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第四章:Side Noa <互いの気持ちが徐々に>
4-8:禁書という名の猛毒
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ドレッドの部屋に入ると、机にはあの禁書以外にも他の禁書が広げられ、書類が散乱していた。いつもはきちんと整頓され、未承認の書類も殆ど無い状態なのに、日に日に酷くなっているように感じた。ドレッドはブツブツと言い、禁書を読むのに集中していた。
エミュが恐る恐る声を掛けると、ドレッドはゆっくりと顔を上げた。以前のような優しく穏やかな風貌とは違い、目の下にはクマが出来ており、頬がやつれている。蝋燭の灯りがドレッドの顔を照らすが、明らかに顔色が悪い。
「……なんだ、お前か。こんな時間に何用だ」
「ドレッド様、あの……。随分と体調がよろしくないようにお見受けしますが、きちんと休まれてますか?」
「ふん。聖女が聖女らしくないからだろ。あの研究も結局はほとんど役に立たなかった。続けても無駄なだけだ」
「希空様の事なのですが……。先程、私が指を誤って切ってしまった際に、治癒魔法を発動されました」
ドレッドは目を見開き、急に立ち上がり、ふらつきながらも、エミュの肩を強く掴み、食い入るように見てきた。
「それは本当か?」
「はい……。実際に、この目できちんと見ました。白い光に温かな感覚がありました」
「そうか……」
ドレッドは緊張の糸が取れたのか、その場に座り込んだ。エミュは慌てて、ドレッドを介抱し、椅子に座らせた。
「ドレッド様、少し休まれてください。あの儀式からずっと不眠不休のようですし……。未処理の書類は私の出来る範囲で対応します」
「あぁ、すまない。奥の部屋で休んでくるよ。書類はお前に任せる。後で私が確認して、サインしておく。本もそこの棚に片付けてくれ。禁書は広げたまま、向こうの引き出しの上に置いてくれ。頼んだ」
「はい、畏まりました」
ドレッドは壁に手をつきながら、奥の寝室へ向かった。そして、寝室のドアノブに手をかけた時、何かを思い出したかのように、引き返してきた。ドレッドは窓際の引き出しを開け、何かを取り出し、エミュに渡した。ドレッドから渡されたものは古紙で何重にも巻かれており、見た目からしてワイングラスのような形をしていた。
「お前がいた孤児院にこれを届けてくれ。お前ではなく、聖女に持って行かせろ」
「これは……聖杯ですか?」
「そうだ。長年、あそこの孤児院には新しい聖杯を渡す事が出来ていなかったからな。じゃ、頼んだぞ」
ドレッドはエミュの肩をポンと叩くと、奥の寝室へ消えていった。エミュはドレッドから託された聖杯を一先ず別の机に置き、書類が散乱している机を片付けた。思った以上に、未承認の書類が多い。書類を纏めると、ドアの近くに置いてあるソファに腰掛け、テーブルに広げ、書類の確認をした。書類の整理が終わると、次は机の上の禁書以外の本を棚へ戻した。
「だいぶ片付いてきました……。あとは、禁書の移動だけですか。なんだか気が乗らないですが、やりますか」
そして、最後に、普段は見る事が出来ない禁書の片付けだ。エミュは怖いもの見たさで、禁書のページをパラパラとめくった。そこには、動物実験や人体実験、解剖や魔法授受などが書かれていた。黒魔術に似たような記述もあり、エミュは見ているだけで気分が悪くなった。
ドレッドに指示された通りに、見開きのまま、引き出しの上に置いた。最後の一冊を手に持ち、運ぼうとした時、一枚の紙切れが床に落ちた。エミュは紙切れを拾い上げ、内容を見た。そこには最も恐ろしい事が走り書きで書かれており、背筋が凍った。
(……悠久なる聖樹? 均衡……悪の創造? 一体、これは……? アーデルハイト、高魔力、聖女。召喚……は器とする。 希空様が器!)
