召喚聖女♂の異世界攻略ノート~クーデレ護衛騎士と人狼わんこの手懐け方~

沼田桃弥

文字の大きさ
上 下
42 / 117
第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>

4-11:形見の意味と胸騒ぎ

しおりを挟む
 そよ風で草が波のように揺れ、草同士が擦れ、さざ波のように聞こえる。大きな木は二十メートルもありそうな高さで、幹がとても太く、フィディス曰く、樹齢百年以上だそうだ。
 枝葉が揺れ、その合間から光が差し込む。木陰になっていて、心地が良い。希空が木肌を触っていると、フィディスが申し訳なさそうな顔をして、こちらを見ていた。


「この前は脅すような事を言って、すまない。許してくれ」
「この前? ……ああ、『聖女の舞』の真似事をするなの事? 別に気にしてないよ。実際に、聖女の力なんて無いんだし、僕と最初に会った時の御見立て通り、僕は何をしても聖女の力なんてつかない。エミュにもドレッド様にも、……勿論、フィディスにも迷惑かけちゃってるよね」
「しかし、エミュからはお前が治癒魔法を使ったと聞いたぞ」
「あんなのただの偶然だよ。たまたまって事もあるじゃん?」


 希空は大きな背伸びをし、ため息をつくと、大の字になりながら、木陰に寝っ転がった。フィディスは幹に凭れ、片足を伸ばして、地べたに座った。


「あーっ、ここは落ち着くね。寝ちゃいそう」
「ここは俺の思い出の場所だ」
「――えっ? そうなの?」
「俺の母親はアーデルハイト王国出身の聖女だった。母親は最果ての地にある聖樹の調査任務のために旅へ出た。その道中に、エルフ族で吟遊詩人の父親と恋に落ちた。そこで、俺が生まれた。調査任務が終わって、アーデルハイト王国へ帰還したが、国王から『子供を産んだ聖女は使い物にならない。家族もろとも処刑する』と言い渡され、母親は子供である俺を狼に託して、アラン様がいる孤児院に預けた。あれは八歳の頃だったと思う」
「……そんな事があったんだ」
「俺はアーデルハイト王国のやり方が気に食わなかった。いつか敵討ちを取るために、必死に鍛錬を重ね、今の騎士団へ入った。この世界には聖女と名乗る者は沢山いるが、そういう理不尽な事をする奴もいる。だから、お前に問う。いつか聖樹に関する任務を言い渡される。良いように使われる事もあるし、我慢しなければならない事だってある。それでも、お前は世の為人の為に身を投じる事が出来るか?」


 フィディスは希空を真っ直ぐ見つめた。希空もいつかは聖女らしい任務をしなければならないと頭の片隅では思っていた。しかし、まともな力は皆無。自分がそんな場所に行っても、足手まといになるだけだと思った。


「……さっきも言ったけど、僕は『名ばかりの聖女』。いいや、そこらへんにいるような一般人と一緒。そんな大役なんて任されないよ」
「しかし、お前は『聖女の舞』を踊れた。あの時のお前は俺の母親と似ていた」
「それはたまたまだよ。似てただけで聖女とは限らないでしょ」
「エミュは言っていた。お前こそが真の聖女だと。今は力が無くても、いつか開花する。エミュも俺もそう思っている。だから、お前にこれを渡す」


 希空は何だろうと思い、起き上がった。フィディスはポケットからネックレスのようなものを出すと、希空の左手を取り、ブレスレットを着けた。太陽系八惑星を天然石でイメージしたもので、ネックレスにも出来るタイプの三連ブレスレットだった。そして、太陽モチーフの金色のチャームが小さくついていた。


「えっ、えっ、えっ! ちょ、ちょっと待って! このブレスレット、どうしたの?」
「母親が作ったものだ。お前にやる」
「えっ! 悪いって! だって、これはフィディスのお母さんが作ったものでしょ? 要するに、フィディスの形見でしょ? そんなの受け取れないよ」
「母親から『いつか心から守りたいと思う人に巡り合えたら、これを渡せ』と言われた。だから、お前にやる。俺が持っていても意味がない」
「でも、急にそんな事言われても……」


 今まで見た事がないデザインの三連ブレスレットだけある事とフィディスの形見である事もあり、希空は大切そうに手を添え、眺めた。しかし、自分が本当に貰っていいのか分からず、希空は困り果てた。希空はブレスレットを外して、フィディスに返そうと考えていた時、いつの間にかフィディスの大きな体に包み込まれていた。


「――っ、次は、な、なに?」
「お前を護衛するのが俺の仕事だ。だから、お前だけは絶対に死なせはしない。よく分からんが、胸騒ぎがする。悪い事が起こる予感がする」
「悪い事が起こる予感……?」
「ああ、よく分からんが、風がそう囁く」
「そっか……。でも、大丈夫だよ。なんとかなるでしょ。それより、そろそろ孤児院へ行かないと、子供達がお腹空かせて待ってるかも」


 二人は馬に乗り、来た道を戻り、孤児院へ辿り着いた。馬の鳴き声が聞こえると、子供達は孤児院の中から飛び出し、馬から降りた二人に抱きついた。子供達は怒りながらも、二人が来た事を何より喜んでいた。フィディスはヘンリーを馬留めに繋いだ。
 希空はヘンリーのホースサドルバッグからサコッシュバッグを取り出した。そして、バッグから紙袋を出すと、中身を子供達に見せた。子供達は一瞬で顔を明るくし、早く食べたくて、うずうずしていた。


「今日は皆の為にお菓子を焼いてきたよ」
「やったぁ! 希空お兄ちゃんの手作り! 早く食べたい!」
「じゃ、手を洗って、お皿の準備出来るかな?」
「出来る! わーい!」


 子供達は喜びに満ちた顔をし、希空の背中を押しながら、駆け足で孤児院の中へ入っていった。それを追いかけるように、フィディスも孤児院の中へ入り、食堂へ向かった。食堂では子供達が競争をするかのように、手を洗い、食器を持ち、テーブルに座って、今か今かと待っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...