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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>
4-15:僕はただ助けたいだけ
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勢いで入ったが、瓦礫と焼け落ちた柱が散乱しており、体に纏わりつく様な炎の熱さで全身が痛い。酸素も薄く、息を吸おうとすると、空気すら熱くて、上手く吸えない。
「セト! セト! 何処にいるの!」
「…………希空お兄ちゃん、こっち」
セトの部屋だろうか、そこから声を振り絞るような声が聞こえるが、柱が焼け落ちる音でお互いの声を遮断する。希空は腕で火の粉が目に入らないようにし、声のする場所へ行った。
そこには、ライアーを自分の懐に入れ、火に背を向け、必死に守っているセトの姿があった。しかし、セトの周りだけは何故か燃えている様子が無かった。
希空が優しく肩を叩くと、セトが振り返った。いつも元気で明るいセトが涙と鼻水を出しながら、震えていた。希空は優しく背中を撫で、セトを横抱きし、出口を目指した。
「まさか希空お兄ちゃんが来てくれるとは思ってなかった」
「ほら、皆待ってるから、ここから出よう」
ライアーの近くだと、不思議とさっきまでの息苦しさは無かった。あとで、ライアーが聖樹の木材で造られたものだと知り、納得した。
あともう少しで出口に差し掛かろうとした際、バキッと大きな音がし、上を見上げると、柱が折れ、瓦礫とともに二人の頭上へ向かって落下しそうになっていた。希空は咄嗟にセトを守るように体を丸めた。
(もうダメだっ! ……えっ? 痛くない)
「……うぐっ。ボサッとしてないで、早く行け! お前まで死ぬぞ!」
希空が目を開けると、フィディスが大きな体で瓦礫などを受け止め、希空達を助けに来ていた。希空は言われた通りに、出口へ向かった。出口にいたアランにセトを託すと、希空は後戻りした。
フィディスは頭から血を流し、膝をついて動けなさそうだった。希空がフィディスの元へ行こうとしても、上から落ちてくる瓦礫や柱が多く、火の海も先程よりも強くなっていた。
希空がこちらへ来ようとしたのが分かったフィディスは心を鬼にし、希空を睨み付け、声を荒げた。
「何してんだよ、さっさと逃げろ! 死ぬぞ!」
希空は誰かに迷惑をかけてしまった事と自分の無力さにやるせない気持ちになった。希空は涙を堪え、孤児院の外へ出た。外に出ると、エミュも駆けつけており、今にも泣きそうな顔で自分の事を抱き締めてくれた。しかし、希空はエミュの体を押し退け、燃え盛る孤児院の前に立った。
「……違う。これじゃだめなんだ。……フィディスがいなくなったら、誰が僕の護衛をしてくれるの? 救えない人がいるなんて、聖女失格だよ! 今だけでもいいから、聖女の力を……頂戴よ! ねぇ! お願いだからさ!」
流れる涙が炎の熱さで蒸発していきそうだ。でも、中にいるフィディスはもっと熱くて、痛い思いをしている。呼吸だってまともに出来ない。いくらバケツで水をかけても消えない炎。まるで、希空達を嘲笑っているかのようだ。
「フィディス、ごめん。約束を守れなくてごめんね。僕にはこれしか望みが無いから。セト、ライアーを弾いてくれない?」
希空は涙を流しながら、セトの方を振り返り、ニッコリと笑みを浮かべた。そして、セトは希空に言われた通り、ライアーを弾き始めた。
しかし、群衆の声や壁が崩れる音、柱が焼け落ちる音などでライアーの優しい音色はかき消される。それでも、希空は祈りながら、一生懸命、音を拾おうとした。
「お願いだから……。僕に力を貸して」
ライアーの音色がはっきりと聴こえた瞬間、希空は自分の胸元がポッと温かくなった感じがした。希空が目を開けると、白い粒子が集まったような球体が胸元で光り輝いた。エミュの切り傷を治した時よりも大きくて穏やかな色だ。
希空は光り輝く胸元に手を入れ、そこから棒状のものを引き抜いた。
その杖は、支柱が金色で中環リングには純白の羽根で飾られいた。そして、杖の先端には太陽の金細工が施され、その空いた空間に拳大位の蒼白に輝く魔石が空中に浮いている代物だった。
「古より伝わりし渦巻く水龍よ、我の願いを聞きたまえ」
希空はライアーの音に合わせ、バトントワリングのように軽やかな動きで、地面に青白く光る魔法陣を描いた。そして、魔法陣の真ん中に立ち、地面を杖で叩くと、空が曇り始め、雨が降って来た。そして、雲の合間から水龍が二匹舞い降り、希空の周りをぐるぐると回った。
「水龍、お願い。火を消して。あと、中に人がいるから、助け出して」
希空が二匹の水龍の頭を優しく撫でると、水龍は燃え盛る孤児院を蜷局を巻くように周り、炎に向かって、水を吐き出し、消していった。火が完全に消えると、中で倒れているフィディスを希空の元へ届けてくれた。希空は再び二匹の水龍の頭を優しく撫で、額に軽く口づけをすると、水龍は空高く飛び、雲間に消えていった。
「フィディス! フィディス! ねぇ、目を覚ましてよ!」
「…………」
希空が肩を叩きながら、耳元で大きな声を出すが、反応が無い。呼吸は辛うじてしているようだが、とても細い呼吸をしている。着ている服も所々が燃え、ボロボロになり、火傷までしている。