所々、書体が崩れており、部分的にしか読めなかった。文字を解読しようと、紙切れをじっと見つめていると、奥の部屋からベッドの軋む音がした。エミュは体をビクッとさせ、咄嗟にその紙切れを机の引き出しにしまい、奥の部屋へ続くドアの方を振り向いた。結局、ドレッドが出てくる気配はなく、寝返りでベッドが軋んだんだろうと思い、エミュは胸を撫で下ろした。エミュは蝋燭の灯りを消すと、ドレッドから渡された聖杯を持ち、部屋を出た。
部屋を出た時には、すっかり夜中になっており、月の光が外廊下を照らす。あの紙切れはなんだったんだろうかと考えながら、エミュは自室へ戻った。
「あの儀式からドレッド様はまるで人が変わったような気がする……。あの儀式は諦めてくれたのは良かったが、以前より禁書の持ち出しも増えているし、何よりもあの走り書きは一体何を言っているのだろうか? いや、今は考えるのをやめよう。希空様が治癒魔法を使えた事を喜ばないと……」
エミュは窓から夜空を眺めた。そろそろ満月が近付いている。この落ち着かない気持ちは月の引力の影響を受けているからだろうとエミュは思った。エミュは聖杯を机に置くと、夜空に向かって、祈りをいつもよりも長く捧げた。
エミュが恐る恐る声を掛けると、ドレッドはゆっくりと顔を上げた。以前のような優しく穏やかな風貌とは違い、目の下にはクマが出来ており、頬がやつれている。蝋燭の灯りがドレッドの顔を照らすが、明らかに顔色が悪い。
「……なんだ、お前か。こんな時間に何用だ」
「ドレッド様、あの……。随分と体調がよろしくないようにお見受けしますが、きちんと休まれてますか?」
「ふん。聖女が聖女らしくないからだろ。あの研究も結局はほとんど役に立たなかった。続けても無駄なだけだ」
「希空様の事なのですが……。先程、私が指を誤って切ってしまった際に、治癒魔法を発動されました」
ドレッドは目を見開き、急に立ち上がり、ふらつきながらも、エミュの肩を強く掴み、食い入るように見てきた。
「それは本当か?」
「はい……。実際に、この目できちんと見ました。白い光に温かな感覚がありました」
「そうか……」
ドレッドは緊張の糸が取れたのか、その場に座り込んだ。エミュは慌てて、ドレッドを介抱し、椅子に座らせた。
「ドレッド様、少し休まれてください。あの儀式からずっと不眠不休のようですし……。未処理の書類は私の出来る範囲で対応します」
「あぁ、すまない。奥の部屋で休んでくるよ。書類はお前に任せる。後で私が確認して、サインしておく。本もそこの棚に片付けてくれ。禁書は広げたまま、向こうの引き出しの上に置いてくれ。頼んだ」
「はい、畏まりました」
ドレッドは壁に手をつきながら、奥の寝室へ向かった。そして、寝室のドアノブに手をかけた時、何かを思い出したかのように、引き返してきた。ドレッドは窓際の引き出しを開け、何かを取り出し、エミュに渡した。ドレッドから渡されたものは古紙で何重にも巻かれており、見た目からしてワイングラスのような形をしていた。
「お前がいた孤児院にこれを届けてくれ。お前ではなく、聖女に持って行かせろ」
「これは……聖杯ですか?」
「そうだ。長年、あそこの孤児院には新しい聖杯を渡す事が出来ていなかったからな。じゃ、頼んだぞ」
ドレッドはエミュの肩をポンと叩くと、奥の寝室へ消えていった。エミュはドレッドから託された聖杯を一先ず別の机に置き、書類が散乱している机を片付けた。思った以上に、未承認の書類が多い。書類を纏めると、ドアの近くに置いてあるソファに腰掛け、テーブルに広げ、書類の確認をした。書類の整理が終わると、次は机の上の禁書以外の本を棚へ戻した。
「だいぶ片付いてきました……。あとは、禁書の移動だけですか。なんだか気が乗らないですが、やりますか」
そして、最後に、普段は見る事が出来ない禁書の片付けだ。エミュは怖いもの見たさで、禁書のページをパラパラとめくった。そこには、動物実験や人体実験、解剖や魔法授受などが書かれていた。黒魔術に似たような記述もあり、エミュは見ているだけで気分が悪くなった。
ドレッドに指示された通りに、見開きのまま、引き出しの上に置いた。最後の一冊を手に持ち、運ぼうとした時、一枚の紙切れが床に落ちた。エミュは紙切れを拾い上げ、内容を見た。そこには最も恐ろしい事が走り書きで書かれており、背筋が凍った。
(……悠久なる聖樹? 均衡……悪の創造? 一体、これは……? アーデルハイト、高魔力、聖女。召喚……は器とする。 希空様が器!)
所々、書体が崩れており、部分的にしか読めなかった。文字を解読しようと、紙切れをじっと見つめていると、奥の部屋からベッドの軋む音がした。エミュは体をビクッとさせ、咄嗟にその紙切れを机の引き出しにしまい、奥の部屋へ続くドアの方を振り向いた。結局、ドレッドが出てくる気配はなく、寝返りでベッドが軋んだんだろうと思い、エミュは胸を撫で下ろした。エミュは蝋燭の灯りを消すと、ドレッドから渡された聖杯を持ち、部屋を出た。
部屋を出た時には、すっかり夜中になっており、月の光が外廊下を照らす。あの紙切れはなんだったんだろうかと考えながら、エミュは自室へ戻った。
「あの儀式からドレッド様はまるで人が変わったような気がする……。あの儀式は諦めてくれたのは良かったが、以前より禁書の持ち出しも増えているし、何よりもあの走り書きは一体何を言っているのだろうか? いや、今は考えるのをやめよう。希空様が治癒魔法を使えた事を喜ばないと……」
エミュは窓から夜空を眺めた。そろそろ満月が近付いている。この落ち着かない気持ちは月の引力の影響を受けているからだろうとエミュは思った。エミュは聖杯を机に置くと、夜空に向かって、祈りをいつもよりも長く捧げた。
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