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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>
4-10:花嫁修業?あと、ちょっとアイツが優しい
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「そうかい。でも、そんな細い腕で鍋なんて持てるのかい?」
「大丈夫です! 頑張ります! 是非、カレンさんのお手伝いもさせてください」
「嬉しいね。こんな可愛い子が私の手伝いなんて……まるで、花嫁修業みたいだね。それで、いつから来れるんだい?」
「今日の夕食の時でも大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。希空が作る料理が楽しみだよ。本当に嬉しいよ。皆も聞いたかい? 夕方に来るってさ」
カレンは希空の背中を叩き、声を出して笑った。そして、厨房に居た他の女性達にも伝えた。皆、希空に期待の眼差しを向けた。希空は思い出したかのように、先程の紙袋からスコーンを取り出し、カレンに味見してもらった。
カレンはスコーンを半分に割り、香りを嗅いだ。そして、ひと口食べた。舌で味と触感を確かめながら、ゆっくりと味わう真剣なカレンを見て、希空は内心ドキドキした。
「うん、旨いじゃないか! これなら、色んな味のものを作って、朝食に出せば、少しは楽が出来るよ。勿論、私達のお茶菓子にもなるわ。あはははっ」
「美味しいって言って頂き、ありがとうございます。また夕方に伺います」
カレンの食べているスコーンが気になったのか、他の女性達も作業の手を止め、カレンに駆け寄り、「何それ美味しそう」と興味津々に見ていた。希空はカレンにお辞儀をすると、エミュとともに宿舎を後にした。
希空はフード付きケープを身に着け、紙袋を大きめのサコッシュバッグに入れた。そして、エミュから紙に包まれた聖杯を孤児院へ持って行くようにお願いされ、聖杯も一緒にバッグの中に入れた。意外にもバッグはギチギチで、肩掛けの紐が食い込んで、少し痛かった。
「希空様、大丈夫ですか? 結構、重たそうですが……」
「うん、たぶん大丈夫。一人でなんとか行けるよ」
「えっ? お一人で行かれるのですか? 只今、フィディスを呼んできますが……」
「ううん、なんか顔を合わせづらいというか、気まずいというか。でも、本当にあの距離なら一人で行けるし、しっかりフードも被るし、大丈夫! じゃ、行ってきます!」
「あぁ! 希空様!」
希空は小走りで通行門へ向かった。エミュが心配そうな顔をし、引き止めようとしたが、希空は元気よく手を振った。通行門の門番に通行証を見せると、「御付きの方は?」と聞かれ、一人である事を伝えると、酷く驚かれた。エミュ同様、門番にも心配そうな顔をされた。
希空は満面の笑みでグッドポーズをすると、意気揚々と街へ向かう第一歩を踏み出したが、門を出てすぐ、低い声で行く手を阻まれた。声がする方を向くと、馬に乗ったフィディスがいた。眉間に皺が寄せ、とても不機嫌そうな顔で、こちらを見ていた。
「おい、小っちゃいの。お前は今から何処へ行くつもりだ? これでも俺はお前の護衛なんだぞ。勝手な行動は慎め」
「なんだ、フィディスか。驚かせないでよ。今から孤児院へスコーンを届けに行こうかなぁって」
「小せぇ体に、そんな大荷物。届けるだけで明日になりそうだぜ」
「はぁ? これ位、自分で持てるし! いい加減、揶揄うの止めてください」
「――いいから、さっさと荷物を貸せ! 面倒くせぇな」
フィディスは頭を掻き、ため息をつくと、馬を降りて、希空のバッグを奪い取った。そして、キャンパス地のホースサドルバッグに荷物を入れた。フィディスは颯爽と馬に跨ると、希空に手を差し出した。希空が躊躇っていると、フィディスは舌打ちをし、希空の手を引っ張って、馬に乗せた。しかも、フィディスが跨っている前だ。
「お前は前じゃないと危ないからな」
「はぁ…………。って、この馬はなんていう名前なの?」
「コイツは俺の愛馬、ヘンリーだ」
「ヘンリーか。よろしくね、ヘンリー」
希空が声をかけながら、ゆっくり優しくたてがみを撫でると、ヘンリーは嬉しそうにしていた。そして、フィディスは手綱を持ち、ゆっくりと馬を走らせた。馬は風を切りながら、街へ進んでいった。
初めての乗馬にバランスのとり方が分からなかった希空は縦揺れのせいでそのまま落馬しそうで怖かった。しかし、フィディスが体を密着させ、手綱を持ちながら、太い腕で希空の体を挟むように支えてくれた。
(フィディスの体ってこんなに大きかったんだ。太い腕に、手綱を持つ大きな手。いつもは僕の事を馬鹿にするのに、守ってもらってる感じで安心する。なんかドキドキしてきた。いや、まさか……あの失礼極まりないフィディスだよ?)
