた。
「エミュ、あなたはドレッド大司教様に報告があるのでしょう? 希空様は私が看ますよ」
「アラン様、しかし!」
「良いのですよ。子供達も希空様の事が心配で、そわそわしていますし」
「わ、分かりました。では、希空様の看病をよろしくお願いします」
アランは疲れているエミュの負担を減らすために、希空の看病も引き受けた。エミュは自室へ戻り、当時の状況を時系列で書き出した。そして、どういう事が起こったかを事細かく書いた。報告書が出来上がると、ドレッドの部屋へ持参した。
「聖女の様子はどうだ?」
「はい、まだ眠っております。かなり魔力を消費したようで……。希空様の看病はアラン様が看て下さっています」
「そうか。それで、報告書は出来上がったのか?」
「はい、こちらになります」
エミュはドレッドに報告書を手渡した。ドレッドは黙って、報告書を確認した。ドレッドは頷きながら、少し鼻で笑ったような気がして、エミュは少しばかし不快に感じた。
「……なるほど。誰かの身に危険が差し迫ったら、魔力が増幅されて、ルーメンの杖を生み出すという訳か……」
「ルーメンの杖……ですか?」
「召喚された聖女はルーメンの杖を持っていると言い伝えられている。しかし、希空は杖すら持っていなかった。……なるほど、体内に存在するのか。実に興味深い」
「あと、ライアーを使って、『聖女の舞』をなされました」
「ほう、それも興味深い。ライアーの素材はなんだ?」
「どうやら聖樹の木材を用いているそうです」
「聖樹……。聖樹か……、なるほど」
ドレッドは含み笑いをし、エミュの報告書にサインをした。エミュは前に片付けの際に見つけた紙切れに書いてあった『悠久なる聖樹』の事を思い出した。
「聖女とフィディスの回復を待って、今度は東の村で魔物討伐だ。年々、瘴気が強くなっているそうだ。私も同行する」
「畏まりました」
◆◇◆◇◆◇
数日後、希空は目を覚まし、子供達とベッドサイドで遊んでいた。エミュは希空の笑顔が再び見れた事に一安心した。希空は手持ち無沙汰だったため、エミュに声を掛けた。
「折角、子供達もいるし、本の読み聞かせをしたとしても、ここの本じゃ難し過ぎるし……。それで、ここってヘンプ糸ってある?」
「ヘンプ糸なら街に行けば、ありますけど、……何をなされるんですか?」
「子供達と一緒にミサンガ作り」
「ミサンガ……とは?」
「お守りみたいなものかな。他にはビーズブレスレット作ってもいいけど、ミサンガの方が安上がりかなって。あ、でも、色んな色があると嬉しいな」
「分かりました。すぐに手配いたします」
「ありがとう! これで楽しい事が増えたね! いっぱい作って、騎士さん達にプレゼントしよっか?」
希空は子供達に伝えると、子供達は飛び跳ねながら、声を出し、喜んだ。希空はエミュを見て、「ありがとう」と伝え、微笑んだ。
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