野次馬達はその姿を見て、「もうダメだ」「これは死んだな」などとひそひそ話す声が聞こえた。希空は立ち上がると、民衆達がいる方を見て、睨んだ。
「セト! セト! 何処にいるの!」
「…………希空お兄ちゃん、こっち」
セトの部屋だろうか、そこから声を振り絞るような声が聞こえるが、柱が焼け落ちる音でお互いの声を遮断する。希空は腕で火の粉が目に入らないようにし、声のする場所へ行った。
そこには、ライアーを自分の懐に入れ、火に背を向け、必死に守っているセトの姿があった。しかし、セトの周りだけは何故か燃えている様子が無かった。
希空が優しく肩を叩くと、セトが振り返った。いつも元気で明るいセトが涙と鼻水を出しながら、震えていた。希空は優しく背中を撫で、セトを横抱きし、出口を目指した。
「まさか希空お兄ちゃんが来てくれるとは思ってなかった」
「ほら、皆待ってるから、ここから出よう」
ライアーの近くだと、不思議とさっきまでの息苦しさは無かった。あとで、ライアーが聖樹の木材で造られたものだと知り、納得した。
あともう少しで出口に差し掛かろうとした際、バキッと大きな音がし、上を見上げると、柱が折れ、瓦礫とともに二人の頭上へ向かって落下しそうになっていた。希空は咄嗟にセトを守るように体を丸めた。
(もうダメだっ! ……えっ? 痛くない)
「……うぐっ。ボサッとしてないで、早く行け! お前まで死ぬぞ!」
希空が目を開けると、フィディスが大きな体で瓦礫などを受け止め、希空達を助けに来ていた。希空は言われた通りに、出口へ向かった。出口にいたアランにセトを託すと、希空は後戻りした。
フィディスは頭から血を流し、膝をついて動けなさそうだった。希空がフィディスの元へ行こうとしても、上から落ちてくる瓦礫や柱が多く、火の海も先程よりも強くなっていた。
希空がこちらへ来ようとしたのが分かったフィディスは心を鬼にし、希空を睨み付け、声を荒げた。
「何してんだよ、さっさと逃げろ! 死ぬぞ!」
希空は誰かに迷惑をかけてしまった事と自分の無力さにやるせない気持ちになった。希空は涙を堪え、孤児院の外へ出た。外に出ると、エミュも駆けつけており、今にも泣きそうな顔で自分の事を抱き締めてくれた。しかし、希空はエミュの体を押し退け、燃え盛る孤児院の前に立った。
「……違う。これじゃだめなんだ。……フィディスがいなくなったら、誰が僕の護衛をしてくれるの? 救えない人がいるなんて、聖女失格だよ! 今だけでもいいから、聖女の力を……頂戴よ! ねぇ! お願いだからさ!」
流れる涙が炎の熱さで蒸発していきそうだ。でも、中にいるフィディスはもっと熱くて、痛い思いをしている。呼吸だってまともに出来ない。いくらバケツで水をかけても消えない炎。まるで、希空達を嘲笑っているかのようだ。
「フィディス、ごめん。約束を守れなくてごめんね。僕にはこれしか望みが無いから。セト、ライアーを弾いてくれない?」
希空は涙を流しながら、セトの方を振り返り、ニッコリと笑みを浮かべた。そして、セトは希空に言われた通り、ライアーを弾き始めた。
しかし、群衆の声や壁が崩れる音、柱が焼け落ちる音などでライアーの優しい音色はかき消される。それでも、希空は祈りながら、一生懸命、音を拾おうとした。
「お願いだから……。僕に力を貸して」
ライアーの音色がはっきりと聴こえた瞬間、希空は自分の胸元がポッと温かくなった感じがした。希空が目を開けると、白い粒子が集まったような球体が胸元で光り輝いた。エミュの切り傷を治した時よりも大きくて穏やかな色だ。
希空は光り輝く胸元に手を入れ、そこから棒状のものを引き抜いた。
その杖は、支柱が金色で中環リングには純白の羽根で飾られいた。そして、杖の先端には太陽の金細工が施され、その空いた空間に拳大位の蒼白に輝く魔石が空中に浮いている代物だった。
「古より伝わりし渦巻く水龍よ、我の願いを聞きたまえ」
希空はライアーの音に合わせ、バトントワリングのように軽やかな動きで、地面に青白く光る魔法陣を描いた。そして、魔法陣の真ん中に立ち、地面を杖で叩くと、空が曇り始め、雨が降って来た。そして、雲の合間から水龍が二匹舞い降り、希空の周りをぐるぐると回った。
「水龍、お願い。火を消して。あと、中に人がいるから、助け出して」
希空が二匹の水龍の頭を優しく撫でると、水龍は燃え盛る孤児院を蜷局を巻くように周り、炎に向かって、水を吐き出し、消していった。火が完全に消えると、中で倒れているフィディスを希空の元へ届けてくれた。希空は再び二匹の水龍の頭を優しく撫で、額に軽く口づけをすると、水龍は空高く飛び、雲間に消えていった。
「フィディス! フィディス! ねぇ、目を覚ましてよ!」
「…………」
希空が肩を叩きながら、耳元で大きな声を出すが、反応が無い。呼吸は辛うじてしているようだが、とても細い呼吸をしている。着ている服も所々が燃え、ボロボロになり、火傷までしている。
野次馬達はその姿を見て、「もうダメだ」「これは死んだな」などとひそひそ話す声が聞こえた。希空は立ち上がると、民衆達がいる方を見て、睨んだ。
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