フィディスは終始無言で手綱を持ち、希空の小さな体をしっかりと支えていた。希空は何か話をした方が良いのか考えたが、胸が変にドキドキして、息をするのを忘れそうになる。希空は俯き、馬のたてがみを見て、気を紛らわせた。
「ちょっと寄る所がある」
「えっ?」
フィディスは橋を越え、孤児院の前をそのまま通り過ぎ、王都の南門を潜り抜けた。希空はフィディスに止まるように言ったが、フィディスは聞く耳を持たず、川沿いを進み、その先にある草原に来た。
広大な草原の中に、ひときわ大きな木がぽつんと立っていた。フィディスは馬を止めると、希空を降ろし、自分も馬から降りた。
「大丈夫です! 頑張ります! 是非、カレンさんのお手伝いもさせてください」
「嬉しいね。こんな可愛い子が私の手伝いなんて……まるで、花嫁修業みたいだね。それで、いつから来れるんだい?」
「今日の夕食の時でも大丈夫ですか?」
「私は大丈夫だよ。希空が作る料理が楽しみだよ。本当に嬉しいよ。皆も聞いたかい? 夕方に来るってさ」
カレンは希空の背中を叩き、声を出して笑った。そして、厨房に居た他の女性達にも伝えた。皆、希空に期待の眼差しを向けた。希空は思い出したかのように、先程の紙袋からスコーンを取り出し、カレンに味見してもらった。
カレンはスコーンを半分に割り、香りを嗅いだ。そして、ひと口食べた。舌で味と触感を確かめながら、ゆっくりと味わう真剣なカレンを見て、希空は内心ドキドキした。
「うん、旨いじゃないか! これなら、色んな味のものを作って、朝食に出せば、少しは楽が出来るよ。勿論、私達のお茶菓子にもなるわ。あはははっ」
「美味しいって言って頂き、ありがとうございます。また夕方に伺います」
カレンの食べているスコーンが気になったのか、他の女性達も作業の手を止め、カレンに駆け寄り、「何それ美味しそう」と興味津々に見ていた。希空はカレンにお辞儀をすると、エミュとともに宿舎を後にした。
希空はフード付きケープを身に着け、紙袋を大きめのサコッシュバッグに入れた。そして、エミュから紙に包まれた聖杯を孤児院へ持って行くようにお願いされ、聖杯も一緒にバッグの中に入れた。意外にもバッグはギチギチで、肩掛けの紐が食い込んで、少し痛かった。
「希空様、大丈夫ですか? 結構、重たそうですが……」
「うん、たぶん大丈夫。一人でなんとか行けるよ」
「えっ? お一人で行かれるのですか? 只今、フィディスを呼んできますが……」
「ううん、なんか顔を合わせづらいというか、気まずいというか。でも、本当にあの距離なら一人で行けるし、しっかりフードも被るし、大丈夫! じゃ、行ってきます!」
「あぁ! 希空様!」
希空は小走りで通行門へ向かった。エミュが心配そうな顔をし、引き止めようとしたが、希空は元気よく手を振った。通行門の門番に通行証を見せると、「御付きの方は?」と聞かれ、一人である事を伝えると、酷く驚かれた。エミュ同様、門番にも心配そうな顔をされた。
希空は満面の笑みでグッドポーズをすると、意気揚々と街へ向かう第一歩を踏み出したが、門を出てすぐ、低い声で行く手を阻まれた。声がする方を向くと、馬に乗ったフィディスがいた。眉間に皺が寄せ、とても不機嫌そうな顔で、こちらを見ていた。
「おい、小っちゃいの。お前は今から何処へ行くつもりだ? これでも俺はお前の護衛なんだぞ。勝手な行動は慎め」
「なんだ、フィディスか。驚かせないでよ。今から孤児院へスコーンを届けに行こうかなぁって」
「小せぇ体に、そんな大荷物。届けるだけで明日になりそうだぜ」
「はぁ? これ位、自分で持てるし! いい加減、揶揄うの止めてください」
「――いいから、さっさと荷物を貸せ! 面倒くせぇな」
フィディスは頭を掻き、ため息をつくと、馬を降りて、希空のバッグを奪い取った。そして、キャンパス地のホースサドルバッグに荷物を入れた。フィディスは颯爽と馬に跨ると、希空に手を差し出した。希空が躊躇っていると、フィディスは舌打ちをし、希空の手を引っ張って、馬に乗せた。しかも、フィディスが跨っている前だ。
「お前は前じゃないと危ないからな」
「はぁ…………。って、この馬はなんていう名前なの?」
「コイツは俺の愛馬、ヘンリーだ」
「ヘンリーか。よろしくね、ヘンリー」
希空が声をかけながら、ゆっくり優しくたてがみを撫でると、ヘンリーは嬉しそうにしていた。そして、フィディスは手綱を持ち、ゆっくりと馬を走らせた。馬は風を切りながら、街へ進んでいった。
初めての乗馬にバランスのとり方が分からなかった希空は縦揺れのせいでそのまま落馬しそうで怖かった。しかし、フィディスが体を密着させ、手綱を持ちながら、太い腕で希空の体を挟むように支えてくれた。
(フィディスの体ってこんなに大きかったんだ。太い腕に、手綱を持つ大きな手。いつもは僕の事を馬鹿にするのに、守ってもらってる感じで安心する。なんかドキドキしてきた。いや、まさか……あの失礼極まりないフィディスだよ?)
フィディスは終始無言で手綱を持ち、希空の小さな体をしっかりと支えていた。希空は何か話をした方が良いのか考えたが、胸が変にドキドキして、息をするのを忘れそうになる。希空は俯き、馬のたてがみを見て、気を紛らわせた。
「ちょっと寄る所がある」
「えっ?」
フィディスは橋を越え、孤児院の前をそのまま通り過ぎ、王都の南門を潜り抜けた。希空はフィディスに止まるように言ったが、フィディスは聞く耳を持たず、川沿いを進み、その先にある草原に来た。
広大な草原の中に、ひときわ大きな木がぽつんと立っていた。フィディスは馬を止めると、希空を降ろし、自分も馬から降りた。
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